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第54話 ママを探して-8

 リリエルちゃんに連れられて、あたし達は目的地にやって来ました。


 海に突き出した小さな半島の先端に、隠されるように屋敷が建てられています。半島には、標高100mぐらいの山が連なっていて、先端部分で急激に落ち込み、岩がむき出しになった崖もあります。これじゃ、陸地側からは屋敷を見付ける事は出来ません。屋敷の前の海には、いくつもの島があり、海からも見付かりにくくなってます。

 まさに、悪党の隠れ家といった雰囲気だ。派手さの無い、実用本意なデザインだけど、そんな事はどうでもいいです。これからあたし達に壊されるんだから……


 まだ中に、ポチャリーヌや伯爵の娘とかいうシードラゴンがいるので、あたし達は屋敷の上空で待機中です。その間にあたしは、魔力を高めておきます。


「みなさん、ポチャリーヌから攻撃許可が出ましたですぅ」

 そう言うとリリエルちゃんは、両手を上げて「ハイパーどんぐり爆弾投下ですぅ!」と言った。

 次々に現れる大きなどんぐり。とんがった奴じゃなくて、丸い形のどんぐりだった。それが、数百個も召喚されたのですよ。


 一斉に落下して行くどんぐり。

 小さなどんぐりなので、そんなに威力は無いだろうと思ったら、かなりの威力でビックリだ!

 ドカンドカンと爆発して、屋敷の屋根がボロボロになってしまった。周りにある小さな建物は、全部倒壊しちゃったよ。


「シードラゴンを食い物にし、愛する二人を引き裂く奴に天誅を下すのだ!」

 そう言うとラビエルは屋敷に突撃。あたし達はそれに続きました。


 はっきり言って、やりたい放題。敵からの反撃はありません。

 ラビエルとあたしは、魔力弾を撃ち込んで、建物を穴だらけにしております。ムート君は以前見た攻撃魔法の、炎のブーメランを放っていた。


 ラビエルの攻撃がなかなか強力で、普段のヘボさが嘘みたいだった。

「ラビエルさんは、本来の姿に戻らないのですか?」

 リリエルちゃんがラビエルに聞いていた。

「それは、やめておいた方がいいのだ。本来の姿の攻撃じゃ、地殻ごと壊してしまうからな。100km先まで被害が出てしまうぞ」

「本当ですか? おっかないですぅ」

 リリエルちゃん、それは幾らなんでも大袈裟だと思うけど?

「あんた、それは盛り過ぎでしょ?」

 というあたしの言葉に、フッと笑うラビエル。

 ……マジで?


 なんて遣り取りをしながら、攻撃を続けます。

 リリエルちゃんは、どんぐりに代わって松ぼっくりを投下してた。桟橋に停泊してた船が、粉微塵に吹き飛んでた。恐ろしい子……!


「もういいだろう。攻撃終了だ」

 そうラビエルが宣言し、あたし達は攻撃をやめました。

 下を見れば、屋敷は倒壊し、もはや原型を留めていなかった。

 こんなに激しい攻撃が出来たのは、ポチャリーヌが伯爵や衛士達をバリヤで守っていたからです。そうでもなければ、こんな事しませんよ。この屋敷が、シードラゴンを捕まえる前線基地のような物なので、二度と使えないようにぶっ壊したのです。



 アクダイン伯爵と部下の衛士達は、中庭に集められた。

 衛士達はすっかり戦意喪失しており、むしろビクビクしていた。そりゃそうだ、ここに女神の使徒が二人もいるのだから。つまり、今まで自分達がやってきた事が、女神様にもバレてしまうのだから。それは、王宮に知られる事よりも恐い事なんだよね。

「じゃあ、私が衛士さん達を、王宮に連れて行くのです」

 リリエルちゃんが、25人ほどいる衛士達を連れて転移して行きました。

 彼らは王宮で事情を聞かれる為に、連行されたのです。


「さて、アクダイン伯爵は、女神様のお決めになった法律を破ったので、女神様に叱られて下さいね」

 ポチャリーヌはそう言うと、再び伯爵をバリやで包んだ。何を今さらと思って見てたら、彼女はムート君に声を掛けた。

「そら、これでいいだろ?」

「そうだね」

 ムート君は伯爵の前に歩いて行った。伯爵も純白のアリコーンを見て、女神の子供だと気が付いたようだ。

「あなたは知らないだろうけど、伯爵は人の恋路を邪魔したんですよ」

 と、にこやかに言うムート君。すると、クルッと体の向きを変えて後ろを向いた。そして後ろ回し蹴りで、伯爵がぶっ飛んで行った。


 人の恋路を邪魔した人が、馬に蹴られてしまいましたとさ。

 バリヤのおかげで、伯爵は無事だったけど……


「では、伯爵は私が連れて行きましょう。あなた達は早く、お姉様達に合流して下さいな」ポチャリーヌは漁港の方を指差した。「早くね」と念押し。

 にっこ~りと微笑むポチャリーヌ。超イイ笑顔だけど、あたしはピンと来た。ラビエルとムート君も分かったようだ。これはやらかすつもりだ。

 あたし達は急いで飛び上がり、全速で離脱しました。


 ポチャリーヌは伯爵を連れて、す~っと上昇して行きました。

「それでは最後のお掃除です。これに懲りたら、もう二度とこんな事はやめて下さいね。さもなければ……」

 ポチャリーヌは崩れた屋敷を指差した。

 こうなるぞ、っていう脅しかな?


 と思ったら違った。彼女の指先がピカッと光ると、屋敷のあった敷地が真っ赤に光り出したのだ。

 光っているだけじゃ無かった。木造部分は一瞬で炭になり、石材や土の地面は溶け出し、まるで溶岩のようになった。屋敷には地下室でもあったのだろう、溶けた地面は地中に落ち込み、周りの海から海水が流れ込んできました。

 そして一瞬で蒸発する海水。よくテレビで、火山から流れ出た溶岩が海に流れ込んで、盛大に水蒸気を上げる様子を見たけど、そんなレベルじゃ無かった。


 水蒸気が一瞬で膨張、大爆発!!


 衝撃波のドームが発生した次の瞬間、地面が吹き飛んで、爆煙に包まれてしまった。

 少しして煙が薄くなり、周りの様子が見えるようになって来た。

 半島の先端が無くなっていました。小さな島も、影も形も無くなっていた。

 地形まで変えてしまうとは……、魔王、恐るべし。


 伯爵は顔面蒼白で固まっていた。

「よくご理解されたと思いますが……」

 ただただ頷く伯爵。

「そう、よかったですわ」


 ……もう一度言おう、魔王、恐るべし。




 あたし達は再び漁港に戻って来ました。そこには新たなシードラゴン、ルージュとリップがいました。リップはさっき馬車に乗っていた子です。ルージュは彼女のお姉さんだそうな。ルージュも可愛いブラジャーをしていた。それに髪を三つ編みにしていて、とっても可愛い。

 で、そのルージュが一人の男の人に寄り添ってるけど、どういう関係?

「私はイリヤと言う。伯爵様の元で、シードラゴン達の世話と護衛をしていた……」

 イリヤさんはそう言いつつ、ルージュの首に手を回していた。この二人、お互いに好きなんだなと思った。

 それと、メイドさんが4人ばかりいた。


「このイリヤは、かつてハンターとしてAランクまで行った奴ですよ」

 コンが説明してくれました。それは凄いぞ。コンとポンは、今やポチャリーヌの手下みたいになってるよね……


「……それで私達は、どうなるのでしょう?」

 セレンがラビエルを見て、恐る恐る聞いた。

 そうだよね、セレン親子を助け出しはしたけど、パパと一緒に暮らす事は出来ないんだった。せっかくパパと娘が仲良くなれたのにね。

「う……む、そうであるな……、何とかディアナ様に掛け合ってみるか……」

 さすがのラビエルも、安請け合いは出来ないよね。

「そうなのですぅ、こんな親子を引き裂くなんてダメなのですぅ」

「そうねぇ、シードラゴンだって、好きな人といたいだろうし」

 おお! リリエルちゃんとミミエルも賛成してくれてる。


「あ……あたしだって、大好きな人といたいもの!」

 ルージュもイリヤさんの足にしがみついていた。

 好きな人と暮らしたくても、法律がそれを許さない。切ないなぁ……


 後から聞いた話では、ルージュ以前にもシードラゴンのお世話をしてたそうですが、その時は適度な距離を置いて、必要以上に親しくならなかったそうです。でもルージュはそれまでのシードラゴンと違い、我がままで偉そうなお嬢様で、それでいて優しく思いやりがあり、好きになってしまったそうな。

 実は二人きりの時コッソリと、ハグやキスをしていたんだって。

 くそ……うらやましいぞ……


「それで、使徒3人が訴えれば、法律の改正は出来ないのかな?」

 あたしはラビエルに聞いてみた。


「私を入れて4人ですね」


 横を見ると、さも当然のようにペギエル様が立っていた。

「……!! まあ、これはペギエル様。どうしてここに?」

 ちょっとビックリしたけど、あたしは冷静を装ってみた。

「……チ」

 チっとか言ったよ、このひと。もう驚かないよ。


「今回の件は、ディアナ様もご存知です。まあ、あれだけ派手にやればね……」

 ラビエル達が、ヒィッて顔になった。

「取り敢えず早急に皆を集めて相談します。なので、あなたがたも空中神殿に帰って来なさい。それと、ここに居るシードラゴン達は、ベルミオさんの所で保護しておいて下さいな」

 それだけ言うとペギエル様は、神殿に戻って行かれました。


「では、彼女らをベルミオ殿の家に転移させよう」

 ラビエルがそう言うと、その場の全員が転移していった。



・・・



 あれから2週間が経ちました。

 アクダイン伯爵と、彼からシードラゴンを買った貴族連中は、魔物保護法違反で全員逮捕されました。その時に捕まっていたシードラゴン達も、保護されたそうです。

 大きな罪ではないので、罰金だけみたいですが……

 ただし、女神様の定めた法律を破ったと言う事で、社交界では大ダメージになるんだってね。ざまぁ……です。


 その法律も改正されました。

 シードラゴンが望めば、人間と一緒に暮らせるようになったし、正式に結婚する事も可能になりました。

 法律上、人間・獣人・ドラゴン族以外の婚姻は認められていないのですが、人間としか子作りが出来ない種族という事で、シードラゴンと人間の結婚が認められたのです。


 セレンとベルミオさん、ルージュとイリヤさんは、すぐに結婚しました。


 セレンとアクアは、ベルミオさんの自宅に住む事になったけど、ルージュはどうなんだろう?

「ルージュとリップは、海辺に作られたシードラゴンの保護施設で暮らしていますよ。もちろんイリヤさんもね。彼は施設長として、他の被害に会ったシードラゴンの世話もしています。それに伯爵家に仕えていたメイド達も、そこで働いています」

 そうペギエル様が教えて下さいました。イリヤさんはハンターに戻って、ルージュと一緒にシードラゴンの保護活動をしているんだって。


 それと驚いた事がひとつ、貴族に買われたシードラゴンのうち、二人ほど元の貴族の家に戻りたがった事です。どうやら一緒に暮らす内に、お互い本気で好きになったからですって。

 アクダイン伯爵の相手だったアイシャは、妊娠中だけど海に帰って行きました。自然の海で子供を産みたいからだそうです。


「法律を作った100年前では、シードラゴンは歌で人間を誘惑して、子供を作るためだけに、人間と係わる種族だと思われていたのです。それに、性欲を満足させる道具として乱獲されていたので、ああいった法律が出来た訳です。それが人間と愛し合うようになるとは、想像も出来ませんでしたよ……」

 そう言ってペギエル様はため息をつきました。アクアがペギエル様を不思議そうに見てた。あたしとラビエルは、ペギエル様に連れられて、セレンとアクアに会いに保護施設に来たのでした。



「全てうまくいってよかったな七美」

 あたしの横でラビエルが、かっこつけて言った。

「うん。でも、種族が違うのに愛し合えるのってステキね」

「やはり女の子は、恋愛話が好きなのだな……」

「ふふん、そうよ」

 と言って、つないでいる手に力を入れてやった。

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