第75話 魔王様、招待される
――妖精女王だ。
ウェーブの掛かった長い金髪と赤い瞳、そしてすらっと伸びた長い脚。
ゆったりとした黄緑色の薄いレースの服は露出度が高く、大理石のように真っ白な肌が覗いている。
瞬きをしている間に儚く消えてしまう淡雪のような、美しくも脆い印象の女性だ。
「お招きありがとうございます、妖精女王様」
俺は礼を言って頭を下げた。
リディカ姫やアクアたちも俺の真似して頭を下げる。
「ようこそ、人族の英雄にして真なる勇者よ。そしてその仲間たち」
雪の妖精女王は俺たちに歓迎の言葉を掛けた。
「なんだか私たち、オマケみたいな扱いじゃない?」
「しーっ、聞こえますよアクアさん」
俺の後ろに立つアクアとリディカが小声で言い合っている。せっかく国に入れてくれるって言うんだから、余計なことを言わないでもらえるかなぁ!?
「さぁ、こちらへ。私の城に招待するわ」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
「ふふっ、そんな他人行儀なことを言わないで。……そちらの女性たちも、どうぞ」
俺たちが門を潜ると、再び氷の門が音を立てて閉じる。
「ねぇ、リディカちゃん。やっぱり私たちにだけ冷たくない?」
「……というよりも、ストラに対してやけに甘い気がしますね」
うん、その理由は少しだけ察しがついているんだよね。
たぶんティターニアは、もう俺の正体に気が付いている。だからわざわざ自分の足で出迎えに来たんだろうし。基本的に身内以外には誰に対しても塩対応なんだよ、この女王様は……。
「わぁ、すごい……」
街の入り口に立つと、リディカの口から思わず声が漏れた。
氷の城壁でぐるりと囲まれたルシードの街は、まるで絵本に出てくるような可愛らしい外観だった。
城門を抜けた先には、大通りがまっすぐに伸びており、左右には出店や露店が並んでいる。そしてなにより目を引くのが、通りに沿って並ぶ無数の妖精たちだ。
白い綿のような体毛に赤い瞳を持つ彼らは、背丈は一メートル程度しかないものの……その身からあふれ出す魔力は、やはり強力だ。
「ふふふ、私の家族たちと庭は美しいでしょう?」
ティターニアが俺たちに微笑みかける。
「あぁ、本当に素敵だ。ぜひ今度ゆっくり見に来たいね」
「貴方ならいつでも歓迎しますよ。……でもこうして遠路はるばる会いに来たということは、観光が目的ではないのでしょう?」
冗談めかして言うティターニアに、俺は無言でうなずいた。
「では、街の散策は後にしましょうね。城まで急ぎましょう」
彼女は右手を天に掲げると、何か呪文のような言葉を口にした。
「現れよ」
すると、ティターニアの手に氷の槍のような形状をした杖が出現した。
「きれい……」
リディカが思わずつぶやいた言葉が耳に届いたのだろう。妖精女王はクスッと笑みを零した。
「ありがとう、人族のお嬢さん。この杖は美しくも刃物のような鋭さを持つ……私には相応しい杖だとは思いませんか?」
「えぇ、たしかに」
ティターニアの言葉にリディカが同意すると、彼女は満足そうにうなずいた。
「さてさて、お次は馬車を用意いたしましょう」
彼女が杖を振ると、石畳の大通りに雪が積もり始める。
そして雪はひとりでに動き出して形を成していった。やがてそれは6本脚で歩く氷の馬へと姿を変える。そしてその背には手綱と鞍が取り付けてあった。
「さぁどうぞ。滑りやすいので、足元には気を付けてね」
そうして俺たちは魔法でできた馬車に乗って、お城の前までやってきた。
見上げれば、クリスタルでできた巨大な城が視界一面に入る。まるで宝石のように光り輝く、美しい城だった。




