第89話 邪神召喚
邪神ショゴス。
深い海に住む魔物だそうです。その力はEXランクに相当するそうな。
あたしは自分のブレスレットで、魔物の情報を検索してみました。
【ショゴス】
該当無し
もしかして:ショーゴ
誰だよショーゴって? ……え? 魔物の名前?
横で見ていたリリエルちゃんが教えてくれました。
省吾や将吾じゃなかったのね。
「ヤバイんじゃないの!?」
「そうだぞ、妾も魔王時代に聞いた事があるが、1体現れたら国が滅ぶと言われていたぞ」
「え~~~?? どどどど、どうしよう~~~」
国が滅ぶと聞いて、あたしはすごく慌てた。
「落ち着きなさいナナミィ。そんな事にならない為に、私達使徒がいるのでしょ?」
と言ってミミエルが、あたしの尻尾を踏んづけた。
「そうかもだけど、ミミエルが言っても安心出来ないよ……」
「大丈夫なのですぅ。私がナナミィさんを守るのですぅ!」
「リリエルちゃんなら安心出来るね」
「ひどいぞ、あんた!」
ミミエルが憤慨してるけど、冗談でも言わなきゃ、不安で死んじゃいそうです。
「まあまあ、ショゴスは邪神と言っても弱い方だから、世界が滅ぶ程じゃないぞ」
なんて、ラビエルが気の抜けた事を言ってるよ!
「あんたさっき、世界が滅ぶかもって言ったじゃないの!?」
あたしはラビエルの顔をグワシと掴んだ。
「まてまて、我が輩の話をよく聞くのだ、いてててて……」
「改めて説明するのだ。ショゴスとは下等な邪神で、ほとんど魔物と変わらないのだ。問題なのは、ショゴスは使役する事が可能な邪神だという事だ。クラーケンを使って召喚した何者かが、ショゴスを使って悪事を企てたなら、世界の危機となるぞ」
「え~~と……、つまりショゴスは、そんなに強くないと言う事?」
あたしはそう思った。
「いや、下等だと言っても、その魔力はアヤカシ様を超えるぞ」
「え~~? やっぱりヤバイじゃん」
「それは大丈夫だろう。ショゴスは頭が悪いので、ポチャリーヌでも倒す事が出来るだろう」
それを聞いてあたしはポチャリーヌを見た。
「本当に?」
「む? 妾は超強い魔王なのだぞ」
ポチャリーヌはむっとして、膨れっ面になっていた。
「それで? どうやって召喚を阻止するの?」
ミミエルがラビエルに尋ねた。
「う~~む……。ポチャリーヌにもう一度潜ってもらうか……」
「無理言うな。潜るだけで精一杯だわ。攻撃までしようとすれば、ナナミィだけじゃなくて、バハムートまで連れていかなくちゃならないぞ。それに潜水球の大きさは変えられないから、バハムートじゃ入らないぞ」
「ならば、人間の姿のムートなら……」
「それも無理じゃ」
確かに、二人で目一杯でしたもんね。
そう言えば、あたしが一緒に行ったのって、ポチャリーヌが魔力切れになった時の予備燃料だったそうな。いや、電池かな?
「海面から攻撃出来ればいいのだがな……」
と言うラビエルの言葉に、あたしは漠然と思い出した事があった。
「……海中を攻撃すると言えば、爆雷かなぁ?」
「それは何なのだ七美?」
あたしがポツリと言った言葉に、ラビエルが食い付きました。
「海の中にいる敵を攻撃する爆弾よ」
と言う説明に、今度はポチャリーヌが食い付いた。
「お主の居た世界の爆弾は、火薬を使うのだったな。トリエステでは火薬が無いので、魔法を使えばよかろう。妾の手に掛かれば雑作も無いわ!」
「さすがポチャリーヌですぅ」
「フフフ、そう褒めるなよ。……って、ここには材料が無かったぁ!」
「ポチャリーヌったら、馬の足ですぅ」
リリエルちゃん、もしかして『馬脚を現す』って言いたいのかな?
「我が輩がもう少しましな案を考えたぞ。ジャイロがクラーケンの気を引いている内に、ポチャリーヌが魔法陣を消すのだ」
「消すのだ、って言っても、あの魔法陣は直径20mぐらいあったぞ。近付きすぎるとクラーケンに反撃されるだろうし、そんなのは不可能だ」
「ああ、そうか……」
ラビエルはガッカリ。
と言う訳で、クラーケンを攻撃するアイデアを募集中です。
「ミミエルは何かアイデアは無いのか?」
「そうねぇ……、さっきの先輩の案はよかったと思うの。爆弾は無理でも、石なんかを大量に投下したらどうかな?」
「おお! それだ!」
なんと、ミミエルからナイスなアイデアが出ましたよ!
「ナイスアイデアだけど、海に大量の土砂を投入するのは大丈夫なんですか?」
あたしはルカエルさんに聞いてみた。さすがにこれは、環境破壊になるかも。
「普段なら反対するけど、今回は世界の安全に係わる問題だしね、許可するしかないと思うよ」
ルカエルさんが苦笑しながら言いました。
「背中とお腹は変わらないのですぅ」
リリエルちゃん、もしかして『背に腹は代えられない』って言いたいのかな?
「ではまず、我が輩とミミエルとで岩を沢山集めて来るのだ。行くぞミミエル」
「は~~い」
二人は陸地に向けて転移して行きました。
そして待つ事20分、二人が帰って来ました。
「よ~~し、ぶち込むぞ~~! ……で、どのあたりかな?」
一同ずっこけ。
『では我が潜って行って、場所を知らせますぞ』
ジャイロさんのいる位置を魔法で探知し、そこをめがけて岩を投下するそうな。
しばらくして、頭の中にジャイロさんの声がしました。
『海底に付きました。ここより東に50mの場所にクラーケンがいますぞ』
「よ~~し、こっちなのだ!」
ラビエルとミミエルは、スイ~~っと飛んで行き、指示のあった場所の上に来た。そしてお互い離れて行って、30m程のスペースを作った。
「3、2、1、投下! なのだ!」
ラビエルがそう言うと、二人の間の空間から、大量の岩が雪崩落ちて来ました。これは二人の持つ、魔法の収納空間に入れて来た物だ。ブレスレットからじゃなく、空中からも出し入れ出来るんだね。
ドボドボドボドボ。
ドパ~~ン、ドッパ~~~ン。
ドザザザザザ……!
あまりの量の多さに、激しい波が立ってます。
岩は2~3m程の大きさの物ばかりですが、たまに5mぐらいの物も混じっています。まるで埋め立て工事のような光景です。
世界を守るためとは言え、かなりの罪悪感を感じるよ。
さて、海底ではどうなっているでしょうか?
現場のジャイロさ~~ん?
『ハイ、こちらジャイロ。魔法陣はクラーケンごと埋まっておるぞ』
「やった! これで召喚阻止成功なのだ!」
「すごいですぅ~~。さすがラビエルさんですぅ~~~!」
「やったねラビエル様!」
リリエルちゃんとムート君も喜んでるよ。今回はラビエルとミミエルが大活躍だ。
「でも、罪の無いクラーケンが埋まって、ジャイロさんの縄張りが、台無しになっちゃいましたけどね」
みんなが喜んでいる所に、水を差すプレシエル様。
「うう……、だってしょうがないのだ。ショゴスなんて呼び出されたら、大変な事になってしまうのだ~~~!」
ラビエルが涙目で言い返しちゃってる。
「ああ、別に責めてる訳じゃないですよ。それよりクラーケンはどうします?」
「あの……、私の歌で正気に戻せるかもです……」
遠慮がちにリップが言いました。そう言えば、リップの歌でクラーケンを呼び寄せた事がありましたね。
「なるほど~、リップが歌でクラーケンを正気に戻せれば、魔法陣が完成しなくて一件落着だね」
ここまで言って、あたしは気付いてしまった。
「あれ? じゃあ……最初からリップに歌ってもらえば、岩で魔法陣を埋める必要は無かったんじゃ……」
そうなのだ、操られているクラーケンさえ正気に戻せばよかったのだ。
「え? 我が輩らがやった事って無駄なの?」
ラビエルが呆然として言った。
みんなも、何て言っていいのか、シーンとなってしまいました。
「も~~先輩ったら……ムグゥ……」
あたしは先手を打って、ミミエルの口を塞いだよ。絶対にこの子、余計な一言を言うからね。
「なんかすみません……、私が早く気付いてたら……」
リップが申し訳無さそうに言いました。
「お主らは忘れているようだが、潜水球にリップは入らないぞ」
「……あ。あぁ~……」
そうでした、リップのサイズでは無理なのでした。それに、少なくとも100mぐらいの距離に近付かないと、歌の魔力が届かないそうです。
『話している所に悪いが、クラーケンの奴が、岩をどかして動き出したぞ』
ジャイロさんが知らせてきてくれました。
「なんだって~~?」
『魔法陣の空白だった場所に、何か文字を書いているな。あ、魔法陣がぼんやりと光り出したぞ』
「それって、魔法陣が起動したのか? 魔法陣の文字はどうなっておる?」
ポチャリーヌが額に指を当てて、ジャイロさんに問い掛けてた。
『ダメだ、土砂が舞い上がって見えなくなった』
「クソっっ! もうこうなったら、ラビエルが本来の姿に戻って止めて来るしかなかろう!」
ポチャリーヌがラビエルに叫んでるけど、本当にラビエルで大丈夫なの?
「今の我が輩では本来の姿に戻っても、昔の力の十分の一ぐらいしか出せないので、1000mもの深海は無理なのだ」
「それもそうか……」
『魔法陣から何か出て来たようだ。あれは……触手か?』
ジャイロさんが実況してくれます。
「まずい! ジャイロよ、早く逃げるのだ! 我々もここを離脱するぞ!」
「分かった!」
ポチャリーヌはそう言うと、ボートを全速力で走らせた。
ルカエルさんとプレシエル様は……、ボートより速かった。
海底1000mと言うけど、禍々しい魔力が増大しているのが、ここからでも分かります。どす黒い魔力とでも言えばイメージ出来るでしょうか?
その魔力が、クラーケンを飲み込んで行きます。
本当にこれで、世界が終わっちゃうの?