便利な奴隷
「なに……!? どういう事だ……!」
俺が正義の話をし始めると、途端に女が食いつく。
「俺は元々はロートリアの王子だった。本当なら王位を継ぎ、国を栄えさせ領民たちを幸せにするはずだった。
だがそんな俺を疎ましいと考える連中が居たんだ。
俺に代わって王位を簒奪しようって企むクソ野郎どもさ。
中には俺の家族もいてな。
というか、俺の家族こそが中心メンバーだった。
大臣や領民たちや兵士たち皆がグルになって、俺をハメたんだ。
結果俺は祖国を追放されたのみならず、もう少しで殺されるところだった」
ウソも加えたが、大半は本当の事を言っている。
実際あいつらはクソだった。
ウソの部分は、俺もクソだってことだ。
間違っても俺は善い人間じゃない。
王子の頃には何一つ本音を語れねえ弱くて情けないガキだったし、今は復讐に夢中になってるってだけのガキだ。
ま、別に悪いとは思っちゃいねえがな。
俺は俺の気持ちよさのために、俺をイジメた連中をブチノメす。
「俺は今でも悔しい思いをしている。それは無力だった自分自身に対する怒りだ。その怒りから俺は自分を徹底的に鍛え上げた。そうして今の俺がある。
俺の目的は唯一つ。正義によって俺の故郷を解放する事だ」
俺が感情たっぷりにそう言うと、
「……そうか……お前にも正義があったのだな……!」
女が、安堵した表情で言った。
お前も私の同士なのだな、という顔だ。そこにはある種の憧れすらも感じられる。
というのも、こいつの中で俺の評価がバカ上がりしているからだ。
同じ志を持つ者にして、自分の遥か先を行く人間。
そういう風に俺の事を誤解させたからだ。
「……キサマの名は……?」
「バルクだ」
「バルク……! 如何にも英雄らしい名だ。もし良ければ、私をお前の従者にして欲しい」
「俺の旅は過酷だ。どんな連中が行く手を阻むとも知れねえ。それでもか?」
「もちろんだ! この【剣聖】クーデリカ、遥か空の下、どこまでもお前と共に歩み、共に死する事を誓おう!!」
クーデリカが最初に出会った時のような、キリッとした顔で言った。
よっしゃ便利な奴隷ゲット。
簡単だったぜ。
……。
しかし10億年も修行したおかげか、冷静に考える余裕ができたな。
クソドラゴンも言ってたが、俺はもともと地頭そんなに悪くなかったんだろう。
強くなって、イジメられる恐怖がなくなったから途端に頭が回り出したってところか。
こんな風に人心も掌握できるし、ムカツク奴らをブチノメした後の事も考えられる余裕もある。
せっかく強くても頭が悪いんじゃどうにもならねえからな。
更なる最強を目指すぜ!
「ところでこいつの処分だが。殺しても構わないか?」
「ひっ……!?」
俺がそんな風に1人満足していると、クーデリカがさっきまでの冷淡な口調に戻して言った。
剣先のように鋭い目で俺の背後に居るリーダー格の兵士を睨みつける。
「待て。そいつに聞きたいことがある。お前、ロートリアの兵士だな?」
俺は尋ねた。
ロートリアでは兵士の同士討ちを避けるため、剣の柄や盾に国家の紋章が掘られている。
さっき俺がこいつらの装備を見た時に既視感を覚えたんだが、それはこいつらの剣や盾にも同じ紋章が掘られていたからだ。
こいつが持ってるのが盗品でないなら、ロートリアの兵士ってことだ。
「へっへえ! そうでございます!!」
リーダー格の男が、手を揉みながら俺に言ってきた。
「やっぱな。なんでこんな辺境の村を略奪した? さっき止むにやまれぬ事情がどうこうって言ってたが」
「そ、それなんですが、実は……! ロートリアが滅ぼされたんです……!」
なに?
ロートリアが滅ぼされた?