番外編 粘着質なヒュー・アディントンによる、しつこい尋問
今日、フィオナからアンドリューの連絡先を教えて貰った。何の疑いもなく、能天気に教えてくれて助かった。
「これで釘が刺せるな……」
舌から本音が滑り落ちた。家に一人でいる時で良かった。危ねえ。……アンドリューはいかにも女慣れしていなさそうだし、フィオナは大体いつも距離が近い。おまけに美人で、誰にでも愛想が良くて、ニコニコしてやがる。アンドリューが惚れるのも時間の問題だろ。いや、もうすでに惚れているかもしれない。濡れた髪を拭きながら、ソファーに腰かける。今日はもう魔術で乾かそう、面倒臭い。
術語を組み立てようとしていた時、ふいに、食堂で呑気に笑っていたフィオナの顔を思い出した。さっきから苛立ちが収まらない。本当にあいつ、デリカシーが無いよな……。タオルで頭をがしがしと擦ってみたものの、一向に苛立ちが収まらない。今日は五回も、絶対に付き合いたくないって言いやがって。意味分からん。かっこいい、かっこいいって言って、頭がおかしい持ち上げ方をしてくるくせに。
(そろそろ離れていても、会話が全部聞こえるって話した方がいいか? でもなぁ。となると、変態発言が聞こえてるって説明も、合わせてしていく必要があるしな……)
そんなことを伝えたら、フィオナは一体どんな顔をするのか。恥ずかしがって泣き出しそうな顔をするのか、それとも謝ってくるのか。申し訳なさそうな顔をしてうつむくフィオナも、顔を真っ赤にさせて、泣き出しそうな顔をするフィオナも両方見たくない。あいつのことだから、異様に気にしそうだ。
そんで、俺が離れている時に「この距離だったら、どれぐらい聞こえますかー!?」って叫んで、大きく手を振ってきそうだ。想像したら、笑えてきた。ようやく苛立ちが収まってきたから、術語を組み立て、頭を乾かす。微妙に毛先がぱさつくから好きじゃないが、気が乗らないんだからしょうがない。たまには乾かさなくったっていいだろ、ドライヤーで。
ソファーにもたれ、深く息を吐き出す。よし、冷静に話そう。大丈夫。アンドリューは男を怖がっている。厳しく問い詰めたら、パニックになりかねない。冷静に、冷静に、落ち着いて……。気を鎮めようとしているのに、ぱやーっと笑って「無い無い! 絶対に無いよ、先輩と付き合うのなんて~!」と言っているフィオナを思い出した。
何度、そこまで否定するなよと言おうとしたことか。クソ鈍いフィオナのことだから、言ったって何も思わないんだろうけど。太ももの上に肘を置いて、考える。白い壁にかけたモノクロ時計は、二十二時時十六分を示していた。早く電話をかけないと、あいつが寝ちまう。
(……まあ、好きになったわけじゃねぇけど)
ただ、何となく気に入らない。散々俺がタイプだの、顏が好きだの言ってたくせにこれかよ。一瞬、男好きかと思ったが違う。過去の恋愛エピソードを聞いていると、そんなことするから浮気されるんだよ、舐められるんだよって言いたくなるようなことばっかしてやがる。肝心なことは何も言わない、黙って尽くす察してちゃん。それがフィオナの恋愛スタイルだった。
(でも、確かに真面目な男と付き合えば、上手くいきそうだな……)
たとえばアンドリュー。絶対に浮気しなさそうだし、ああ見えて、真面目にちゃんと仕事に向き直っている。怖いから、嫌だから、話したくないからって連発して逃げるかと思ったが、そうでもなかった。
ステラが風邪で休んだ時、何度か組んだことがあるが、ステラなんかよりもよっぽど真面目で面倒が無かった。魔術の腕も確かだし、家族とは絶縁中。結婚したってまあ、フィオナならアンドリューと上手くやっていけそうな気がした。テーブルの上に置いてあった魔術手帳を掴んで、開く。
(それはそれ! これはこれだろ!? あいつ、いきなり家に行こうとするとか……。警戒心は? どこ行った? どうせお菓子で釣られて、誘拐されかけたことがあるんだろ? まったく、危機管理がなってない!)
でも、まあ、フィオナがそれだけアンドリューを男として意識してないってことか。一応、電話をかける前にメッセージを送っておく。すぐに返事がきた。文字が震えていた。……悪いな。だけど、何かあってからじゃ遅いから、釘を刺しておく必要がある。電話をかけてみると、何十秒か経ったのち、ようやく出た。話したくないというオーラが前面に出ている。
「もしもし? 悪いな、急にかけたりして」
「い、いえ……。はな、話したいことって何ですか? もう寝たいんですけど」
「すぐに済む。お前、フィオナのことが好きなのか?」
「えっ」
こいつなら、ステラやフィオナには言わないだろ。でも、あとで一応念押ししておくか。アンドリューが電話の向こうで、息を吸って吐いてと繰り返した。問い詰めたい気持ちをぐっと押さえ、静かに待つ。切られたら困るからな。落ち着け、俺。落ち着け。
フィオナのことを考えると、あっさり調子が狂う。普段は違うのに。獣人は恋愛をすると、辺りが見えなくなるとよく言われるが、まさしくその通りだ。でも、まだだ。まだ別に、俺はフィオナのことを好きになっていない。だから、大丈夫。まだ間に合う。
「す、好きだなんてそんな、み、身の程知らずのこと、考えていませんから……」
「でも、フィオナはお前のこと、かっこいい、かっこいいって言ってたぞ? 見せたんだって? フードの下の素顔を」
「み、見たいって言われて、断りきれずに……すみませんでした」
「いや? なんで俺に謝るんだ? 俺は別にフィオナの彼氏じゃないし、ただのバディだし、気にする必要無いだろ? どうして気にする?」
「あ、え、す、好きなんですね? フィオナさんのこと。やっぱり」
「……違う」
すぐに言い返せなかった。間があった。アンドリューが納得した様子で「やっぱりそうなんですね?」と言葉を重ねる。嫌なやつだ。俺が否定してるんだから、それに合わせろよ……。たとえ、好きだとしてもあっさり教えるわけないだろ。それともお前は教えるのかと言いたくなったが。ぐっと堪えた。
「違うって言ってるだろ? フィオナが危なっかしくて見ていられないからだよ」
「ふーん……。そうなんですね」
「ステラのバディなだけあるな。いい性格してやがる」
「す、すみません。でも、バレバレですよ? 今日も帰り際、睨みつけてきましたよね? な、なのに、こうやってかけてくるし」
「……」
「じ、獣人って恋に全力というか、そういうところがありますよね……」
「バカにしてんのか?」
「いっ、いえ、違います! た、ただ、応援しますから。フィオナ、フィオナさんは鈍いし、大変でしょう?」
違うって言ってるのに、聞きやしない。俺が黙りこくっていると、慌てて言葉を重ねてきた。
「あ、安心してください。お、俺で良ければ手伝いますから……」
「手伝うってどういう風にだ?」
「そ、それとなく、アディントンさんをおすすめするとか?」
「無理だろ。あいつ、一年間は絶対誰とも付き合わないって公言してるし」
「か、かもしれませんが、フィオナさんはもしもアディントンさんと付き合ったら、う、浮気されそうだし、女友達も多いみたいだし、絶対、もやもやするって言ってまして」
「あいつ……」
思惑が裏目に出た。少しは嫉妬するかと思って、女友達の話をしたのが間違いだった。もう話さない方がいいんだろうな。いや、まだ、フィオナのことが好きになったわけじゃねぇけど。……フィオナだけは、絶対に泣かせたくない。
今までの経験が不安を生んでいるのか、付き合ったら泣かせそうな気がした。だから好きになりたくないし、付き合いたくない。知ってる。自分が恋愛をすると、いかに暴走するかを。過去の出来事を思い出して、苦々しい気持ちになっていれば、アンドリューが焦り出した。
「お、俺、別にアディントンさんのライバルじゃないので……」
「フィオナのこと、好きなんだろ?」
「ち、違います! 俺に恋愛なんて一生無理だと思います……。独身で死んでいきます。だ、だからその、安心してください! フィオナさんと俺じゃ、あまりにもかけ離れてる。眩しすぎる」
「確かにそうだな、釣り合ってない」
「わ、分かってますよ。言われなくったって……」
フィオナはイケメンだ、イケメンだと言うが、マジでよく分からん。違うだろ、イケメンじゃないだろと、言いたい気持ちをいつも抑えている。……手遅れのような気がするが、認めたくない。暴走したくない。それにまだ二週間も経ってないんだぞ!? 街中を歩いていたら、高速で近寄ってきて「こんにちは~! 先輩~!!」って、今の職場に来る前から言うような女だぞ!?
認めたくない。あのアホのフィオナを好きになったら、プライドが傷付くような気がする。どうせ庇護欲からだ。あの夜、青ざめて震えながらも、必死に笑顔を浮かべ、「連絡先を交換してくださいよ、アディントンさん!」って言って、しがみついてくるフィオナを見たせいだ。あれから、気になって気になってしょうがない。守りたい、無理をさせたくない。でも、庇護欲と恋心は違う。分けて考えねぇとな。
「とにかくもだ。今後、フィオナが一人で家に来るって言ったら断れよ?」
「あ、はい……」
「それと、何か言われたら教えてくれ。二人だけで出かける時も教えてくれ」
「えっ? ど、どうしてですか?」
「気に食わねぇから、何となく。フィオナとどういう話をしたのか、それも教えてくれ。二人きりで飯を食う時だって、これからあるかもしれないだろ? よろしく」
「あのー、本当に好きじゃないんですか?」
「……庇護欲からだ。殺されかけたフィオナを助けてからというものの、調子が狂ってしまって」
「こ、殺されかけた!?」
「ん? 聞いてないのか」
まさか話してないのか? あのお喋りなフィオナが!? てっきり、べらべら喋っているのかと思ったけど。混乱した様子でアンドリューが話し出した。
「も、元彼に追いかけられていたところを助けられて、としか、聞いていなくて」
「あー、ソフトに伝えてるのか。フィオナらしいな」
「フィオナさんらしい……?」
「ん。あいつ、何かというと隠したがるんだよ。具合が悪いのも隠したがるし」
プールの時の怪我も隠していた。あの男、今度街中で見かけたら殴ってやろうか。それぐらい、したって許されるだろ。溜め息を吐いていれば、アンドリューが戸惑った。
「い、意外でした。喋りそうな感じがするんですけど……」
「俺も当初はそう思っていたよ。あいつ、変なところ秘密主義なんだよなぁ。家族の話もしたがらないし」
兄が一人いるのは分かってる。うっかり口を滑らせたあと、やばいという顔をしていた。なんで隠すんだ? 訳ありの家族とか? 踏み込んで聞いても、教えて貰えなかった。一瞬だけ傷付いたような表情を浮かべ、無理に笑うだけだった。ああいう表情のフィオナは見たくない。見ていると焦ってしまう。子猫が足を引きずっている場面を見た時のような、つらさと後味の悪さに襲われる。
「へー。ア、アディントンさんだからって、何でも話すわけじゃないんですね」
「……一体、どういう意味だ? それは」
「そ、そのままの意味ですよ。すみません。でも、だって、まだ会って間もないわけだし……。む、無理に聞き出そうとしなくてもいいんじゃないですか? 前のめりすぎですよ」
「前のめりすぎだと?」
「は、はい。二人を見ているとこう、心配になる時があります。アディントンさんは気にかけすぎです。フィオナさんといる時、いつも目が怖いですよ」
まったく自覚していなかった。ショックだった。おのずと声が震えた。
「お、俺の目が怖いって? どんな感じだ? そんな目をしているつもりは一切無かったんだが」
「む、無関心のように見えて、気を張り詰めている感じですかね……? フィオナさんは鈍いから気が付いていないんですけど、あ、すみません。マナー違反になりますが、尻尾と耳がものすごく反応しています。常に、アンテナ張ってる感じで」
「……」
制御出来ていない自覚はある。今度から、フィオナの前では尻尾と耳に力を入れていかなくちゃな……。どうにも反応してしまう。尻尾が気付かないうちに、フィオナに吸い寄せられる。気合いを入れて、戻そうとしても上手くいかない。尻尾を手で戻す必要があるほど、惹かれてるのか。認めたくねぇな……。
「く、食い入るように見つめてる時がありますよ。大抵、フィオナさんは前を向いて、笑いながら喋っていますが。そういうのを見てると危ないな、怖いなと思ってしまって。すみませんでした」
「いや、大丈夫だ。そうか、そんな目をしてたか……」
「はい。き、気を付けた方がいいですよ。困らせないでくださいね、フィオナさんのこと」
そんなことを聞いてくるってことは、好きなのか? 否定しているが、怪しい。どうにも止まれない。感情を極限まで抑え、口にする。常にコントロールしなきゃならないのが苦しい。
「……ああ、分かった。それで? 本当に好きじゃないんだな?」
「ち、違います! 違いますって……。お、俺も同じこと考えてるんですけど」
「俺は違う。でも、アンドリューは好きになりかけてるんじゃないか?」
「違います……。俺だって違いますよ、本当にです」
「本当にか? 心配しているように見せかけているが、実は俺への牽制なんだろ? フィオナに言わないから、正直に言ってみろ」
「ち、違います……。ただ日頃から見ていて、怖いから言っただけで」
「本当か?」
「本当にです!!」
問い詰めたが、口を割らなかった。まあ、いい。好きじゃないのなら別に。俺が深い溜め息を吐くと黙り込んだ。焦っている雰囲気が伝わってくる。
「でも、これから好きになる可能性だってあるよな……?」
「も、もう寝たいんですけど。よ、夜も遅いし」
「じゃあ、また明日な」
「ま、また明日っ!?」
「おう。詳しい話がまったく聞けてないから。それと、フィオナに絆創膏を貸したんだって?」
「へ? あ、ああ、貸したというか、一枚渡しましたけど」
「今度から、そういうことがあったら俺に教えてくれ。頼む」
「えっ? 構いませんが、どうしてですか?」
「そりゃ心配だからだよ。俺に言えば治してやったのに、どうしてフィオナはお前に言ったんだろうな?」
「し、知りませんよ。そんなこと……」
わざわざ、親交が浅いアンドリューに言いやがって。せめてステラに言えよ、ステラに。ポーチに絆創膏の一枚ぐらい入ってるだろ。いや、入ってないか? ずぼらだしな、ああ見えて。怪我もしなさそうだし、誰だって絆創膏を持ってるわけじゃない。俺だって持ってない。
「……でも、どうしてアンドリューが絆創膏を持ってると思ったんだ? フィオナは。そういうこと言ってたのか?」
「い、言ってませんよ。何も別に」
「じゃあ、どうしてフィオナはお前に絆創膏をくれって言ったんだと思う?」
「し、知りません……。分かりません」
「絆創膏を持ってそうなイケメンとでも言われたか?」
「言われてませんよ……」
腑に落ちない。どうしてわざわざ、人を避けがちなアンドリューに言った? それとも、俺が気付いていないだけで、二人はかなり親しくなっているのか。
「どうして、フィオナは俺に言わなかったんだろうなぁ。あ、怪我や靴擦れを報告したら、俺がキレそうって言ってたか? 理由は?」
「えっ? 理由ですか? あと、何も言ってませんでしたよ。フィオナさんは」
「そう、理由。アンドリューに絆創膏持ってる? って聞いた時に、それを聞いた理由を話さなかったか? やっぱり怖がられてんのかな、俺」
「ち、違うと思いますよ……。理由なんて聞いていませんし、言ってません。ちょうど良かったみたいなことは言ってましたけど」
「ちょうど良かったって? 一体何がだ」
「お、俺が通りかかって良かった的な……?」
「はあ!? 俺がバディとして、常に傍にいるのにか!?」
「う、うん。そうですね……。あの、本当に好きじゃないんですか?」
「しつこい! 何度も同じことを聞くなよ。さっきも言っただろ?」
「は、はい……」
一回で理解しろよ。同じことを何回も聞きやがって。時計を見てみると、十五分ほど経っていた。よし、まだ喋れるな。あとはもう寝るだけだし。
「それで? フィオナは靴擦れして怪我した時、なんで俺に言わなかったと思う? 本当に本当に、何も言ってなかったのか? 目が怖いって言ってたし、もしかするとフィオナも、」
「い、いえ、フィオナさんは怖いなんて、一度も言ってませんよ……」
「じゃあ、なんでバディである俺に言わなかったと思う? おかしいだろ。普通、秘密主義なら周りに対してもそうだろ? なんで怪我したことを俺にじゃなくて、アンドリューに言ったんだ?」
「え? わ、分かりませんけど……」
「治癒魔術、不得意か? アンドリューは」
「いえ、切り傷や擦り傷程度なら、すぐに治せます」
「じゃあ、どうしてその時に治さなかったんだ? 絆創膏を差し出すよりも、そっちの方が早いだろ?」
「えっと、上手くなくて、患部に直接触れないといけないので……。それに、頼まれなかったらしなかっただけです」
分かってない。そりゃフィオナが頼むわけないだろうが。そこは強引に言って、治すべきだろうが! 思わず溜め息を吐いて、舌打ちしてしまった。だめだ、フィオナのことになると調子が狂う。
「今度からは治してやってくれ。いや、俺に言ってくれ。よろしく」
「あ、はい。言いますね……」
「それにしても、どうしてわざわざアンドリューを頼ったんだ? 実は俺が知らないだけで、かなり仲が良いとか?」
「そういう、そういうわけじゃないんですけど……」
「しかも、その時に連絡先を交換したんだって? 絆創膏を渡すだけで良くないか? あ、お礼がしたいからって言われて、誘いにほいほいと乗ったのか。飯でも食いに行ったか?」
「い、行ってません。まだ」
「まだってことは今後、フィオナと二人きりで飯を食いに行く予定が?」
「さ、誘われましたけど、断りましたよ……」
誘われていたのか、へー。まあ、フィオナは誰彼構わず、飯食いに行こうって誘うタイプだから、気にするようなことじゃない。どうせ深く考えてないんだろ。
「誘われたっていつの話だ? 何回ぐらい?」
「お、覚えていません」
「……数えきれないぐらい、食事に誘われたってことか?」
「ちっ、違います、誤解です!! い、いつ誘われたかなんて覚えてないので、」
「五回? 五回も?」
「違います。い、今のは勘違いしているっていうのを伝えたくてですね……。も、もう、眠たいので寝てもいいですか?」
泣き出しそうな声で言ってきた。しまった。男にトラウマがあるんだから、あまり長く話すべきじゃなかった。
「悪い、すまん。そういうつもりじゃなかったんだ、許せ」
「あ、はい……。わ、分かってくれたのならもうい、」
「明日じゃなくて、毎週俺と話す日っていうのを設けるか」
「えっ? はい?」
「明日だとつらいだろ? 男と連続して話したくないだろ?」
「そ、それはそうですけど……」
なるべく負担をかけたくない。でも、アンドリューからフィオナの話を聞く必要がある。仕方ない。毎日報告して欲しいが、諦めるか。
「だから、毎週決まった日に報告という形でどうだ? いや、でも、フィオナが何か問題を起こしてたり、怪我をしているのに、アンドリューにだけ言ってるっていうのが、あとから分かってもなぁ……。ちょっとなぁ」
「つ、都度、報告しますから!」
「本当にか? 負担にならないか?」
「大丈夫です。も、もう寝たいので、じゃあこれで、」
「パン作りを教えて欲しいとか何とか、フィオナが言ってたけど教えるなよ? 教えるのなら、俺も家に行くから」
「は、はい……。大丈夫です」
「よろしく。そんじゃ、おやすみ」
「お、おや、」
「あ、ちょっと待った。言い忘れてた!」
念押ししておくのを忘れていた。焦っていたら、アンドリューが今にも悲鳴を上げそうな声で、「まっ、まだ何かあるんですか?」と聞いてきた。こいつ、本当に男が苦手なんだな……。
「悪いが、このことをフィオナに言わないでくれ。ステラにも。頼んだ」
「も、もちろんです。面倒なことになりそうですし……」
「ありがとう。それじゃ、おやすみ」
「は、はい……。おやすみなさい」
魔術手帳を閉じてから、溜め息を吐く。あーあ、フィオナが誰彼構わず話しかけるから……。もう一度魔術手帳を開き、フィオナからメッセージが来ていないかどうかを確認する。今日も来ていなかった。俺が連絡するなと言った手前、連絡するのも変だし、出来ない。
「……寝るか。まあ、そのうち来るだろ。連絡」
22.そうだ、パンツの話をしようの後の話。ブクマと評価、ありがとうございます!これらを栄養にして、次は二章を書いていきます。




