第104話 魔王様、キスのお時間です
「よし、それじゃあドワーフ王国が再び平和になったことを祝して――乾杯!」
「かんぱいニャー!」
「乾杯なのー」
俺が音頭を取ると、フシたちがノリよく元気よく続いた。
夜空の下、BBQの火に照らされる彼女たちの顔は、まるで子供のように無邪気で愛らしい。
「くぅ~! 外で飲むお酒は最高ですねぇ!」
俺の隣では、リディカがグラスに入った酒をグビグビと一気に飲み干している。
彼女が飲んでいるのはドワーフ謹製の竜酒だ。火山の熱で発酵させたイモの酒をさらに蒸留したものらしい。つまりはアルコール度数が激高な蒸留酒ってことになる。
「まさか酒のつまみに魔物の肉を食うとはなぁ」
「最初はおっかなびっくりでしたけど、これは食べなきゃ損ですわ!」
「大丈夫かリディカ。だいぶ飲むペースが速いけど……」
「だってお肉もお酒も美味しいんですもの! ほら、貴方もあーんして?」
すっかり酔っぱらってしまったのか、普段のお淑やかなリディカはどこかにお留守の状態だ。テンションは高いし、俺へのスキンシップが倍以上に増えている。
「まぁ美味しいのは確かだし、その気持ちは分かる……うん、美味い」
最初の見た目こそグロテスクだったけど、小さくカットしたらワームだって分からない。それに肉は驚くほど柔らかくジューシーだった。
なんでも、マグマの中でじっくり熱を通されているおかげで肉質が柔らかくなるらしい。低温調理だと固くなりにくいって聞いたけど、マグマって超高温なのでは? ……と思ったが、細かいことは気にしないことにした。
味付けもシンプルに塩と香辛料だけではあるが、その素朴な味がまた肉の味を引き立てている気がする。
そんな魔物肉の焼き串を片手に、俺も夜空を見上げた。
満天の星空だ。月が二個も浮かぶ不思議な空だけれど、なんだか懐かしい気がするから不思議である。
「うにゃー!? お肉がすっごい美味しいのニャー!!」
「村のお野菜との相性も、とっても最高なのです!」
「うまうまなのー」
「でしょー!? アタシにもっと感謝すると良いわ!」
焼き串を両手に持って仁王立ちしているシャルンの横で、フシたちはもりもりとお肉を食べている。本当に仲良しだなコイツらは……。
「感謝なら、ドワーフの情報を仕入れてきた私にもされてしかるべき。そうよねぇ~?」
「ティターニア!?」
「げっ、伯母様……」
いつの間にか俺たちの輪の中に入っていたティターニア。彼女は竜酒の入ったグラスを片手に、意地悪そうな顔でシャルンを突っついている。
「シャルンちゃんったら、火山の中でまーた無茶をしたんだって?」
「いや、あの……その……」
「伯母さん、貴方に何かあったらあの世であの子に顔向けできないわ~?」
シャルンの母親は妖精女王ティターニアの妹に当たる。つまり二人は血縁者だ。見た目は完全に二十代半ばのお姉さんなのだが……実際は数百年以上も生きている。
性格も見た目と同じく若くていたずら好きで、親しみやすい姉御肌って感じなんだよな。
「まぁ無事だったならそれでいいわ。それにアナタたち、ドワーフのために頑張ってくれたみたいだから」
そう言って彼女は俺のグラスに竜酒を注いでくれた。
口に含むと広がる芳醇な香りと甘みに俺は目を見開いた。肉との相性も最高である。
「あぁ、だけど俺にも利があったしな。ドワーフとの友誼はプルア村の発展にもつながるし」
「うふふ、そうね。でもありがとね。……これはほんのお礼よ」
そう言って彼女は俺の頬にキスをすると、ウィンクしながら再びシャルンのところへ戻って行った。まったく嵐のようなお人だ。
「……ストラ? 貴方はいったい何をしているのかしら?」
「あ、いやこれはその? え?」
ふと横を見てみれば、間近に迫ったリディカの真顔があった。
やばい。これはやばい。
目が座ってるし、完全に怒っている。
恐怖のあまり目を逸らすと、ニタァと笑みを浮かべたティターニアと目が合った。あんのやろう、ワザとやりやがったな!?
「キス! 私にもしてください!」
「え?」
「今すぐ! じゃないと私、怒っちゃいますからね!!」
いや、待って!?
みんなの視線があるから!!