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魔術犯罪防止課のトラ男と面食い後輩ちゃんの推しごと  作者: 桐城シロウ
一章 私が自分史上最高のイケメンを見つけて、転職した話
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1.マジであの顔の良さが忘れられない! 誰か面食いにつける薬を私にくれ

 




 ああ、マジであの顔の良さが忘れられない……!! どうしよう? 休憩室に置いてあるテーブルに突っ伏して、呆然としていると、同僚のメイベルちゃんが心配して話しかけてきてくれた。彼女は優しげな茶色の瞳と茶髪を持った、癒し系の美人で、見ると胃液が正常に分泌されるような気がするから、ひっそりと心の中で“胃腸薬系の美人”って呼んでる。


「大丈夫? フィオナちゃん。聞きたいんだけど、聞かない方がいいかな?」

「あ~、大丈夫大丈夫。ごめん、メイベルちゃん。沢山心配とご迷惑をおかけしてしまって……」

「ううん、つらいのは当事者のフィオナちゃんだろうから」


 なんて優しいんでしょう、この子ってば。泣けてくる! とりあえず、メイベルちゃんのおっとり優しげな顔立ちをガン見しておく。困惑して、首を傾げていた。きゃんわいい!! ああ、でも、あのイケメンを見た時のような、感動と高揚感は得られない……。あの人だけだった、あんな気持ちになったのは。素晴らしくおっぱいとお尻が出た美女を見た時だって、こんな気持ちにはならなかったって言うのに。


(心臓を鷲掴みにされたかと思った……。ああ、会いたい。せめて写真立てに写真を入れて飾って、それを見てご飯が食べたい。あ、だめだ。それじゃ遺影だよ、私)


 あの色気が漂う超絶イケメンにもう一度会いたい!! あのかっこいい男性にトラ耳と尻尾がついているだなんて反則だよ。あ~、もふりたい!


「はああああっ、会いたい! メイベルちゃん、会いたいんだよ! 私! 昨夜助けてくれた超絶イケメンのトラ男さんにっ!」

「へっ? 助けてくれた? 昨夜、何があったの? 元彼さんとはどうなったの?」

「あ~……記憶を消されて、ばいばいした。でも、どうだっていいの! あんなやつのことなんて!」

「えっ!? 記憶を消されて!?」

「そう、私を刺そうとしてきたの。何だかなぁ~……バカだよね、こんなことで人生を棒に振るだなんてさ」


 お父さん、お医者さんで厳しいって言ってたのにな~。お母さんもヒステリックな性格みたいだから、今頃かんかんに怒ってそう。それとも、息子が悪い女に騙されて警察に捕まったって言う? そういうこと言いそう、会ったことないけど……。目を閉じれば、闇夜に月が浮かぶ。私を助けてくれたアディントンさんの、銀を散りばめたかのような青灰色の瞳が忘れられない。浅黒くてまろやかな肌も、雪が積もりそうなほど長いまつげも、背筋がひやりとするような表情も、私に向けてくれた優しい微笑みも全部全部、網膜に刻み込まれている。もう一度会って、あの顔を拝みたい。


「ね、ねえ、フィオナちゃん? 聞いてる!? 刺されたってどういう、」

「あ~、つらい! でも、恋じゃないのよ! メイベルちゃんっ!」

「あ、あの、それより刺されかけたって? だ、大丈夫だった!?」

「ああ、大丈夫~……。でも、あの人の顔の良さが忘れられないの! どうしよう!?」

「好きになったの?」

「じゃないの!! 違うの! だって、あの顔と付き合うなんて絶対に無理無理、無理ぃっ! メイクちょっと失敗しただけで泣きそうになるだろうし、服装とか髪型とか、毛穴とか体型とか、ありとあらゆることが気になって重たくなって死ぬ! 振られる!!」

「大丈夫だと思うんだけどな~……。フィオナちゃん、可愛いんだからもう少し自信持てばいいのに。それとも、どうしたって自分のことが好きになれない?」


 この子はたまーに、どきりとするようなことを言う。顔を上げて見てみれば、にっこりと、慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。透明で、澄んでいる茶色い瞳が綺麗。


「その人、どんな人だったの? 諦める前にアタックしてみれば?」

「うっ、ううん……。本当に好きになったわけじゃないから。それに、向こうは仕事だし」

「警察官?」

「ううん、違うの。何だったっけな~。魔術犯罪防止課だっけな?」

「ああ、防止課の人ね! 相談しに行ってくれたんだ?」

「ごっめん、行ってない!! すすめてくれたのに本当にごめんね!? まさか、あいつがあそこまで激ヤバなことをするとは思っていなくてさ!」

「大丈夫だよ。大げさかな? って思っちゃって、相談しに行けない気持ちはよく分かるし……」


 微塵も気にしていない様子で笑い、両手をひらひらと振った。あ~、可愛い。でも、さっきから魔術手帳がピコンピコン! って鳴ってるから気になる。お知らせの妖精さんは来ていないし、大した用件じゃないのかもしれないけど。おそるおそる、後ろのコートかけを指差す。


「ねえ、いいの? さっきからすごく鳴ってるけど」

「いいの、ハリーだから。お昼ご飯食べている最中、寂しいみたいでずっとメッセージを送ってくるの」

「へ、へ~……。大丈夫? 嫌なことされてない?」

「大丈夫だよ、みんな良い人だから! そんなことよりも、昨夜の話を聞かせてくれる? 酷い目にあったってだけ、言うからもう心配心配で」

「ごっ、ごめんね!? いや、実はさ~」


 メイベルちゃんは最近、シェアハウスに引っ越した。この優しい子が犯罪に巻き込まれたらとか、住人とトラブルになったらって不安に思うんだけど、まずは私の話をした方がいい。だって、刺されかけたんだもん。元彼に。気が進まないけど、昨日あったことを全部話してみた。予想通り、ショックを受けた顔をする。それからすぐに、私をひしっと抱き締めてきた。


「無事で本当に良かった! 今日から私と一緒に帰ろうね!? 昨日、一緒に帰れば良かった……」

「ありがとうううう~!! ごめんね!? 確かにつきまとわれてるなぁって思ってたけどまさか、刃物を持って追いかけてくるとは思っていなくてさ~!」

「も~、だめだよ! 気をつけないと! 本当に本当に無事で良かった……」


 抱き締め返すと、バニラみたいな甘い匂いが漂った。あ~、良い匂い! 女の子抱き締めてる時が一番幸せかも、私。離れて、笑いながら見上げてみると、メイベルちゃんがうっすら目に涙を浮かべていた。うぉふうぉふ……!!


「ごっ、ごごごごめん! かなり心配かけちゃって、ここんところずっと毎日!」

「大丈夫。さっきも言ったけど、一番つらいのはフィオナちゃんだろうから。それで? さっきのイケメンさんの話なんだけど……」

「あーっ、そうそうそうそう!! めちゃくちゃかっこよかったし、もう一度会いたいから、連絡先交換したかったんだけど断られちゃってさ~。つれない!」

「じゃあ、会いに行ってみれば? お菓子とか持って防止課に行けば、」

「いやいやいやいや!! 引かれる、引かれる! 職場まで押しかけてきてなんだこの女って目で見られるじゃん!? 怖い!!」

「そっか。じゃあ、街中で偶然会うのを待つしかないね」

「ん!?」

「たまにだけど、昼の街中で見かけるよ? パトロールしてるのかもね」

「そっか、パトロールか……」


 じゃあ、追いかけてお礼を渡しに行けるじゃん。いや、そっちの方が怖いかも!? パトロール中に「偶然ですね~、私の命の恩人さん! これどうぞ」って言いながら、菓子折りを渡したら、最悪ストーカーだと勘違いされて警戒されちゃうじゃん! ドン引きされたくない……。でも、あの恐ろしく整った彫刻のようなお顔立ちをもう一度見たい!! 私が欲にまみれて悶絶していると、メイベルちゃんがほわほわ笑いながら、「ライ叔父さんに知ってるかどうか、聞いてみるね~」と言ってくれた。


「あ、そっか。魔術雑用課と防犯課って同じセンターだっけ!? 叔父さん、会ったことあるかな~。部署間の交流とかない!? 飲みに行くとか、飲みに行くとか、飲みに行くとか!!」

「うーん、どうだろう? 聞いたことないけど、一応聞くだけ聞いてみるね。でも、一番は会いに行くことだと思うよ。思いきって電話してみたら?」

「うああああああん……じゃあ、そうしてみよっかなぁ。気が進まないけど。電話怖い。来なくてもいいですって言われたら、行っちゃう」

「行っちゃうんだ? ふふふ」

「うん……。嫌がる顔が見たいから。はあああ~、会いたいよ~」

「やめてあげた方がいいんじゃないかな……」


 メイベルちゃんに曖昧な微笑みを向けると、苦笑していた。とりあえず、電話する前にお礼を買いに行く。甘いものが好きかどうかよく分からないから、お高めの小さい赤ワインと白ワイン、木箱入りのベーコンとハムの詰め合わせにしておいた。獣人はお酒が強くて、お肉好きな人が多い。これで多分、喜んで貰えると思うんだけどなぁ……。


 嘘を吐くかどうか迷ったけど、魔術犯罪防止課に電話して、「助けて頂いたお礼をしに行きたいんです」と言えば、気の無い声で「はあ、そうですか」と言われた。大丈夫かなぁ、この部署。元犯罪者が更生するために働いてるって噂だけど……。来るなって言われるかな? ハラハラしてると、「お好きにどうぞ」と言われて、行くことになった。つめたっ、対応!


(あっ、ああ、めちゃくちゃ緊張する!! 第一声が帰れだったらどうしよう……)


 心臓はもう破裂する寸前! デートに行くわけじゃないけど、張り切っておしゃれしていった。でも、お礼を言いに行くだけなんだから、品良く! ちょっとビジネス感のある服装を心がけた。白いボウタイブラウスに、私の目の色と同じミントグリーンのレーススカート。上には白いノーカラーのコートを羽織って、小ぶりのバッグと紙袋を持って出かける。


 どうやって、センターまで行ったのかよく覚えていない。でも、気が付けば、モスグリーン色の絨毯が敷かれた廊下の上を歩いていた。心臓がばっくんばっくん、鳴り響いている。センターが歴史ある建築物という感じで、余計に緊張してしまう。ぎこちなく歩いていると、部署に辿り着いた。


 息が止まって、足も止まる。アディントンさんがドアに背中を預け、佇んでいた。深紅の制服から伸びている首は浅黒くて、逞しくて、胸鎖(きょうさ)乳突筋(にゅうとつきん)がうっすらと浮き出ている。あ~、好き! あれ好き!! 叫ばないように両手で口元を押さえ、ぷるぷると震えていると、こっちを見てきた。銀が散った青灰色の瞳が私を見るなり、すっと暗くなる。やだ、私を見てテンションがマイナス三度ぐらいになってる! 可愛い!!


「あ、どうも。こんにちは」

「こっ、こここここんにちは!! す、すみません! お時間を取らせちゃって! わぶっ!?」

「大丈夫ですか? あなたはいつも大丈夫じゃないですね。とはいっても、会って間もないんですけど」

「は、ははは……すみません、履き慣れないパンプスを履いてきたからか、転んじゃって。ひゃあああああ!! 顔がっ、顔が近い!!」

「うるさいので、静かにしてください」

「すみません!!」


 手、手、手を握り締められちゃってる……!! ぶわっと手汗が噴き出す前に、私の手を放して、そそくさと離れた。ああ~、警戒されてる! ネコちゃんみたいで可愛い!! 銀色の尻尾がゆらゆら、後ろで揺れてる。それを見て堪能していると、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、私の胸元を見下ろしてきた。


(えーっと、確かに大きいねと言われるサイズではありますが……!! ええええ、どうしよ)


 困惑して見返せば、さらに苦々しい顔つきになって、今度は全身をじろじろと見てきた。ん? なんか変。


「あの、ええっと、今日はお礼を渡してすぐに帰るつもりなので……」

「うちの部署は治安が悪いんですよ」

「治安が悪い」

「はい。あなたみたいに綺麗な格好をしている女性を見ると、サルどもが騒ぎ出すんで。場所を移動しましょうか、こっちに中庭があるんです」

「あっ、は、はい! で、でも、ご、ご迷惑ならこれを渡すだけ渡して帰りますけど!?」

「……ああ、どうも。でも、迷惑ではないし、また来られても迷惑なんで、ちょっと俺と話をしませんか?」

「へ、へいっ!」

「へいって」


 くすりと色めいた笑みをこぼして、私のことを見つめる。ああああああっ、噛ん? 噛んじゃった!! あわあわしていると、「こっちです」と呟き、背中を向けた。トラの尻尾がその拍子に揺れる。あ~、歩いている時、ゆらゆら揺れ動くんだ~! 素敵! というか、触りたい!! 触ったら怒られるだろうなぁ……。手をわきわきと動かしながら、騒がしい声が聞こえてくるドアの前を通り過ぎて、突き当たりへと向かう。そこには白い壁しかない。不思議に思って首を傾げていると、いきなりドアが現われた。


「えっ!?」

「ここ、職員用の中庭なんですよ」

「は、入ってもいいんですか!?」

「別に。一般人も入って大丈夫ですよ、そういう規則はありませんから。それに入ったら、俺達以外は誰も入ってこれないので」

「ん!? どういうことですか?」

「あーっと、すみません。説明が悪かった。なんて言えばいいかな……」


 首を傾げながらもドアノブを回して、一歩中庭へ踏み出す。甘い花の香りがした。好奇心が刺激され、意外にも高いドアをまたぎながら、私も芝生に足を踏み入れる。重たそうなドアを開けて、待っていてくれた。でも、すーんという顔をしているというか、真顔! びっくりするぐらい、真顔だった。ついつい笑っちゃった。


「っぶふ、すみません! 時間を取らせちゃって」

「いえ。ようするに、このドアを閉じれば部外者は入ってこれなくて、二人きりになるというわけなんですが……」

「えっ!?」

「やめましょうか。配慮に欠けていました、すみません」

「つまり、そういう顔だったんですか!?」

「どういう顔? 俺、何か変な顔してましたか? もうちょっと分かりやすく説明して頂けると、助かるんですけど……」


 美しい眉間にシワを寄せ、若干困った顔に見えなくもない顔をする。良かった、苛立っているわけじゃないみたい。ドアは開け放されていて、そこから長い廊下が見えた。ひゅうひゅうと風が吹き込んできて、黒髪が舞い上がり、慌てて押さえながら、廊下の奥を凝視する。だって、顔を見てたらまともに話せないんだもん!!


「大丈夫ですよ、別に二人きりでも! あと、すーんとした顔をしていたので! すーんって!」

「えっ? 悩んでいただけですけど……。よく考えたらこの間、追いかけ回されたばかりですし。特に、獣人の俺と二人きりになるのは怖いでしょう?」

「えっ?」

「ん?」


 そこで、ちょっとだけ見つめ合う。別に怖くないんだけどなー……。見た目によらず、意外と真面目な人みたいだし。でも、大抵誰かが刺されたとか、強盗が入ったとか、テロだとか、そういう暴力事件の犯人は獣人だから、そういう意味合いで言ったんだろうなぁ。何だかちょっとだけ、悲しくなった。警戒していないのに、警戒してるって思われるのは悲しい。


「別に大丈夫ですよ!! ドアなんてこうっ!」

「えっ!? あ~……」


 私が両手で思いっきりドアを閉めたら、たちまち白い壁に吸収されていった。す、すごい。どうなってんの? これ。このセンター、魔術仕掛けだって聞いたけど……。私が呆然としていると、背後で低く笑う。


「まあ、気にしない人で良かった。行きましょうか。今は花が見ごろで」

「わっ、わぁ~! 楽しみ……」


 嘘! 本当はぜんぜん楽しみじゃない。尻尾、尻尾に触りたいよおおお……!! 花を見るより、アディントンさんの顔を見ていたいんです。でも、そんなこと言えるわけがなくて、落ち込みながらも、中庭を見て回ることにした。悲しい。







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