第70話 ナナミィ調べられる
今回は大変なミッションだったので、保護施設でもう一泊して行きます。
学校は……ペギエル様が上手く言っておいてくれるそうです。泊まって行くのは、あたしとポチャリーヌとムート君です。ラビエル達使徒組は帰るそうです。あまり長居すると、ペギエル様の機嫌が悪くなるからです。
それからあの後、パラクさんやパシフィカさんに、シードラゴンに寄生するパラサイトについて教えてもらいました。
「パラサイトは寄生と言うより、共生と言った方が合っています。パラサイトは宿主の体を守ってくれます。特に子宮の周りをね。おかげで生理も軽く済むし、出産の時の危険も少なくなるのです」
と説明してくれるパシフィカさん。なにそれ羨ましいんですけど。今のあたしはドラゴンなので生理は無いのですが、前世の人間の時は、けっこう辛かったので羨ましいです。
「だがチークは、パラサイトのおかげで、淫乱になっていたらしいじゃないか」
ポチャリーヌの言う通り、色ぼけ状態になっていたよ。
「それはよほどの、欲求不満だったのでしょう。確かにパラサイトは性欲を高めますが、そのおかげで子供が出来やすくなるのです。実は私達シードラゴンは、奥手な者が多くて、人間の男性に声も掛けられないのですよ。でも、パラサイトに性欲を高められると、やる気が出て積極的になれるのです」
パシフィカさんは、少し恥ずかしそうに言った。
「何だか今まで聞いていた話と違うなぁ……。じゃあ、歌で男を誘惑したり、交尾をしたらさっさと別れるって話は、間違いなんですか?」
その疑問にはパラクさんが答えてくれました。
「好きな男に声も掛けられないシードラゴンの為に、誘惑の歌を教えたのは、異世界から来た人間です。なんでも『セイレーンの歌』というものだそうで、海の魔物はこの歌で人間を誘惑するのだそうです。それと、さっさと別れると言うのも、奥手な子が交尾をした後に、恥ずかしくなって逃げ出したのが真相なんでしょう」
ああ……そうなんだ。シードラゴンって、なんて可愛い生き物なんだろう
「あれ? じゃあ、パラサイトがお腹の中にいても、問題無いんじゃないの?」
「そうだな、むしろシードラゴンにとっても、都合の良い話みたいだしな。となると、リップとチークから排除したのはまずかったかな?」
「あ……」
アレ……あたしとポチャリーヌで、燃やしちゃいましたね……
「特に問題は無いでしょう。もし人間の獣医でも分からない事があったら、私の所に連れて来てくれるよう、イリヤさんにお伝え下さい」
パラクさんはそう言って、あたしの方を見ました。
あたしは気まずくなり、思わず愛想笑いをします。それを見たパラクさんは、クスッと笑いました。
「私は気にしませんよ。あなた方が寄生生物を駆除するのは、当然ですものね」
気にしないそうなので、よかったです。恨み言を言われたら、どうしようかと思っていましたから。
取り敢えずこの話は終わりました。
夕食後は、それぞれに割り当てられた部屋に行きます。あたしはポチャリーヌと一緒の部屋で、ムート君は別の部屋です。
あたしはムート君と同室でもかまわないのですが、ポチャリーヌが「若い男女が同室なんて、はしたないですわ!」と反対したからです。
ムート君は今アリコーンの姿だし、馬とドラゴンと獣人で、間違いが起こりようが無いと思うんだけどね。
なので今晩は、女の子二人でお泊まりです。中身が350歳の女の子ですが……
「さて、あの時に何があったのか、細大漏らさず話すがいい」
さっそくポチャリーヌに詰め寄られた。
「ええ……? なに言ってんの?」
「お主の使った力は、通常の魔法とは違ったモノだったぞ。あれが何だったのか、解明せねばならん」
ポチャリーヌったら、すっごい使命感に溢れる目で見てるよ。
「そうよね、私もぜひ知りたいわね」
と言う声がして、あたしとポチャリーヌが思わず顔を見合わせた。そして視線を下げると、そこには帰ったはずのミミエルがいた。
「あんた、帰ったはずじゃ……」
あたしがジト目で見ると、てへって顔をした。
「もう今日の業務は終了だし、今日はここで女子会しましょうよ」
そう言うと飛び上がって、あたしとポチャリーヌの肩を叩いた。
「で、何があった?」
今度は二人から問い詰められた。
「う~~ん……何て言うのか……、死んじゃったアイシャの魂を、新しく作り直した体に入れれば、転生させられるんじゃないかと思ったんだけど……。まあ、うまく行った?」
そう言うと、二人が微妙な顔をしていた。
「いやいや。簡単に言ってるが、体を作り直すなんて、妾でも難しい事だぞ!」
「転生なんて、女神様の御技よ。使徒でも出来ない事なのよ」
二人が興奮して言った。
「女神様はご自分の体に魂を入れられて、子宮の中で新しい体を作り、産み出す事が女神の転生の力なのよ。その場合は『使徒転生』と言い、私やリリエルのような使徒が産まれるの。そして、いったんご自分の子宮に入れた魂を、他の女性の子宮に入れ直して産まれたのがポチャリーヌやナナミィで、これが通常の転生となるわけね」
と、ミミエルが説明してくれた。
成る程、だからディアナ様は「自慢の子供達」なんて言われたんだ。
「ナナミィはそれを、体の外でやったのか? 海竜を包んだバリヤーを子宮に見立てた訳か……。しかし、原形質になった海竜の残骸から、どうやってアイシャを復元出来たんだ? お主の世界の生物学は、そんなに進んでいるのか?」
「いやぁ……あたしは学校の成績って、あんまり良くなかったけど……そうねぇ、アイシャが元に戻ってほしいって、リップと一緒にお願いしただけかな?」
「そう言えば、お主はリップを抱きしめていたな。リップの遺伝情報からアイシャの体を再構成したのか? いやそんな事は可能なのか……」
ポチャリーヌは頭を抱えてしまいました。難しく考え過ぎるのは、この娘の欠点だよね。
「ナナミィがあの力を使えるのは、やっぱり大好きな相手だけなの?」
「そ……うなのかな? 前はリリエルちゃんで、今回はリップとルージュのためだったし、そうかもしれない」
思い返すと、あたしの大好きな人達を、悲しませたくないという想いから出たチカラなんだろう。
「それで、その力を出す時って、どんな感じなの?」
「お腹の中のもっと下あたりが暖かくなって、身体中に力がみなぎる感じかな」
「まて、それは子宮の……じゃなくて、ドラゴンだから卵巣のあたりか?」
「ええっ?」
復活したポチャリーヌがあたしのお腹をガッチリ掴んだよ。
「よし、中を調べてみよう」
ポチャリーヌがとんでもない事を言い出した。中って、どうやって調べるつもり?
そしてあたしは、ベッドの上で仰向けになり、両足を開いています。
ポチャリーヌが下半身に覆い被さり、総排出腔に指を突っ込んでます。
少女の短い指なので、指の付け根まで入れて、あちこち触ってます。おかげで、くすぐったいです。ムズムズして堪りません。
「ちょっ……そんな事で……分かるものなの……うぷぷぷ」
ダメだ、笑い出しそうだ。
「うむ、こうやって魔力の流れを調べてだな……ここかっ?」
「ぶははははっ! あっだめ、そんな所は。おしっこ出ちゃう~~」
「え?」
と言ってポチャリーヌが指を抜くと、プシュ~~と、おしっこが出ました。
「ぶはぁっ! な、なにをするっ!」
見事におしっこが顔に掛かるポチャリーヌ。
「アハハハ! な、なにやってんの、ポチャリーヌ!」
ミミエルは大爆笑だ。腹を抱えて転げ回ってますよ。
「ごめんねぇ。だってあんた、あんな所グイグイ押すんだもん」
「ぺっぺっ。お主は、女の子の恥じらいは無いのか?」
ポチャリーヌはハンカチで顔を拭いてます。高そうなハンカチなのに、大丈夫か?
「ドラゴンにそんなもの、あるわけ無いでしょ」
「うう……影魔を使って、直接見るしかないか……」
なんて事をやってたら、今度はラビエルが来ました。
「ポチャリーヌとミミエル、楽しそうだな。ちょ~っと付き合ってくれんか?」
ニコニコと笑顔のラビエルが、二人を連れて行ってしまいました。
ベッドのマットがおしっこで濡れてしまったので、ポチャリーヌに魔法で乾かしてもらおうとしましたが、しょうがないので、自分で水の魔法を使っておしっこを蒸発させて行きます。
10分ぐらいマットと格闘して、何とか乾かしました。
そう言えば、ラビエル達はどこ行ったんだろう? なぜあたしも連れて行かない?
戻って来たら文句を言ってやろう。
なんて考えていたら、突然床がグラグラ揺れ出しました。
地震だ!
ドーーンっていう感じで衝撃が来て、徐々に収まって行きました。
他の部屋からも、シードラゴン達やメイドさんの悲鳴が聞こえて来たけど、地震だなんて珍しいです。元日本人のあたしは、この程度じゃ驚かないけど、こちらの世界の人達はパニックになってます。
「またせたな七美、もう大丈夫だぞ」
間も無くラビエルが戻って来ました。ミミエルとポチャリーヌは……なんかぐったりしてる。
「大丈夫って、さっきの地震の事?」
「ん? 地震なんかあったのか? それじゃなくて、もうしつこく調べられたりしないから安心するのだ」
なんて言いながら、親指を立ててウインクをした。
「はぁ……それはありがたいけど……、ミミエルはどうしたの?」
あたしに聞かれて、ミミエルがビクッとした。
「え? 何でもないのよ。あはは……」
いや、絶対何かあるでしょ。
「じゃあ我が輩は帰るのだ。さあ、ミミエルも行くぞ」
「ハ・ハイ!」
ラビエルとミミエルが帰って行きました。
「くそぅ……ラビエルめ、あんな力を隠していたのか……あんなの、妾でも勝てんぞ……」
ポチャリーヌがブツブツなんか言ってるよ。
「え~~と、まだ調べるの?」
と、あたしが尋ねたら、凄い勢いで断わられた。
「いや、もういい。もう調べる事も無いだろう」
「そう、ならいいけど……」
「ちょっとナナミィちゃん、さっき地震があったけど、大丈夫かい?」
あたしの事を心配したのか、ムート君があたし達の部屋に来ました。
「あれぐらい平気だけど、震度3ぐらいあったね」
「なんか遠くで爆発でもあったようだよ。かなり大きな魔力を感じたから」
「へ~~、爆発なんかあったんだ……」
あたしはポチャリーヌをチラッと見ました。そうしたらあの子は、さっと目を逸らしたよ。
「おや?」と言ってムート君が、鼻をフンフンと鳴らした。
「何か臭うよ?」
しまった、水分は乾いても、匂いは残ってるんだ……
さすがのあたしも、「おしっこ漏らしちゃった」なんて男の子に言えないので、ポチャリーヌの所為にしようとしたら、あの子は逃げた後だった。