13.先輩の過去話
ステラちゃんとひとしきりじゃれあったあと、さあ、本題に入ろうと思ったら、料理が運ばれてきた。ざ、残念。でも、すぐ聞く気にはなれないかも……。重たい話になるみたいだし。悩みながらスプーンを手に取って、あつあつのミートグラタンを掬い上げたら、アンドリュー君が気遣わしげな表情で話しかけてきた。
「大丈夫ですか? 聞かない方がいいんじゃ……。フィオナさんって単純なところがあるから。思い込みも激しいし」
「あれ、心配してる!? それって! も~、大丈夫だよ。それにさ、これから先輩と一緒に仕事していくでしょ? 聞いておかなくちゃなと思ってさ」
「じゃあ、本題に入るね~。料理もきたことだし」
「ステラちゃん、はやーい! 心の準備は!? 私、まだ出来てないんだけど?」
「えー? ここで話すのやめたらフィオナちゃん、逃げちゃわない? ようやくさぁ、あいつの中身に興味が出てきたのに。このチャンスを逃したくないなぁ」
「んんん……!! ねえ、ステラちゃんってさ、先輩のこと嫌いなんでしょ? なのに、私とくっついたらいいと思ってるのはなんで?」
そこが不思議でしょうがない。目が合ったら、嫌味の応酬なのに? 私がミートグラタンにふうふうと息を吹きかけ、冷ましているのを見て、ステラちゃんがにやりと笑う。猫みたいな微笑み。すぐ隣にいるからか、けぶるような金色のまつげがよく見える。
「だってさ、面白くない? いつもクソ生意気で堅物なあいつがさ、フィオナちゃんに翻弄されておろおろしてるのって! だから、付き合ってもっと振り回されたらいいのに~。絶対に絶対にからかってやる」
「おろおろ? 先輩はいつも冷静沈着なイメージなんだけどなぁ。むしろ、私が振り回されてるような……?」
「ぶふふ! まあ、フィオナちゃんからすればそうかもね~。いっつも顏しか見てないでしょ?」
「ああ、うん。正しくは顏しか見れない、かな! 先輩のあの、美しく整った顔立ちしか見ることが出来なくて……。不思議だよね、他の人や風景が見れないんだ」
「も、申し訳なさそうな顔で言うことですかね……?」
「うん。私はそう、面食いという名の呪いにかけられた女で、」
「じゃ、本題に戻すね~」
「ステラちゃん、早い……!!」
話したくてしょうがないんだなぁ。でも、分かる。私がステラちゃんの立場だったら、話したくてしょうがなくなるもん。完全に冷ましたミートグラタンを口に含めば、一気にぶわっと、濃厚なひき肉の香りが広がった。美味しい。甘いトマトソースとなめらかなチーズがよく合ってる。よく味わって食べていたら、アンドリュー君がほっとしたように笑った。
「うん。フィオナさんはそんな感じで、能天気に笑ってる方がいいですよ……」
「さっきから何!? 悪口!?」
「それでさぁ、私があいつやばいなーって思った事件があってね」
「ステラちゃん、軽い~!! 待って、二人とも本当に待って!?」
私が笑えば、二人も楽しそうに笑った。ああ、うん。こんな感じが心に優しい……。私の覚悟が決まりかけた瞬間、何かの葉っぱを食べようとしていたステラちゃんがさらりと言う。
「じゃ、話すね~。一番酷い事件は、当時のバディを襲おうとした男を半殺しにした事件かな? あと他に何か知ってる? アンドリューってけっこう古株だよね?」
「そ、そうですけど……。ステラさんの方が知ってるんじゃないですか? ほ、ほら、フィオナさん、固まっちゃってるし、もっと他に言い方が、」
「だって、ぼかしても何も変わらないじゃん。起きちゃった事件は変えようがないし。ん~、あとはバディの胸をわし掴みにして、揉んだクソ男の指を全部切り落とした話とか? あとは他に何かあるっけ? ほらほら、言う」
「無理ですよ……。今の情報量でも、限界って顏してるのに?」
「ありゃ、本当だ。ごめんねー? フィオナちゃん。私はこういう話に耐性があるから。えぐい事件を追う時もあるし」
ステラちゃんがまいったなと言いたげな表情で謝ってくれた。「大丈夫だよ、ありがとう」って言ったんだけど、誰か他の人が代わりに言ってくれたような、自分の声じゃないような、そんな気がした。ちゃんと言えてるかどうか分からない。思考が止まる。指を? 全部切り落とした? それに、半殺しって……。喉が渇いてきたから、冷たい水を一気に飲み干す。向かいに座ったアンドリュー君が心配そうな顔をしているのが見えた。
「……フィオナさん、大丈夫ですか? もうちょっとよく考えた方が、」
「私が悪かったから。ごめんね?」
「う、ううん、大丈夫。でも、半殺しって!? そこが一番気になるんだけど!?」
「あー、なるよねえ。話としては単純で、うちのバカどものバカ部分を三百倍ぐらい、増やして濃縮させたみたいなバカクソ男がいたんだけど」
「ステラちゃん……!! 言いたいことは分かるんだけども!」
これはもう完全に私のわがままなんだけど、向日葵畑がよく似合いそうな美少女ステラちゃんには出来る限り、バカとかクソとか言って欲しくない~!! 言わないけどね、嫌がられそうだから。私だって、「もう少し黙っていたら儚げな美人に見えるのに」って言われた時、イラっとしたんだから、ステラちゃんならもっとイラっとするよね? 我慢我慢……。動揺する私を気にせずに、ステラちゃんがさくらんぼのようなくちびるを尖らせ、話を続けた。
「そいつがさ、口うるさいヒューを黙らせたかったのか、二人が良い雰囲気になってるのを邪魔したかったのか、単純に好みだったのかは分からないんだけど、家までついて行って、襲ったの。でも、女性も魔術師でしょ? 撃退して、上手くいってさ」
「あ、ああ、うん。良かった、上手くいって……」
「そうなの。でも、問題はここからでさぁ……。ヒューがかんかんに怒っちゃってね。で、何をしたかって言うと同じことをした。まあ、ヒューは成功させたんだけど。夜、家までついて行って襲った。途中で歯止めが効かなくなったみたいで、半殺し」
「それ、警察案件だよね……?」
血の気が引いた。夜に半殺しって。止まらなかったんだろうなぁ……。昨夜の記憶が蘇ってきた。銀色の瞳が、暗闇の中でらんらんと光り輝いていた。ステラちゃんが溜め息を吐き、フォークの先端に刺さっている生のトマトを眺めた。
「そうなんだけどね。向こうもヒューも大ごとにしたくなかったから、慰謝料払っておしまい。そいつはビビっちゃって退職。風の噂によると、多額の慰謝料はあっという間に消えたみたいだよ~。全部、お酒と賭け事に使って終了」
「うわぁ……。もう、うわぁとしか言いようがないんだけど?」
「だよねえ、ふふっ」
こんなおしゃれなカフェでする話じゃないなぁ。ミートグラタンの味がしない。しまった、私、どうして赤い色の食べ物なんて頼んじゃったんだろ……。昨夜の記憶とあいあまって、吐き気がしてきた。生々しい、ものすごく。じっと焦げ目がついたチーズを見下ろしながら、スプーンを握り締める。
(でも、先輩の怒りもよく分かる。悔しかっただろうなぁ……。私を毎日、玄関ドアの前まで送ってくれるのってそれが理由? 随分前のバディが襲われたから?)
だけど、思っていたよりも酷い話じゃなくて良かった~。先輩が悪い話だったらどうしようかと思ってたんだけど、違った。良かった。私が美味しそうなチーズ部分だけ、神経質に取って食べていると、アンドリュー君がおずおずとした様子で話しかけてきた。
「あの、大丈夫ですか? 顔色、あんまり良くないみたいですけど」
「あっ、ああ、大丈夫! 貧血気味みたいで……。あと、寝不足? ねえ、ステラちゃん。私、思ったよりも酷い話じゃなくてほっとしたよー! もー、真剣な顔して話そうとするからさぁ、ひやひやしちゃったじゃん!」
「ん~? 私が何を言いたいかって言うとね? フィオナちゃん」
「えっ? うん。な、何?」
ステラちゃんが青い瞳を細め、いたずらっぽく笑う。えっ、何? まだ他にもあるの? ひやひやするんだけど。それにしても、ステラちゃんの肌ってきめ細かくて、白くて綺麗だな~。ああ、気兼ねなく思う存分眺めたいんだけど、無理そう。憂鬱になる。
「あいつはさ、もういいって被害者女性に言われたのに、あの事件を起こしたんだよね~。そこが問題だなって思ってる、私としては。やめられないんじゃなくて、やめる必要がないと思ってる。建前があれば、相手を半殺しにしてもいいと思ってる」
「あっ……」
「覚えがあるでしょ? だからこの先、あいつがブチギレた時、いくらフィオナちゃんが泣きながら止めに入ったって、止まらないかもしれない。分かる? やってもいいと思ってんの、あいつは。最初からコントロールする気なんて無い。クズは殺してもいいと思ってる。そこがさ、危ういんだよね~。まあ、フィオナちゃんを怖がらせたら、私がフルボッコにしてやるけど」
「だ、大丈夫だから……」
「だからね、気を付けた方がいいよ。たとえ相手が犯罪者であっても、殺してもいい理由にはならない。あいつはいつか暴走して、警察に捕まるんじゃないかな?」
その言葉を聞いて、目の前が真っ暗になった。嫌だ、離れたくない。でも、確かに証拠隠滅さえすれば、それでいいと思ってる節もある……。今まで聞き流してきたけど、それってかなり危ないんじゃないかな? 認識を変えて貰わないと、離れ離れになっちゃう。嫌だ!! 先輩ともっともっと一緒に仕事がしたい、遊びに行きたい。
「分かった、話してみる。あ、あと、指を切ったって……?」
「そうそう、あの時も大変だったよ~。ねえ、覚えてる? アンドリューは」
「さあ。お、俺は逃げてたので」
アンドリュー君が海老とバジルのピザを片手に、薄茶色の瞳を彷徨わせる。あ、良かった。口に合ったみたい。いつの間にか半分消えてる。食べるの早いな~。
「そうだった、そうだった。一番最初に逃げ出すタイプだったね、そういえば。私は最前列で眺めるタイプなんだけど」
「そうだろうね!!」
「え~、そこで力強く肯定されたらちょっと複雑だなぁ。ま、いっか。ウケ狙いなのか、何なのか知らないけど、笑いながらヒューのバディの胸を揉んだ男の胸ぐらを掴んで、殴ったあと、そんなことのために使う指なら、いらないよな? 俺としてはいらないって言って、ぜーんぶ切り落としちゃったんだよね。指を。ふふふ」
「えっ、ええ……」
でも、しそう。ものすっごくしそう! 容易に想像出来た。私が手を止めて、ステラちゃんの話に聞き入っていると、店員さんがやってきてお水を注いでくれた。女性の店員さんだったけど、緊張したのか、アンドリュー君がひゅっと首を竦めている。ステラちゃんが注いで貰ったばかりの冷たいお水を飲みながら、もう一度口を開いた。
「……それで、あとは何だっけ? ああ、そうだ。指を切り落としたあと、泣いてる男に向かって拾え、全部。指をって言って、集めさせてたよ~」
「ええっ!? な、なんで!?」
「さあ、知らない。治癒魔術が得意な男を捕まえて、治してやれって言ってたなぁ。もうすごかったよ、血がぼたぼた出てさ。指切っただけでも、軽く血の海になるんだなって初めて知った」
「うわぁ……。そ、それでなんて言ってたの? バディの女性は。あと部長も」
「部長? 部長はいつもと一緒で、喧嘩吹っかけるやつが悪いって言ってたけど? 誰の味方もしないんだよね、あのおばあさんは」
「しっ、しーっ!! き、き、聞かれてたら殺されちゃうやつじゃん!」
「大丈夫、こんなカフェにはいないから。酒を出さない店になんか行かないって言ってたよ」
「わお」
豪快。いつも部署にいないんだけど、何してるんだろ……。あんまり突っ込まない方がいいのかな? こういうことって。本題からずれちゃうし、今日は聞かないことにした。
「ね、ねえ、それでさ、そのバディの女性は? やっぱり怖がってた?」
「あ、うん。途中から逃げ出してたよ。そのあとすぐにやめちゃったしね。まあ、分かるんだけど。殺気が凄まじいから」
「うん。ステラちゃんはどうして怖くないの?」
「フィオナちゃんは怖いの?」
「……分からない。怖くないって思ってたはずだし、怖くないよって本人にも伝えてたんだけど。あ、今、分かった。私、コントロールが効かない先輩を見てるのが怖いのかも。何とか出来るんじゃない? って思っちゃう。普段優しいからさ、その、ギャップがさ……」
何となく、私がやめてと言ったら、やめてくれるタイプの人かと思ってた。か、かなり思い上がっちゃってるというか、何だろう……。先輩にとって私って、多少は特別な存在で、守るべき存在で、だから昨日も必死で止めたら、やめてくれると思ったんだけど、やめてくれなくて。
このまま、暴走しちゃったらどうしよう? 相手の男を殺したらどうしようって。だいぶ考えがまとまってきた、うん。午後から、先輩の顔をちゃんと見て話せそう。ミートグラタンを一口食べてから、手元を見下ろす。
「あの暴力性? が私に向くのかもって、不安に思ってるわけじゃなくて、必死で止めても止まらなくて、いつか人を殺しちゃうんじゃないかなって。それが怖くて不安なのかもしれない。今まで気が付いてなかったんだけど」
「……ねえ、知ってる? 獣人ってさ、人間とは違って奇跡が起こせるんだよね」
「奇跡が?」
聞き返すと、ステラちゃんがウインクしてくれた。可愛い~!! さらっと出来ちゃうの、すごいなぁ。可愛い仕草がよく似合ってる。
「そう。たとえば薬で意識が朦朧としていても、好きな人の呼びかけには応えて正気に戻るとか、魔術で記憶を消されても、好きな人に会ったら思い出せるとか」
「ええっ、そんなのあり!?」
「ありあり。獣人って違う生き物なのかもしれないね~。だからさ、あいつがもしも万が一、暴走したら泣いて止めてみなよ。絶対、止まってくれるって」
「……ん!? そ、それってさ、先輩が私のこと好きな前提!? 好かれないと意味無いやつじゃん!」
「フィオナちゃんなら大丈夫じゃない?」
「何の根拠も無いよね!? ステラちゃん!? おーい?」
ステラちゃんがおかしそうに笑って、白身魚のソテーを切り分け始めた。ああ、だめだ。食べないと時間が無くなっちゃう。柔らかいパンに、生ハムとクリームチーズが挟まれたサンドイッチを食べたら、ものすごく美味しかった。
何これ! しゃきしゃきの玉ねぎと……甘酸っぱいフルーツソースが入ってる? クリームチーズの塩気とよく合ってて美味しい~。おしゃれな味! 新発見、と思って食べていたら、アンドリュー君が物言いたげな表情を浮かべる。
「……大丈夫ですか? このまま、二人で仕事していて」
「えっ? うん、大丈夫だよー。話してみるね! ありがとう」
「それと、お礼の話は……」
「あっ、そうだそうだ! 忘れちゃってた! 何か良い案ない? 先輩があっと驚くようなものを渡したいんだけど。ありきたりじゃ嫌なんだよね」
「お、お礼だから、奇抜なものじゃなくてもいいんじゃないですか」
「そうかもしれないけど、ん~。せっかくだから喜んで欲しいなぁ。先輩のことだから、気にしなくても良かったのにの一言で済ませそうで」
箱を開けて、夜と銀河を閉じ込めたような、美しい腕時計を見た瞬間、本当に本当に嬉しかった。わくわくしながら箱を開ける瞬間。私もそういうものを先輩にプレゼントしたい! でも、紙袋にお肉をいっぱい詰め込んで渡しても、喜びそうにないしな~……。
あれこれ話し合ったけど、結局、良い案は出てこなかった。残念。お会計を済ませて、店を出たら、先輩が立っていた。ふぁっ!? 私を見た瞬間、ぐっと顔を歪ませ、トラ耳を後ろへと向ける。罪悪感が滲んだ表情だった。
「悪い、フィオナ。えーっと、驚かせるつもりはなかったんだが……。たまたまさっき、この店に入っていくのを見かけて」
「えーっ!? ストーカーでしょ、ストーカー! やめなよ、ストーカーなんて! あんたは常識人に見えるのに、そういうところが気色悪い!」
「ストーカーじゃねぇって、だから! お前が入ってくると、話がややこしくなるからやめろ!」
「ま、まあまあ、落ち着いて? ステラちゃん……。どうどう」
睨み合いを始めた二人をなだめて、とりあえず一緒に歩く。あれ? 時間が欲しかったんだけどなぁ。会ったらきちんと自分の考えを話して、これからどうしていくのかを二人で話し合いたかったのに。あれ? 先輩とステラちゃんが超絶不機嫌オーラをまき散らしているからか、向かいからやって来る通行人がさっと顔を背け、そそくさと横を通り過ぎてゆく。やばい、何か話さなくちゃ。
「えっ、えーっと、先輩? 追いかけてきてくれたんですよね……?」
「……いや、違う。たまたま偶然で」
「あっ、はい。もういいです、そこは。今朝から挙動不審だったし、ストーカーだとは思ってないんで」
「……」
気まずそうな顏で黙り込んだ。あー、先輩、黙り込んじゃうと長いのになぁ! どうフォローすべきだった? 今の。面倒臭くなってきたから、先輩の腕を掴み、ステラちゃんとアンドリュー君に向かって、敬礼ポーズをしてみる。
「じゃっ! 私、二人で話し合ってきまーす! 行きましょうか、先輩。さあ、早く早く!」
「えっ!?」
「あっ、うん。じゃあ、またね。ヒュー、フィオナちゃんに変なことしないでよ!」
「しねぇよ、アホか!」
「ま、まあまあ、落ち着いて、先輩……」
少し寂しそうな笑顔を浮かべているアンドリュー君に、全力で手を振ってから、背中を向ける。よし、目指すは川の遊歩道! きちんと話さなくちゃ。じゃないと、あとで後悔する。
「っとと、すみませんでした。勝手に腕を掴んじゃって」
「いや、別に……。隙あらば、腹筋を撫で回してくるやつの台詞じゃないな」
「あーっ、すみません!! じゃ、じゃあ、今回の件もそれでチャラにしてあげますよ! 止めても止まらないのが怖かったけど、腹筋を触らせて貰ったら、不安とか恐怖とか一気に無くなる気がします!」
あー、だめだ! また私の悪いくせが出てきた。真剣に話そうと思ってるのに、茶化しちゃう……。冗談言って、笑ってる場合じゃないのに。先輩が苦しそうに眉をひそめ、頷いた。んっ!?
「じゃあ、それで。悪かった。そんなことで帳消しになるとは思っていないが」
「えっ、え? お、落ち着いてください……。じゃあ、私が腹筋の写真を撮ったり、撫で回したり、背筋を見せて貰うことで、今抱えている不安が全部解消されるって言ったとしたら、えっ? うけ、受け入れて貰えるんですかね……?」
「まあ、どうしてもと言うのなら。ぎくしゃくしたままは嫌だしな。それに、俺が全面的に悪いし」
先輩がいつになくしょんぼりとした顏でうつむき、歩いている。えっ? ちょっと待って。何もかも吹っ飛んだんだけど。これはもしや、背筋を見せて貰える大チャンス!?
(いっ、いやいや! 先輩が落ち込んで、弱っているところにつけこんで、背筋を触らせて貰ったり、力こぶを作ったポーズを後ろから撮ろうとするのはちょっと、いや、かなり、どうかと思う!! 真剣に話し合わなきゃ。真剣に、真剣に……!! 出来るかな!? 欲に目がくらんじゃいそう、どうしよう!?)




