表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ざまぁで候~断罪される公爵令嬢は昭和に守られる

作者: 安堂深栖

意図的に『~わ』を『ワ』や矢印が入っていますが、イントネーションの表示のつもりです。



『なに見とんねん』


突然、頭に響いた声に第二王子は驚いた。


───なにみとんねん?


『おう、なに笑ろてんねん』


「な、何だ??」

「殿下?どうなさいましたか?」


突然辺りを見回し始めた第二王子に、彼の側近である公爵子息が声を掛ける。



「神殿内です。静粛に」


儀式の説明を中断された神官の静止の声に、第二王子は我に返る。


「あぁ、すまない。続けてくれ。」


第二王子は鷹揚に答え、椅子に座りなおす。


そう、やっとここまで来たのだ。


目の前の女───形だけの婚約者である公爵令嬢と手が切れる。

そして傍らにいる愛しい男爵令嬢と真実の愛を貫く。

その為に婚約者の罪を調べ上げ、神殿で断罪の儀式まで漕ぎつけた。


「───以上です。

 それでは皆様。裁きの祭壇へご移動を……」


ここまでの第二王子の奸計は順調だった。

見ろ!公爵令嬢の顔を!!


この美しいだけの女は、第二王子たる私の苦悩をしらない。

小さい頃から『王子は婚約者が優秀ですから…』と言われ続けた気持ちが分かるかっ!!!


そんな私に癒しを与えてくれたのは、この可憐な男爵令嬢だった───


「殿下、行きましょうか。」


声を掛けて来た、側近で護衛を務める伯爵子息を帯同して

第二王子は裁きの祭壇へ進もうとした。


「お待ちください!裁きの祭壇は一人ずつの筈ですっ

 お嬢様はお一人なのに、殿下にはどうして同行者が!!」


公爵令嬢の侍女が声を上げた。


「黙れッ!!お前のような不埒な者がいるから

 護衛が必要なのだ!!!」


側近の公爵子息が割り込んだ。

宰相補佐の家柄だが、第二王子が立太子すれば次代の宰相に任命すると決めている。

彼の協力無くては、ここまで漕ぎつける事は出来なかった。


「そんなっ!護衛だなんてお嬢様に何が出来ると」


スッと、今まで口元を隠していた扇子を外して

公爵令嬢は立ち上がる。



『ほな、いきますワ⤵』


「ほないきますわ⤵?」

「殿下?」

「あの女は何を言った?」

「………『フアナ、行きますわ』と仰いました。殿下」


うろたえる第二王子に、側近達は落ち着かせようと声を掛ける。

彼らの目の前の公爵令嬢は第二王子に目もくれず、裁きの祭壇へと向かう。


第二王子が公爵令嬢との婚約破棄に断罪と、新たに男爵令嬢との婚約を発表する為に、

神殿の裁きの祭壇の周りには複数の高位貴族に、なんと国王までいた。


貴賓席で国王の目が光る。


この場に来ても、公爵令嬢は背筋を伸ばし悠然と構えている。

それに引き換え、さっきから息子である第二王子はブツブツと落ち着きなく何かを呟いている。

『ほないきますわ⤵』だと?

あやつは何を言っているのだ。


「お嬢様っ……フアナは、フアナは…」


あの忠義者の侍女はフアナという名なのか。




 ◇




最近、とある噂がまことしめやかに流れている。


裁きの祭壇で断罪の儀式を行うと、必ずや正義の鉄槌が下されると。


例え巧妙に計られた欺瞞であろうと、罪なき人々の冤罪をはらすのだ。

それは身分の差があっても、神の前では忖度は無い。


虚偽を申し立てた人間は気がふれたようになってしまうのだ。


この、第二王子は如何に───



 ◇



男爵令嬢は心中で吐露する。

真実の愛。

そうよ!私が愛されて王妃様になるのは当たり前じゃない。

あの女はお金を持ってて、地位もあって、なんでもあるじゃない!

それに、勝手に王子達がここまでお膳立てしてくれたんですもの!

私には関係ないわ───


『カンケーないワ⤴?』

「ぇ?何かおっしゃいましたか?」


男爵令嬢は側近の宰相補佐公爵子息に尋ねる。


「……いえ?何も。」




 ◇




裁きの祭壇で、公爵令嬢が先に宣誓をした。


『なんもやってへんさかい、よろしゅう頼んますワぁ⤴』

「待て、お前は何を言っているのだ?!

 神の前で不敬であるぞッ!!」

「で、殿下!殿下こそ大声で何を?」


己の護衛に制され、第二王子は我に返る。


「あの女がっ!……あの女は何と言った?」

「『疚しい事はございません。宜しくお頼み申し上げますわ』と言いましたが……」


この護衛は若さゆえの直情型で、今回の事は義憤に駆られて第二王子についている。

だが、巷にあふれる噂では冤罪をかけた方に罰が下されるそうだ。

護衛は『まさか…?』と疑惑を抱いた。


『そや、そのまさかやわ』

「は?」

「は?」




 ◇




告発された公爵令嬢の宣誓が終わった。


集まった人々は息を凝らして見守っている。

そこには公爵令嬢の父──即ち公爵もいた。


心ある者はこの断罪劇に眉を顰めた。

あの第二王子は婚約者の公爵令嬢を軽んじていた。

男女の機微は口出しすべき事ではないが、

幼少のみぎりから、あのように嫌っていては結ぶ信頼も出来ないだろう。


公爵は娘に強いた過酷な運命を悔いた。

いやあれは仕打ちだ、守ってやれなかった。申し訳ない事をした。

せめて。

せめてこの裁きの祭壇の奇跡を───


『なんやオトーチャン…許したろしゃーないワ⤵』


ん?

……なにか聞こえたか?




 ◇




公爵令嬢は悠揚たる物腰だ。




 ◇




『そんなもん、知りませんワ⤵』

「そんなもんしりませんわ⤵って、白を切るのかっ!!

 だ、だからお前が!イジメたんだろ!!!あの清楚な男爵令嬢を、

 あの、だからと言って、アイツ、あの女がっつ!!!」

「殿下?令嬢は何も喋っていませんよ?」


『お~お~なんかゆうとりますワ⤴』

「さっきから、何を、…お前は何を言っているんだっ!!!!」

「で、殿下?どうされましたか殿k!」


「もうよいッ!!!!」


国王が立ち上がった。


「ち、父上!」

「お前が何を言ってるんだッ!!!!」


国王の喝に第二王子が三度目の我に返る。


父や疎ましい公爵を招いて、

婚約者である公爵令嬢を断罪してやろうと思っていたのに。


裁きの祭壇の噂?

正義とは如何様にもなるではないか。

私が真実の愛で幸せを掴むのが、何が悪いのだ!


『そやかて、嘘いうたらあかんワ⤵』


「う、うわぁあああああああ!!!!!」


『まぁ~た怒こらはったでぇ、こっち来やんどってほしいワ⤴』


錯乱した第二王子は、無言で震える公爵令嬢に害をなそうと企てたと拘束された。

近衛兵によって、男爵令嬢や側近達も次々と排除されていく。


「お嬢様っ!」


侍女のフアナが祭壇へ走り寄っていく



 ◇



一連の流れの中、公爵令嬢の意識は無かった。

儀式の宣誓、否、神殿に入った瞬間に真っ白な光に包まれていたからだ。


「ここは………」


公爵令嬢は呟き、立ち止ったはずだった。

なのに、自分の声は聞こえず、自分の足は堂々と神殿を進んでいく。


「なに?何が起こっているの?」


『今日はコッチがアレなんやぁ⤵』

「こっちがあれ……?」

『そや。コッチがアレやネン⤵』


『アホやネンとかニッカネンとおんなじ響きやで?知らんやろ?』


公爵令嬢は無駄な情報過多で、気が遠くなり始めた。


『ああ、寝とき寝とき、よう頑張ったワ⤴ 後はやっといたるワ⤵』



後はやっといたるわをしてくれたらしい。


薄っすらと第二王子や彼の側近の声が聞こえる。

時たま吠えるような第二王子の怒号がとんでいるが

公爵令嬢の意識は揺蕩うように浮かんでいた。


「お嬢様!!」


フアナだわ。

あの忠義者は私の為に泣いてくれた。

第二王子との時間は苦痛でしかなかったけど、フアナや両親がいてくれたから

私は耐えた。


『そうかぁ↝フアナちゃんええやんかいさぁ↝あ、待って待ってぇなぁ

 気ぃ失うたらあかんワもうちょっとでフアナちゃんのおしr…』


四十代に入っても良く働くフアナは、腰からヒップのラインが素晴らしい。

分かってるじゃない。誰かさん。


公爵令嬢はセクハラから忠義者を護る為に気絶した。




 ◇




裁きの祭壇を見上げた神官は、今日も正義がなされたと頷く。

ここは罪人のみが聞こえる『ショウワのカンサイベン』という名の鉄槌を下す

唯一無二の神が住まう庭だ。





閲覧頂きありがとうございます。

楽しんで頂けたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  新しい切り口!!  最初は??ってなりましたけど、読み進めると 大変、面白う御座いました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ