第79話 魔王様、お見事でございます
「……今回は上手くいったから良かったですけど! あの大きな口をしたサラマンドラに、私がパクっと食べられちゃったらどうするんですか!!」
治療を終えたリディカは、頬を膨らませながら俺を睨みつけてきた。
彼女の背後にはすっかり傷の癒えたサラマンドラと、それを見て歓喜の舞を踊る数十体のリザードマンたちがいる。
こんな状況になった経緯は簡単だ。
サラマンドラの治療を決定した俺は、まず妖精の国で待機させていたリディカの元へ転移した。急に現れた俺に驚く彼女を抱き抱え、再びブゥード坑道へ。
今度はアクアやリザードマンたちを含め、その場にいた全員をプルア村へと飛ばしたのだ。
そうして俺たちは、温泉宿の前にある広場へとやってきた。最低限の事情を説明して、リディカに治療をお願いしたのだが……。
「でもリディカの結界魔法は、誰も近寄らせなかったじゃないか。サラマンドラの火炎ブレスも、全く効かなかったし」
「ふふん♪ 私の魔法も、聖獣様の加護と日々の鍛錬で成長していますからね。あれぐらいの威力であれば問題ありません! ……って、褒めたって許しませんからね!?」
「まぁまぁ。もし本当に何かあったら、俺が隣で守るつもりだったし……」
「ふぇっ!?」
俺がそう言うと、リディカは頬を赤く染めて固まってしまった。
「いや、だから本当に何かあれば、俺がリディカを庇うつもりだったんだって」
もしそうなるならば、サラマンドラを倒す算段だったが……それはせずに済んでよかった。
「もうっ、もうっ! ストラはそうやって、また都合のいいことばかり言うんですから!! 元はと言えば、貴方がちゃんと事前に説明してくれればこんなことには……」
リディカは真っ赤な顔を隠すようにそっぽを向くと、小さくつぶやいた。
「……でも、ありがとうございます」
「ん?」
「いえ、なんでもありません」
こちらに顔を合わせないまま、彼女は小さく息を吐いた。
照れている顔も可愛いな。あんまりおちょくると嫌われそうだけど、リディカの反応がいちいち可愛くて仕方ない。
そんな事を考えていると、アクアが俺の肩をチョンチョンと指で叩いてきた。
「ねぇ、二人とも。いちゃつくのはその辺にして、アッチをどうにかしなさいよ」
「アッチ? ……あ~、うん。たしかに」
アクアの視線の先には、すっかり元気になったサラマンドラがこっちをジッと見つめていた。
特に襲ってくる様子もなく、周りのリザードマンたちも大人しく座っている。っていうか、まるで軍隊のように一糸乱れぬ隊列を組んでいるように見えた。何をしているんだアレは?
「ストラ兄さん……」
「ん、どうしたんだクー。そんな微妙そうな顔して」
「それが……」
騒ぎを聞きつけてやって来ていた獣人三姉妹のクーが、気まずそうに犬耳をペタンと垂れさせながら俺に告げた。
「あのサラマンドラが、命を救ってくれたお礼に忠誠を誓うって言い出しているです」
「えっ、マジで?」
思わずサラマンドラの方を向くと、トカゲ特有の縦に長い瞳と目が合った。
崇拝じみた熱い視線を送ってきていているのだが、それが約30体分である。さすがの俺もビビッてたじろいだ。
ええっと……忠誠とか誓われても困るっていうか、かなり怖いんですけど。悪いけど、どうにかお断りできないかな。隣にいるリディカなんて、涙目でガタガタと震え始めてしまっているし。
「……ん? そういえば、どうしてクーはサラマンドラの言葉が分かるんだ?」
「聖獣様の加護のおかげか、僕にも彼らと会話できるようになっているです」
「ケルベロウシと同じ現象か……ってことは」
「すでにプルア領の配下になっているです……」
うわぁ、もう配下キャンセルできないじゃん……。




