第78話 魔王様、お客様御一行です
遠目にしか見えないが、魔法宝石の前で寝そべっているサラマンドラの様子がおかしい。どこか具合が悪そうというか、なんだか苦しそうだ。
周囲にいるリザードマンたちはキュイキュイ言いながら、サラマンドラに縋りついていた。
「周りのリザードマンたちも、舐めて治そうとしているように見えるな」
「なんだか心配そうな鳴き声まで聞こえてくるわね」
俺たちは岩陰から小声で囁き合う。
てっきり俺は、サラマンドラが指示して坑道を占拠しているのかと思ったが……こうして観察していると、奴らはここから移動したくてもできないような印象を受けた。
「どうする? 今なら隙を狙ってサラマンドラを倒せるんじゃない?」
「おいおいおい。いくら魔物相手だからって、そんな酷い真似をするのか?」
「……勇者様は魔物相手にも優しいのね。本当にお人好しなんだから……」
「当たり前だろ? そんな簡単に悪者だって決めつけるのは良くない」
魔物は人間と相容れない存在。アクアの言うことも一理ある。
だが……仮にサラマンドラを倒したとして、そのあとのリザードマンたちは? あの懐き様だと、間違いなく逆上するだろう。そうなれば数が多くて手が付けられないし、地形で不利な俺たちが危険ではないか?
(うーむ、どうしたもんかな。解決策はあるんだが……)
俺は考えながら、ちらりと横目でアクアを見る。
すると彼女は溜息をついてから言った。
「……分かったわよ。私はキチンと一度は反対したからね」
「えっ?」
「あのサラマンドラを治療するんでしょう? 早くしないと死んじゃうかもしれないし」
「アクア……」
「勘違いしないで! 私はお金にならない無駄な戦闘はしたくない、それだけよ!」
なぜか顔を真っ赤にして怒り出してしまったアクアに押される形で、俺はサラマンドラの回復を試みることにした。
(しかしまぁ……)
サラマンドラやリザードマンたちに悟られないよう少し離れたところで、俺は小さく息をはいた。
「問題はどうやって治療するかだな……」
サラマンドラは、どうやら腹を怪我しているようだ。赤い鱗が剥がれ、三本線の傷口が見えている。3メートル近い巨体なのだが、ヤツ以上に大きな魔物の爪で切り裂かれたような傷跡だ。
周囲にいるリザードマンたちも、心配そうにキュイキュイ鳴いている。自分たちでは治す術がなく、ただ見守るしかできないようだ。
そのサラマンドラは、自分に近づこうとするリザードマンたちを唸り声で威嚇して追い払っていた。怪我で余裕が無いのか、かなり神経質になっているみたいだな。
(下手に傷に触ると暴れるかもしれないし……リザードマンたちも俺を警戒するだろう)
アイツらを傷付けずに近寄るにはどうしたら……俺は手を出しあぐねていた。
「あっ、そうだ。こういう時はリディカに頼もう」
「リディカちゃんに? でも彼女は城に残っていて……って、まさか」
そう、俺にはとっておきの方法がある。
「転移魔法で全員、プルア村にご招待だ」




