第91話 邪神討伐
本来の姿に戻ったラビエルの指先から、ビームのような魔力が発射された。
あ、ヤバい。射線上にはリリエルちゃんがいるよ!
あぶな~~い! と思ったけど、彼女はクルリとバク転をして、よけちゃった。
ポチャリーヌとリリエルちゃんが離れた直後、ビームがショゴスを直撃!!
その攻撃は、結界に捕らわれたショゴスの体を引き裂いて行きました。さっきのポチャリーヌの攻撃では、傷一つ付かなかったのに、今の攻撃は彼女のパワーを遥かに上回ったって事だね。
ビームはそのまま直進して行き、400mほどの海面を激しく蒸発させた。
おかげで水蒸気でショゴスの姿が見えなくなりました。
「さすがラビエルさんですぅ。倒しちゃったですかぁ?」
そう言ってリリエルちゃんが、確認のためなのか、ショゴスのいた辺りに近付きました。
「よく見えないですね~~」
なんて呑気に言ってるけど、ショゴスの魔力はまだ感じるので、危ないんじゃないかな?
「凄いね、今の攻撃。魔力レベルが4000もあったよ」
ルカエルさんがブレスレットで測定しながら言いました。
「それってスーパーなんとかって奴か? いつもその姿で戦いなさいよ!」
「いやいや、この姿でいられる時間は、限られているのだ」
あたしが文句を言ったら、ラビエルが慌てていた。あんなに格好良くなっても、こう言う所は、いつものラビエルだ。
水蒸気がだんだん薄くなって、ショゴスの姿が見えるようになって来た。
リリエルちゃんとポチャリーヌが、少しづつ近付いていきました。
その時一瞬、ショゴスの魔力に変化があった。
「リリエルちゃん、下がって~~~!」
あたしは凄くいやな感じがしたので、リリエルちゃんに叫んでいました。
次の瞬間、ショゴスから触手が伸びて来て、リリエルちゃんの足に絡み付きました!
「きゃ~~~! なんですかぁ? 離すのですぅ~~~!」
リリエルちゃんはジタバタと暴れて、触手を振りほどこうとしました。
でも触手は、ガッチリと掴んで離しません。
「ラビエル~~~! リリエルちゃんを助けて~~~~!!」
「クソッ。やはりまだ死んでいなかったか……!」
再びビームを発射して、ショゴスの触手を切断しました。
ラビエルは急いで飛んで行き、リリエルちゃんから触手を外し、それを海に投げ捨てた。ショゴス本体はゆっくりと離れて行きました。
あたしはたまらず、リリエルちゃんの元に飛んで行きました。
「リリエルちゃん大丈夫?」
ラビエルに抱かれているリリエルちゃんは、ぐったりしています。
「ねえラビエル、大丈夫なのこれ?」
「どうやらショゴスに、魔力を奪われたみたいだな。大丈夫だ七美、リリエルの魔力の総量から見れば、この程度では何とも無いぞ」
「でも心配なの。この子はあたしが連れてく」
あたしはリリエルちゃんをラビエルから受け取り、すぐにボートに戻りました。
あたし達は、ショゴスが大きなダメージを受けたものだと思って、油断をしていたのかもしれません。
当のショゴスは、奪った魔力でダメージを回復したのか、傷が治っていました。
「どうするラビエル?」
「こいつはここで倒す! ポチャリーヌは他の者を、バリヤーで守ってくれ!」
「わかった」
そう言ってポチャリーヌはボートに戻って来て、ボートごとバリヤーで包み込みました。
「これで遠慮なく、ブチかませられるのだ」
ラビエルは両腕を差し出し、手の平を開いた。これは、カメ○メ波的な奴か?
手の先に凄い魔力が集中している。
「信じられないな、魔力が10000近くまで上がっているぞ」
「「え~~~~?」」
あたしとムート君はびっくりした。それって、アヤカシ様と同じレベルだよ。
「ビックリしてる場合じゃない。ただちにここを離れるぞ!」
ポチャリーヌがボートに魔力を流して操作すると、ドカーンと走り出した。
速い速い!
波の上で船体が跳ねるので、振り落とされないように、しがみつくので精一杯だ。
「……ちょっ……ボートより転移魔法の方が速いんじゃないの~?」
あたしは堪らず、ポチャリーヌに聞いた。
「それはダメなんだよ。ラビエルとショゴスの強力な魔力のおかげで、空間の位相にずれが出来ているんだ。この場所で転移を使うと、異次元に飛ばされかねない」
ルカエルさんが説明してくれました。
なにそれ、恐い。確かに、走って逃げるしかありませんね。
「喰らえショゴス!」
そう言うとラビエルは、強大な魔力の玉を発射した。
ショゴスは泳いで攻撃から逃れようとしてたけど、あまり離れない内に、魔力弾が直撃しました。
一瞬のホワイトアウト。
急激に膨れ上がる球状の炎が、空気や海水を押しのけて行きます。
そして音速で到達する衝撃波。
バリヤーのおかげで爆音は聞こえないものの、魔力によるプレッシャーは感じます。お腹にズシンと響いたよ。
膨大な魔力の爆発によりキノコ雲が出来て、『かさ』の部分があたし達のボートを飲み込むまで広がって来た。その後急速に空に上がって行った。
これは前世で見た、核爆発の時のようだ。
海面はもの凄く荒れているので、ミミエルの力で空を飛んで、爆心地より脱出しています。
なんて、冷静に解説しているあたしですが、恐ろしくて心臓バクバクです!
もし放射線が発生してたら、あたしやポチャリーヌは死んでしまいます。使徒や女神の息子なら大丈夫でしょうけど。いや、元魔王なら放射線を防ぐ方法があるのかもしれないね。でもあたしは、前世も今もただの庶民なんですよ。
ああ、ドラゴンなら大丈夫かな?
後から聞いた話では、放射線の発生は無かったそうです。よかった。
かなりの速さで飛んで来たので、もう10kmぐらい離れられたでしょうか?
「これだけ離れればいいだろう、もう魔力が持たないので、バリヤーを解くぞ」
バリヤーの維持は、ポチャリーヌをしても大変だったらしい。
バリヤーが無くなったとたん、周りの音が聞こえて来ました。
ズズズズ……
爆音の残りが低く響いていた。
爆心地から暖かい風が吹いて来てるからか、温度が上がってるようだ。
空を見上げてみると、巨大なキノコ雲が天高く伸びていた。
その雲の中に稲妻が走っているのが見えます。
恐ろしくて、ゾクっとする光景です。
「やっつけたかな? どうナナミィ?」
ミミエルがあたしに聞いて来た。
「もう奴の気配を感じない。バラバラになったんじゃないの?」
「あの辺りにいた魔獣や魔物達はどうなりました?」
あたしの言葉を聞いて、リリエルちゃんが心配そうに聞きました。
「大丈夫よ、ラビエルが変身した時に、巨大な魔力にビビッたのか、あの辺りにいた魔獣や魔物達はみんな逃げていたみたいよ」
「それはよかったですぅ……」
そう言うとリリエルちゃんは、力無く微笑んでいました。
「凄いねぇ~~、こんな攻撃は初めて見たよ」
「そうですね、いつもはアホっぽいラビエル君なのにね~~~」
ルカエルさんとプレシエル様が、しみじみと言ってるよ。
「そう言えばラビエルの奴、戻って来ないね……」
それから15分ぐらいして、ラビエルが戻って来ました。
「ただいまなのだ。どうだ、やっつけてやったぞ……」
すでにいつもの姿に戻っていたラビエルは、すっかりやつれていました。やはり魔力の使い過ぎなのでしょう。フラフラしてるよ。
あたしは抱いているリリエルちゃんをポチャリーヌに預けて、今にも倒れそうなラビエルを空中で受け止めました。
ラビエルはあたしに抱かれると、安心したのか気を失ってしまいました。
「……ごくろうさま」
あたしはラビエルの頭を撫でてあげました。
むろん、優しくね。
「じゃあフレール村に帰るわよ」
少しの間、あたしとラビエルを見ていたミミエルが言いました。そしてボートは村に向けて飛んで行きます。
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「あっちゃ~~……バラバラになってまったがね。こりゃ参ったね」
海面に浮かんでいるショゴスの残骸を見ながら、イチモクレンは嘆いた。
「クラーケンを使って召喚したのに、なんともアッサリ倒されよったな~。それにしても『ヤツ』の力は昔ほどじゃないが、今のワシよりも強いのかね、参った参った」
そう言いつつ、彼はニヤニヤと笑うのだった。
イチモクレンは、そこから海底に描かれた魔法陣の真上に移動した。
彼は大きな眼を凝らして、魔法陣を調べた。イチモクレンの大きな眼には、遠くに離れた物を見る事が出来る能力があるのだ。
しばらく海面を睨んでいた彼は、大きく息を吐き出した。
「魔法陣は無事だけど、土砂で埋まっとって使い物にならせんね……。ショゴスをぶつければ、ドラ嬢ちゃんの力が覚醒されるかと思ったのになぁ。まあ、『ヤツ』の限界を知れたんは、収穫だったかな。ワシはもう戦いたくないが……」
などと呟きながら、イチモクレンの体は空気に融け込むように消えて行った。
20分ぐらいして、海面に面ダコのジャイロが現れた。
「なんだったんだ、今の奴は?」
周りを見回していたジャイロは、遠くに不思議なモノを見付けた。それは海の上から、縦に伸びた雲だった。
「魔法陣から出て来た魔物の気配は、あそこら辺で消えたが、あの雲はその時の攻撃の跡であるか? 世の中には我の知らない恐ろしい事があるのだな」
そう言うとジャイロは、再び海に潜って行ったのだった。
先程の魔法陣は、どうなったであろうか?
イチモクレンが放置した魔法陣は、死んではいなかった。今は土砂で埋もれて、発動出来ない状態にあるだけなのだ。
今もって異次元との通路は、開いたままなのだ。
その事にナナミィ達が気付くのは、まだ先のはなし……