第81話 新しいお友達
「人を助ける時は、もう少し考えた方がいいぞ、ナナミィ……」
ポチャリーヌが、服に付いた土を払いながら言った。そう言えば、あたしはよく突き飛ばしたりしてるな。
「そんな事より、奴らまんまと廃屋に逃げ込んでくれたな」
あそこにはリリエルちゃんが、罠を仕掛けているはず……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
謎の少女を捕まえようとしたら、ドラゴンに攻撃されて、逃げ出したハッサンとノルドは、近くにあった廃屋に隠れた。
「くそ! この魔道具は、魔法を妨害出来るんじゃなかったのか?」
「あのドラゴンはスキルとか言ってたな……」
「役に立たないなぁ……。しょうがない、隠密の魔法で姿を隠して脱出するぞ」
ハッサンはアンチ・マジックフィールド・ジェネレーターの作動を止めた。そして、体に巻いたベルトに付けられた魔道具を触った。
……ガタン
「なんだ? 何か居るのか?」
ノルドはビクッとして、廃屋の中を見回した。薄暗い室内には、壊れた家具や食器が散乱しており、床には苔が広がり緑の絨毯になっていた。
「落ち着け、ネズミか何かだろう」
「へ~~~。これが魔道具なんですかぁ?」
突然下から声を掛けられた。
二人が視線を下げると、そこにはリスが居た。
「ネズミじゃなくて、リスが居たぞ……」
「私をネズミなんかと間違うなんて、失礼ですぅ」
リリエルはぷうっと頬を膨らませた。
「うわっ! 何でリスがしゃべってる?」
リリエルはふわりと飛んで距離を取った。
「さあ、こっちに注目なのです」
ドワーフ達は思わずそちらを見た。リリエルの背後の暗闇に、光る物があった。
「あ……」
彼らはそれ以上声を出す事は出来なかった。
「は~~い、ドワーフ達は石になりましたぁ。私のコカトリスは優秀なのです」
リリエルの後ろから、一匹のコカトリスが出て来た。闇に光る物はコカトリスの目だったのだ。ドワーフ達は、その目をまともに見てしまったのだ。
コカトリスはリリエルに頭を撫でられて、嬉しそうに「キキィ」と鳴いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「さ~~て、此奴らどうしてやろうか?」
ポチャリーヌが仁王立ちで、悪い顔して笑ってる。
あたしは、ヒゲのドワーフのバックパックの中にあった、ラリティアのツノを回収します。ドワーフ自体は石になってますが、服や持ち物は石にはならないのです。
「あ、あった、これだ」
それは、根元で切られたユニコーンのツノです。意外と重い物でした。
ツノを見たラリティアが、また泣き出してしまいました。
「ユニコーンのツノは、裏では金貨300枚ぐらいの価値があるそうですね」
サリエルちゃんがブレスレットで、魔物や魔獣の情報を見ながら教えてくれました。金貨300枚って、日本円で3000万円ぐらいだ。象牙どころじゃないよ。
「だからって、女の子を泣かせるなんて許せない」
あたしはツノを、ラリティアの額に戻してみました。
「ねえポチャリーヌ、魔法で直せないかな?」
「難しいだろうな。ドラゴンのツノと違って、魔法を使う為の器官でもあるので、くっつければ良いというものでもないしな……」
それを聞いて、絶望的な顔をするラリティア。
あたしもツノを持つ種族として、他人事ではありません。もし自分もツノが無くなったらと思うと、悲しくて泣けてきました。
「で……でも、ディアナ様なら何とかしてくれますよ~~」
リリエルちゃんが、泣いているあたしを見て、心配してくれました。
「そうね。じゃあ、早く帰りましょう」
「待て、此奴らはどうする?」
帰ろうとするサリエルちゃんを、ポチャリーヌが止めた。
「ああそうか、どうしよう?」
「元に戻して、近くの町の警備隊に引き渡せばよかろう。此奴らの魔道具は、悪用されないように、妾が頂いておこう」
そう言うとポチャリーヌは、ドワーフの持っていた魔道具を、自分のブレスレットに放り込んでいったのでした。ちゃっかりしてるよ。
「私が町まで運んでおきますね」
サリエルちゃんが、元に戻されたドワーフ達を連れて行きました。
そしてあたし達は、ユニコーンの里に帰って行ったのです。
里に帰ると、みんなが出迎えてくれました。儀式はもう終わりのようです。
「お帰りガールたち。ラリティアを見付けてくれて、ご苦労様」
ポニエル様が声を掛けてくれますが、ラリティアはあたしの後ろに隠れちゃってます。まあ、彼女の方があたしより体が大きいので、隠れきりませんがね……
「何をやっているラリティア、お前もこっちに来ぬか」
アルテミナさんが魔法を使って、あたしの後ろからラリティアを引っ張り出しました。彼女は踏ん張って抵抗したけど、ツノが無くて魔法が使えないので、むなしく引き摺り出されてた。
「!!!」
そして、ツノの無いラリティアの頭を見て、言葉を失うユニコーン達。
「ラリティア、その頭……! いったいどうしたと言うのだ?」
さすがのアルテミナさんも、慌てていたよ。
あたしとポチャリーヌは、さっきあった事を、ディアナ様とアルテミナさんに説明しました。
「おのれドワーフどもめ、何て事をしてくれたんだ。お前達もなぜドワーフどもを警備隊に渡すのだ? それでは復讐が出来んぞ」
「いえ、今回の事は討伐隊の任務ではありませんので、処遇は地元の領主様に任せたのですわ」
「な……!」
ポチャリーヌの言葉に、怒りをあらわにするアルテミナさん。
「落ち着きなさいアルテミナ、リーダーであるあなたが、感情を剥き出しにしてはいけませんよ。それにポチャリーヌさん、あなたは正しく判断してくれましたね」
ディアナ様が、アルテミナさんを諌めて下さいました。
「すみません……このままでは、あの子を里から追放しなくてはならないので……」
「えぇっ? 追放って、どうして?」
あたしは思わず聞いてしまいました。
「里の掟で、ツノを失ったユニコーンは、里を出て行かねばならないのだ」
「そんな……! そうだ、ツノはあたしが取り返して来ました。なんとか元に戻せませんか?」
あたしはツノを見せて、ディアナ様とアルテミナさんに聞いた。
「残念ですが、ユニコーンの折れたツノを、元に戻せた例は無いのです」
ディアナ様は、悲痛な表情で言われました。
それを聞いたラリティアは、悲しそうにうなだれました。
あたしは彼女の額にツノをくっつけて、戻せないか試してみました。ツノだってカルシウムで出来てるなら、骨折を治すように元に戻せるはずよ。
魔法を使うための器官なら、神経のような物が通ってるんだろうか?
そういう物も、分子レベルで修復すればいいはず。
……なんとか ……なんとか
「ありがとう……もういいよナナミィ。私はここを出て行くから……」
そう言うラリティアの瞳が、あまりに悲しそうで……
「も~~う、簡単に諦めないでよっ!」
あたしはちょっと怒れてきたよ。
体の真ん中に魔力を溜めて、どんどんパワーアップして、ツノが直るのをイメージしました。ムート君のお嫁さんになるなんて、ウザイ事を言う女の子じゃないと、こちらの調子が狂っちゃいますよ。
だから、早く元に戻れ!
ツノを覆う両手から暖かい光が出て来ました。
「ああ……」
ラリティアが声を漏らした。
あたしは両手を、そっと離してみました。
試しに指で叩いてみましたが、ツノは取れたりしませんでした。
ツノには、切れた跡すら無くなっていたのです。
「元に戻った」
「えぇっ?」
あたしの言葉に、ラリティアが驚いた。
「まさか! ま……魔法は使えるのか?」
アルテミナさんもビックリしてた。
ラリティアは、恐る恐る魔法を使ってみた。ツノがほのかに光り、目の前の小石が浮かんだ。
「治ったわ!」
ラリティアが嬉しそうに言った。
「ほ……本当に?」
「まさか……!」
「有り得ない……」
「素晴らしいわ、ナナミィさん!」
みんなやディアナ様も、凄く驚いていた。
「ナナミィがまたやらかしたな」
ポチャリーヌが、オバケでも見るかのような目で見てるけど、失礼な。
「よかった~~。もうこれで大丈夫よ~~」
なんて言って、ムート君の側に駆け寄るラリティア。
まてまて、まずあたしにお礼を言うべきだろう?
「そうだね、よかったね」
ムート君は、ちょっと気まずそうに笑っていたよ。
「感謝するぞナナミィ。娘を救ってくれてありがとう」
アルテミナさんは、そう言ってくれました。
あたし達は、帰る事になりました。ディアナ様も空中神殿に帰りますが、ムート君はお父さんの所に泊まって行くそうです。
ここでポニエル様とはお別れです。
あたしとポチャリーヌは、交互にポニエル様をハグしました。
「ハハハハ、いつでも遊びに来ていいのだよガールたち」
「まあ、ポニエル様ってば、最後までウザイですねぇ」
ご機嫌なポニエル様に向かって、失礼な事を言うリリエルちゃんだった。
「では、ドラゴニアに帰りますか」
あたし達はサリエルちゃんの周りに集まりました。さあ、転移という時に、後ろからツノで突かれた。
「……今日は助けてくれて、ありがとう。……友達になってあげてもよくってよ?」
そう言うのは、ラリティアだった。
この~~、ツンデレさんめ。
「なに言ってんの、もうすでに友達でしょ?」
「え? ……う、うう……うん……」
可愛いなぁ~~、もう。
こうして、ラリティアがお友達になりました。