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第77話 魔王様、トカゲと追いかけっこ


「あっ、逃げられた! そっち行ったぞアクア!」

「ああぁぁっ、本当にすばしっこいわねコイツら!」


 俺の剣やアクアのレイピアは狙った獲物に届くことはなく、むなしく空を切るばかり。茶色の鱗を持つトカゲ型の魔物はあっという間に四方八方へと逃げていき、俺たちの叫び声だけが狭い坑道の中を反響して残っていた。



「おい、アクア! 挟み撃ちにしたのに、なんで抜けられてるんだよ!」

「そっちこそ! 私が隙を作ったんだから、ちゃんと仕留めなさいよ!」


「……」

「…………」


「すまん、喧嘩している場合じゃないな」

「そうね……私こそゴメン」


 俺とアクアは、リザードマンたちが棲み処(すみか)にしているという坑道へとやってきていた。ティターニアからは、奴らの討伐は困難を極めると聞いていたのだが……。



「うーん……。コレは予想していたよりも、かなり厄介だぞ……」


 このブゥード坑道へ来てから、かれこれ1時間ほどが既に経過している。なのに討伐できたリザードマンの数は、まさかのゼロ。他に見掛けた吸血コウモリやガスゴーストは何度も倒したのだが……。


「奴ら、ここの地形を完全に把握しきっているわね」

「ネズミみたいに縦横無尽に逃げ回るからな。屋外戦と違って、坑内の戦いがここまで苦労するとは思わなかったぜ」

「せめて魔法が使えたら良かったんだけど……」


 アクアが言うように、ここブゥード坑道では攻撃魔法が使えない。というのも、ここが魔法宝石の産出地であることが理由なのだ。


 魔法宝石は魔道具の動力源になるだけあって、高いエネルギーを有している。


 そんな物質に万が一でも魔法をぶつけてしまったら? たちまち誘爆して、坑道は崩落。大惨事になってしまうのだ。


 もちろん、大きな魔法宝石は既に採掘済みなのだが、壁の至る所に極小の魔法宝石が残っている。なので俺たちは、辺りを照らす光球の魔法ぐらいしか使うことができない。



「たしかにこれは、ティターニアも苦労するな」

「親玉のサラマンドラも、けっこう知恵が回るわね……」

「ここに引き篭もられちゃ、迂闊に手を出せないもんな」


 俺たちは戦闘の合間に少し休憩を入れながら、坑道の奥へと進んでいく。そしてしばらく進んだ先で、俺たちはようやくリザードマンの姿を発見した。


「……アイツらは一体何をしてるんだ?」


 そこは坑道の一番奥に造られた巨大な空洞だった。その最奥に、ひときわ大きな水晶の柱があり……そこで大量のリザードマンたちが集っていたのである。


(アレはもしかして……巨大な魔法宝石?)


 青い光を放つ魔法宝石が、柱の中に埋まっていた。その輝きは、まるで青いオーロラのような美しさを放っている。



「まさかリザードマンたちの狙いは、あの魔法宝石なのか?」

「えぇ、たぶんね……」


 アクアは複雑そうな表情でうなずいた。


 魔法宝石はここブゥード火山の中で採掘できるが……実は魔物の体内からも魔法宝石を得ることができる。


 彼ら魔物にとって魔法宝石は心臓のようなもので、力の源と言っても良いだろう。


 より強大な力を持つ魔物は、より純度の高い魔法宝石を持つ。結果、魔物が他の魔物を食べてより強くなる、という現象が起きるのである。


 だから魔物の習性として、魔法宝石に引き寄せられるのも頷けるのだが……。



「魔法宝石にいる、あのデカいのがサラマンドラか?」

「えぇ、たぶんね……」


 数十体のリザードマンたちの中に、一体だけルビー色の鱗を持つ個体が魔法宝石の前で寝そべっている。


 そしてその周囲では、多くのリザードマンたちが彼へ寄り添っていた。まるで親猫に甘える子猫のような姿だ。



「それにあのサラマンドラ……怪我してないか?」


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