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第66話 シードラゴンの里-3

 シードラゴンの里から戻って来て、一週間が経ちました。

 リップとルージュはルカエルさんに連れられて、アイシャの元にいます。少しでも長く、側にいたいのかな……

 いやいや! これからもアイシャには元気に生きていてもらわなきゃ。そのためにあたしに出来る事は何でもやるんだ! 何としても助けなきゃ!


「何としても助けなきゃ! などと言っていたが、そんな事は出来るのか?」

 なんて言って、ポチャリーヌがジト目で見てるよ。

 今日はムート君のお家で待機中です。


「そんな勢いだけで解決出来るのなら世話無いぞ」

「うう……」

 ぐうの音も出ないあたし。

「今二人はシードラゴンの里か……。母親との最後の時を過ごしておるのだろう」

「最後なんて言わないで! ゼッタイ最後にはさせないんだから!!」


 あたしは思わず叫んでいました。アイシャは今まで、無理やり子供を作らされた被害者なのに。ようやく自由の身になれて、幸せになれるはずだったのに。死んでしまっていいはずが無いよ。

「落ち着いてナナミィちゃん。使徒様達が色々調べられているので、何か解決策が、きっとあるよ……」

 鼻息荒いあたしを、ムート君がなだめてくれました。ムフーー!


「まあそう心配するな。(わらわ)も良いアイデアを思い付いたところだからな」

「そうなんだ、こんな時に魔王は頼りになるね。ところで、リリエルちゃんはここにいて大丈夫なの? ラビエルとミミエルも、空中神殿で調べものしてるんでしょ?」

「私のお仕事は、討伐隊の皆さんのお世話なのですぅ」

 フンスっと、ドヤ顔のリリエルちゃん。


「……邪魔になったから、こっちに押し付けられたんじゃないのか?」

「ええ? ……でもなんか、想像できちゃうよね……」

 ヒソヒソと話すポチャリーヌとムート君。実はあたしもそう思っていた。一生懸命みんなのお手伝いをするんだけど、資料とかひっくり返したりして邪魔になるリリエルちゃん。仕方が無いので、あたし達のお世話を名目に追い出すペギエル様。


「な……なんですかぁ? 私はちゃんと役に立っているのですよ。そしてナナミィさんは、何で暖かな目で見てるのですかぁ?」

 両手をバタバタさせて、騒ぐリリエルちゃんに癒されていると、ブレスレットに着信がありました。

「こっちに来てくれ七美、ムート、ポチャリーヌ」

 ラビエルからの通信に、リリエルちゃんがみんなを空中神殿に送ってくれた。




 空中神殿に到着すると、ラビエルが出迎えてくれました。他にはミミエルとアウルエル様がいます。ディアナ様は沈痛なお顔をされています。


「ああ……みなさん、先代のエテルナ様と、それ以前の女神の時代のシードラゴンに関する事を調べたのですが、とんでもない事実が分かりました」

 ディアナ様があたし達にそう言われました。その後の説明は、アウルエル様がして下さる事になりました。


「事の始まりは3代前の女神様です。その頃に暴れ回っていた海の魔物、海竜を何とかしようと、事も有ろうに海竜を別の生き物に作り替えてしまったのです」

「……シードラゴンが、海竜の生まれ変わった姿なのですか?」

 ポチャリーヌが、お嬢様口調で質問した。

「そうです。当時の女神様は、海竜を根絶やしにしない為に、穏やかなシードラゴンにしてしまわれたのです。しかも、メスだけしか産まれなくなり、居なくなったオスの代わりに、人間の男性との間でしか、子供が出来ないように作り替えられたのです」


「海竜といえば、僕の居たドラグランデの海にも海竜が住んでいましたが、大きさが全然違いますよ。もっと大きかったですね」

 と、ムート君が言った。

「……ひょっとして、人間と交尾する為に、体が小さくなったのでしょうか?」

「じゃあ、あんなに大きなおっぱいも、それが理由ですか?」

 女子組はエッチな事も平気で聞いちゃうよ。


「記録によれば海竜というのは、違う種族の竜種との交配が可能で、凶暴化したのもそれが原因だとありました。多分ですが、海竜の凶暴さを消す為に、穏やかな人間の血を入れたのではないかと思いますね」

「と言っても、人間とじゃ遺伝的に違い過ぎますわね。……これは、遺伝子の書き換えをしたのでしょうか。だとしたら、何と言う無茶な事を……」

 と、ポチャリーヌが呆れたように言う。


「君の言う通り、遺伝子をいじったんでしょう。例の6人目を産んだ後に怪物化、つまり先祖帰りを起こしてしまうようになったのです。今は異世界からの進んだ知識のおかげで、我々は遺伝子の事を知っていますが、あの当時は誰も知らなかったのです。違う生物を、魔法を使って無理やり掛け合わせたのでしょう」


「遺伝子のバグか!」

 これはあたしにも分かった。

「そう! まさにそれですわ」

 と言ってポチャリーヌは、ピシッとあたしを指差した。


「そうして怪物化してしまうシードラゴンを何とかしようと、先代のエテルナ様が、シードラゴンに寄生している、パラサイトを使う事を思い付いたのです。6人目を産んで凶暴化する前に殺してしまうように、手を加えたのです。ちなみに、6人目が出来なければ、そのまま共生関係を続けるそうですよ」

「6人目を産まなければ大丈夫という事ですか。……でも問題なのは、アイシャがすでに6人目を妊娠していて、出産予定日が1ヶ月後という訳ですが……このままじゃ、解決策がありませんわね」

 ポチャリーヌが気弱な事を言ってるよ。

「ちょっとあんた、いいアイデアがあるんじゃなかったの?」

 と言うあたしに、フフンと笑うポチャリーヌ。


「そうだ! この難問を解決する策は考えてあるぞ! (わらわ)に任せておけ!」


「ちょ……あんた、口調……!」

「演出だ。ここぞという所でバーーンと言えば、効果抜群だろう?」

「な……なんだって~~~!」「ですぅ!」

 ラビエルとリリエルちゃんが乗っかっちゃったよ。大丈夫か? これはペギエル様に怒られるヤツですよ。ああ……ペギエル様が横目で睨んでるぅ……


「それは本当ですか?」

 アウルエル様も驚いておられます。

「ええ。6人目を産むと危ないなら、産まなければよいのです」

 ピシッとキメ顔のポチャリーヌ。

「な……なんだって~~~!」「ですぅ!」

 あ……ペギエル様が二人の後ろに転移して、引っぱたいた。


「つまり、出産前にお腹の中から、子供を取り出すのです。取り出すと言っても、お腹を切る訳じゃありません。子宮に刺激を与えるのがスイッチかもしれないので、抜き取ってしまうのです!」

「それって、この前の影魔(えいま)を使った時のような?」

「まさにそれですわ。影魔(えいま)を使ってへその緒を切り、そのまま影魔が子供を持って体外に出れば完了です。昔私が自分の体でやってみた方法なので、成功間違い無しです」

「おおっ、そんな方法があるとは!」

 アウルエル様が感激しておられます。でもちょっと聞き捨てならないワードがあったぞ。自分の体でやった?


「ちょ……あんた、自分でやったって?」

 あたしは思わず聞いてしまった。

「前世では女王だったのですよ、世継ぎを産むのは当たり前ですわ。私も10人の子供を産みましたけど、5番目の息子の時は、やむを得ない事情により、出産の前に出してしまいましたの。自分のお腹がぺこっとなるのは、不思議な感覚ですのよ」

 オホホと笑うポチャリーヌ。


「こ……これからは、ポチャリーヌ・ママと呼ばねば……」

「それは、やめて」




 事前に情報を教えてもらったあたし達討伐隊のメンバーは、アウルエル様に連れられて、シードラゴンの里まで移動しました。今回はディアナ様も一緒です。シードラゴン達の現状と、里の様子をご覧になりたいとの事です。


 今日もパシフィカさんが出迎えてくれました。そして女神様を見てビックリ。

「これはディアナ様。このような僻地にお越し頂くなんて、光栄の至りです!」

 パシフィカさんは、平身低頭です。パラクさんも跪いています。

「私が女神になって、900年も経つというのに、あなた方シードラゴンについて無知であった事は、済まないと思います」

「そんな……勿体ないお言葉です」

 パシフィカさんは感動の涙をながしています。この世界で女神様がどれほど敬愛されているか、改めて知る事になりました。

 いつもは、楽しくて優しいお姉さんって感じなのですが。


 パシフィカさんに頼んで、里のシードラゴン達を集めてもらいました。シードラゴンについて知り得た事を、みんなにも知ってもらうためです。むろんパラクさんにも。


「そんな昔にそのような事があったなんて……、今までの疑問が氷解しました」

 アウルエル様に一通り説明された後で、パラクさんが言いました。1400年もの間、解けない疑問かぁ……大変だなぁ……あたしなら、秒で諦めそうだ。


 あたし達は妊婦さんがいる、北の洞窟に来ました。この前は気付かなかったんだけど、すみに小さなプールがあります。シードラゴンはこの中で出産するそうです。あの大きな体では、地上での出産は無理だからです。

 アイシャの側には、リップとルージュが寄り添っていました。二人共、すがるような目でディアナ様を見てます。

 あたしはリップの所に駆け寄り、そっと抱きしめました。


「大丈夫よ、絶対助けてあげるから!」

「ナナミィ……」


「では、すぐに処置を始めましょう。イリヤさんも準備よろしくて?」

 ポチャリーヌがイリヤさんに声を掛けた。彼はいろんな物を持たされていたので、ポチャリーヌの助手をするようですね。

「出て来なさい影魔(えいま)

 すると、彼女の影の中から、この前のクモが2匹現れました。

 ポチャリーヌは1匹のクモに小さなナイフと糸を持たせ、アイシャのお腹の上に置きました。

「このクモがお腹の中で、へその緒を切って糸で縛ります。子供を取り出したら、中に残った部分を魔法で除去します。それで完了ですわ」


 ポチャリーヌは一通り説明してから、処置を始めました。クモは消毒しなくても大丈夫なのかと思ったら、アイシャとクモは位相がわずかにズレてるから問題無いそうです。物質貫通の能力で、実際は触れていないそうだけど、あたしには理解出来なかった。

 ミミエルが「へぇ~~……そうなんだ~……」なんて言ってたけど、あんたも分かってないだろう? ラビエルとリリエルちゃんも頷いていたけど、こっちも怪しいもんだ。後からみんなに聞いたら、誰も理解出来なかったそうな……




「さあ、へその緒を切り離し終えました。後は……持ち上げて……」

 ポチャリーヌがそう言うと、アイシャのお腹から、小さなシードラゴンの赤ちゃんが出て来ました。予定日より一ヶ月ぐらい早いので、少し小さな体です。それでも、人間の子供よりは大きな体をしています。

 子供を掴んでいたクモが、赤ちゃんをポチャリーヌに渡しました。そして彼女は赤ちゃんの背中を叩きました。これは、赤ちゃんに息をさせるためですね。

 3~4回叩いたら、「ああう、ああう」と言って、息をし始めました。これで一安心なのかな?


 赤ちゃんをイリヤさんに渡したポチャリーヌは、大きなタライをアイシャの横に置き、短いパイプを彼女のお腹の横に付けました。するとパイプから薄ピンク色の水が大量に出て来て、タライの中に注がれました。何事かと思ったけど、これは子宮の中にあった羊水だそうです。魔法で子宮の中から抜いている訳ですね。

「さあ、これで終わりましたわ」

 ポチャリーヌがそう宣言すると、一同ほっと胸を撫で下ろしました。


 リップとルージュは、産まれた赤ちゃんを嬉しそうに見てる。あなた達の妹なんだよね。もう名前は決まっているんだって。


「初めましてネイル。お姉ちゃんですよ~~」

 リップがニコニコと笑顔であやしてます。

 アイシャは、へこんでしまった自分のお腹を、不思議そうに見てます。


「ありがとうございます、ポチャリーヌさま~~。ううう……」

 ルージュがポチャリーヌに、泣きながらお礼を言ってる。よかったね。

 ポチャリーヌはちょっと困った顔で聞いてるけど、あれはきっと、「(わらわ)に掛かればたやすい事よ! もっと感謝するがよいぞ!」とか言いたいのに、女神様が目の前にいるから言えないもどかしい時の表情なんだ。


「アイシャは助かりましたが、まだシードラゴンの問題は解決されておりません。何とか私達で解決策を探してみます。それまでは我慢して下さいね」

 ディアナ様がシードラゴン達の前で話されています。確かに、問題を先送りしただけに過ぎませんものね……

「まあ、なんにしても、アイシャが助かって良かったではないか?」

 ラビエルがあたしに言いました。


「でも、お腹の中のパラサイトは残ったままだよね?」

「あ奴は影魔(えいま)が赤ん坊を連れ出すのを見て、ポカ~ンとしておったぞ」

「え? あの顔に表情なんてあるの?」

 あたしとポチャリーヌが駄弁っていると、パラクさんが、ふと不安そうな表情をしました。

「なんでしょう……この魔力は。アイシャの魔力が大きくなってます……」

「何だと? ……ムムム、量だけじゃない、質も変わってきているぞ」

 ポチャリーヌが、眉間にしわを寄せて言った。

 まさか、これって……


「あ! ダメェ! アイシャの気配が魔獣の気配に変わったよ!!」


 あたしが叫ぶと同時に、アイシャが巨大な怪物に変わっていったのです。

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