表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/104

第12話 魔王様、浄化です


 それから数日後のこと。

 俺が川で釣りをしていると、対岸の方で獣人三人娘たちの姿を見かけた。


 どうやらまた魚を獲りに来たらしい。

 フシは釣り竿を持ちながら、器用に猫の長い尻尾で糸を手繰り寄せている。


 そんな彼女の真似をして失敗する犬獣人のクー。

 鳥獣人のピィは……チョウチョを追いかけて遊んでいた。



長閑(のどか)な日々って良いですね」

「そうだな……」


 俺の隣ではリディカ姫が川に足を伸ばし、プラプラと揺らしていた。


 冷たい川の水も、今日みたいな暖かい陽気の日には丁度いい。彼女の言葉に俺は静かに同意する。



「これも姫様が、水を浄化してくれたおかげだな」


 川を汚染していたベノムワームの毒は、綺麗サッパリと無くなっていた。

 本来なら時間を掛けてゆっくりと洗い流されていくはずだったんだが。まさかのリディカ姫が浄化魔法の使い手だったとは。


「なんであんな凄い力を隠し持っていたんだ?」


 俺が彼女にそう訊ねると、「あはは……」と少し気まずそうに答えた。



「別に隠すつもりは無かったんですよ? 単に王都じゃ使い道が無かったというか……」

「まぁ、治療術師や聖職者がいるもんな」


 規模と威力に違いはあれど、治療や浄化の魔法は人族も使えるはずだ。それに薬師が作る治療薬も優秀だと聞いている。

 今回みたいに広範囲の土地に毒が回っているとかじゃないかぎり、彼女の本領が発揮されるシーンは無かっただろう。



「元々は誰かの役に立ちたいと思って、頑張って特訓をしていたんです。昔、とある人に魔法で助けてもらって……」

「へぇ、そうなのか」

「憧れってやつですね。今じゃその人、どこで何しているか分かりませんが」


 恋する乙女のように、頬を染めて空を見上げるリディカ姫。


 そうか、本当は彼女にも好きな人が居たんだな。無理やりここに引っ張ってきてしまった罪悪感が、心をズキンと痛ませた。



「これは勇者のストラゼス様だけに教えちゃう、私の秘密なんですけどね?」

「……うん?」


 ひみつ?

 急にどうしたんだろう。

 この場には二人しかいないのに、リディカ姫は口元に手を添えて、俺の耳にコソコソと(ささや)き始めた。



「実は私、幼い頃にこことは別の辺境にある村で、魔物に襲われたことがあって」

「へぇ、魔物に」


 辺境は魔物が多いからな。そんなこともあるだろう。しかし子供がそんな目に遭ったら、魔物がトラウマになりそうだな。


「あやうく食べられそうになったところを、カッコイイ魔族の人に救ってもらったんです。とっても強くて、あ、もちろん勇者様も強いですよ? でもその人はとってもクールで、ちっとも恩着せがましくなくって!」

「ん、んん……?」

「お礼を言おうと思ったんですけど、目の前でパッと消えちゃって……」


 あ、あれ。それって転移魔法……?

 その話って、まさか?


「あとから気付いたんですけどね。その人ってなんと、魔王ウィルクスだったんです! 魔族が人族を助けたなんて、ビックリですよね?」


 お、おう。俺もめっちゃビックリした。

 そういえば過去にそんなことがあったかも……しれない。


 いやゴメン。ぶっちゃけ、あんまり覚えてないぞ……?



「だから私、勇者様のこと内心ではかなり恨んでいるんです。魔王討伐が平和の為だったとはいえ、私の恩人でしたから……」

「……そうか」

「ごめんなさい。本当は言おうか迷っていたんですけど。隠し続けるのも悪い気がして」


 だから城で会ったとき、勇者ストラゼスに冷たく当たっていたのか。


 しかし魔王が恩人かぁ……なんだか事情が複雑になっちまったな。



「うーん、なんだか喋ったらスッキリしました。やっぱり誰かに聞いて欲しかったのかもしれません」


 リディカ姫はそう言うと、川から足を上げて立ち上がった。


 そしてクルリと回り、スカートの裾をふわりと浮かせながら俺の方を見る。


「まだまだお互いのことを知るべきだと思うんです、私たち。だからこれから少しずつ仲良くしましょうね、勇者様!」


 その屈託のない笑顔を見ていると、なんだか俺の心まで浄化されそうだ。


 俺も彼女になら正体を打ち明けられるかもしれない――。


 そんな事を思っていると、少し離れた場所から声が聞こえてきた。



「ストラ兄! お魚いっぱい獲れたのニャ! 今日は焼き魚を所望するのニャ!」

「明日はお肉がいいです! お肉狩りにいきましょう!!」

「ちょうちょ、おいしいー」


 犬、鳥、猫。

 獣人三人娘が両手に魚を抱えながら、こちらに手を振っていた。ピィが口をモゴモゴとさせているが、何を食べているかはあえて聞くまい。


「今日こそは私、お魚を完璧に(さば)いてみせますよ!」

「……そうだな。じゃあついでに、新しい魚料理を伝授しようか」

「はい! よろしくお願いしますね、先生」


 リディカ姫に釣られて笑顔になりながら、俺は彼女たちの下へ歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ