復讐Ⅱ
「もっ申し訳ございませんでしたああああ!! あの飛空艇から突き落としたのは、全部ユリウスさまの指示でしてえええ!!! どうかお許しおおおおおっ!!!!!」
なんだこいつ、あの時あの場に居やがったのか。
「バルク。こいつがお前に何かしたのか?」
クーデリカが俺に尋ねてきた。
さっき俺がハメられた話をしたせいか、言葉の端に敵意が籠っている。
「ああ。俺がまだ弱い時に、こいつら兵士が散々俺の事を棒で打っ叩いたんだ。その後飛空艇から俺を突き落としやがった」
「なんだと?」
ギロリ、クーデリカが兵士を睨んだ。
「やはり外道だったか。殺さねば」
今度は白刃を兵士の首に突きつけて言った。
兵士は途端にビクンとその身をのけぞらせ、
「ふっふぃいいい!? も……申し訳ございませぇんんんんん!!!」
顔をフルフルさせながら俺を見て謝る。
「な、なんでもします!!! どんな事でもいたしますからぁ!!!……どうぞ、どうぞ命だけはお慈悲をおおおおおおっ!!!」
そして、情けなく喚き散らすのを聞いて、俺は飛空艇での自分の姿を思い起こした。
俺もこんな風に命乞いしたな。
こいつらやユリウスの前で。
「俺が命乞いした時、お前らどうした?」
「ふ……ふひ!?」
「俺が泣いてなんでもするから命だけは助けてって、お前らに言った時の事だよ。お前ら俺に何したっけ?」
俺はとことん追い詰める。
「えっく……! ぐずっ……!! すびばぜっ……!!」
大の男が泣き出してしまった。
戦場で勇敢に戦う兵士様が、見るも無様だ。
だが、この程度では許さねえ。
「痛かったなあ。俺はスキルの効果で痛みも倍増してるんだ。お前の叩いた棒の一撃はな、破城槌で体ぶち抜かれたみたいな衝撃だったんだぜ?」
言いながら俺は、片手で兵士の兜を掴み上げて、まるで紙細工みたいにグシャリと握りつぶしてやった。
それを兵士の眼前に突きつける。
お前もこうなるぞ、という分かりやすい脅しだ。
兵士の顔面はもうこれ以上無いほど引き攣っている。
「俺もよ、ストレスが溜まってるんだ。お前らが余りに酷かったせいで、もう少しで本当に死んじまうところだったんだからよ。だから死ぬ前に解消に付き合えよ」
俺は言った。
そして軽く兵士をぶん殴る。
二打目で腕の骨が折れ、三打目で口から血を吐き、四打目で内臓がぐるうと音を立てて引きちぎれるぐらいに。
それでも殴る手は止めねえ。
傍で俺のやる事を見ているクーデリカも、特に何も言わなかった。
ただ黙って腕組みをして見ている。
「痛いぃぃぃ! 痛いいいいい!!!?!」
兵士が泣き喚いた。
構わず俺は殴る。
段々と、兵士の顔が原型を留めなくなってきた。
もうどこが傷でどこが無事なのかも解らない。
血がドバドバと流れ続けている……!
「よし。今楽にしてやる」
やがて俺は言った。
クーデリカに、縄で後ろ手に縛るように伝える。
そのまま村の近くにある崖に兵士を連れて行った。クーデリカもついてくる。
そのまま海賊に死刑にされる捕虜のように、突き出した崖の端っこに立たせる。
そして奴の襟首を掴み、強引に崖下を見させた。
地面は40メートル程下にある。
あの日俺が見た飛空艇からの高さとでは比べ物にもならないが、それでも充分に恐ろしかったらしい。
兵士はヨロヨロとその場にしゃがみ込み、無様にションベンを垂れ流す。
俺は構わず兵士を立たせて、
「崖から飛び降りろ」
指示した。
「ひいいい!!??! ムリムリムリムリィですぅううううう!!!!?」
すると、兵士がどうしようもなく叫び散らした。
それを見て俺はにんまり笑う。
「さっさと落ちろよ。いちにのさん、でバンザイつって飛ぶんだろ? おら!」
俺は背中をトンと押した。
再び兵士は崖の先端に突き出されてしまう。
「っひっ……っく……っく…ひっひっ……!!!」
兵士は泣きながら這いずり、俺たちの居る方に少し戻る。
そしてその場に土下座をし、
「な、なんでもします!! わたくしぃぃぃ!! 御二方の召使いになります!! 奴隷で構いません! どうか! どうか命だけはお助けくださいいいいいい!!!」
兵士は、俺らに向かって涙ながらに懇願した。
もう恥も外聞も無い。
なんでも良いから生き残りたい。
あの遠くて硬そうな地面を見させられたら、もう心にあるのは恐怖心だけ。
そういうのが分かる。
俺もそうだったから。
「「……」」
だけど俺たちは敢えて無視。
冷たい視線を向けるだけで、答えるつもりはない。
「お願いしましゅっ! ご、御主人さまぁっ!!!」
沈黙が恐ろしかったのだろう。
兵士が涙ながらに訴える。
「おい、奴隷で構わないってよ。クーデリカ。そのゴミ要るか?」
俺はクーデリカに尋ねた。
「いらんな。極悪人など生きている価値がない」
クーデリカは先と同じ刃物のような目で兵士を見下して言った。
その冷徹な言葉に、兵士は愕然とする。
「残念だな。いらねってさ」
俺はそう言うと、板の上に昇ってきた。
怖気づいて一歩も動けない僕の首根っこを掴むと、そのまま空中に突き出す。
「ひっ……!? ば……バルク様ああああああ!! お願いお願いお願いお願いお願いお願しますうううううう!!! なんでもしますからわたくしをお助けええええええ!!!!」
永久に消えろ。
と言ってやりたいところだが、これはユリウスに取っておく。
俺はそう思い、兵士を崖とは反対方向に放り投げてやった。
兵士は二転三転してやっと止まる。
「ごっ……ごふっ……!」
「おい、ちったぁ反省したか?」
俺は手に付いた血を拭いながら訊いた。
兵士は改めてその場に土下座をする。
「は、はいっ! 全部私が悪かったです! 心から反省してます!!」
その言葉を聞いて、とりあえず満足した。
それ以上イジメるのは止める。
「許すのか? バルク」
すると、クーデリカが言った。
眉間に寄った縦の皺や、真一文字に開く唇を見る限り、俺よりもキレてそうだ。
「どうせウソだぞ。こいつ、心の底じゃ一切反省していない。私が代わりに殺そうか?」
尋ねてくる。
「そんな事はわかってる。だがこれ以上やっても意味ねえよ。諸悪の根源は別の奴だからな。俺がブチノメしたい奴は他にいる」
もちろんユリウスの野郎だ。
アイツをボコす。
そのために、まずは国を取り戻しに行く。
俺の城を奪いやがった連中をボコし、それからまだ生きてるらしいクソババアやユリウスやリアーナをまとめてブチノメしてやって、その後ここに戻ってきてクソドラゴンもぶっ飛ばそう。
クソドラゴンにはお礼を言わなきゃならねえからな。
俺の実力を見せてやることが、一番喜ぶはずだ。
「クーデリカ、盗人どもをぶっ飛ばしに行く」
俺はクーデリカにそう言うと、座ったままの兵士を置き去りに山を下りていった。




