第80話 魔王様、献上品です
「“我が主に、自分たちの宝物を献上したい”と言っているです!」
すっかり魔物の通訳役となったクーが、隣で頭を下げているサラマンドラの言葉を代弁する。
ちなみに彼(?)の言う“我が主”とは俺ではなく、治療をしたリディカのことらしい。命を救われたのが余程嬉しかったのか、すっかり懐かれたものである。
ちなみにその主であるリディカと言えば、
「えっ……と。こういう場合、どうすれば良いのでしょう?」
「リディカの好きにすればいいんじゃないか? 俺ならば有難く受け取っておくけど」
「は、はぁ……」
俺も魔王として誰かに敬われた経験はあるが、元は先代魔王に拾ってもらった、ただの孤児だ。
対してリディカは第三王女という生粋の王族であるんだし、もう少し偉ぶっていたって良いんだけど。
この自己肯定感の低さを見るに、王城では相当酷い扱いをされていたようだ。その代わりにこの村では、俺が彼女を存分に甘やかさせてもらうけど。
「クー。その宝物はどんなものなのか、サラマンドラに聞いてもらえるか?」
「はいです! “我が主……の夫が、果実について教えろ”と言っているのです」
クーの言葉を聞いたサラマンドラは、リディカの方に顔を向ける。その彼女がコクンと頷くと、グアァとひと鳴きした。
「“坑道の中にキラキラ光る果実を見付けた。それを貰ってほしい”だそうです!」
「あの洞窟の中に果実……そんなものがあったか?」
「ねぇ、ストラ。もしかしてサラマンドラが居た場所にあったアレって……」
「え、あの魔法宝石がそうなのか!?」
アクアに言われて気付いた。そういえば柱の中に、青い光を放っている魔法宝石があったな。
つまりアレは柱じゃなくて木の幹で、魔法宝石が果実なのか?
いやでも宝石が果実ってどういうことだ……?
「サラちゃんいわく、それは石ではなく食べられる果実だそうです!」
「いやサラちゃんって……え、もしかしてメス!?」
「リザードマンたちは、姉御って呼んでいるみたいなのです!」
「あ、そうなの……」
いやまぁ、サラマンドラ――サラちゃんがメスでも良いと思うけど……そっか、魔物にも性別があったんだな。
「取り合えず、その現場に戻ってみない?」
「そうだな、さっきは間近でちゃんと見れなかったし。確認がてら、今から行ってみるか」
そうしてサラちゃんと俺たちは再びブゥード坑道へ転移した。変わらず青い輝きを見せている柱の元へ向かうと……。
「たしかにこれは、実っているな」
「綺麗……!」
目の前にはサラちゃんの言う通り、宝石のようにキラキラと光る丸い果実がなっている木があった。
「これは、リンゴ……?」
その果実は、俺がよく知るリンゴのように見えた。それも赤でも緑でもなく、れっきとした青色のリンゴである。
思わず見惚れていると、サラちゃんがその巨体を活かして、ヒョイっとひとつ果実をもぎ取った。それをうやうやしくリディカの前に差し出した。
「私に……ですか?」
「食べてみろって言っているみたいだな」
「はい」
リディカは両手で果実を受け取ると、それをジッと見つめた。
「食べてみるか?」
「そうですね、せっかくですし……」
恐る恐るといった様子で、リディカがリンゴをかじる。
その瞬間……彼女がビクンと大きく震えたかと思うと、その美しい瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。




