第9話 ナナミィ、鉱山に行く
あれから毎日、ディアナ様の空中神殿で魔法の特訓をしてます。
ドラゴンは魔力を無意識的に使ってるので、魔力の制御を意識的に出来るように、体内の魔力コントロールの訓練をしてます。
むろん人間の姿で。
かなり広い部屋の真ん中で、直立し両手を合掌して、手の平に魔力を集めます。
さすがに裸では出来ないので、いちばん布の面積が多い、ピンクのワンピを着てます。ドラゴン用なので、人間の姿で着ると、超ミニスカートになってしまい、歩くたびに見えそうになってます。
見られても別に構わないのですが、ラビエルの笑顔が、スケベっぽく見えて、すごく気になる。
なんて考えてたら、もう一人の使徒、ペギエル様がやって来ました。
ぺったぺったと歩く姿は、ペンギンそのものです。
あたしの前まで来て、スカートや胸元をじっと見て……
「ふむ。これはまずいわね」
と言って、くるりと向きを変え、少し歩いてぱっと消えました。
なんなの?
さらに20分ぐらい、魔力をアレコレしてると、目の前にペギエル様がぱっと現れた。そして、翼にはめたブレスレットから何か取り出した。
後で聞いた話では、使徒のブレスレットは異空間に繋がっていて、そこに物を出し入れする道具だそうです。
「ナナミィさん、下着を買って来てあげたので使いなさい」
と言って、大量のブラジャーやショーツを、あたしの目の前に置いた。
「あ……ありがとうございます。これってこの世界の物なんですか?」
「私の馴染みの店で買ったのよ」
ペンギンが常連って、どんな店だ……
ペギエル様っておばさんっぽいし、センスが古くてダサイかも?
……なんて思ったけど……
あれ? ちょっとコレ可愛いくない?
ペギエル様、センスやばいです。レースやフリルが素敵です。
さっそく着てみた。
なんてコト。あたしに超似合ってる!
しかも、サイズぴったり!
あたしがブラを試してる横で、ラビエルががっかりしてる。
「あ~~……我が輩が準備したかったのに……」
いや、あんたは服を用意してよ。
とまあ、こんな具合に魔法の修行をしてます。
何とか、水魔法が使えるようになりました。空気中から、水を取り出す魔法です。
・・・
今日は学校が休みの日で、先日ミミィと約束した鉱山に来てます。
ここはパパが主任を勤める、グレンジャー鉱山です。街からは10kmほど離れた、山岳地帯にあります。大昔に火山があった場所で、溶岩が通った所から、鉱石を掘り出してるそうです。
あたし達のお目当ては、その鉱山の中に出来る水晶です。坑道の壁に白っぽい筋が通っていて、そこに水晶がびっしり詰まってるんです。
高価な宝石という訳じゃないので、自由に採集させてもらってます。
今回は鉱山での採集活動なので、服が泥で汚れないように、今日は二人とも服を着ないで来ました。採った水晶を入れるためのウエストバッグだけです。でもこっそりと、人間の姿になった時に使う、下着を入れてます。
鉱山までは遠いので、あたしがミミィを抱えて、ここまで飛んで来ました。空を飛んで、はしゃぐミミィを、落ち着かせるのが大変だったけど……
鉱山に着いたら、まず事務所でご挨拶します。鉱山の主任の娘といえど、勝手に入る訳にはいかないし、パパやドイル兄ちゃんとも話をしたいしね。
ドイル兄ちゃんとは、お隣のミミィのお兄さんで、幼なじみなのです。妹のミミィとは、とても仲良しで、あたしも大好きなお兄さんです。
「来たよ~~」
事務所の扉を開けて、声を掛けました。
事務所と言っても、作業員が寝泊まりするのための木造の建物です。パパやドイル兄ちゃんも、ずっとここで仕事をしてるので、会うのは2週間ぶりになります。
今は昼休みの時間なので、作業員の皆は昼食をとっていました。
「いらっしゃい、ナナミィちゃん。おや? そちらはドイルの妹さんかな?」
パパの部下の一人の、ケイルさんが、あたしに声を掛けてくれました。
「こんにちは~~。あ! お兄ちゃんだ~~!」
ドイル兄ちゃんを見付けたミミィが、勢いよく飛び付いて行った。
「ブフォ……。ちょ……ちょっと落ち着けよミミィ……」
ドイル兄ちゃんは咳き込みながら、ミミィの頭をなでた。
あたしもパパを思い切りハグしたいけど、さすがに思いとどまりましたよ。
トリエステのドラゴンは小さいといえど、大人のパパは体長4mはあります。パパは、作業員さん達が座ってるテーブルの奥の、休憩スペースで昼食をとってます。
「何だナナミィ、今日はミミィちゃんも一緒か?」
「うん。例の水晶を一緒に採ろうと思ってね」
「じゃあ、コブラナイ達に、案内を頼むといい」
コブラナイとは、ゴブリンの一種で、鉱山の採掘を手伝ってくれます。ゴブリンなら緑色の小鬼だと思ってたけど、実際に見たらびっくりしたよ。色は緑色なんだけど、一つ目でのっぺりとして、触手みたいな手足が付いて、地上を歩くタコのような姿をしてます。10人ぐらい居て、それぞれが胸に番号札を付けてました。
壱号や弐号と書かれていて、みんなその番号で呼んでます。
実はコブラナイには名前が無いのです。コブラナイ達は、お互いの事が分かるのですが、人間達が呼び名に困るので番号を付けたそうです。
番号なのは、本人達が望んだから。
なんでも、カッコイイからだって。
変わった趣味だね。
奇妙な姿のコブラナイ達ですが、あたしはすぐに仲良くなりました。例の水晶の採れる場所や、キラキラ輝く石や、マニアック過ぎて訳の分からない石の事まで教えてくれました。
昼休みも終わって、作業員さん達は坑道の中に、パパは掘った鉱石を仕分ける選鉱所と言う施設に行きました。
あたしとドイル兄ちゃんは、ミミィを真ん中に手をつないで、坑道に入って行きます。初めて来たミミィは、辺りをキョロキョロ見てる。
坑道の中には、レールが敷いてあり、トロッコで鉱石を運んでます。この世界にはモーターとかエンジンが無いので、人力で動かしてます。……大変そう。
少し歩いたら、コブラナイ達が待っていました。頭が大きいのや小さいの、三本足や四本足の者がいて、個性的です。背の高さは、だいたいミミィと同じぐらい。
「ナナミィ ひさしぶり」
「きょうも すいしょう とるか?」
「そっちは ドイルの いもうとだな」
「いもうと はじめまして」
コブラナイ達はいっぺんに話しだした。
「そうよ、ミミィっていうの。仲良くしてあげてね」
あたしは、全員に握手をして回りました。さて、ミミィは彼らを受け入れてくれるんだろうか?
「いや~~ん、かわいい~。初めまして、ミミィよ!」
あっさり受け入れた。やはり7歳児、物怖じしないのはさすがだ。
しかも、かわいいって……
あたしは、初めて見た時、びびったのにね。
「ミミィも いく?」
「うん!」
「こっちこっち」
ミミィはコブラナイと手をつないで、坑道を歩いて行っちゃいました。
「じゃあ、行って来るね、ドイル兄ちゃん」
あたしは急いでミミィ達を追いかけて行った。
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グレンジャー鉱山の地下のさらにその下、火山の名残の溶岩が通ったトンネルを、彼は憤慨しながら移動していた。彼には大した知能は無いのだが、自分が住み慣れた巣穴から追い出された事は理解出来た。
そう、快適な温度に保たれた我が家だ。
かつての火山の地下には、溶岩が溜まっている場所があり、噴火が収まって500年経った現在でも、高温を保っている。
そんな、いかなる生物も生存出来ない場所で、彼は穏やかに暮らしていたのだ。
それが突然、何者かによって壊されたのだ。彼にエネルギーを与えてくれる溶岩は、急激に冷えてどんどん固まってしまい、慌てて脱出せざるを得なかったのだ。
彼の知能でも、これが異常事態なのは分かっていた。
そんな彼の頭に、声が響いて来た。
「 そうだ、そのまま地上まで行ってしまえ 」
彼には、声の言っている意味は分からないが、実に不愉快である。
トンネルの中には、見た事も無い邪魔な物がいっぱいあった。
所々に四角い箱が置いてあって、踏んで行くのが煩わしかった。
そして彼は、大きな問題を抱えていた。
空腹なのだ。
通常は、溶岩の熱からエネルギーを得ていたのだが、溶岩が固まってしまった現在は、エネルギー補給が出来ない状況なのだ。
しかし、物を食べる事で、熱の代わりになる事を知っていた彼は、食べ物を探そうと思った。
途中に見掛けた、2匹の小さな生き物を食べたら、凄く美味しかったのだが、彼の腹を満たすには少な過ぎた。
12mもの長さがある彼の体には、まったく足りなかったのだ。
人間達は彼を「ファイアーワーム」と呼ぶが、彼にとってはどうでもいい事なのだ。