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星と出会えた日

作者: こうや きせい

友達が死んだ…。交通事故だった…。



私は晴美。友人の友香とは幼なじみで、幼稚園から小学校、中学校、そして今は高校までも一緒だった。


そんな友香が…まさか、あの直後に人生を終わらせただなんて…。



「今日もいい天気だね。帰ったら久しぶりにいつもの高台へ行ってみようかな~」


「えぇ?友香、また星を見に行くの?」


「うん。昨日天気悪くて星が見えなかったから、今日こそ見るよ」


「身体弱いんだから、無理しちゃ駄目だよ」


「大丈夫。今日は調子もいいし、高台なんてウチのすぐ近くなんだし」


「気をつけて行ってきなよ」


「うん、ありがと。それじゃあ、またね~」


「うん、バイバイ~」



これが最後の別れだった。



学校の帰り道、友香はハンドル操作を誤った車に跳ねられ、間もなく亡くなった。



死亡の連絡があったのは朝のホームルームの時間。

ショックだった…。


朝、一緒に学校へ行こうと思って家に行ってみたら誰もいなかったから、不思議に思っていた。

昨日、あんなに星を見るんだって張り切っていたのに…。



以前、友香と一緒に高台へ行ったことがあった。

だけど、正直星には興味なかったせいか、何の星座を見たのかも覚えていなかった。



友香はお母さんにも星の話をしていたみたいだった。

友香の葬儀が終わった後、友香のお母さんに話しかけられた。


「晴美ちゃんには随分お世話になって。あの子も嬉しかったと思うよ。一緒に星を見に行ってくれたときも、嬉しそうにしてたわ。これからも友香の分まで生きていって。あの星のように、強く美しく光輝いた人生を送って」



そう言って、友香のお母さんは空に指をさした。



「あの星だけ、なんかすごく明るい…何て星なんでしょうか?」


「あれはね、宵の明星だよ」


「宵の明星?」


「そう、金星のことよ。友香が教えてくれたの。これから先、どんな苦難も乗り越えて、あの星のように一番輝いてみせるってね」




「あれが…宵の明星、金星…」




この話を聞いて以来、私は友香がよく通っていた高台へ行くようになった。



ある日、そこで夜空を眺めていると、一人の男性に声をかけられた。



「こんばんは」


「えっ?あ、こっ、こんばんは」


「あ、ごめん。驚いた?最近よく見かけるから」


「あっ、そうですか…」


私がそう言うと、その男性は空を見ながらこう言ってきた。


「金星、今日もよく見えるね。望遠鏡で覗いてみる?」


「えっ!いいんですか?」


「うん。ここからだとよく見えるんだ。今日はお月様のように欠けている金星を見ることができるんだよ。ほら、覗いてみな」



その人から言われるがまま、私は生まれて初めて望遠鏡を覗いてみた。


「わぁ~本当だ。キレイ…」


「でしょ!?」


そこには、三日月のように欠けた金星がキラキラと輝いて見えた。

まるで、とっても遠くの場所にもお月様があるかのように…。



「でも、何で欠けて見えるんだろう?」


「それはね、お月様が欠けるのと一緒で、太陽の光を反射して光っている部分がこうして見えているんだよ」


「へぇ~。そういえば中学の時、学校の授業でやったな~。地球と金星の位置によって見え方が変わるって」


「君は今、高校生なのかな?」


「はい、そうです。あなたは?」


「僕は、小学校で6年生の担任をしているよ」


「へぇ~、学校の先生なんですか!?」


「そう。そういえば、いきなり話しかけちゃって自己紹介していなかったね。僕は竹村哲也。よろしくね」


「あっ、私は山崎晴美です。よろしくお願いします」




この出会いが、友香を亡くした私にとって、ものすごく支えになるものとなった。



私はこの日から、竹村先生とここで会い、星を見ることが趣味のようになった。



竹村先生と星を見ていると、自分の心が安らいでいく…。

星が好きだった友香の気持ちがようやくわかってきた。




一ヵ月後


またいつもの高台で、私は星を見ていた。

ここに来ると、友香と会えるような気がして…。



「よっ、晴美ちゃん。今日も来ていたんだね」


「あっ、竹村先生」


「女子高生が一人でこんなところに来ていては危ないよ」


「ははは、大丈夫ですよ。先生は今日も金星を見に来たんですか?」


「ああ、もちろん。ちょっと待っててね」



先生は手慣れた手つきで天体望遠鏡を組み立て、金星を導入して私に見せてくれた。



「わぁ~、いつ見てもキレイ。こうして毎回見ていると、満ち欠けの変化の様子がよくわかりますね」


「そう。初めて会った日は三日月みたいだったでしょう。それからだんだん丸くなってきたんだ」


「つまり、だんだん地球から離れていくってことですよね?」


「そうだね~。明日には東方最大離角になって、やがて見えなくなってしまうんだ。太陽から東側に一番離れて見えるから、日没後の西の空高くで輝くようになるんだ」


「地平線からはどのくらい高く見えるようになるんですか?」


「金星の場合は40度くらいまで高くなるよ」


「へぇ~」


「初めて会ったときに見た金星はすごく明るかったはずだよ。今日はその時よりもちょっと暗いでしょう」


「確かに。どうしてですか?」


「あの時はね、ちょうど最大光度の時だったんだ。つまり、一番明るく見える日で、マイナス4.6等級の明るさで見えていたんだよ」


「そうだったんだ~。だから望遠鏡で覗かせてくれたのですか?」


「うん。一番綺麗に見える日だと思ったからさ」



さすが学校の先生!説明がわかりやすいなーと思いながら星空を眺めていると、先生がこんなことを言ってきた。



「僕は結構ここに来ているんだ。最近よく見かけるようになっていたから、気になっていたんだ。女の子一人じゃ危なくないのかな~何かあってここに来ていたのかな~ってね」


「う~ん、まあ、ここに来るキッカケはありましたけどね」


「彼氏にフラれちゃったとか?」


「違いますよ。彼氏いないですよ~」


「じゃあ何だろう…???」



私は戸惑いながら、先生に友香のことを話してみた。



「実は…ちょっと話しづらいんですけど、この前、星が好きな幼なじみの友達が事故で死んじゃって…」


「え!?」


「ここに来て星を見るんだ~っていう会話が最後になっちゃったんです」


「そっか~。そんなことがあったんだね」


「いつもここへ星を見に来ていて、その日もここへ来るために一旦家に帰る途中、事故に巻き込まれてしまったんです。だから、ここに来れば、友達が見るはずだった景色が見られるんだろうなって思って、それからよくここへ来るようになったんです」


「そうだったのか…。ごめんね、辛いこと思い出させちゃって」


「ううん、今はもう大丈夫です。今はその友達のおかげで先生と知り合えたし、こうして夜空を見上げる楽しさを知ることができたから、教えてくれてありがとうって感謝しているんです」


「そうか~ならよかった。前向きな考えだね。もしかしたら、その友達が僕たちを知り合わせてくれたのかもしれないね。友達もきっと安心しているよ」


「なんかその友達が星を見ることに夢中になっていた理由がよくわかった気がするんです。星にはいろんな色があって、明るさも違うし、星座には神話もある。天体望遠鏡で星雲や星団を見たり、流れ星に願い事を祈ったり…」



私がこう言うと、先生はとても興味深い話をしてくれた。



「なんかさ~こうして星を見ていると、僕たちも星の子なんだな~って思わないかい?」


「えっ?星の子?」


「ああ。星にも一生がある。死んでしまった星が、新しく生まれる星の源を作り出してくれたおかげで太陽が生まれ、地球が生まれた。太陽から地球の距離がちょうどいい位置関係だったから、熱くも寒くもなくちょうどいい気温になり、海ができバクテリアを生み、バクテリアは光合成によって酸素を作り、生物を生み出した。その生物が、進化と絶滅を繰り返し、やがて人類が誕生した。人類が誕生する元のキッカケというのは、太陽の誕生から生命の営みがずっと繋がってきたことだったんだよ。偶然にも地球がこの位置に出来たからこそ、生命も誕生し繁栄できたわけだ」


「うん…」


「もし地球が、これより少しでも太陽の近くにあれば、太陽の熱で暑すぎて、水もなかっただろう。まるで金星のように、灼熱地獄だったはず。まあ、金星は二酸化炭素の厚い雲で覆われているから、その分余計に暑いけど、地球だって温暖化現象によって二酸化炭素の雲に覆われたら、金星のようになっちゃって大変だよね」


「はははっ、それはちょっと大袈裟だよ」


「まあね。でも逆に太陽から少しでも遠くに離れていれば、火星のように水は凍り、生物が生きていけないくらい寒くなっていたはずだからね。今の火星を見てわかるとおり、海だって凍っていて、水としては存在していなかったはず」


「そうか、太陽と地球のちょうどいいこの距離間が、地球に生命が誕生するのに適した最高の条件だったわけね」


「そう、この位置に地球があるから、僕たちは太陽という星の恵みを受けて地球で生まれ、地球で育ち、生活し、やがて死んでいく。星を見ていると、俺たちの人生のドラマの主役はまるでこの地球のように思えるんだ」


「そういうことね。地球で生まれた星の子ども・・・なんかロマンチックですね」


「だろう?晴美ちゃんのお友達も、きっとどこかで形を変えて生き続けているんだよ。これからもその友達のことを忘れないで、星を見てあげてね。それが僕からのお願いだよ」


「うん。ありがとう。先生…」



不思議と、私の目からは涙が流れていた。

そっかぁ…友香は、形を変えて生き続けているんだ…。友香が…まだどこかに…。


それまで我慢していた気持ちが一気に噴出し、私は小さな子どものように泣きじゃくった。

先生は、そんな私の頭を撫でながら抱きしめてくれた。そして抱きしめながら話を続けた。



「今日も金星だけ、すごく目立っているね。私はどんな星よりも負けないよって言っているみたいだ。マイナス3.3等級で光っているから、知らない人が見たら飛行機と間違えてしまいそうだね」


「私も最初そう思いました。だけど、死んじゃった友達のお母さんが教えてくれたんです。あれは金星だよって」


「それで、金星を見に来ているってわけだね」


「はい、そうです。ここに来てその友達と一緒に見ているような気分に浸ろうって思って。でも今は先生と見られるから、私、なんか幸せです」


「じゃあ、見えるうちにいっぱい見ておこう」


「はっ、はい」



そう言って空を見上げた瞬間…


「わぁ~流れ星」


「えっどこ?」


「先生遅いよ。もう行っちゃいましたよ~」


「あぁ~見逃した~」


「駄目だよ~超きれいだったのに」


「ちくしょう~今度こそ見てやる」


「あははっはははっ」



金星って、どんな星よりも美しく光っている。私も、強く美しく輝きたい。

友香の分まで精一杯生きて、強く美しく輝きたい。


周りの噂や目つきを気にしながら、何があってもいい子を演じる日々…。

そのせいか、ちょっと自分らしさというものを失っていた気がする。


でも、先生と出会って、初めて素直な気持ちになれた。


先生と星を見るのが好き。

ずっとこうして、星を見ていたい…と。


          

ある日、私は一人夜通し空を見上げて、こんな詩を書いてみた。


          

絶え間なく変化する夕焼けの空を見ながら、気持ちを落ち着かせて時間の流れを感じてみる。

時間はやがて闇を訪れさせて、その中で無数の星たちが輝き続ける。

夜の星は遠いから、熱を感じない。

それでも、その星はちっぽけな私に夢や希望を与えてくれる。

強く、美しく光る闇の砂たちは、時間の流れとともに見える位置を変えていく。

はるか地平線の向こうから、闇を切り裂く光が差し込まれるとき、ゆっくりと目覚めの朝を迎え、人々の新たな歴史が始まろうとする。

そしてこの空の下で、社会という名の戦いの世の中で、まるで星のように輝くその時を夢見て切磋琢磨し、何かを犠牲にしながらも懸命に生きようとする。

太陽の光が星を見えなくしても、太陽自身も星のひとつ。

昼間だって、太陽という名の星は見えるのだから。

そして昼の星は近いから、熱を感じる。それが、生命の営みとなる。


          

          

友香を失って、心の拠り所が欲しかった私を、先生が救ってくれた。

自分が夢中になれる何かをとことんやっていけることが一番の幸せ。


私にとって、先生と星を見るのがそうだった。



宵の明星、金星が教えてくれた、力強く光輝き世を生きること。

友香と先生が教えてくれた、星空の魅力。



全ての出会いが星との出会いを実現させてくれて…


星と出会えて、今の私がある。

そしてこれからの私をつくりあげていく。



友香が感じていた、星に対する思い。

私がそれを、みんなに教えてあげる。

私がそれを、これからも引き継いでいってあげる。


友香の存在を、ずっと感じていたいから・・・。

友香が生きていたことに、意味を持たせたいから・・・。



友香、ありがとう。


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