表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/406

第74話 森の中の困り事-2

 テディエル様の任務は、派閥争いをする魔物の調停で、あたしとリリエルちゃんは、その魔物の村に来ています。そしてその争いの理由を知ったのですが……

 あまりにも、どうでもいい理由でした。


「いやあの、どうでもいいのですか?」

 ヴァナルガンドは焦って尋ねた。

「ラビエルさんとミミエルさんじゃ、ろくな話は聞けませんですよ」

 なんて事をサラッと話すリリエルちゃん。

 フェンリル達はみな、ポカーンとしちゃったよ。


「み……みなさんは何で、ラビエルやミミエルにこだわっているのですか?」


 シーンとなってしまい、居たたまれない空気なので、訳を聞いてみた。

 するとどうでしょう、ラビエルとミミエルはフェンリル達の間では、勇ましい使徒様だと思われてるのでした。

 すみません、あたしにはこの二人の『勇ましい』要素が思い付きません。それに派閥争いって、ラビエル派とミミエル派の争いだったんだね……


 うん、なんか一気に下らない話になっちゃったよ。

 でも、このフェンリル達にとって、大切な事だというのは分かります。あたしとリリエルちゃんとで、解決しなくちゃなりませんね。



「そんな事ならすぐ解決ですぅ。使徒ならもうここに居るじゃないですか」

 と言って、ドヤ顔で胸を張るリリエルちゃん。いや、さすがに無理じゃないかな。ヴァナルガンドも、微妙な表情で笑ってるよ。

「リリエル様は可愛らしいのですが、我らの求めるのは……もっとこう……」

 ほら、ヴァナルガンドが困ってるよ。

「リリエルちゃんでは、フェンリル達のニーズには答えられないのよ。彼らは強くてカッコいいものを求めているから、ね?」

「え~~? そうなんですかぁ~~?」

 リリエルちゃんが、すっごい不満顔だ。それを見て、フェンリル達が慌ててるよ。

「だってリリエルちゃんは、あたしだけの使徒様なんだもん」

 そう言ってニッコリ笑いかけたら、「えへへ~」と機嫌が直ったよ。


「ナナミィさんは、使徒様と親しいのだね」

「そうですよぉ、ナナミィさんはラビエルさんのパートナーで、ミミエルさんとはお友達なのです~」

「おお! ならば彼女に決めてもらいましょうぞ! さあ、どちらのお方をお呼びすればいいだろうか?」

「え? あたしが? う~~ん……そうねぇ、ミミエルでいいんじゃないかな。普段はオシャレや恋バナやスイーツの話しかしないけど、仕事はキッチリ出来て優秀だからね……。それにミミエルなら、今一緒に来てるし」

「そうですね、ラビエルさんはどこかで雑用してるので、呼べませんですし」


 と言う訳で、ミミエル派の勝利となりました。

 ラビエル派はがっかり。


「じゃあ、まずはテディエル様を探さなくちゃね。一緒にミミエルもいるだろうし。リリエルちゃん、テディエル様の居場所は分かる?」

「ちょっと待ってくださいね~」

 と言って、ブレスレットを操作しつつ、周りを探っていました。

「あ、見付けましたです。こっちの方ですぅ」

 リリエルちゃんは、遠くに見える山の方を指差した。みんなでそこに行く事になりました。



 あたし達とヴァナルガンドの他に、フェンリルが10匹ほど着いて来ました。魔法が使い辛くなっているあたし達の護衛だそうです。確かにフェンリル程の大きな魔物ならば、魔法を使わなくても強そうですしね。

 リリエルちゃんは、ヴァナルガンドの背中に乗って、先頭を歩いて行きます。

「こっちなのですぅ」なんて、探検隊の隊長気取りだよ。

 あたしはその後ろを歩き、他のフェンリル達は、あたしの左右と後ろを歩いています。でっかい狼に囲まれて、こっちが緊張しちゃいますね。


 あたしはふと思い付いて、腕にはめたブレスレットの通信機能をオンにしました。ブレスレットの機能は魔法では無いので、この森の中でも使えるはず。

「ねえミミエル、聞こえる?」

 すると、ブレスレットから返事が聞こえて来ました。

「なに? あんたどこに居るのよ? 勝手にいなくなって、テディエル様が心配してるわよ」

「ああ、ごめんね。今リリエルちゃんと一緒に、そっちに向かっているから」

 あたしが通信を切ると、横を歩いていたフェンリルが近付いて来ました。

「それで使徒様と話が出来るのですか?」

「ええ、そうよ。このブレスレットをしている者なら、使徒様以外とも話せるの」

「……そうですか~」

 と言って、そのフェンリルは、また元の位置に戻って行った。


 少しして、誰かがあたしの尻尾を突っついた。振り返ったらさっきのフェンリルでした。

「え……なに?」

「お願いがあるのですが……」

 そう言って立ち止まったので、あたしもつい立ち止まってしまいました。

「我らはあれから考えたのですが……」

 なになに? お願いがあるって言うけど、歯切れが悪いな。


 なんて思ったら、いつの間にかあたしは、フェンリル達に囲まれていた。リリエルちゃんとヴァナルガンドは気付かず、先に行ってしまいました。

 5匹のフェンリルがあたしに詰め寄って来るよ。

 近い近い、鼻先がくっつくよ。


「ぜひともラビエル様も、お呼び下さいませんか?」

「お願いします!」

「なにとぞラビエル様を~~!」

 フェンリルにグイグイ迫られ、あたしは尻餅をついた。狼の牙が目の前に来て、あたしは堪らず「きゃ~~~!」と叫びました。

「あ……これはとんだ失礼を……」

 と言って、フェンリル達は一歩下がった。



「我が輩の愛する七美に何をするか~~~!」


 聞いた事あるセリフと共に、ウサギがポンッと現れた。

「女神様の使徒のパートナーに手を出そうとは、不届き千万!」

 ラビエルがあたしとフェンリルの間で、ポーズを決めながら叫んだ。

「「「「「ラビエルさま~~!!」」」」」

 どっと駆け寄るフェンリル達。

「え? え? なんであるか?」


「成る程、お前らは我が輩を崇拝するフェンリルという訳だな?」

「ハッ! 我ら一同ラビエル様をお招きしたいと思いまして、ナナミィさんにお願いしていたところです」

「うむ、そうであったか」

 ラビエルは得意げに答えてるけど、あんたのおかげで、ややこしい事になりそうだよ。

「ちょっと、こんな所に来て大丈夫なの?」

「ああ、仕事はムートに任せたから大丈夫なのだ。ではフェンリル達よ、村に案内するのだ」

「ははぁ~~!」

 フェンリル達はラビエルに、うやうやしく頭を下げてるけど、そんな事をやってると、ペギエル様が来ちゃうよ~~。あたしはいい気になってるラビエルの首根っこを掴んで、リリエルちゃん達が行った方に向かって歩き出した。

「ハイハイそれは後でね、まずはテディエル様と合流しないとね」


 間も無くあたし達はテディエル様と合流しました。

 ラビエルを見たポチャリーヌとミミエルが、呆れた顔をしていたよ。そして皆でフェンリルの村に行きました。


「つまり、ラビエル派とミミエル派に分かれて争っていた訳なんだね?」

 テディエル様があたしに尋ねました。

「そうですね……」

 向こうではフェンリル達が、ラビとミミの前で『伏せ』になってた。ラビエルはドヤ顔で鼻息荒いけど、ミミエルは凄いうんざり顔だ。


「実はこの村の百周年を記念して、我らが尊敬する使徒様に来て頂き、お言葉を賜りたいと思いました。どなたをお呼びしようかと意見を出し合った結果、ラビエル様派とミミエル様派が対立してしまったのです」

 と、ヴァナルガンドがテディエル様に説明しました。

「そしてナナミィさんの勧めで、ミミエル様をお呼びする事にしたのですが……」


「え~~? 七美は我が輩よりミミエルがいいと言うのか?」

「ふふん。ナナミィはよく分かってるわね~~」

 涙目のラビエルと、ドヤ顔のミミエル。

「大丈夫です! 我々はラビエル様に付いて行きます!」

 なんて、ラビエル派のフェンリルが力説してるよ。

「おお! お前ら分かっているな!」

 ラビエル、ちょっと元気になる。


「それならどちらが凄いか、勝負してみるがよいですぅ!」

 と言うリリエルちゃんの一言で、勝負となりました。



「まずは私ね。ちょっとそこのあなた、そう、そこのメス狼よ。ちょっと来なさい」

 ミミエルは集まっているフェンリル達の中から、一匹の小柄なメスのフェンリルを指名した。そのメスはミミエル派だったのか、喜んで出て来た。

 ミミエルはそのフェンリルを建物の裏に連れて行った。しばらくして戻って来た時は、フェンリルの体に布が掛けられていたよ。


「私の女子力を見せつけてくれよう。さあ、これよ!」

 フェンリルの布を取ると、ペットの犬に着せるような、可愛い服を着てた。フリルやリボンがいっぱい付いたドレスで、ピンク色のプリティーなヤツです。でも、厳ついフェンリルには似合わないね。

「どうよコレ? 私の服だけど、狼にも似合うでしょ?」

 やけに可愛いデザインだと思ったら、ミミエルのだったんだ。ドレスを着たフェンリルはちょっと照れてます。


「そんな物は大した事ないのだ。我が輩の方が可愛いぞ」

 と言うラビエルを見たら、こっちも服を着ていた。

 それも、あたし好みのロリータドレスですよ。ラビエルの体形に合わせて、スカートは短めで、パニエを使って膨らませてる。首と背中に大きなリボンを付けていて、すっごい可愛いの。


「ヤダ、可愛い……」


 あたしは思わずつぶやいた。

 あたし好みだけど、フェンリル達にはどうなの? 何かみんな、口をあんぐりと開けて固まってるよ……


「そうだろ可愛いだろう。これで我が輩の勝ちだ」

「ちょっと、何でよ。ナナミィは関係無いでしょ?」

「なんだと、七美が決めるんだろ?」

「そんな訳無いでしょ~~!」

 そう言って二人は、両手を振り上げて相手をポカポカ叩き始めたよ。


「こんにゃろ! こんにゃろ!」

「きぃ~~~!」

 ポカポカポカポカポカポカ

 うわぁ……もう子供のケンカだよ。この場の全員が呆気に取られてるよ。



「やめなさ~~~い!!」

 ドッカ~~ン!

 バリバリバリ!


 いきなり雷が落ちた!

 そして仁王立ちのペギエル様が……


「ラビエルさん、頼んだ仕事を放り出して、こんな所で何をしているのですか?」

 ああ、やっぱりね……。仕事よりあたしを優先してくれた事は嬉しいけど、ペギエル様激おこだよ。

「いえ、七美がピンチだったので、助けに……」

「ほうほう、それでそんな可愛いドレスを着てるのですか?」

「う……これは成り行き上、しかたなく……」

 ミミエルがプププと笑いをこらえてるけど、ペギエル様に睨まれてビクッとなって、目を逸らしていたよ。

「まあいいでしょう。みなさんお騒がせしましたね」

 ペギエル様はフェンリル達にペコリと頭を下げると、ラビエルの首根っこを掴んで、転移して行きました。

 そうして二人の勝負は、うやむやの内に終わったのです。



「まあ、怪我の功名と言うか、派閥争いをしていた魔物の問題は解決したね」

 テディエル様は、ほっとしておられます。あたしとリリエルちゃんが迷子になったおかげで、任務が完了出来たようでよかったです。


 フェンリル達は、ラビエルとミミエルの、あまりのバカバカしさに、みな宗旨変えしたんだって。これからは、ペギエル様を崇拝していくんだそうです。

「だよねぇ、あれはないよねぇ」

「そうは言うが、ラビエルが本気で闘ったら、ミミエルなぞひとたまりもないからなぁ……。まあ、子供の喧嘩レベルで済んでよかったぞ」

 なんて事を、ポチャリーヌが真顔で言っていた。


 あのウサギの本気なんて、想像も出来ないけどね。

 っていうか、あのドレスってラビエルが自分用に作ったのか? 異様に似合っていて、可愛かったぞ。

 まあ、なんにせよ、テディエル様との初顔合わせはうまく行きましたね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ