第95話 進撃の邪神
あたし達は、フレール村の村役場に集まっています。ここを拠点として、ショゴスを討伐するのです。そして、役場の玄関の横には『ショゴス対策委員会本部』の札が。
こんなノリでいいのか?
「それでは、第一回ショゴス対策会議を始めます。ではまずプレシエル様から、現状の報告をして頂きます」
なんかミミエルが真面目ぶって司会進行してる。
「ハ~~イ。それじゃあ、私が見たままを発表します。例の魔法陣から強い魔力を感じたのでミミエルさんと一緒に見に行ったら、たくさんわいて出て来ました」
「ミミエルと行ったんだ」と、あたし。
「なによ、先見の明っていうものよ」
ミミエルが不服そうに言った。
「え~~~、それで大きいのと小さいショゴスが5匹でした。そのうちの小さいのが2匹こちらに向かってます。残りは魔法陣の上の海面をウロウロしてます。以上、報告おわり~~」
「「「「こっちに向かって来てるって~!?」」」」
一同大慌て。リリエルちゃんだけが「?」だった。
この会議には、フレール村を代表して、サクラさんも参加しています。邪神がここに向かってるって聞いて、一番動揺してるのはこの人だ。
「だ……大丈夫なんでしょうか使徒様?」
不安そうに尋ねるサクラさん。
「う……うむ、我らに任せれば大丈夫である。……たぶん……」
ラビエルは相変わらず歯切れが悪いなぁ。そんなんじゃみんな安心出来ないよ。
「大丈夫よ、あたし達が邪神どもをぶっ飛ばしてやるから! じゃあ取り敢えず、こっちに向かっている小さい方のショゴスを殲滅しましょうか?」
と言う訳で、討伐隊の出撃となりました。
「ちょっとナナミィ、私を差し置いて勝手に決めないでよ~」
などとミミエルに文句を言われたけど気にしない。
「即断出来なかったミミエルが悪いよ」
「ぶぅ~~~~」
ムート君が援護をしてくれました。そして、ぶう垂れるミミエル。
「子供かあんたは?」
いつものように、本音を口にするあたし。
「ぶぶぅ~~~!」
ミミったら、完全にむくれちゃったよ。
そんなわけで、みんなでポチャリーヌのボートに乗って来ました。フワエル様とプレシエル様はフレール村でお留守番です。
感じますね、禍々しい魔力を。
この前見たショゴスが迫って来た。
小さいと言っても、恐ろしい魔物には違いありません。しかも、スピードがこの前より速いです。この分じゃすぐにフレール村に到着しそう。
「まずいな、早く倒さないと、フレール村まで5分ぐらいで行ってしまうぞ」
「えっ! 大変! ラビエル早く変身して攻撃してぇ!!」
ポチャリーヌの言葉に、焦ってラビエルの顔を掴んで叫んでしまった。
「まてまて、我が輩じゃ無くても、ムートとポチャリーヌの力でも勝てるぞ」
「ポチャリ~~ヌ~~!」
「こら、耳を掴むな、言われんでもムートと一緒に……おや? 奴め進路を変えたな。これならフレール村を避けて行くぞ」
「え? やった~~」
「でもこの方向には、イズモ王国の王都があるんじゃないの?」
「「「え?」」」
ミミエルに指摘され、みんな固まってしまった。
イズモ王国の王都ムサシノ。その名前からも分かる通り、200年前の日本人が付けた名前なんでしょう。都市の規模はそれ程大きなものではなく、あちこちに公園や緑地がある、緑にあふれた街だそうです。人口は約2万人。城塞都市なので、高い塀に囲まれています。絵を見せてもらいましたが、丘の上に街が広がっており、一番高い場所にお城が建ってます。
そんな所に邪神が2匹も向かっているのです!
ちょっと奥さん、大変じゃありませんこと?
「まずは足止めしないとな」
ポチャリーヌはそう言うと、どんどん遠ざかるショゴスに手の平を向けた。
「アイス・フィールド。……氷結!」
途端にショゴスの周りの海面が凍り付きました。
すごい! さすが魔王だ、魔法の威力が半端ない!
ショゴスは2匹とも凍り付いてますが、まだ動いて凍った海面から脱出しようとしてる。
「フム……やはりこれぐらいの冷気では、まったくダメージは無いか……」
ポチャリーヌが感心したように呟いてます。
「そうだな、ショゴスはマイナス100℃でも平気だからな」と、ラビエル。
「じゃあ、高熱なら倒せますか?」
ムート君が心配そうに聞いてます。
「いや、それも無理だろう。一瞬でバラバラに吹っ飛ばさないと、倒せないぞ」
「よしっ! じゃあ、早く変身してラビエル」
あたしはラビエルの頭を、バシッと叩いた。
「いや、いま我が輩の力を使ってしまうと、大きい方のショゴスが討伐出来なくなるぞ。やはりここは、ポチャリーヌとムートに……」
ラビエルの言葉が、途中で途切れました。
そして上を見上げて固まっています。
「しまった! ショゴスに気を取られすぎた。こいつの接近に気付かなかったぞ!」
そうなのです、ショゴスの大きな魔力に隠れて、こんな奴が近付いて来たのが分かりませんでした。
それは、黒い色をしたワイバーンです。
そいつはあたし達の上をグルグル回りながら、ブレスを吐きかけて来ます。
ブレスをわざと弱く吐いているみたいで、ここまで届かないのですが、迂闊に動く訳には行かなくなりました。
しかも、ショゴスを倒さなければならないので、余計な攻撃をする魔力の余裕はありません。早くも手詰まりか?
「何なのだこいつは? 何のつもりで我らを攻撃するのだ」
とラビエルが、忌々しそうに言った。
「こいつはラスランド伯爵とかの従魔なのだろう。ショゴスの出現も、伯爵らの仕業なのだろうて」
「そ……そうだな、ポチャリーヌの言う通りだな」
でも、これじゃ埒が明かないよ。
「しょうがない、ワイバーンはあたしがヤルよ」
あたしが飛び上がろうとした時、ワイバーンはボートから離れて行った。
「フッ……、あたしに恐れをなしたな」
ワイバーンは動けないショゴスの上に行き、足に掴んでいた丸い物を落としました。それは凍った海面を転がって行くと、いきなり爆発した。
さらに、爆発でバラ巻かれた液体に火がついて、ショゴスの周りは火の海になったよ。これって、ナパーム弾か?
「あれ? ショゴスの方を攻撃してますぅ」
リリエルちゃんがきょとんとして言った。
「いや、まずいぞ、あれじゃ氷が溶けてしまうし、ショゴスに熱エネルギーを与えてパワーアップさせてしまうぞ」
ポチャリーヌが慌てて言った。
「え~~~!? まずいじゃん!」
「ぴきゃ~~~、ですぅ~~」
あたしとリリエルちゃんは大慌て。
リリエルちゃんはあたしにしがみついて、プルプルしてるよ。
「くそっ。ムートがバハムートになって、ワイバーンを追い払ってくれ。妾が炎を消してくれるわ!」
「わ……わかった!」
と言ってムート君が服を脱ぎ始めるけど、間に合いませんでした。
氷が割れて、ショゴス達が陸に向かって泳ぎ出しました。
ポチャリーヌがボートを操作して追い掛けようとすると、ワイバーンがブレスを吐いて、再び妨害して来ます。
「クソッ! 面倒な!」
今度はキッチリ狙って来たので、ポチャリーヌがボートをあやつって、右へ左へと避けて行きます。凄いテクニックだけど、たまにかするよ。
「私が行くですぅ!」
と言ってリリエルちゃんが、パッと消えた。
さっきまでびびってたのに、大丈夫なの?
そして次の瞬間、リリエルちゃんは泳ぎ去るショゴスの前に現れた。
「これ以上は行かせないのですぅ! くらいやがれですぅ!」
リリエルちゃんが、例のドングリ爆弾を連射します。
しかし、何て言う事でしょう、ドングリがショゴスの触手で弾かれています。
「ああっ。その手はズルイのですぅ」
このドングリ爆弾って、目標物に着弾しないと爆発しないのかな? 当たる前に弾かれると爆発しないんだ。思わぬ弱点がありました。
「こうなったら、松ぼっくり爆弾を使うですぅ。これなら弾かれても爆発するのですぅ!」
そしてリリエルちゃんが片手を上げると、巨大な松ぼっくりが出現した。
「投下~~~~!」
ところが松ぼっくり爆弾は、素早く伸ばされた触手に、パシッと叩き落とされてしまった。爆弾はリリエルちゃんの真下に落ちて、海中に消えてしまいました。
「もぉ~~~。なんて事するの~~~」
リリエルちゃんはプリプリ怒ってるけど、その隙にショゴス達がさっさと泳いで行きました。
海に爆弾を落とすと言えば、前世で見た戦争映画の爆雷を投下するシーンみたいだ。海にドボ~ンと投げ込まれた爆雷が、潜水艦のいる所まで沈んで行くと、ドカーンと爆発して海面にドバ~~ンと水柱が立つんだね。
あれ? さっきの爆弾が海底にぶつかったら、爆発するんじゃ……。そしてその真上に居るリリエルちゃんが、爆発に巻き込まれるかも?
「ヤバ~~~イ!」
あたしは全速力で、リリエルちゃんの元まで飛んで行きました。
必死になっているあたしを見て、彼女は戸惑っていたけど、かまわずに抱きかかえてその場を離れた。
急いでボートに戻って、ポチャリーヌに「バリヤーを張って!」と叫びました。
あたしはリリエルちゃんを抱えたまま、ボートに飛び乗った。
ポチャリーヌはさすが元魔王だ。あたしの意図を察してくれて、速攻でバリヤーを張ってくれた。
「ナナミィさん、どうしたのですか? まだ奴を倒してませんですぅ」
リリエルちゃんがそう言った直後、さっきまで彼女がいた海面が、いきなり盛り上がって弾けました。
ドバーンと大きな水柱が立って、ザーっと海水が雨のように降って来ました。あの松ぼっくりって、どんだけ威力があるんだよ。
「あ……危なかったです……ありがとうございますナナミィさん」
「間に合ってよかった~~……」
ほっとするあたし。
「まて、そう言えばショゴスはどこ行った?」
ポチャリーヌの言葉に、一同周りを見回して邪神の姿を探した。
あれ、見失った?
それにいつの間にか、ワイバーンもいなくっていました。
「奴らは陸の方に向かって行ったんじゃ……」
「よし。我が輩らも追うぞ!」
「「お~~~」」
リリエルちゃんとムート君が、やる気まんまんだ。
「急ぐぞ。早く倒して、でかい方を討伐しなければならんからな」
そう言うとポチャリーヌは、フルスピードでボートを走らせた。
はたして間に合うのか?