表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/402

第5話 ヒメランサの空中戦

 あの使徒様の、訳の分からない会見から2日目。


 自宅にまで押し掛けられる事もなく、一安心。もし気が変わったら連絡してくれと、ブレスレット型の通信機をもらいました。討伐隊とかに入らなくてもくれるそうで、ラッキーだった。


 転校生のムート君は、5日目からの登校なんですって。

 ドラゴンを可愛いなんて言う、ちょっと変わった子でしたね。



 今日は学校が休みの日で、いとこのウサミィと一緒に、隣町の人気のパン屋まで、おいしいパンを買いに来ました。隣町と言っても、片道20kmぐらいあります。そこに行くには、定期馬車に乗るしかありませんが、あたし達はドラゴンなので、空を飛んで行きます。


 トリエステの文明レベルは、地球で言う所の産業革命前ぐらいでしょうか? 石油や蒸気・電気などを使ったエンジンはありません。陸上の交通は主に馬です。海では帆船ですね。

 魔力を動力源にした乗り物は存在しているのですが、あまりにも高価なために、ほとんど普及していません。

 そして空は、ドラゴンの独壇場です。鳥やドラゴンの、空を飛ぶ原理を解明出来ない限り、飛行機の登場はまだまだ先でしょう。


 ただ、ドラゴンは魔力を使って飛んでるので、必ずしも翼の揚力は必要ないようです。しかし、自分の翼で試してみたのですが、魔力を使わなくても、揚力は発生するみたいで、スピードが出ていれば、グライダーのように滑空出来ます。

 こういう事が分かるのが、異世界転生者の有利なところですね。


 あたしがドラゴンに生まれてよかったのは、空を飛べる事です。

 雲の上まで飛び上がって、360度に広がる風景の中に身を置くと、すっごい感動します。地平線が丸く見えて、この世界も惑星の上にあるのを実感します。

 教科書には、この世界は球体の形をしていると書かれてます。意外な事に天動説じゃなくて、地動説の世界観だった。


 さて、話が横にそれましたが、お目当てのパンが買えました。この世界のパンも、日本で売ってた物と大差ありません。あたしが菓子パンをたくさん買い、ウサミィが食パンを3斤買ってました。


 もう帰ろうとしたら、店員さんから声を掛けられた。

「あなた達ドラゴニアから来たの? 空を飛んで帰るのなら、魔獣には気を付けて。この辺りにいるスカイフィッシュを狙って、フスマがやって来てるのよ」


 前世でも一時話題になった『スカイフィッシュ』。

 この世界には本当に居て、あちこちで見る事が出来ます。大人しい草食の魔獣で、空を飛びます。その姿は、B-2爆撃機のような形で、長細い触手のような腕をたくさん生やしてます。

 フワフワと飛び回っては、木の上に下りて、葉っぱを食べてます。これがけっこう大きくて、幅が5~6mぐらいあります。

 でも、『フスマ』と言うのは知りませんね。


「フスマって、何ですか?」と、ウサミィが聞いた。

「空を飛ぶ生き物を襲って食べる、肉食の魔獣で、空飛ぶエイのようなかっこうをしてるそうよ」と、店員のお姉さん。

「ま……まぁ、行きに見掛けなかったから、大丈夫よね?」と、あたし。

 いつものように、楽観的な事を、テキトーに言うあたし。

「私は、早く家に帰ってパンを食べるんだ」

 こんな時に、のんきにフラグを立てるウサミィ。恐ろしい子!


「じゃあ、気を付けてね~」

 店員のお姉さんは、帰るあたし達を見送ってくれました。


 あたし達は、町外れから飛び立って、ドラゴニアに向かいます。

 そう言えば、隣町の事を説明してませんでしたね。街の名前は、ヒメランサ。カラフルな家が建ち並んだ、ヨーロッパの観光地のような街で、600年前に建設されました。

 そんな街を、上空から眺めると凄く素敵。カメラが無いのが残念です。

 地球だったら、ぜったい世界遺産に認定された事でしょう。



「美味しいねコレ」

「ホント、私も今度これ買おう」

 なんて言いながら、二人してパンをつまみ食いしつつ、街道の上を飛んでます。

 地図が無くても、道に沿って行けば、ちゃんと帰れる訳です。

「焼きたてのパンは、凄くいい匂いがするね。匂いに釣られて、フスマが出てきちゃうかもよ?」

 ウサミィは、ウフフと笑ってるけど、冗談じゃないよ。

 それはフラグだ。

「そんな事言ってると、本当に出てきちゃうよ?」

「まっさか~~」と、ニコニコ笑ってる。

 誰か、フラグをボッキリ折ってくれる人はいませんか?


 今日の空には、雲がたくさん浮かんでます。あたし達はその雲の下を飛んでます。だいたい高度は300mぐらいだろうか? 眼下にはスカイフィッシュ達が、森の上をフワフワ飛んでます。

「あら? あれってスカイフィッシュじゃない? 今この雲の上にフスマが居たりして」と言って、ウフフと笑うウサミィ。

 ホントどうにかして……


 ゾワッッ


 あ…… 凄く嫌な予感が……

 背筋に嫌なものを感じ、上を見上げたら、雲の隙間に黒い物が見えた。

 これはまずいです。山に登ったら、クマに出会ったぐらいのヤバさです。

 少し大きな雲の下を通り過ぎて、青空の元に出ました。


 頭上には、黒い物が5つばかり動いていた。それは、エイと言うよりは、カブトガニのようで、固そうな甲羅に包まれてます。裏側には鋭い爪の付いた足がうごめき、体の真ん中には縦に開いた、牙だらけの口があります。しかも、ドラゴンよりはるかに大きくて、全長は8mぐらいあります。


「いた~っ! フスマだぁ!!」

 うわ、サイアク。


 5匹のフスマが、あたし達に向かって急降下して来た!

 下にはスカイフィッシュが居るのに、こっちに来るのって、まさか本当にパンの匂いに引き付けられたの?

 ウサミィがキャーキャー言って、パニックになってるので、尻尾をつかんで引っ張って逃げ出した。今日はたくさんの荷物があるので、大き目のウエストバッグを持って来たのはラッキーでした。激しく動いても、パンを落とす心配が無いからね。


「速く速く! ダッシュで逃げるよ!」

 ああ、でもウサミィはあたしより速く飛べるので、今はあたしが引っ張られてる。


 どんどんフスマに追いつかれて、おぞましい口が迫ってきた~~。

 ウサミィの尻尾を放して、別々に逃げる事にしました。

 彼女はピューーーッて飛んでってあたしは取り残された。

 なので、あたしだけが狙われる事に……


 くそぅ、しょうがない、ブレスで攻撃だ。

 目の前に迫って来たフスマに向けて、ドラゴンブレスを放った。

 ボンッと炎が直撃。そのまま落ちてった。

 ふふん、しょせん空飛ぶカブトガニ。

 ドラゴンに勝てるわけ……、 って、戻って来たぁ!

 他の4匹も近づいて来たので、炎を滅多矢鱈にバラまいて逃げた。


 でも、すぐに追い付かれそうになった~

 そう言えば、前世に見た映画で、飛行機の戦闘シーンを見たけど、あれを参考にすれば、あたしでも戦えるかも?

 まずは相手の頭上を取る。

 上昇して、フスマの上に出て見下ろせば、大きな目にギョロリと睨まれた。甲羅の割れ目に、眼球が一つ付いていて、時折左右から膜が出て来てまばたきしていた。

 真上からブレスを浴びせてみたけど、表面がこげただけだった。


 他の4匹も、次々に襲って来るので、右に左にかわし、殴ったり蹴ったりして何とか回避した。


 今日はパンを買いに来ただけなのに、なんて日だ!


「ナナミィよけて~~~!」

 上からウサミィの声がした。


 反射的にその場から飛び退いた次の瞬間、フスマ達が炎に包まれた。

 ウサミィの、豪快なブレス攻撃です。


 ひるんだフスマが、あたしから離れた所を、ウサミィが丸太でぶん殴った。

 バコンと良い音がして、1匹のフスマの体が折れ曲がり、墜落していった。

 どこに行ったのかと思ったら、下に降りて丸太を拾っていたのか。


「さあ来なさい! ナナミィは私が守る!」

 おぉっ! ウサミィが頼りになる。

 でも、ちょっと手が震えてるよ……

「大丈夫よ、あと4匹倒せば終わりだから。早くパンを持って帰らなきゃね」


 いや……だから、それはフラグだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ