第93話 ショゴス騒動終結……か?
あたしがリップ達シードラゴンの女の子と仲良くおしゃべりしてた時に、ポチャリーヌとミミエルが調査から戻って来ました。
「おかえり~~。どうだった?」
と、あたし。
「ショゴスは見事にバラバラになっておったな。あの分なら復活して来る心配も無いだろうよ」
ポチャリーヌの報告に、みんなはほっとしました。もしかしたら生き返るかもしれないと心配してたからね。
「それにサンプルも回収して来たわよ。見る?」
ミミエルが恐ろしい事を言い出した。映画なんかじゃ、怪物の体の一部を持って帰ると、そこから復活するってよくあるパターンですよ。
「ちょっと、それ大丈夫なの?」
「大丈夫だ七美、ショゴスには破片から復活出来る能力は無いのだ。一度死んでしまえば、それっきりだ」
ラビエルが、不安がるみんなを安心させようと、教えてくれました。
……でも、あれ?
「そう言えば、何でアンタは邪神の事に詳しいの? ブレスレットの中にある魔獣図鑑にだって載ってないのに……」
あたしはふと疑問を口にした。
「何かあたしに、隠してる事があるのかな?」
「イヤイヤイヤ、我が輩は前世に邪神と戦った事があるから知っていただけであって、ナニか秘密があるワケではないぞ!」
などとラビエは否定したけど、あたしには分かるぞ、これは絶対何かを誤摩化していると。
「ふ~~ん……、まあいいか……」
納得した訳じゃないけど、これ以上は追求出来ないので、取り敢えず納得したフリをしておきます。
とは言え、あたしに隠し事は許さないよ。
「その話はもういいか? それで魔法陣の方も見に行って来たのだ。領主がどうやって調べるのか興味があったからな」
と、ポチャリーヌ。今度はミミエルと一緒に潜って来たのか。
「そしたらあいつが来たのよ。ホラ、面ダコのジャイロとかいうの。ラスランド伯爵の従魔なのかしらね? そいつが魔法陣の上にあった土砂やゴミを片付けて、魔道具で魔法陣を撮影してたわよ」
「ジャイロは、伯爵様の部下の従魔ですよ」
パンジーがあたし達に補足説明してくれました。
「なるほど、でもよくあんな真っ暗な所で、撮影なんて出来たよね?」
「それは妾のライトの魔法で照らしてやったのだ」
「ポチャリーヌらしからぬ親切なのですぅ」
「むろん、伯爵とやらに恩を売るためだ。それに手伝った事で、話がし易くなったろう?」
それはつまり、この前手伝ったアレはどうなりました~、とか言って色々聞き出せるワケですか。
うむ、お主なかなかの悪よのぉ。
「海上の船に居た奴が、ジャイロのテイマーなのだろう。そいつに見付からないようにしておいたぞ。使徒達に挨拶も無しで活動しているのは、何かたくらんでいるに違いないからな」
なんてポチャリーヌは言うけど、どういうコト?
ちなみに『テイマー』とは、魔物や魔獣を使役する人の事です。
「もしそうなら、尻尾を出した所を捕まえて、国王に突き出してやろうぞ。悪の芽は早めに摘むに限るからな」
「いや、あんたも十分にワルだよね?」
「何を言う、女神様に突き出せば死罪確定じゃぞ。国王なら少なくとも死罪にはならぬだろう。なあ? 妾は優しいであろう?」
ドヤ顔で話すポチャリーヌに、みんな力無く笑うしかなかった。
見た目はニコニコ笑う9歳の女の子なのに、言う事がいちいち恐い。
「で、これからどうするのだ?」
ラビエルがポチャリーヌに聞いた。
「そうですわねぇ……、取り敢えず私達が出来る事は、もうありませんわね。魔法陣をコピーしたって、簡単に邪神は呼び出せませんし、実際に召喚出来るのは、1年ぐらい先でしょうか? その時国王様に、コッソリと教えて差し上げればよろしいんじゃなくって?」
あ。ポチャリーヌが何気に、お嬢様口調に戻した。
「もう帰ってもいいと思いますわ」
「そんなアッサリ?」
「だって私達、学校があるでしょう?」
あたしのツッコミを軽くかわす、ポチャリーヌお嬢様。
「そうね、ここの領主とやらは、どうせ何も出来ないだろうし、この件はもうお終いね」
「そうですぅ。もう安心なのですぅ~~」
なんて呑気に言うミミエルとリリエルちゃん。
それであたし達は帰国と言う訳です。
でも、21世紀を生きていた日本人としては、その発言がフラグに思えて、不安でしかありませんよ……
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ここはラスランド伯爵の館の一室。
そこには防諜の魔法が掛けられており、外部から中の様子を伺うのは不可能になっていた。さらに二重の結界も張られていて、部屋に立ち入る事も出来なかった。
そこまでしても、外部に知られる訳にはいかなかったのだ。
「例の魔法陣の画像でございます」
ラスランド伯爵の前に、十枚ほどの紙が差し出された。そこには海底の魔法陣の、鮮明な画像が写し出されていた。
「フム、あんなに暗い海底なのに、ハッキリと写っておるな。これなら解析も可能だろう」
「はっ。ありがとうございます」
そう言うのは、ジャイロを使役しているテイマーであるが、彼もなぜそんなに明るい画像が撮影出来たのか分からなかったのだ。むろんそれは、ポチャリーヌのライトの魔法のおかげなのだが。
「どうだ、魔法陣の解析は出来そうか?」
ラスランド伯爵は、周りに居る者達に聞いた。
「そうですな……、魔法陣自体はそんなに複雑な物ではありませぬ。この辺りに魔力を流せば起動するのでしょう」
と言ってラスランド伯爵の部下の魔導士は、魔法陣の一部を指差した。
「ただ、かなりの魔力が必要なようです。サクラの報告を聞くと、魔法陣を描いた何者かは、クラーケンの魔力を使ったと思われます」
「つまり、Sランクの魔獣か魔物が必要だと?」
魔導士の横に立っていたハンターが尋ねた。
「魔法陣の起動に、人間の魔力ではまったく足りないのです。Sランクが無理なら、Aランクの魔獣を5匹ぐらい用意すれば大丈夫かと……」
「簡単に言ってくれる。我らの手勢だけで、Sランクなど無理だぞ。ましてやAランク5匹だって不可能だ」
「Aランクハンターなのに、情け無い事を言うなよ。警備隊も連れて行けばいいだろう?」
ラスランド伯爵の警備隊の隊長が、ハンターを咎めるように言った。
「何を言う、獣人やドラゴンを相手にするんじゃないんだぞ。それに警備隊まで動かしたら、ハンターギルドや警備隊本部に知られてしまうぞ」
「う……それは……」
ハンターの抗議に、隊長は言葉につまった。
「おおそうだ。あの魔法陣を描いた者は、クラーケンを操る術があったと思われまする。その者を探し出して、協力してもらえばよろしいですぞ」
魔導士の提案に、一同息を飲んだ。
「マジか? 邪神を呼び出した奴の目的も分かってないし、そんな奴と手を組むなんて危険だろ?」
「そもそも、どこの誰かも分からんのだぞ」
あまりに無茶な提案をする魔導士に文句を言う、ラスランド伯爵の部下達。
「強力な魔物が捕獲出来ぬなら、怪しい者とも手を組むのも止む無しであろう? それに、まだ近くに居る可能性は高い」
それを聞いて伯爵の部下達は、喧々諤々と議論をし出した。
が、いつまで経っても結論は出ず。
「えぇっい! 誰かいいアイデアはないのかっ!」
イライラしたラスランド伯爵が、部下達を一喝した。
『まあまあ、そんなにイライラしなさんなって』
どこからか、呑気な声がした。
「今のは誰だ?」
「え? 私ではありませぬが……」
「いや、オレでもないぜ」
その場の者は室内を見回した。しかし、声の主は見つけられなかった。
『いや~~、あんたらは運が良い。ワシに手伝ってもらえるんだからな』
「誰だ!」
今度は、皆の居るすぐ横から声がした。
ここの部屋はラスランド伯爵の屋敷の地下室で、いざという時に立て篭れるように、かなりの広さがある部屋である。その部屋の真ん中に大きなテーブルが置いてあり、伯爵達はその上に置かれた画像を見ながら作戦会議をしていた。
そのテーブルの上に、大きな目が一つと口が現れたのだ。
「うわ~~~!! なんだこれは~~!!」
「ま……魔物か!?」
「どこから入り込んだんだ?」
一同パニックに陥ってしまった。ハンター達は武器を構えて戦闘態勢を取り、部下の一人がラスランド伯爵を逃がそうと、出口に連れて行った。
「ちょっと待ちいな。あんたらの味方をしてやろうと言ってるがね。……ああそうか、全身が見えないからビックリしたんか?」
そう言うと魔物の全身が現れた。
それは目玉の後ろの長細い体に、6本の細い足が付いた異様な姿だった。
「ワシはその魔法陣を描かせた、イチモクレンと言う者だがね。あんな所に魔物を連れて行く必要は無いでよ。海底の魔法陣はまだ生きとるで、少しの魔力でも呼び出せるがね」
「本当か?」
ラスランド伯爵は、自分を逃がそうとする部下を押さえて立ち止まった。
「イチモクレンとやら、我々に協力して、お前になんの利益がある?」
伯爵の部下が問いただした。
「ショゴスの奴を呼び出したんだが、使徒に倒されてしまったんで、再チャレンジだがね。それに……」
「……それに?」
「国王を倒して取って代わろうなんて、そんなたくらみに乗っかったらオモロイ!」
「「「「えぇ……?」」」」
一同、呆れてそれしか言えなかった。
結局イチモクレンは、ラスランド伯爵の協力者となった。