第8話 ナナミィ変身!
「あらまあ、可愛らしいこと」
ディアナ様は、ほんわか微笑んでおられます。
ラビエルはドヤ顔でこっち見てる。
……うざい。
14年ぶりの人間の体に、戸惑ってしまいます。
特に胸の感覚。
ドラゴンの胸は、何も無いペッタンコで、男女同じなのです。
両手でふくらみを、むにゅっと掴んでため息をつきます。
あ。そう言えば今日は、ボレロしか着てなかったんだ。ちなみに、ボレロは可愛いベストのような服ですよ。
なので、今のあたしは、ほとんど裸です。普通ならここで「きゃ~」とか言って、恥ずかしがるんでしょうけど、ドラゴンになって14年のあたしは、人間らしい羞恥心は無くなってるようです。ドラゴンは裸が基本なので。
「よし、成功だな。七美のヌードを観賞するのもここまでにして、次は魔法について説明しよう」
まて、いま観賞って言ったな。すけべ親父かあんたは?
「ドラゴンは魔力を、先天的な感性で使っているが、人間は魔力を魔法として使っているのだ。例えば火の魔法を考えれば分かり易いだろう。ドラゴンは火を吐き出すだけだが、人間は、料理を作ったり物を加工したりする事に使ってる訳だ」
「ふ~ん…… あ。ねえ、人間の姿でブレスは出せるのかな?」
「出せるが、後ろを向いた方がいいな」
そんなに気にしなくてもいいのに、と思いながら向きを変えた。
あたしは息を吸い、魔力を込めて、いつも通りに炎を吐いた。
目の前が明るくなり、轟音と共に炎が吹き出た~~~!!
ブボォォ~~~!!!
パワーアップしてる!
たぶん3倍!
炎が収まって、気が付いたら、高そうな絨毯が焦げてました。
ひぃ~~~って、顔をしてたら
「あら、大丈夫ですよ。ほら」
ディアナ様のツノがほのかに光り、絨毯が元に戻ったのです。
さ……さすが女神様!
あたしはもう一度「リゲイル」と唱えて、元に戻りました。
ちなみに、リゲイルとは元に戻ると言う意味だそうです。
英語ならリゲインだそうな。24時間戦えそうです。
「さて、これで理解できたであろう?」
「人間の姿になったら空は飛べないの?」
「いや、人間の姿でも翼は出せるぞ。言っただろ、現在の能力も強化されると」
「ま……まさか、マッハで飛べるとか……」
「それはない」
あっさり否定された。まあ、そうよね……
「うふふ。ナナミィさんは面白い事を言いますね」
女神様に笑われた。
苦笑しながら立っているあたしに、ディアナ様が近づいて来られました。
「大変とは思いますが、この世界をお願いしますね」
そして、片方の前足をあたしの肩にまわし、ハグをしてくださったのです。
「は……はいっ! がんばります!」
と、思い切り返事したら、学園長室に戻っていた。
な……! このタイミングでか?
ラビエルのやつ、やってくれる。
学園長先生がびっくりした顔をしてこっちを見てるよ。そりゃそうだ、いきなり現れたドラゴンが、意味不明な事を言ってるんだから。
「あらあら、どうしましょう」
って、ディアナ様も一緒に来てる~~~っ!!
「は、ははぁ~~!」
学園長先生が平伏してるし、むちゃくちゃだ!
そして、なぜラビエルがドヤ顔してるのぉ!
取り敢えず、疲れる会見は終わった。
あの後、どこからかスリッパが飛んで来て、ラビエルの後頭部を引っぱたいたとか、ディアナ様が、ラビエルの首根っこをくわえて、光りのゲートの向こうに連れて行った、とかがあった。
あたしは家に帰ってから、自室の鏡の前に立って、人間の姿になってみた。
ボレロも脱いで、素っ裸になってみました。
鏡の目で、体の向きを変えつつチェックしてみたら、自分の記憶の中にあるより、スタイルが良くなったように感じます。
能力の強化って言ってたけど、こんな効果もあるの?
それはそれで嬉しいんだけど……
変身しても服はそのままなので、人間サイズの服も用意しないと、人前に出られませんよ。
あと、下着もいるか。久しぶりにブラやショーツが着れる。
「そう言えば、通信機の説明がまだだったな」
いきなりラビエルが自宅に現れた。
「チェンジで」
「な……! 何をおっしゃるのやら?」
ラビエル大慌て。
「なんか、ふざけた使徒様って、心配で……。確か女神様の使徒って、何人もいたはずよね? 他の使徒様に変わってよ」
「うわ~~ん ちゃんとやるから、見捨てないで~~っ」
泣きつかれた。
ウサギがあたしの胸に顔をうずめて泣きじゃくってるよ。
どうすんのコレ?
「わかったわかった、あなたでいいから、泣かないでよ」
「グス…… ほ、ほんとに……」
「本当よ」
その時、あたしの胸にくっつけてた口もとが、むにゅっと動くのを感じた。
まて、いまニヤリと笑ったな?
「……まさか、あたしの事、チョロイとか思ってないでしょうね?」
「え……? そんなコトはナイぞ?」と、いい笑顔で言った。
「ああそうだ、通信機だったな。この前渡したブレスレットに魔力を流しつつ、話したい相手を思い浮かべればいいのだ。簡単だろ?」
「これに向かって話せばいいのね?」
……なんて説明をしてるけど、このウサギ、さっきからあたしのおっぱいに、手を置いてるんですけど? ドラゴンなので、恥ずかしさは無いけど、ちょっとムカつく。
「リゲイル」
ドラゴンに戻ってやった。
ラビエルが、ぺったんこの胸を、残念そうに見ていた。
「使徒様は、女の子のおっぱいを堪能したみたいだし、あたしのお願いも聞いてくれますよね?」
「な……なにを言うのだ。別に人間の胸など興味はナイぞ」
顔をそむけて言っても、説得力がないよ。
「人間に変身した時に必要な、服や下着なんかが欲しいんだけど」
「おお! 下着ならいくらでも用意を……」
「服も!!」
もう、色々ダメダメだった。
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ここはディアナの住まう空中神殿。
スクリーンには、ナナミィとラビエルのやり取りが映し出されていた。
二人のお馬鹿な会話を、ディアナは面白そうに見ていたが、一緒にいる使徒はあきれ顔だった。
「よろしいのですか? ラビエルに任せて」
彼女は女神の使徒の一人、ペギエルだ。可愛いペンギンの姿をしているが、厳しい眼差しをした、さしずめメイド長といった雰囲気だ。
「うふふ。あの子がいちばん、ナナミィさんとうまくやれそうですよ」
ディアナは楽しげに言った。
「それに、あなたには、彼の面倒を見る仕事があるでしょう」
「そうですね。それも大事ですね」
「彼とはうまくやってる?」
「前世が『竜王』だったからか、落ち着きのあるいい子ですよ」
「竜王なんて肩書きは、凄いですねぇ……。あら、もう仕事の時間ですね。じゃあ私は戻ります」
と言って、ディアナは地上の神殿に戻って行った。
残されたペギエルも仕事に帰って行った。
「ただ今戻りました、ディアナ様。さっそくですが、七美の下着の為の資金を…… あれ? 誰もいない?」
間の悪いラビエルだった。