第96話 魔王様、洞窟探検です
我がプルア村から妖精の国へと転移した俺は、火山に元々棲みついていたリザードマンたちを頼ることにした。ドワーフ族が居る場所のヒントが、“火山のさらに下の下の地下にある”ということしか分かっていないからだ。
いくら俺の戦闘能力が高いといっても、何の手掛かりもなく人を探しだすのは不可能に近い。なので彼らに火山洞窟の案内をお願いした。
とはいえ、俺は魔物の言葉が分からない。というわけで、会話のできるクーに前もって交渉してもらった。
すると群れの長であるサラマンドラが、直々に案内をすると名乗りを上げてくれたのだが――。
「ぐぁー」
「おいおい、サラちゃん。そんな気の抜けた鳴き声を出さないでくれよ……」
ブードゥ火山を目指しながら歩くこと、数日。俺たちは山の中にある岩肌の洞窟を歩いていた。
洞窟の中は、高さや横幅がそれぞれ3メートルぐらいの幅しかない。これは魔物が掘ったのか、はたまた自然の産物なのか……当然ながら人の手が入った坑道と違ってロクに整備もされていないし、灯りの魔道具なんて便利グッズも無い。何もしなきゃ歩きづらくて1メートルも進めやしないので、道中は俺の光魔法で行く先を照らしながら目的地に向かっている。
幸いにも今のところは面倒なモンスターが出てきていないのだが……正直に言って、俺はもうこの旅に飽きてきた。だって薄暗い中で視界に入るのは、冷めた色の岩壁と、紅い鱗の生えた案内人の背中だけなんだぜ? 景色がちっとも代わり映えしないし、段々とウンザリしてきた。そろそろ転移で一度村に帰って、リディカに癒されたい……。
だが一番の問題は、俺よりもサラちゃんが不機嫌なことである。
「お前が大好きなリディカに会いたかったのは分かるけどさぁ。危険だからここへは連れてこれないって言っておいただろ?」
「……」
「なんでそんなに俺との二人旅が不満なんだよ。肩書きでいえば、お前らの一番上の主は俺なんだけど?」
「……ぐぁ」
先頭を歩いていたサラちゃんが、首だけでこちらを振り返った。まるで溜め息でも吐くかのような、何とも情けない返事だ。そして再び前を向くと、巨体の背を曲げてトボトボと歩き出す。
「おいサラちゃん……お前まさか、本当は俺の言ってることが分かってるんじゃないだろうな?」
「ぐぁ~? ぐぐぁ……」
「こ、こいつ……!」
サラちゃんは両手を上に向け、ヤレヤレと首を左右に振る。今度はこちらを振り返りもしない。
「ったく……それにしても、暑さがどんどん厳しくなってきたな。魔素も濃くなってきた気がする」
どれくらいの深さまで潜って来たのかは分からないが、それでも地底に近付いているのは肌で感じられる。ダイエットで代謝の上がったこの体では、ただ歩くだけでも汗を掻く。なのに気温まで上がってくると、ちょっとしんどくなってきたな。
かたや地元民であるサラちゃんは平気なのか、あまり変化がない。むしろ魔物にとっては栄養源である魔素の高まりで、動きが機敏になってきているようにも見える。
「仕方ない、冷気魔法と運動能力を上げる魔法も同時に使うか。おいサラちゃん、スピードを上げてさっさと向かおうぜ」
「ぐぁ!」
俺の提案に、彼女は今までで一番の張りがある声を出した。よっぽど、早く帰ってリディカに会いたいらしい。だがまぁ、それには俺も同感だ。
(さてと、サラちゃんのやる気を出した後は……)
「俺たちは先を急ぐが……そろそろ姿を現したらどうだ?」
そんな声を掛けながら、俺は後ろを振り向いた。
「あ、アタシは魔物ぶひぃ」
「いや、どんな誤魔化し方だよ」
こんな場所に似つかわしくない、可愛い女性の声が返ってきた。




