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魔術犯罪防止課のトラ男と面食い後輩ちゃんの推しごと  作者: 桐城シロウ
一章 私が自分史上最高のイケメンを見つけて、転職した話
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13.声が甘い理由を知りたいような、知りたくないような

 



「それで、先輩と一緒にプール行くことになったんですけど、酷くないですか!? カメラ持ち込み禁止なんですよ、獣人専用ゾーンだってあるのに! これじゃあ、これじゃあ、ただの生殺しじゃないですか!!」


 私が勢い良くデスクに突っ伏して、がんがんと拳を打ち付けていれば、向かいに座ったルーカスさんとセドリックさんがたじろいだ。ああ、辛い。仕事に集中出来ない……。今日は小中学校から依頼が入って、不審者を撃退する魔術仕掛けのグッズに魔力をこめていくことになった。説明して貰ったけど、よく分からなかった。


 なんか、魔力をこめたら発動する魔術をあらかじめ、手先が器用なステラちゃんやアンドリューさん、ジュリアナさんやラインハルトさんがかけておいて、魔力が多い組────つまり、私や先輩、ルーカスさんやセドリックさんがぽんぽんと、魔力をこめていくことになった。


 デスクの右側にはこんもりと、私に魔力をこめて貰うのを待っているペンギンやカモメ、クジラといったぬいぐるみキーホルダーが箱に盛られている。いいじゃん、格安で魔術道具修理してくれる課があるんだから、そこに頼めばいいじゃん……と思って言ったんだけど、先輩いわく、「あの課は多忙だし、日常生活向けの道具しか担当しない」らしい。


 つまり、不審者撃退グッズは私達で製作するしかない。う~、多忙なら仕方無い。でも、面倒臭い。先輩の素晴らしい腹筋(見たことないけど)がプールで撮れなくなったし、モチベが……。仕事のモチベが上がらない! 私が頬をデスクに引っつけてサボっていても、二人とも何も言わない。


「ねえ、どう思いますか? ルーカスさん。それにセドリックさんも! 私が仕事に集中出来るようになるかと思って、プールに誘ってくれたみたいなんですけど、普通の水着を着るって言ってるんですよ!? おかしくないですか!? 普通、私のモチべ上げなら腰の部分がチェーンになった、爆裂セクシーなビキニを着るべきだと思うんですけど!! こう、かなりきわどいやつ! 走ったらぶるんぶるん揺れて、見えそうなやつ!」

「どうどう、落ち着いて。ヒューがいなくなった途端、サボりだしたな……」

「仕事しろ、仕事。アホらしい」

「セドリックさんって見かけによらず、真面目なんですね? 黙々とぬいぐるみ持って、ぶふ、ふふふっ」

「何がおかしい」


 薄い金髪と青い瞳を持った、怜悧な顔立ちのイケメン。それがセドリックさん! なのに今は、ペンギンのぬいぐるみを持ってる。可愛い~。へらへら笑っていると、真顔でぺいっと、私の顔に向かってぬいぐるみを投げ付けてきた。


「いたっ!? 微妙に痛い……。このキーホルダーの金具部分が当たって、微妙に痛いんですけど!?」

「知るか。黙って手を動かせ」

「そうだ、これ、魔力こめ終わりました? なら、左側の箱に移動させておきますけど?」

「……終わった」

「それと、この課ってみんな仲悪いんですか? 思ったよりもこう、無干渉というか無関心? ご挨拶出来てない人多いんですけど、いいんですかね? 先輩は向こうが声をかけてこない限り、無視しておけって言ってたんですけど、おはようの挨拶ぐらいした方がいいですよね……?」

「やめておけ。黙々と仕事したいやつらが多いからな」

「とは言っても、隅でタバコ吸ってて臭いんですけど!! 禁煙ですよね!? ここ!」


 マナーが悪すぎる。無断欠勤無断退職は当たり前らしくて、ころころと人が入れ替わるらしい。私が挨拶したのは、主に何年か続けて働いている人のみ。いかにも、ただ深紅の制服を着ているだけでーす、といった雰囲気を漂わせている前科者集団が、常に薄暗い隅の方でたむろしている。仕事してんの? 大丈夫? 


 首を伸ばして見てみたら、一応、タバコを片手に、ぬいぐるみキーホルダーをいじっていた。あーあ! 酒飲んで、カードゲームするのは当たり前。たまに部署に帰ってくるアレクサンドラ部長が、そこに混じったりするのも珍しくない。ちなみにみんな、ご機嫌取りでアレクサンドラ部長って呼んでる。私がしかめっ面で鼻をつまんでいると、ルーカスさんが苦笑した。


「でも、あいつらみんな、ヒューが怖いから君に手出しはしてないよ。まさか、じろじろ見るだけで済んでいるとはね……」

「怖いんですけど!! 何ですか? その不吉すぎる発言は!」

「いつもは新入社員のケツを触ったり、なんだりと忙しいからな。フィオナは運が良い、あいつのバディになれて」

「セドリックさんはそういうことしない男性ですよね!? ねっ!?」

「そこまで女に飢えちゃいないし、あいつが暴走すると面倒だろ」

「暴走……? 先輩がですか」


 想像がつかない。でも、昨日、タバコを吸ってた逆ギレ男の胸ぐらを掴んでいた時のことを思い出す。そっか、暴走ってそういうこと? 普段は穏やかで理性的に見えるんだけど、あの時は確かに怖かったな……。前歯が折れるまで殴ったらどうしようって一瞬思ったぐらい、殺気立っていた。


 私がきょとんとしていれば、セドリックさんが憂鬱そうに眉をひそめる。そうとしかいいようがなかった。セドリックさんは、研ぎ澄まされた氷のような美貌を持っていて、時折、酷く憂鬱そうな顔になる。朝に弱そう。あと、紅茶よりコーヒー派だよね、絶対! セドリックさんが口を開きかけたその時、横からルーカスさんが割って入る。


「もしかして、獣人の暴走知らない? 馴染みが薄いんだ?」

「はい、そうですね……。友達に獣人の子がいなくて。クラスにうーん、いたかなぁ? あ、いたいた。二人ほどいたんですけど、常に獣人同士でつるんでいる感じでしたね。声かけ辛くて、なんか。あと、その子達がヒョウだったからか、友達のお母さんに仲良くしちゃだめよ的なこと言われちゃって、私としては仲良くしたかったんですけど、出来ない感じでしたね」

「なるほど。まあ、暴力事件の犯人が立て続けに猛獣系の獣人じゃなぁ。そう言いたくなる気持ちは分かるが、しかし、」

「ようするにあいつら、理性がぶっ飛んで暴走する時がある。そのまんまだ。ヒューは穏やかな方だが、それでも過去に何度か騒ぎを起こしてる」

「えっ!? 騒ぎを!?」

「そうそう。でも、ヒューは悪くないぞ。ちょっと悪質でね……」


 いつもぺらぺらと喋って、何でも教えてくれるルーカスさんの歯切れが悪くなった。踏み込まない方がいいんだろうなぁ、これ。ちらりとセドリックさんの方を見てみれば、一瞬だけ窺うように、私の方を見てから顔を伏せる。何となく茂みから、獣がこっちを見てくるような雰囲気だった。それにしても、まつげなっが! 先輩がなかなかトイレから戻ってこないから、セドリックさんを見て、イケメン成分補給しておこうっと……。ガン見していると、居心地悪そうにきゅっと、眉間にシワを寄せる。


「……どうした? その事件の話が聞きたきゃ、あいつに言え。詳しくは知らん!」

「すみません、イケメンだなと思って」

「は? どういうことだ」

「そのまんまの意味でーすっ! 先輩には遠く及ばないんですけど、セドリックさんもセドリックさんで、なかなかに綺麗な顔立ちしてますよね! あっ、すみません。先輩の格下認定しているわけじゃなくって、ただ、私の好みじゃないというだけです! そう、先輩が夏に咲き誇る真っ赤なブーゲンビリアだとしたら、セドリックさんは月下で咲く幻の花といった感じでして……」

「くだらない。本当に根っからの面食いなんだな?」

「はい!! あっ、でも、美女も好きですよ? むしろ美女の方が好きかもしれません」

「……俺の奥さんの写真でも見る? フィオナちゃん」

「見ますっ! 見せてください、美人さんなんですか!?」


 美女という単語にぴくっと反応して、奥さんの写真を出してくる辺り、相当首ったけなんだな……。愛妻家には見えないし、浮気してそうだけど。まあ、奥さんを大事にしながら浮気できるクズ男もいることだし、ありえるか! 


 デスクに飾ってあった写真立てを受け取って、見てみると驚いた。背中辺りまで伸ばされた、さらりとしていながらも艶めく銀髪。白い肌に、サファイヤのような碧眼。大人っぽいピンクベージュ色のレースワンピースを着て、膝の上には、白いリボン付きの麦わら帽子を置いている。旅行先で撮ったのか、白い足先を澄んだ川に浸していた。でも、何よりも表情が可愛い!! 女の私でもぎゅっと抱き締めたくなるような、はにかんだ微笑みを浮かべている。


「びっ、び、び、美人! 美しい!! ふぁーっ、何これ! 今どきこんなはにかんだ笑顔が似合う儚げ美人はいませんよ! 可愛い、綺麗、美しい!!」

「儚げ美人ねぇ……。まあ、それは映りが良い写真だから」

「あれぇ!? 惚気話が始まるかと思ってたんですけど! 自分から俺の奥さん、美人なんだ~って言って出しておきながら、その反応は無いでしょ! どうかしてませんか!?」

「いや、そこまでは言ってない……。確かに可愛いけど、儚げではないから。決して」

「ルーカスさん……」


 目がマジだった。あれ? 惚気が始まるんじゃないの? 今から。それにしても、随分と若い奥さんなんだな……。新婚旅行の時の写真とか? でも、最近撮った写真に見えるんだけど。穴が開いてしまうぐらい、じっと眺めていたら、急にタバコの煙が増した。臭い!! さっきまではかろうじて我慢できる程度の臭さだったのに、一気に匂いが増してる! 耐えれなくなって、ぐるりんと振り返って見てみると、数人の男がタバコを吸いながら笑っていた。


「のっ、呑気に喋ったりして! 今は仕事中なのに、手を動かす時間なのに……!!」

「いや、それ、そっくりそのままお前に返すからな!? タバコを吸っちゃいないが、さっきから無駄な話をべちゃくちゃと、」

「もう許せません! 服にタバコ臭さが染み付いちゃう!」

「おい! 人の話、聞いていたか? フィオナ?」


 がたんと勢い良く立ち上がれば、セドリックさんが呆れた顔になる。その隣に座ったルーカスさんは写真立てを見つめながら、ぶつぶつと「儚げ? そうか、儚げか……」と呟いていた。


「制服はここに置いて帰るだろ? それとも、お前は家で制服を着て過ごしているのか? ならキレてもいいが、大人しく黙って、」

「セドリックさん、さては喫煙者ですね!? そんな顔してますよね!?」

「どんな顔だ。まあ吸っちゃいるが、ヘビースモーカーじゃない。就業中ぐらい我慢できる」

「それは偉いですね! 耐えれなくなったので、注意しに行ってきます……」

「はあ?」

「ちょっ、ちょっと待った、フィオナちゃん! せめてヒューが帰ってくるのを待った方がいい。あいつらは血の気が多いんだ。おじさんでも歯が立たないんだよ?」

「離してください、注意しに行きます!!」

「あっ……」


 ルーカスさんの手を振り払い、ずんずんと歩いて隅の方へ向かう。くっさい! あとで換気しなくちゃ、もう。網戸に無数の穴が空いてるから、本当はあんまり開けたくないんだけど……。虫が入ってきそうでやだ。私が怒りの形相で向かっていると、誰かが物音を立てて立ち上がった。ルーカスさんかなぁ? でも、大丈夫! 私のバックには怖い先輩がついてるから! 


 私がタバコを吸って笑っている連中の前に立ち、二の腕を組めば、さすがにこっちを見てきた。四、五人いる。それぞれ、いかにも不良してました、犯罪者してましたみたいな見た目……。一番最初にまず、私の近くに座っている黒髪黒目の男が、火のついたタバコを片手に、うっすらと微笑む。


「何? なんか用でも……」

「あーっ!! 挨拶忘れてた! どうも、こんにちは!」

「あっ、うん。こんにちは? フィオナ・ハートリーだっけ? 可愛いね」

「それはどうもありがとうございます! ここ、禁煙ですよ? 今すぐタバコやめて貰えませんか?」

「ええっ? なぁ、どうする?」


 予想通り、後ろにいた連中を振り返って笑う。一斉に嫌な目つきをした。首筋が汗ばむ。ああ、嫌だなぁ、これ。まるで私を品定めするみたいに、胸と足、顔をじろじろと眺め回してくる。まとわりつく視線を振り払うかのように、ふんっと息を吐いて、腕を組み直せば、ぴゅうっと誰かが口笛を吹いた。


「いいですか!? タバコ臭いのが苦手なんです、私。今すぐタバコをやめないと、先輩が怒りますよ!?」

「まさしく、トラ男の威を借りる新人か。やめろ、もうその辺で。冷や汗をかいた」

「セドリックさん!? えっ、ルーカスさんが止めにくるかと思ってました」

「……あいつの方が良かったか?」

「そういうことじゃなくて。ええっと、離して貰えません? タバコさえ吸わなきゃ、私はそれでいいんですけど……」


 私の首根っこを掴んでいるセドリックさんが、ふんと鼻を鳴らす。全員、面白がってタバコをふかしていた。さっき話しかけてきた男がふーっとわざとらしく、私の顔に煙をかけてくる。


「っぶふ、げほ、ちょ、ちょっと! もう、やめてくださいって言ってるのに!」

「可愛いねえ、フィオナちゃん。言えば、やめて貰えると思ってるんだ?」

「そこがこいつの甘いところだな。そんなことを言ったって、お前らはやめないのに……。最初から実力行使の方が早いだろ」

「えっ?」

「おい、セドリック! やめろよ、お前」


 ばしゃんと、思いっきり手元に水がかかった。タバコの火が消えている。……もしかしてこれ、セドリックさんがしたの? 慌てて振り返ってみたら、憂鬱そうな顔をしていた。顔立ちが驚くほど整っているからか、だるそうな表情がよく似合う。


「いいか? もう吸うなよ。俺はこいつほど魔力が多くないんだ。働かせなきゃならない」

「ったく、セドリック。お前が新人の肩を持つとはな」

「ヒューがうるさいし、何よりもっとこいつがうるさくなる。いくぞ、フィオナ。仕事に戻るぞ」

「あっ、はい。ありがとうございます……」


 踵を返した瞬間、男が立ち上がって、軽くセドリックさんの足を蹴り飛ばした。ぴたりと足を止め、振り返る。セドリックさんが、ぞっとするような顔をしていた。心臓が凍りつく。男は何も気にせず、笑っていた。その時、部署のドアがおもむろに開く。


「おーい、悪い! フィオナ? って、あれ? どこ行きやがった?」

「先輩! こっ、ここです! そのダンボール箱、一体どうしたんですか?」

「追加で押し付けられた! さっき運び損ねたらしい。あーあ、散々だよ。向こうの出し忘れ。まったく」

「て、手伝いまーすっ! ほ、ほら、セドリックさんも手伝いに行きましょうよ」

「……」


 あちこちから舌打ちが聞こえてきた。あーあ、って言いたいのはこっちなんですけど! 後ろを振り返ってみれば、セドリックさんを蹴り飛ばした男がにこにこと笑い、私に手を振っていた。舌をべっと出してから、先輩の下へ行く。若干疲れた顔をしていた。あ~、さっきまでの苛立ちが吹っ飛んでゆく! 先輩は今日も私好みの顔をしてるなぁ。


 うっとり見惚れていると、セドリックさんが無言で、先輩が脇に抱えていたダンボール箱を受け取る。先輩は律儀に「ありがとうございます」と言っていた。丁寧~、好き~!


「って、おい、フィオナ!? さっきと比べて、ぜんぜん減ってねぇんだが!? サボってただろ!」

「す、すみません……!! 先輩の顔を見ながらだと本当に、びっくりするぐらいさくさくと進むんですが、なにせ、先輩がいないもんだからやる気が起きなくて」

「俺がいなくても、仕事ぐらいしろよ。……それで? セドリックさん、睨みつけてないで、俺に何か言いたいことがあるのなら、ちゃんと言って貰えませんか? 困るんですよ、そういうの」

「えっ!? 本当だ、すっごい睨みつけてる!」


 先輩がどんと、デスクの上にダンボール箱を置きながら、溜め息を吐く。すごいなぁ、先輩。この大きさのダンボール箱、一気に二つ運べるんだ。逞しい上腕二頭筋をじろじろ眺めて、堪能していると、静かな睨み合いが始まっていた。あれっ!? 戸惑っていれば、セドリックさんが渋い紅茶をついうっかり飲んでしまった人のような顔をして、私を指差す。え、何か?


「……こいつ、もうちょい言い聞かせておいてくれ。ついさっき、あいつらに向かってタバコをやめろと注意していた」

「ああ、フィオナはタバコの匂いが苦手なんで」

「そうじゃなくてだ! 向こう見ずすぎる。また、何年か前の事件の繰り返しになるぞ? それでいいのか?」

「……よくありません」


 ぞっと鳥肌が立った。先輩から威圧感が出てる。青ざめ、見てみると、表情が強張っていた。そっか。気付かなかったけど、いつもはぼーっとしていても、怖い真顔になっていないんだな……。私の変態話も、呆れたように笑って聞いてくれてるし。


 でも、怖い先輩もかっこいい~!! こう、怒った顔になると目つきの鋭さと、目鼻立ちの整い具合が目立ってていい~! やだ、どうしよう? きゅんきゅんしちゃうんですけど! 私からピンク色のオーラでも出ていたのか、ふいに先輩がこっちを見て、苦笑する。


「あいつらには俺から注意しておくから。一人で突っ込むなよ。いいな?」

「はいっ! そうしますね~」

「……」

「あっ、セドリックさん。助けにきてくださってありがとうございました! さ、仕事しよーっと。先輩の顔が隣にあるのが残念なんですけど。そうだ、作業効率を上げるためにも、ルーカスさんと席交換しません? 私、先輩の顔を見ていると、魔力がどんどん湧き上がってくるような感じがするんですよね!」

「却下だ。そんじゃ、やるぞ。……ああ、そうだ。セドリックさん、俺のバディが迷惑をかけてすみませんでした。どうもありがとうございます」

「いや、好きでしただけだから別にいい。フィオナ、もうああいったことはするなよ。面倒ごとになる予感しかしない」

「はーいっ、今後は気をつけまーすっ」


 先輩の顔を横目でチラチラ見ながら、単純作業出来るの最高! うっきうきな私の隣に、先輩が無言で腰かける。何故か、ルーカスさんがにやにやと笑っていた。頬杖をつき、愉快そうに茶色い瞳を細めている。思わず手が止まってしまった。白いカモメのぬいぐるみキーホルダーを意味も無く、むにむにと揉む。


「あ、あの……?」

「本当に二人とも、付き合っていないのか?」

「えーっ? ないですよ、絶対ないない! 私、今度こそはイケメンじゃない優しい男性と付き合って結婚する予定なんで! だって先輩、この顔ですよ!? 死ぬほど女性が寄ってきそうだし、毎日毎日、家の中で見ていたい美貌じゃないし、この顔とキスなんて絶対に出来ません!! 緊張して死にます。ゆっくり出来ない~」

「相変わらず、失礼なことをべらべら喋りやがって……。いいから、さっさと手を動かす!」

「はぁーい、うふふふ」

「ルーカスさんもルーカスさんで、こいつの気が散るようなこと言うの、やめて貰えませんか? はたして、一週間以内っていう期限を守れるかどうか……」

「まあまあ、大丈夫だろ。みんなでやっていけば。幸い、そう難しくないし……それにしても、ヒューは? フィオナちゃんのこと、どう思っているんだ?」


 えっ? それは先輩のことだし、私のことを異常な変態女子って絶対思ってるでしょ……。パンツ買い取らせてくださいって、今朝せがんだばっかだし。いやぁ、ふふふ。恋の芽を徹底的に叩き潰すため、言ったとはいえ、絶対絶対ドン引きされたし、好感度だだ下がりだろうなぁ。ちょっと辛いかも。付き合いたくはないけど、私のことをほんのり好きでいて欲しいかな……!! こういったことをぺらぺら話そうかと思ったけど、先輩の回答が気になりすぎてやめた。耳を極限まで大きくして待っていると、先輩が戸惑いつつ、口を開いた。


「いや、どうって、別にルーカスさんが期待してるような感情はありませんよ……。まあ、可愛いなとは思っていますけど」

「えっ!? ええっ!? せんっ、えええええっ!?」

「そんなに驚くようなことか? フィオナ」


 戸惑った顔をして、じっと私のことを見つめてきた。ぎゃああああああ!! って叫びそうになったけど、かろうじて飲み込み、代わりにカモメのぬいぐるみで顔を隠す。今、今、絶対耳まで真っ赤になっちゃってるんだけど! すごい、やばい……。


 首筋が熱くて、心臓がばくんばくんする。至近距離で私のことを見つめていた、あの銀が散った青灰色の瞳が、まぶたの裏にずっと残ってしまいそうで怖い。夢に見そう、今日。ぬいぐるみで顔を隠したまま、押し黙っていると、ルーカスさんが笑い始めた。


「っはは、イチャイチャしやがって! それに何だよ? 可愛いって思ってるじゃん、ヒュー君! ええ?」

「うざ絡みはやめてください。手を動かしてくださいよ、黙って」

「は~、だめだ、だめだ! おかしい。可愛いと思っちゃってるんだな? 可愛いと思っているのならそれはもう、恋が始まっているんだよ……」

「無いですね。違いますから、絶対に」

「いやぁ、もう、可愛いと思ってる時点で落ちちゃってるんだよ。俺の経験から言ってね? 予言してあげよう、ヒュー君。君はいつか絶対にフィオナちゃんのことを好きになるよ。俺が保証してやろうじゃないか!」

「……偉そうに言ってないで、黙って仕事してくださいよ。ありえませんから。こう見えて、キンタマだのうんこだの言いますし」

「ええっ!? そういうタイプには見えなかったが……フィオナちゃん? もしもーし? ああ、だめだな、こりゃ。回復にはまだまだ時間がかかりそうだなぁ。初々しいねえ」


 は、恥ずかしくていたたまれない!! 先輩が可愛いって、可愛いって、私のこと可愛いって……。びっくりした。聞き慣れた言葉が、ずどんと心臓に突き刺さって抜けない。破壊力半端ない……!! 少ししてからふーっと息を吐いて、ぬいぐるみを顔から外す。よし、口紅はついてない。気をつけた甲斐があった。おそるおそる、先輩を見てみると、私のことをまじまじと見つめていた。さっきのルーカスさんの言葉が、引っかかっているような顔をしている。


「あ、あの……? せ、先輩って今日も顔が良いですね!?」

「よりにもよって、今言うことがそれか? バーカ」

「ぐふぅっ!?」


 甘いのなんでだろう!? 声が、声が甘い! 私が胸元を押さえて、ぶるぶる打ち震えていると、ちょっとだけ後悔して言う。


「……まあ、悪かった。からかったりして。頼むから作業に戻ってくれないか? このままだと連日残業だぞ、俺達」

「は、はい。頑張りますね……!!」

「何を見せられているんだろうなぁ? 俺達。セドリックー?」

「知るか。黙って手を動かせ」

「はいはい。俺、一応君達の年上なんだけどねえ……。まあいっか。気にするほどのことでもないし」






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