第6話 バハムート様再び
フスマ残り4匹。
こちらは、ドラゴン二人に丸太1本。
向こうも警戒してるのか、膠着状態になってます。
フスマは、襲撃のタイミングをはかってるのか、周りをぐるぐる回ってます。
そのうちの1匹が、あたしの背後から襲いかかって来た!
迫る大きな口。何と言っても、ドラゴンを丸呑みできる程の大きさです。
あたしは、足と腕で口を押さえて、飲み込まれるのを防いだ。
「ウサミィ! こいつの口の中に丸太をブッ刺してぇ!」
彼女は少しためらったが、すぐに丸太を構えて飛んで来た。
あたしが身をよじって体をどかした所に、勢い良く丸太が刺さった。刺さった丸太は、そのままフスマの体を貫通した。
そして目玉がポ~ンと飛んでった。
目玉と言っても、ドラゴンの頭と同じ位の大きさですよ。
さっき見た時に気付いたんだけど、口の裏側に目があり、目玉のある場所だけ甲羅が無い事に。たぶんここが唯一の弱点じゃないのかしら。
まだバタバタと暴れてたので、口の中にブレスを叩き込んで、体の中から燃やしてやったら、ようやく落ちてった。
あと残り3匹。
「あ。しまった。武器の丸太も一緒に落ちてったよ。」
「大丈夫。さっきのやり方で倒せるよ!」
ウサミィが勇ましい事言い出した。
実はドラゴンって、穏やかな性格の女の子であっても、いざとなると勇敢に戦うことの出来る種族なのです。前世では、ケンカが嫌いだったあたしでも、友達を守るためなら戦えるようになってた。
近くにいたフスマを二人で捕まえて、口を無理やりこじ開けて、ブレスを叩き込んでやった。
さすがに二人分のブレスは強烈で、炎を吹き出しながら落ちてった。
あと2匹。
これなら勝てると思った時、残ったフスマが、変な声を上げて逃げてった。
やれやれ、なんとかなった。
疲れたあたし達は、地上に降りて一休みしようと、高度を下げた時、とんでもないものを見た。地上からさらに、フスマが5匹上がって来たのだ。
マジで?
さすがにこの数は無理だぁ……
くそっ。さっきの奴が、仲間を呼んだんだな。
もう戦うのは無理そうなので、隙を見て地上に降りて、どこかに隠れるしかありません。
下を見たら、森の中に良さそうな岩場があった。あの中に隠れてやり過ごせば……
でも、そんなあたしの思惑を見抜いたのか、5匹いっぺんに突進して来た。
あ。これはあかんやつだ…… と、思った瞬間、目の前が眩しく光った。
え? ビーム兵器なの?
……じゃなくて、もの凄い威力のドラゴンブレスだった!
2匹のフスマが、黒焦げになって落ちて行った。
この強力なブレス。まさかあの方なの?
「君たち、もう大丈夫だ。私に任せておけ」
バハムート様だ~~~!!
バハムート様の大きな体が、あたし達の頭上を舞ってます。
よかった。これで助かる。
フスマが1匹突っ込んで行ったけど、バハムート様の右ストレートと左アッパーで、真っ二つになった。まさにボクシングの、ストレートとアッパーだった。
残ったフスマは、慌てて逃げて行ってしまいました。
「もう下に降りた方がいいな。疲れているだろう?」
と、バハムート様は、あたしらを気遣ってくれました。
さすがイケメンは、気遣いが違います。
ウサミィが戸惑ってますが、物の道理が分からないやつだ。
あたし達三人は、街道から少し離れた場所に降りました。
ちょっとした広場になってますが、直径10mぐらいのクレーターがあった。さっきの超ブレスであいた穴だった。
この前の魔力弾じゃないのは、あたし達を巻き込まないためだったんだ。
それと、森の中にスカイフィッシュの残骸らしき物が散乱していた。
この子らを襲ってたから、地上にフスマがいたんだ。
「また助けていただいて、ありがとうございます」
「ちょ……ちょっと、このおっきなドラゴンは誰? あなたの知り合い?」
初対面のウサミィは戸惑ってます。
「え~~……この前、ウリルと一緒に助けてもらったんだけど……」
よく考えたら、それだけの関係だった。
あれ? 何で今日は、あたしがピンチだって分かったの?
「そう言えば、何でバハムート様は、あたしがここに居るって分かったの?」
「それは、その腕にはめたブレスレットが、君の位置を教えてくれるからだ。それに、危険な目にあっているのも分かるのだよ」
あの使徒様からもらったブレスレットだ。
「まあ。そうなんですか!」
感激するあたし。
「あ……あれ? それって、あたしが監視されてたってコト?」
あたしが眉をひそめながら言うと、バハムート様が慌てて
「いやいや、君の安全を考えての事だよ」と言った。
「そんなにあたしを、討伐隊に入れたいの?」
「いやいやいや! その……、私が君を助けてあげたかったからだよ」
バハムート様は頭をガリガリ掻いて、照れながら言った。
なんて事! 照れるイケメンなんて、最高かよ!!
しかも、あたしのためって……
憧れのアイドルから「君のために」って言われたようなもんだ。
うん? 何でこのブレスレットの事を知ってるの?
「バハムート様って、使徒様のお知り合いなんですか?」
「ああ。ラビエル様に協力している」
「えぇ? 討伐隊の『他の仲間』って、バハムート様の事だったんですか?」
「うむ、そうだよ」
「入ります! 討伐隊」
即答だった。
「おお~、そうかそうか! 我が輩が見込んだ通りだな!」
いきなりウサギがあらわれた~~~!
目の前に、ポンって出て来たよぉ~~~!
こいつは使徒ラビエルだよ。
「まあ、詳しい話はまた今度しよう」
ハハハと笑って、あたしの肩をポンポンと叩いて、ぱっと消えた。
なんなの?
っていうか、今までの会話を聞いてたな。
「そういう訳なら、これから一緒にがんばろう。それとこれ」
と言って、バハムート様は、首に掛けてた物をはずして差し出した。
あたしはそれを受け取ってびっくりした。無くなったと思ってた、ウサミィにもらったお財布だったからです。
「君達を助けた時に、指先に引っ掛かっていたんだよ」
お財布には、かぎ爪が刺さって開いた穴があったけど、きれいに直されてた。バハムート様ってお裁縫も出来るの? あんな大きな手でも出来るんだ。
「それじゃまた」と言って、バハムート様は飛び上がり、凄い勢いで飛び去った。
「よかった~~……」お財布が戻り、嬉しくて涙ぐむあたし。
「まって。あの大きなドラゴンとしゃべるウサギは、いったいなんなの?」
途中から、ウサミィの事を忘れてた。
しょうがないよね?
帰ったらちゃんと説明すると約束をして、あたし達も飛び立った。