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第67話 シードラゴンの里-4

「う…うぐぐぐ……リ……リップ……早く逃げ……て」

 アイシャは隣にいたリップを突き飛ばし、その場を離れようとしました。

「どうしましたのお母様? お母様!?」


 見る見る内にアイシャの体が大きくなり、顔が凄い恐い顔になっていきます!

 あの優しいママの顔は、面影もありません。

 これはムート君が、バハムートに変身するのと同じ現象なんでしょうか?


「リップ、離れるんだ!」

 イリヤさんがリップをアイシャから引き離そうとしますが、リップは抵抗します。

「いやぁ! お母様といるの!」

 でも、そのお母様は海竜へと変わって行き、すでに大きさは10mを超えました。表情はまるで鬼のようだ。もう理性は残ってないのかもしれない。


 ムート君が見兼ねて、アリコーンの魔法でリップの体を浮かせて、ルージュの所に連れて行きました。リップが母親の元に行こうとするのを、ルージュが押さえてくれてます。

「やめなさいリップ! あれはもうお母様じゃ無いのよ!」

「お母様になんて事を言うのお姉様!」

「やめて! あなたまで失いたくないの!」


 騒ぐリップの所にポチャリーヌが歩いて行き、リップの頭をポンと叩きました。すると彼女は、そのままくたっとなりました。

「少し眠っていろ……。アウルエル様、このままでは犠牲者が大勢出てしまいます。シードラゴン達を、保護施設に避難させた方がよろしいと思います」

 ポチャリーヌの提案に、アウルエル様も頷かれます。

「そうですね、シードラゴン達とイリヤ君は、保護施設に転移させましょう」

「この数ではあなた一人では無理でしょう。私も一緒に行きますよ」

 ディアナ様も行って下さるのなら安心ですね。


 アイシャが暴れ出す前に、ディアナ様とアウルエル様とで、シードラゴン達とイリヤさんは、この場から移動して行きました。

 この場に残ったのは、あたし達討伐隊のメンバーと、パラクさんだけになりました。

「6人目の出産じゃなくて、お腹の中から子供がいなくなるのが、変身のスイッチだったのか? ぬかったわ……」

 そう言うポチャリーヌは、忌々しそうにうめいた。



 目の前にいるのは、優しいシードラゴンのアイシャじゃありません。恐ろしい海竜です。額の一本角は大きく凶悪な感じになり、前足のひれは、腕になっています。しかも翼のような膜もついてますよ。口の中には鋭い牙が並び、下あごからは二本の長い牙が出てる。

 海竜と言うぐらいなので、海の中じゃなくて陸上でならこちらに有利かも?

 なんて言うのは、甘い考えだった。海竜は飛び上がったのです。空を飛んでます。飛ぶというよりは、空を泳いでるみたいだ。


「くそぅ……あの膨大な魔力量だ、巨体を浮かせるぐらいは出来て当たり前か」

 そうでした、魔力があれば、翼が無くても飛べるのです。

「あ……、じゃあ、ドラゴンブレスも?」

「当然、出せるだろうな」

 あたしの疑問に、ポチャリーヌが答えてくれた。

 二人の会話を聞いていた訳じゃないだろうけど、海竜があたしの方を向いて口を開けました。体の中に魔力を集中してるけど、とんでもない量だよ。

 海竜はブレスの発射準備をしています。これはアカン奴です。当たったら、何も残らず消し飛びます。


「みんな(わらわ)の近くに集まれ! バリヤーを張るぞ!」

 みんな急いでポチャリーヌに集まり、彼女は直径4mのバリヤーを張りました。それ位じゃなきゃ、アリコーンのムート君の体が入らないからです。あたしとリリエルちゃんはポチャリーヌに抱きつき、ラビエルがあたしの尻尾にしがみついていました。ミミエルはムート君の背中に乗っていた。パラクさんは、頭を抱えてしゃがんでいます。


 海竜の口が光ったと思ったら、周り中が爆炎に包まれた。


 バリヤーは熱と衝撃を防ぐので、空気の振動も防いでくれます。なので、音も聞こえないはずなのに、爆発音が聞こえてる。どんだけ大きな爆音がしてるのか、想像するだに恐ろしいよ。


 小さく、ズズズと音がしてます。周りに充満している煙が晴れると、恐ろしい光景が見えて来た……

 さっきまでは50m位の高さのある山の前にいたのに、無くなっていました!

 いや、山どころか、周りの森も無くなってる。


 シードラゴン達の里が消えてしまいました。


「ああ……1400年守って来た里が……」

 パラクさんが悲しそうに言いました。

 犠牲者が出なかったのが、不幸中の幸いです。いや、一人いました。でも、アイシャを犠牲者にはさせません。必ず救ってみせる。

 もし救えなかったら、明るく可愛いリップがこの先、泣いて暮らさなきゃならなくなります。そんな事はゼッタイさせない!

「……でも、どうすればいいの?……」


「あれだけの威力のブレスを出した後だ、暫くは大きなパワーを出せない……おい、まさか嘘だろう? またブレスを撃つつもりだぞ」

 ポチャリーヌが驚いていた。そうなのです、威力の大きいブレスの連発は無理なのです。たとえワイバーンでも不可能なのです。

 でも、海竜は再びブレスを発射した。

 今度は範囲を絞って来ました。と言う事は、威力が上がった一撃ですよ。爆発じゃなくて、炎の奔流を浴びせられた。

 後ろを見たら、地面が一直線にえぐられていました。しかも島の反対側まで届いたのか、海が見えてるよ。


「なぜブレスを連発出来るのだ?」

 ポチャリーヌは頭をひねりました。それにムート君が答えました。

「この海竜は、ドラグランデの海竜に似てるよ。僕の居た世界の海竜は、異空間から魔力を補充できたんだよ」

「なにそれ、ズルい」

 ムート君の背中のミミエルが不満げに言った。

「そんなのどうやって倒すのだ?」

「いや、倒しちゃダメでしょ?」

 ラビエルの言葉に、あたしが速攻突っ込んだ。


 ブレスが効かないとみるや、海竜は物理攻撃をするようだ。前足…っていうか、ほとんど腕なのですが、それで殴ろうと拳を振り上げてる。

「まずいぞラビエル、バリヤーごと皆を転移だ」

「このバリヤーなら大丈夫じゃないのか?」

「バリヤーは持つが、あの巨体で体重を掛けたパンチだと、バリヤーごと地面にめりこむぞ」

「て、て、転移である」

 慌てるラビエル。

「それなら、あの山の頂上に行ってもらえませんか?」

 そう提案したのは、パラクさんです。彼女が指差した先には、標高300m程の三角形の山があります。実はこの山は火山で、山頂には古い火口の跡があります。そこに誘い込むのでしょうか?

「あの山の火口には、大型の魔獣を捕らえる罠があるのです」

「なるほど、ではあそこの火口だ」

「ガッテン承知!」

 などと話し合っていると、海竜のパンチが飛んで来ました。凄いパワーの持ち主だけど、動きは遅いです。

 あたし達は、ぱっと転移しました。


 そこは直径40m程の、すり鉢状の火口でした。火山活動はしていないようで、火道(かどう)は埋まっていました。ちなみに火道(かどう)とは、マグマの通り道の事です。

 火口の中に転移したけど、罠は大丈夫なのかな?

「罠は私が作動させない限り、大丈夫です」と、パラクさん。

 大丈夫だった。

「ここに追い込み、結界で捕らえて封印するしかないと思います」

 パラクさんはあたし達に言いました。彼女もアイシャを殺したくないのでしょう。

「そうね……封印して、何とか助ける方法を考えなきゃ…」

 あたしもそう言うけど、助ける方法なんて、ディアナ様かポチャリーヌを頼る以外ありません。


「よし! では海竜をここに、おびき寄せなくてはならんな」

 そう言ってポチャリーヌが立ち上がった。

 その時あたしは、火口の外で大きな魔力が渦巻いてるのを感じたのです。この感じはこちらを狙ってる?

「ちょっとまずいよ! 海竜がここを攻撃しようとしてるよ!」

 あたしはみんなに警告したが、間に合いませんでした。

 火口の壁が吹っ飛び、そして炎が周囲を焼き付くしました。炎はバリヤーで防げますが、崩れて来た土砂や岩は防げません。あたし達はバリヤーごと、火口の中に埋まってしまいました。


「みんな大丈夫か?」

 と、ポチャリーヌが聞くけど、バリヤーが転がったので、中にいるあたし達はシェイクされたよ。真っ暗でよく見えないけど、あたしの顔に何か柔らかい物が当たってる。

「これでは罠が使えませんね……」

 パラクさんの声が、あたしの頭の上あたりで聞こえます。え~と、位置的にいって顔に当たってるのは、パラクさんのおっぱいですかね。


「取り敢えず、外に移動するのだ」

 ラビエルがそう言うと、海岸に転移して来ました。ぱっと明るくなって自分の状況が分かったら、やっぱりパラクさんの胸に顔をうずめていましたね。

「あっ! 我が輩には、おっぱいの匂いを嗅ぐなと言っておきながら、自分はやっているのはズルイぞ」

「なな……なんて事を言うのよ。わざとな訳ないでしょ!」

「あ~~ハイハイ、今はそんな事、どうでもいいでしょ。それよりアレ、どうすんのよ?」

 ミミエルに怒られたよ。そしてミミエルの言うアレとは、海竜が島を出て行こうとしている事だ。あんなのが街に現れたら、大パニックだよ!


「あのまま海を渡ると、行き先はドラゴニアですね。海に出る前に捕まえないと」

「え? それヤバイじゃん! は……早く早くなんとかして!」

 あたしはラビエルを揺すって急かした。

「ま・ま・まて、行くから……行くから落ち着け」

「いや、僕が行きますよ。リゲイル!」

 そう言うと、ムート君がバハムートに変身した。いきなり大きなドラゴンに変わったムート君を見て、パラクさんが驚いていました。

 翼を広げて飛び立つ準備をしたバハムートは、海竜の後ろ姿を睨んだ。


「ムート君、アイシャさんを殺さないでね!」


 あたしがお願いすると、バハムートは右手の親指を立てて応えてくれました。

 バハムートはドーーンと飛び立つと、海竜を追い掛けて行きました。あたしは手を合わせて祈るしかなかった。おっと、いま女神様は保護施設におられるのでしたね、そちらに向かって祈ります。


「よし、我らも後を追うぞ」

 ラビエルがみんなに言いました。

 あたし達は飛び立ち、パラクさんはポチャリーヌが抱えて行きます。

 高度を上げると、遠くにバハムートと海竜が見えた。


 戦闘開始まで、もう後わずか……

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