第80話 ツノが無い
もう一度ラリティアの行動をおさらいしてみましょう。
あたし達が最後に見たのは、シモルグ様に言われて帰って行くところです。あの子は空を走って山を降りて行きました。あたし達は、ムート君の試練を終わってから里まで転移をしたので、途中でラリティアに会う事は出来ません。
「うん、全然分からないね」
考えるだけ無駄でした。
「何を言っておる? 早く探しに行くぞ」
ポチャリーヌに言われて、あたし達はラリティアを探す事にしました。ムート君は儀式の主役なので、連れては行けません。
「どこから探そうか?」
あたし達は空の上から、草原にラリティアの姿を探しながら飛んで来ました。ここいら一帯は牧場のような雰囲気なので、見晴らしが良くて、遠くまで見渡せます。
「いないね~~」
サリエルちゃんが飛び回って探しているけど、ラリティアの姿は見えず。
「ユニコーン山の手前にある、森に居るのかもしれんな……」
ポチャリーヌの言葉に従って、みんなで森に行きました。手分けして探していると、どこからか泣き声が……
あたしは下に降りて、声のする方に行ってみました。
「ううう……うう~~……」
そこには、うなだれているラリティアがいました。
「こんな所にいた! なにやってんのよ、もう儀式は終わったよ」
あたしに声を掛けられて、ラリティアが振り返りました。
「早く帰るよ……んん?」
何か違和感が……
ああっ! ツノが無い!
「あんた、ツノが無くなってるぅ!!」
「うわ~~~~~~!」
ラリティア号泣。あたし困惑。
「どうした、何があった? ラリティアは見付かったんだな?」
ポチャリーヌ達がやって来て、ラリティアを見て固まってしまったよ。ツノの無いユニコーンは、ただの馬だった。
「うう……、なによ、笑いたきゃ笑えばいいでしょ?」
ボロボロ涙を流すラリティアが、自嘲気味に言った。
「何言ってるの? 笑うわけ無いでしょ。あたしだって、ツノがある種族なんだよ」
「そうだぞ、妾も前世の魔王時代は、額にツノが生えていたからな。それに妾だってツノを失った経験があるのだ、笑うわけないだろう」
あたしは、泣いているラリティアの首を抱いてあげました。
「何があったの?」
取り敢えずあたし達は聞いてみた。
「里に帰ろうと空を走っていたら、突然足場が消えてしまったのよ。魔法で体を持ち上げる事も出来ずに、墜落したの……。そしたら、ツノが折れちゃった」
「ふむ、魔法が得意なユニコーンが、魔法をしくじるとは思えないな」
ポチャリーヌが、ラリティアの頬を撫でながら言った。
「おや? ちょっとツノをよく見せてみろ」
ポチャリーヌはラリティアの頭を下げさせて、ツノの折れた所をじっくりと見ていた。
「これは、折れたんじゃなくて、切られているぞ!」
「「「「えぇ~~~~!?」」」」
一同びっくりです。
「まさか、密猟者のしわざなの?」
サリエルちゃんが心配そうに言った。この世界には、ユニコーンのツノを狙う者がいるようだ。ユニコーンのツノって、象牙みたいに貴重な物なんだろうね。
「密猟者だと? 魔法が使えなくなった事と、関係があるのかもな。ちょっと調べてみよう」
ポチャリーヌはブレスレットを使って、周りを調べていた。これで空間の魔力量を計っているんだって。
「……この周辺で、何か魔道具が使われた痕跡があるぞ。魔力量が不自然に少ない場所があるからな。多分、魔法を妨害するような魔道具なんだろう」
「ねえ、ツノって元に戻せないの?」
あたしはポチャリーヌに聞いてみた。
「切られたツノがあれば、可能かもしれないな……、保証は出来ないが……」
「ダメよ、折れたツノは元に戻らないの……。また伸びて来るのに、2年ぐらい掛かるのよ……。その間は、魔法が使えないの……」
そう言ってラリティアは、再び泣き出してしまいました。
「お主は、犯人を見ていないのか?」
「墜落して気絶してたから、見てない……」
「それならアレです。この前ポチャリーヌがやってた、目で見た映像を後から見る魔法です。もしかしたら、気絶する前に犯人を見てるかもしれないですぅ」
「おおっ、あれか。ではさっそくやってみよう」
リリエルちゃん、ナイスです。視界のはしにでも、チラッと見えてれば、犯人の姿を確認出来るわけですね。ポチャリーヌはブレスレットをラリティアの額にかざしました。すると四角い画面が空中に現れました。
そこに映っていたのは、ラリティアから見た、空を駆ける場面です。最初は順調に走ってるけど、途中からガクリと視界が揺れたと思ったら、あっと言う間に木が迫って来て、そのまま突っ込んでしまいました。
「うわぁ……」
同じ空を飛ぶ種族としては、墜落シーンはきついものがあります。
「居た! ここだ、こいつらだな。……ドワーフか?」
ポチャリーヌが指差す所を見ると、木の下にハンターらしき装備の男が二人いました。二人ともひげ面で背が低そうだ。ドワーフと言えば、鍛冶が得意でお酒好きな、おとぎ話でお馴染みのキャラですね。
「円筒状の物を持っておるな、これが魔道具なのだろう。少し時間が経ちすぎたな、早く追わんと国外に逃亡されるぞ」
「国外に逃亡されても、関係無いんじゃないの? あたしたち討伐隊は世界中で活動出来るのでしょう?」
「それはそうなのだが、隣国がドワーフの国だからな、逃げ込まれると厄介だぞ。奴らはがめついからな、何かにつけて金を要求して来るぞ」
あたしの疑問にポチャリーヌが答えてくれたけど、あたしの腹は決まっているのです。
「え~? お金なんて、そんなのあたしには関係無いよ。さあ、早く捕まえてブチのめしてやりましょう」
「奴らめ、知らぬ内に地雷を踏んでいたな……」
ここはエルドランテ王国です、そのお隣にあるのがドワーフの国、ボレビアン王国。リュウテリア公国とは反対側になるので、まったく馴染みがありません。
「馴染みの無い国なんて、ぶっ潰しても構わないよね?」
「おい、ナナミィが危険な事を言い出したぞ」
「そうね、早く犯人を探さないと、国に被害が及びそうね」
ポチャ子とサリエルちゃんがなんか言ってる。本気にするなよ。
「そうです、私もぶっ潰してやるですぅ!」
リリエルちゃん、本気にしないでね。
「あの二人は、ボレビアン王国に向かうと思っていいだろう。ならば西側だな、探すのは」
ここより西側には、森が広がり、さらに向こうは平野になっています。所々に村が点在してますが、そこはまだエルドランテ王国内です。ボレビアン王国の国境までは、まだ300kmほどあります。それまでに捕まえないと、厄介な事になりそうです。
「今まで経過した時間を考えると、奴らだいたい3kmぐらい先に居るか……。よし、あの辺りに運んでくれ」
「はいですぅ!」
鼻息荒いリリエルちゃんが、張り切ってみんなを転移させました。
あたし達は森が終わり、平野が始まる場所に来ました。そして街道からは見えない、岩場に隠れています。
「奴ら、人目に付かないこの旧道を使うだろう。リリエルとサリエルは魔力の状態を見張っていろよ。奴ら光学迷彩を使うかもしれないからな」
よく見ると、道があった跡があります。その跡を辿って行くと、平野の真ん中に集落のあった場所がありました。雑草に覆われた廃墟が何軒か見えます。
「あそこに廃墟があるけど、あの中に罠を仕掛けるのはどう?」
あたしがポチャリーヌに提案してみた。
「なるほど、奴らがあそこに隠れて、追跡を撒こうとするかもしれんな」
「それなら私に任せるですぅ!」
そう言ってリリエルちゃんは、どこかに転移して行きました。
それから5分後ぐらいに、奴らが現れました。一人はひげ面で、もう一人はゴーグルをはめていた。
さあ、どう料理してやろうか?
「ナナミィ、笑顔が恐いぞ」
む? なんて失礼な。
ドワーフ二人は辺りを伺いつつ、素早く歩いて行きました。
「先頭の奴から、ラリティアの魔力を感じるよ」
「これでツノを奪ったのは確定だな。では、接触してみるか」
ポチャリーヌは、ドワーフ達に気付かれないように、こっそり回り込んで行った。さすが9歳児、小さな体を活かして、茂みに隠れながら移動してるよ。
そしてさも『道に迷った子供』のように、ドワーフ達の前にポチャリーヌ登場。
「ああ、おじさん達、町はどっちに行けばいいの?」
9歳の少女のように、可愛くしゃべるポチャリーヌ。でもドワーフ達は、突然現れた女の子に凄くビックリしてた。
「なっ? お前、どこから出て来た?」
ゴーグルのドワーフがナイフを抜いて、ポチャリーヌに向けたが、ヒゲのドワーフがそれを押し止めていた。
「待て待て。お嬢ちゃん一人かね?」
「うん。パパもママもいないの……」
上目遣いの悲し気な表情で、攻めるポチャリーヌ。恐ろしい子……!
「ハッサン、こんな場所に女の子が一人で居るって、おかしいだろ?」
そう、ユニコーンの里の周辺は、立ち入り禁止地域なのです。子供といえど、捕まってしまいます。そんな所にいたら、怪しまれて当然ですね。
「それはそうだが……」
ドワーフの二人は、警戒しつつポチャリーヌを見た。
ポチャリーヌは廃墟の建物をバックに、ニッコリと微笑んでいた。
「そうそうおじさん、取っていったユニコーンのツノを返してね」
いきなり言った!
ドワーフの二人は固まっちゃったよ。
ポチャリーヌがすっと手を上げて、人差し指を立てると、指の先から炎が出た。
それを見たヒゲのドワーフは、慌てて抱えていた円筒状の魔道具を作動させた。するとポチャリーヌの指の炎は消えてしまいました。
「あれ? 消えちゃった?」
などと言って、慌てて見せた。
「お前は何者だ?」
ドワーフ達は武器を構えて、ポチャリーヌから距離を取った。
「きゃ~~~! 襲われる~~~!」
突然ポチャリーヌが騒ぎ始めたので、ゴーグルのドワーフは、慌てて彼女を捕まえて口を押さえた。
「どうするこいつ?」
「しょうがない、そこの木に縛っておけ」
ヒゲのドワーフがロープを出した。ちょっとこれはマズイです。
「その子から離れろ~~~~!」
あたしは隠れていた茂みから飛び出して、ヒゲのドワーフに飛び蹴りをかました。ポチャリーヌも一緒に吹っ飛んで行ったけど、気にしない。
あたしはポチャリーヌに駆け寄って、抱き起こした。高そうな服に葉っぱや土が付いていたけど、気にしない。
そして牙を剥き出しにして、ドワーフ達を威嚇した。
「くそっ、ドラゴンまで居るのか。ブレスが来るぞ」
「大丈夫だノルド、魔法は妨害してるからな。ブレスは出せないぞ」
「おお、それならそこの娘共々、殺してしまおう」
殺すなんて言われたら、もう手加減する必要はありませんね。あたしは思い切りドラゴンブレスを吐いてやりました。
ドワーフ二人を襲う地獄の業火!
「ぎゃ~~~!!」
「なんでブレスが出せるんだ~~!」
「ブレスは魔法じゃなくて、スキルだからよ!」
あたしは飛び上がって、空からもブレスをお見舞いしてやった。
「飛べるだと? どうなってやがる!」
そう叫んで、ドワーフ達は廃墟の方に逃げて行きました。
あたしに誘導されているとも知らず……