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第55話 闇に潜むモノ

 夏休みも終盤です。

 この世界の夏休みは宿題が少ないので助かります。


 さて、この世界に来て、無かったものがあったのです。

 ……それは何かと言えば……



「ねえ、何か面白い怪談話ない?」

 あたしは、ドラゴンのお友達に聞いてみた。夏と言えば怪談でしょ~。

「ナナミィは毎年夏になると、この質問するよね~」

 どういう事? 魔物や魔獣のいる世界なのに、お化けはいないの?

「怪談ってナニ? 伝説なら知ってるけどぉ」

 いやアイリィちゃん、伝説は恐くないだろ。

「幽霊の話の事? それって恐いの?」

 ウサミィまでそんなコト言う……。確かにドラゴンのメンタルは強いので、怪談向きじゃないけどね……

 結局今年の夏も、怪談は聞けなかった。



「どうした七美、いつにも増してボ~っとしているな?」


 ラビエルがいつも通り、失礼な事を言った。そんなラビをあたしはジトっと見た。

 ラビエルは慌てて自分のほっぺを押さえた。

 今日は引っ張らないよ…… なぜあんたは、ガッカリした顔をする?


「ま・まあいい、今日は困難な依頼があるのだ。我が輩らで解決するぞ」

「お~~!」

 ムート君がいつになく元気だ。

「ふ……ふん。行ってやらなくはないぞ…… 別にお主の為じゃないからな」

 ポチャリーヌは何でツンデレなんだ?


「怪しい森にある、古い屋敷を探索したハンターが、何組も行方不明になっているのだ。地元の人間は怖がって誰も近付かない場所なので、我々に依頼が来たのだ」

 おおっ! そんな場所が、トリエステにもあったのか。

「しかも、いわく付きの屋敷だそうで、地元では『死の家』などと呼ばれている」

 ラビエルがあたしに向かって、熱く語った。


「ねえ、何でハンターが、屋敷の探索なんてするの?」

 と、あたしは尋ねた。ハンター関係無いよね?

「古い屋敷なら、お宝が残ってるかもしれんからな。他には遺跡からお宝を持って来る事もあるぞ」

「えぇ? 遺跡って言ったら、文化財じゃないの? 荒らして大丈夫なの?」

「こちらでは、女神様や王家が関係した物以外は、保護対象じゃ無いからな」

「ああ……そうなの……」

 そう言う事なら別にいいか……


「で、その『死の家』の調査を依頼されたのだ。これから皆で向かうぞ」

 それって心霊スポット探索って事かな?

 ちょっと面白そう。


 あたし達は、さっそく目的地に転移した。



 そこは鬱蒼とした森だった。これはアレだ、入ったら二度と出られないって奴だ。この世界に転生して初めてこんな場所に来ましたよ。

 屋敷もかなり大きくて、ムート君の自宅よりも大きいです。そして荒れている。廃墟になってから何十年も経っているのか、石造りながら、あちこち崩れてる。話によると、この屋敷は貴族の別荘で、約150年前までは使われていたそうな。


「……そして事件があり、一族が死に絶えてしまったのだ。それ以来この屋敷では、怪奇な出来事が起こり続けているそうだ。廊下をさまよう死者を見た、といったウワサもあるのだ」

 なにそれ、ガチ幽霊屋敷じゃん。


「どうだ七美、恐いだろう? 恐けりゃ、やめてもいいのだぞ?」

「む! そんなワケないじゃん。さっさと行くよ!」

 この世界に来て初めての肝試しを見逃す手は無いよ!

 レッツお化け屋敷。


 ……そう思っていた時期が、あたしにもありました……




 先陣を切るのはムート君だ。

 彼は緊張した面持ちでドアに手を掛けた。

 ギギギィ~~~と、軋み音を立てて開きました。

 ムート君はゆっくりと入って行き、周りを見回した。


「大丈夫みたいだよ……」

 大丈夫って……中は暗いけど……

 壁の隙間から光が入って来てるので、真っ暗じゃないのが、せめてもの救いだ。

 ドラゴンの目なら、なんとか室内が見えます。


「なにしてる? さっさと入ればよかろう」

 と言って、ポチャリーヌが大股で入って行った。

 いやあんた、9歳の女の子の可愛いドレス姿で、ドカドカ入って行くんじゃないよ。

 ちなみに今日のムート君は、人間の姿をしてます。


「ほら、七美も入るのだ」

 あたしの後ろからラビエルが声を掛けた。

 あたしはドキドキしながら、入口をくぐりました。

 中は貴族の屋敷としては、普通な感じだ。まあ、何が普通かなんて、よく分からないけどね。


 ガタン!


「ギャーーーーーッ!」


 何か落ちた? ビックリしたっ! 思わず叫んじゃったよ!

 尻尾がピーンとなっちゃた。

「なに今の?」

 あたしは振り返ってラビエルを見た。ラビエルは首を横に振って、前方を指差した。

「許せ、(わらわ)が床板を踏み抜いたのだ」

「え……大丈夫なの?」

 ポチャリーヌが情けない格好で、片足を床に突っ込んでいた。


「ここは150年ぐらい放置されている廃墟なので、木造の部分は脆くなってるね。なので、皆で固まって歩くより、ばらけた方が良いと思うんだ」

 ムート君が提案してくれました。こういう時には頼りになります。ここから先は、あたしとラビエルが一緒に探索し、ムート君とポチャリーヌが別々に探索する事になりました。ムート君は、あたしと探索したそうな顔をしてたけど……


 あたしとラビエルは、屋敷内の部屋をひとつひとつ確認して行きましたが、どの部屋も荒らされていました。

 1階の部屋は地面が近いからか、窓の外から植物が侵入していた。食堂だった所なんか、雑草が緑の絨毯になってたよ。その絨毯に、見た事も無い虫がうようよいた。

「うひぃ!」

 叫ぶあたし。

「な……! どうした七美?」

 ラビエルが振り返って、心配そうにあたしを見た。

「いや何でもな……い……」


 ラビエルの後ろには廊下があるのですが、廊下を白い物が、スーーっと移動して行った。レイスかと思ったけど、目玉が付いてなかったので、レイスでは無いようだ。


 ……え? もしかして幽霊?…なの?


 あたしは慌てて廊下に出て、左右を見て今の白い物を探した。


 廊下はシーンとしていて、動く物は無かった。

「何だったんだろう今のは? ねえラビエル、あなたも何か変な物を見なかった?」

 窓があるおかげで、玄関ホールよりは明るい部屋ですが、そろそろ夕方なので、薄暗くなって来てます。ドラゴンの目にはまだ明るく見えてるので大丈夫なのですが、ラビエルの姿が見えない。


「あれ、ラビエル?」

 あたしは室内を探してみた。パートナーをほっぽって、どこ行ったあのウサギは。


「隣の部屋に行ったのかな…」

 あたしは食堂を出て、隣の部屋に入った。ここは厨房だったみたいで、かまどやシンクらしき物があった。

「ラビエル~~~どこ~~~?」

 呼べども返事はナシ。


 ……え? どこ行ったの?


 あたしは慌ててさっきの部屋に戻って、ラビエルを探した。

 ……いや、たぶん一人で勝手に他の部屋に行っちゃったんだよ。後でほっぺをつねっておこう。うん。


 あたしは一人で部屋を見て回った。どこもボロボロで、お宝なんて見付かりません。本当にこんな所に、ハンターが宝探しに来てるのかな?

 そうこうする内に、夜になってしまいました。

 真っ暗になっては、ドラゴンの目でも見えません。でも大丈夫、魔力で灯るランタンを持ってるからね。ランタンを掲げて魔力を流すと、ほんわかとした明かりが灯ります。部屋の中がよく見えるようになったけど、小さな丸い光の玉がたくさん漂っていた。

 え? まさかこれって、心霊特集ではお馴染みの、オーブって奴?

 あたしは急いで部屋を出た。いえ、決して恐かったなんてコトはありませんよ。


 廊下に出たら、突然黒い影に腕を掴まれた!


「きゃーーーーっ!」ボウン!


 ビックリして悲鳴を上げたら、勢い余って口から炎が出ちゃった。

「うわっ! 危なっっ」

 あ。よく見たらムート君だった。

「ごめん、驚かせた?」

「ななな……なに言ってんの、驚くわけないっしょ」

 驚きすぎて、口調が乱れるあたし……


「向こうの部屋で日記らしき物を見付けたんだけど、大変な事が書いてあったよ」

 ムート君が説明するところによると、かつてこの辺りを治めていた、貴族の一家が暮らしていたそうだ。ある日恐ろしい怪物がやって来て、屋敷に住む一家を食べてしまったそうな。


「あれ? 食べられちゃったのなら、誰が日記を書いたの?」

「あ! あ~~…… 使用人の書いた日記なんだよ」

 ……なんか今、誤摩化した?


「あ! あれは何だ!」

 ムート君は部屋の隅を指差した。

 ……なに? なんかいるの?


「うわぁっ」

 ムート君の悲鳴だ!

 あたしは振り返って、ムート君を見ました。でも、姿が無い。


 いや、上だ!

 天井から魔物らしきモノが出て来て、ムート君を捕まえて持ち上げてったよ!

 ムート君は抵抗も出来ずに、天井の上に連れ去られてしまったのだ。


 あたしは急いで飛び上がって、ムート君を助けようとした。でも、なぜか飛ぶ事が出来なかった。足が床から離れないのです。

 パニクるあたし。

「うぎぎぎぎ~~」

 どんなに力を入れても、足が動かない。

 そんなあたしに、さっきの魔物が襲いかかって来た。天井からにゅる~と下がって来て、触手を広げた。その顔が超コワイ!

 笑うような口に、牙がずらりと並んでいた。伸びて来た触手をあたしに巻き付け、あたしも引っ張り上げるつもりだ!

 あたしは口を開けて、闇雲にドラゴンブレスを吐こうとした。するとその魔物は再び天井に戻って行った。


「た……助かった……」

 足元を見たら、何かの糸がくっ付いていた。クモの糸なのか? 手で引っ張ったら簡単に取れた。

 そんな事より、ムート君を助けなきゃ。あたしはブレスレットに向かって話し掛けました。

「ポチャリーヌ聞いてる? どこにいるの、早く来て! ムート君が大変!」



 ちょとぉ…… 返事をしてよ……

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