第103話 魔王様、お帰りです
「ワームのお肉がお土産……ですか」
ドワーフたちを困らせていた問題も無事に解決し、俺たちはプルア村へと戻ってきた。
領主館で待機していたリディカが笑顔で俺の帰還を喜んでくれていたのだが……持ち帰った肉塊を見た瞬間、彼女の頬がこれ以上ないくらいに分かりやすく引きつっている。
いや、うん。分かるよその気持ち。あのキッショイ魔物の肉、「マジで食うの?」って思うよね。彼女もワームがどういう見た目をしているか、実際に知っているし想像もできるだろうし。
「ごめんなさい、お姉様……」
「え? あ、いえ違うのよシャルンちゃん! 貴女の気持ちはとっても嬉しいわ。でも……いえ、あの……」
キッチンのテーブルにデデーンと鎮座する巨大な赤身肉。大きなテーブルからさらにはみ出すほどの規格外な肉塊に、リディカは思わずフォローする言葉さえ失くしていた。
ドワーフ王のバギンス爺さんが「ガハハハッ! いくらでも持っていけ!」と大笑いしながらマグマワームを捌いてくれたのだが、その量が大盤振る舞いってレベルじゃないんだよな。
なにせ元が電車を何両も重ねたぐらいの太さを持つ。いくら小さくカットしたところで、一般的な家庭で食べきれる量ではない。
「うにゃー!? 何なのニャこのでっかい肉は!」
どうしたもんかと頭を悩ませていると、獣人三姉妹が温泉宿の仕事から帰ってきた。
「ストラ兄さん! もしかして僕たちへのお土産ですか!?」
「肉祭りなのー」
純粋な三人は俺たち大人組とは違い、まるで宝石を前にしたかのように目をキラキラさせて肉を見つめている。
「凄いでしょー!? アタシがマグマの海で釣りあげたのよ!」
「魔王のお姉ちゃんがです!?」
「さすがなのニャ!」
「すごいのー」
若干ションボリとしていたシャルンも、フシたちに手放しで称賛されて一気に調子を取り戻したようだ。フフン、と腰に両手を当ててドヤ顔を晒している。まったく、すぐこのお調子者め。
「とりあえず、焼いて食べてみるか」
せっかく義妹が頑張ったのだし、腐らせるわけにもいくまいて。
余った肉はバギンス王から貰った保冷庫があるし、食堂と我が家でゆっくりと消費していけばいい。
「ステーキもいいけど、ちょっとだけ趣向を変えて今回はBBQにでもしてみるか」
「バーベキュー? ……って何ですか?」
「リディカは知らないか。簡単に言えば鉄板や網を使って、外で肉や野菜を焼いて食べるんだ」
先日、宿に泊まった旅商人から買った野外調理セットがあることを思い出した。
もう日は暮れているけれど、みんなでワイワイ食べるならそっちの方が良いだろう。
リディカは「どうして家に居るのにわざわざ外へ?」と不思議な顔をしている。まぁ外に魔物がいる危険な世界だしなぁ。調理にそんな手間を加えるなんて、相当な物好き意外はやらないだろう。
「あえて外で食べることで、開放的な気分になれることもあるのさ。それにドワーフから貰った酒もある。星空を眺めながら飲む酒も格別だぜ?」
俺がそんなことを言うと、リディカはパァァと顔を輝かせた。
うん、この村での生活ですっかりお酒好きになっちゃったね。