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3/3

いつものお昼

「おばちゃん腸詰め10本できる? 後で取りに来るから」


 屋台に並んだナシヒトがお金を置き確認する。

 その額はキッチリ10本分揃えられており、女店主もそれをすぐに確認しナシヒトの顔を見る。


「また持って帰るんかい、あいよ」

「じゃよろしく」


 お互い顔見知りであるにも関わらず、その会話は事務的でナシヒトも文字数を削ろうという意思すら感じる省略された言葉を残しその場を立ち去る。


「いらっしゃいませ~!!」

「大皿2枚と小皿1枚」

「大2小1ですね~! かしこまりました~~! ワインは無料となっておりまーす!!」


 給仕姿の店員がボードに注文通りの数の底の深い皿とフォークとスプーンを乗せて手渡す。

 ここはナシヒト行きつけの食堂。

 事前に皿を購入し、盛り付けは客が盛る形式で値段の割に量は多めに盛れ、味もまあ悪くないため多くの人が愛用している。

 大量の巨大な入れ物には次々料理をつぎ足され、盛り付け場はかなり広く取られているものの非常に混雑しており活気に溢れているが、客層はお世辞にも良いとは言えず怒号も飛び交う。


「おい早くしろよ!!邪魔だ!!」

「料理がねえぞ!!!」

「どこに並ぶのこれ!?」

「お客様!! 再びの盛り付けは禁止されています!!!」

「おい! こぼれたじゃねえか!!!」

「水! 水はどこだ!!」


 ナシヒトは戦場さながらの人々の間をすり抜けお目当ての料理を素早く自分の皿へと盛っていく。

 今日はパスタを多めに盛りつつワイン煮の肉と魚のタレ煮とチーズパイもついつい手を伸ばす。

 そして軽く果物と豆と細かく刻まれた野菜のスープを盛り付け、最後にサービスであるワインも受け取り席がある方向へ向かう。

 一度盛り付け場を出ればもう戻る事は許されない。


 席はこれだけの大人数ですら埋めきれないほど大量に用意してあり、盛り付け場の喧騒とは無縁のように談笑しながらゆったりしている人やテーブルにカードやボードを広げて何やらゲームに興じている人もいる程である。

 しかしナシヒトは適当に空いている所に座ると、くつろぐことなく無表情のまま作業的に口へと運んでいく。

 まるで奴隷が主人の思い付きで早食いをやらされている、という説明で人を騙せそうなほど喜びが感じ取る事はできないが、盛られた料理は着実に同じペースで減っていく。

 皿はたちまち空になり最後にワインの入ったコップをあおって飲み干すとボードを手に取り洗い場と繋がる返却口へと運んでいく。


「ありがとうございました~~!!!」


 ナシヒトは店員に軽い会釈をして店から出ると、次はパン屋へと向かう。


「ナシヒトじゃん」

「や」


 ナシヒトは男性店員の挨拶に一言で返すと並べられたパンをいくつか掴んでプレートに盛り支払い台へと持っていく。


「お前本当いつも通りだよな」


 男性店員はパンを確認しながらナシヒトの持つ袋へ詰めていき、その間にナシヒトは既にお代を台の上にキッチリ揃えて起き、パンを眺めて時間を潰している。


「はいありがとうね」

「ん」


 ナシヒトはうなづきながらパンを受け取り店を出ると次は注文していた屋台へと戻る。


「はいはい出来てるよ」


 腸詰は箱に入れられ別に置かれている。


「ありがとう、また箱は持ってくるから」

「本当好きね、あんたン所」


 大量の持ち帰りはやっていなかったのだが、ナシヒト達が無理を言って専用の箱を用意しそれを店に置かせてもらっているのだ。


「まいど~」


 ナシヒトは箱を抱えながら手を振り去っていく。

 

「わー!! 待ってたッスよ~!!」


 ナシヒトが組合の部屋のドアを開けると素早く明るい声をパタスが上げる。

 その間も机での作業の手は止まらない。

 待ってたとはいうが、この男はまだ食事を許される状況ではないのである。


「じゃあここに置いておくから、言った分できてる?」

「当たり前っスよ、詳細はまあ長くなるんで見てください」


 パタスはナシヒトの顔も見ないまま作業の合間に手渡す。

 ナシヒトはその紙を眺め始める。


「う~ん素晴らしい働きだわ、これですぐに調査にでかけられるわありがとね」

「ありがたいと思うなら今度からはもっと暇な時にしてくださいッス」

「それは約束できないわね、暇というのがどれくらいの状況か考えるのが虚しくなるくらい暇な日って多分ないでしょ」

「……頼むから人を増やしてほしいっスね」

「同感だけど、それは受付長でも約束できないわね。ここだけじゃなくてどこの支部も人いないから」


 ナシヒトは紙を眺めながら少し思案し、受付長のもとへ向かう。


「それじゃあこれから調査に行ってきます受付長」

「はいわかったよ。後、やっぱり組合の食堂は使わないの? 冒険者だけじゃなくて組合員も使う方が体裁はいいんだけど」

「あそこは少し私の好みではありませんので」

「ッスね」


 机で作業しているパタスも主張をし同意する。


「うんそうだよね、ご飯にうるさい2人に聞いた方が悪いよね。……じゃあいってらっしゃい」


 ナシヒトは会釈をすると部屋を出て調査に向かう。

 ちなみに受付長は組合にいる限りは毎日食堂で食事をとっている。

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