表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/406

第51話 ママを探して-5

 イリヤは釣りをしつつ、ワイバーンの到着を待っていた。


 小型の望遠鏡で、アクアと一緒に居る3人を見張っていると、彼の持つ通信機から声が聞こえた。

「イリヤ、もうそろそろ現場に着くぞ」

 声はワイバーンからだった。

「ディックか? どこだ? ああ、そこか。説明は聞いたと思うが、ブレスは使うなよ。お前が討伐対象になってしまうからな」

「分かってるって」

 そう言うとディックは一気に上昇して、港の周りを取り囲む山の陰から姿を現し、3人の上を旋回しがら威嚇をした。

 思った通り、3人はパニックになって右往左往しだした。


「そろそろ移動しようか……何だあれは?」

 イリヤが見たのは、海から接近して来たドラゴンだった。しかもそれは、有り得ない程大きなドラゴンだったのだ。普通ドラゴン族のサイズは、人間より少し大きい程度だが、いま近付いて来るのは、6m以上もあり、ワイバーンと同じ位なのだ。


 そのドラゴンが、ワイバーンにドラゴンブレスを吐いた。

 ワイバーンが縄張りに入ったから攻撃してきたのか? いや、こんな所にこんな大きなドラゴンが居るなんて知らないぞ。

 よく見ていたら大きなドラゴンは、下の3人をかばってワイバーンを攻撃しているのが分かった。


「どうなってる? これじゃ近づけんぞ……」

「お~~いイリヤ、何だこいつは? どうすりゃいい?」

 慌てたディックから通信が入って来た。

「取り敢えず逃げ回って、下に居る人間達を牽制していてくれ。後はリップが何とかしてくれるだろう」

 そう言われてディックは、堤防の近くの海面を見た。そこには海面から顔だけ出したリップが、ひれを振っていた。

 ディックは何度かドラゴンの攻撃をかわした後、ブレスを吐くフリをして、その場に居る者の注意を引いた。


「今だリップ」

 ディックは下に居るリップに言った。

「まかせて!」

 そう言うと彼女は、海中から飛び出し、堤防の端に居たアクアに抱きついて、海中に引っ張り込んだ。

 アクアはパニックになったが、リップが彼女の耳にクチバシを付けて話し掛けた。それはシードラゴン同士が、海中で会話するための方法なのだ。


「落ち着いてアクア。私はセレン・ママに代わって、あなたを迎えに来たのよ」

「え? ママが?」

「そうよ。だからおとなしく付いて来てね」

「わかったよ、お姉ちゃん」

 お姉ちゃんと言われて、ちょっと嬉しくなったリップが、アクアを連れて馬車に戻って行った。

「イリヤ、ディック、ミッションコンプリートよ」

 そう、通信機に語りかけた。


「よし! いいぞディック。屋敷とは反対側に離脱してくれ」

「了解」

 そしてディックは、急いでその場を離れた。幸いドラゴンは追って来なかった。


「さて……俺は歩いて行かなきゃな……」

 そうつぶやいたら、通信機からメイドの声がした。

「1kmぐらい行った所で待ってますので、早く来て下さい」


 イリヤは慌てて走って行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「アクアちゃんがいない」


 ワイバーンが逃げ去って、全員の無事を確認したら、アクアが見当たらなかった。

 戻って来たリヴァイアサンのグライムが、海中を探してくれたけど発見出来ず。


「まさか、ワイバーンが恐くて、一人で逃げちゃったの?」

「僕がバハムートになった所為かも……」

 あたしとムート君は、がっくりしたよ……

 ちなみにあたしは、ドラゴンのままです。人間の姿になると、服を着てない状態になるしね。さすがに人間の男性の前で、裸はまずいでしょう。当然服は持ってるけど、空を飛ぶのに、ドラゴンの方がいいからね。

 ムート君はアリコーンに戻ってます。


「ベルミオさん大丈夫ですよ、私達で二人とも探してあげますよ」

 エクレアナさんがベルミオさんを慰めてた。

 少ししてからポチャリーヌが戻って来ました。この子はまだ魔王姿だ。取り敢えずワイバーンとアクアの行方不明を説明しました。

「分かった、調べてみよう」

 と言って、また海の上に飛んで行った。


「アクア以外に、シードラゴンが居た形跡があったぞ」

 戻って来たポチャリーヌが報告した。

「え? じゃあやっぱりあれは、シードラゴンだったんだ」

「私も見たわよ」

 あたしだけじゃなく、マカロンナも見てたんだ。

「ふむ……、二人の記憶を見てみよう」

 そう言ってポチャリーヌは、あたしの額に自分のブレスレットをかざした。すると、魔獣図鑑の時のような、四角い画面が空中に現れて、あたしが見た景色が映った。こんな事も出来るのかと思ったが、これはポチャリーヌの魔法で、あたしには無理なんだそうだ。残念。


 画面には例の海獣が映っていた。よく見るとシードラゴンだった。それも、アクアより年上のようだ。次はマカロンナの記憶を見た。ずっとワイバーンが映っていたが、一瞬下を向いた時に、海の中から出て来たシードラゴンに、アクアが連れていかれるのが映っていた。


「こいつか……。う~~む、どこかで飼われているのか? 髪の毛にたくさんリボンを付けているぞ」

 よく見たら小さなリボンを付けていた。可愛い。

「と、なるとワイバーンも怪しいな。誰かがワイバーンをけしかけて、皆の注意が逸れた所で、シードラゴンを使ってアクアを誘拐したのか……」

 何それ? シードラゴンをさらう密猟団ってコト?


「あ! そう言えば、さっき釣りに来た人が居ないわよ。さっきの騒ぎで逃げたのかしら?」

 マカロンナが思い出したように言った。

「なるほど、そいつが手引きしたんだな……」

 ポチャリーヌがぽつりと呟いた。口は笑ってるのに、目が笑ってないぞ。ちょっと恐いんですけど?


「その笑顔が恐いぞ、魔王」

「当たり前だ。(わらわ)のお姉様が、危ない目に遭ったのだぞ。誰だか知らんが許さん」

 魔王こえぇよ……

「そうだ。ムートは上空から見てたな。記憶を見せてみろ」


 今度はムート君の額にブレスレットをかざした。そこには、さっきの騒動を上から見た映像が映っていた。ポチャリーヌは画面を拡大して、あちこち確認していた。

「これだ!」

 そう言って指差す所を見ると、一台の馬車が港の外れに停まっていた。

「窓の所を見てみろ、女が一人いるな。これは、メイド服を着てるのか?」

 馬車の部分を拡大すると、黒い服を着た女性が、窓から外をのぞいていた。

「こんな場所に、御者のいない馬車が居るのは、なんとも不自然だな。アクアはこの馬車に乗せられたので間違い無いだろう」

 そう言ってポチャリーヌは、画面を消した。

「早く助けに行こうよ!」

 焦って飛び出しそうなあたしを、ポチャリーヌが止めた。

「まあ、待て。ムートはお姉様とベルミオに付いててくれ。ナナミィとリリエルとラビエルは、(わらわ)と一緒に来るのだ」


 ポチャリーヌは「リゲイル」と唱えて変身を解いた。するとデッカイおっぱいは、しゅ~んと縮んで、背もストンと低くなった。そしていつもの可愛い少女になった。

 ……中身はあんまり可愛くないけど……

 体が縮んだおかげで、服が脱げてしまいました。大人用の服と下着をブレスレットにしまい、素早く子供服を着た。


「では、犯人を捕まえに行くか」

 あたし達は、さっきの馬車を追い掛けて、飛んで行きました。



 漁港から東に向かって、道沿いを飛んでいます。

「転移魔法で逃げちゃうんじゃないの?」

 と、あたしは疑問に思った。

「それは大丈夫だ。そんな事もあろうかと、ここいら一帯に、転移妨害魔法を展開しておいたのだ。走って逃げるしか出来ぬぞ」

 クククと笑うポチャリーヌ。だから恐いって。


「あ! あれではないのか?」

 さっそくラビエルが、例の馬車を発見したよ。さっきのメイドさんが御者をしていました。彼女は手綱を握りながら、後ろを何度も振り返っていた。でも残念、敵は上にいるんだよ。


「転移妨害魔法は解除。そして、ステイシス・フィールド展開」

 ポチャリーヌがそう言うと、馬車がピタリと止まった。停車じゃなくて、動画を一時停止したみたいに、その場で凍り付いていた。魔法すげぇ。

「じ……時間を止めたの?」

「いや、時間を止めるには膨大な魔力が必要だからな、これは此奴らの動きを停滞させる魔法だ。『ステイシス』は停滞の事だな」

 まあ……動けなくなる魔法と言うわけね……


 あたし達は下に降りて、馬車をのぞき込んだ。

「あ。アクアちゃんがいたよ。早く助けよう」

「待て待て、それじゃセレンは助けられないぞ。ナナミィはここで待機だ。それとリリエル、(わらわ)と一緒にハンターギルドまで来てくれ」

「はいですぅ」と言って、リリエルちゃんはポチャリーヌと消えた。


 10分程して二人は帰って来たのですが、タヌキが一匹付いて来た。こいつは以前会った、古狸(こり)のポンだ。リリエルちゃんは再びどこかに転移して行った。


「いやぁ、姉御にお願いされたら、断われませんぜ……」

 ポチャリーヌはフフンって顔をしてる。いつの間に子分にした?

 ポチャリーヌは馬車の扉を開けて、アクアを引っ張り出した。そして彼女をポンの前に置いた。

「よしポン、この子に変身しろ」

「は……はい!」

 ポン変身。

 さすがに頭の上に、葉っぱを乗せたりしなかった。アクアそっくりに化けたけど、これからどうするのかな?


「よし、ナナミィとラビエルは、アクアをベルミオの元に届けてくれ。(わらわ)はポンと一緒に馬車に乗って、敵のアジトからセレンを助けて来るぞ」

「それならあたし達で行った方が、いいんじゃないの?」

「いや、アクアをセレンの所に連れて行かれたら、こちらは正当性を失ってしまうからな。シードラゴンを保護したと言われたら、どうしようもない」

「でも、この人らも別のシードラゴンを連れてるじゃない。これって違法だよね?」

 そのシードラゴンは、あたしらが見たシードラゴンだった。さっきは分からなかったけど、彼女は服を着ていたのだ。小さなおっぱいを包んでいるので、ブラジャーなんだろうか? フリルがいっぱい付いていて、とても可愛い。


「どうやら敵は、単なる密猟者では無いようだ。シードラゴンの扱いも馴れているようだし、潜り込んで探って来よう。……そしてぶっ潰す!」

「いや~~、さすが姉御。恐ろしいでんな~」

「むむぅ。アクアちゃんの姿で、変なしゃべり方しないで!」

 あたしはアクア姿のポンに文句を言った。よっぽどあたしの顔が怖かったのか「ひいっ」とか言ってた。可愛い女の子に失礼な!


「ほらポン、早く乗るのだ」

 ポチャリーヌが呆れた顔で言った。ポンは馬車まで這って行ったが、扉が高い位置にあったので乗れなくて困っていた。しょうがないので、あたしが抱えて乗せてやった。


「すんませんねぇ」と礼を言ったので、あたしは「そこは、ありがとうお姉ちゃん、だよ」と教えてあげた。

「女の子らしくしなくちゃね」

「いや、ポンは何もしゃべるな。黙って首を縦と横に振っていればいい」

 それを聞いて、ポンは首を縦に振っていた。


「さて、停滞(ステイシス)フィールドを解除するか。その前に(わらわ)は消えておくとしよう」

 ポチャリーヌは馬車の上で、何か唱えた。

「レコグニション・ジャマー」


 するとどうした事でしょう! 彼女の姿が消えました!

「き……消えたぁ!」

 あたしがビックリしてたら、ブレスレットに着信があった。出てみたらポチャリーヌだった。

「消えたんじゃなくて、見えなくなったのだ。見ても聞いても、お主の頭が妾を認識出来ぬのだ。これを認識妨害魔法と言う。レコグニションとは認識の事だ。しかしブレスレットの通信は通じるので、連絡はこれでするぞ。それと、アクアの停滞はあと20分で解除されるようにしておいたからな」

 ほんとに魔王は、何でもありだね。


 あたしとラビエルは、アクアを連れて馬車から見えない位置に移動しました。

 少し見てたら、いきなり動き出してビックリ。

 馬車はあっという間に離れて行きました。アクアの方はまだ動かないので、今の内に港にいる皆の所に戻りましょう。


 これでもう大丈夫かな? なんて思ったけど、そんな甘い話は無かったのだった……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ