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第48話 ママを探して-2

 セレンを乗せた舟は、海面の少し上に浮いていた。そのおかげで、音も無く近づき、彼女は気付く事が出来なかったのだ。

 舟には、立派な防具を身に付けた男達が乗っていた。身に付けた武器や防具も安い物じゃなく、それなりに高価な物だった。


「ここらでシードラゴンの目撃情報があったが、やはり居たな」

 男の一人が、セレンの顔を見ながら言った。

「後は伯爵様に届けるだけだな」

「しかし、でっけぇ胸だな」

 他の男が、セレンの片方の乳房を掴んだ。彼女は痛くて声が出そうになったが、なんとか我慢した。

「シードラゴンは、人間の女より具合がいいと聞くぞ。可愛がってやると、いい声で鳴くんだそうだ。伯爵様も、さぞお楽しみになられる事だろうぜ」

「まあ俺らには、伯爵様のお考えは分からんよ。それよりお前ら、彼女を乱暴に扱うなよ。傷付けたら伯爵様にドヤされるぞ」

「相変わらず、イリヤは真面目だな~」


 イリヤと呼ばれた男は、セレンの背中を撫でた。ひとしきり撫でた後で、彼女の顔を見てニヤリと笑った。

「ふん、ワイバーンのかぎ爪で傷が出来たかと思ったが、大丈夫みたいだな。なかなか頑丈じゃないか」

 セレンは少し戸惑った顔で、イリヤを見た。体を起こそうとしたが、結界でも張られているのか、身動きが出来なかった。


「よし、急げ! このまま外洋に出て、屋敷に向かうぞ」

 そうして舟は、スピードを上げて進んで行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 2日目になりました。


 今は学園の夏期休暇で、あたしやポチャリーヌ姉妹は、アリエンティ家別荘に遊びに来てます。それと、リリエルちゃんとミミエルも一緒です。


 昨夜はリリエルちゃんと一緒に寝ました。リリエルちゃんは、人間の姿のあたしのおっぱいを抱いて寝てました。やはり使徒様は、おっぱい好きなのか?

 そう言えば、何でポチャリーヌじゃなくてあたしなんだろう? そう聞いてみたら、ポチャリーヌは短い体毛が生えていて、直接おっぱいを触れないのがイヤなんだって。


 今日も元気に海で泳ぎます。あたしとポチャリーヌの水着は、昨日と変わってワンピースです。あたしはスクール水着、ポチャリーヌはハイレグのけしからん水着です。まあ、あたしがデザインしたんですけどね。

 逆にお姉様達は、セパレートタイプの水着です。と言っても、大きなフリルの付いたお嬢様っぽいデザインの物ですが。


「この水着はお腹が見えてるけど、昨日の物より好みかしら」

 なんて、エクレアナさんに言われたよ。好評なようでなにより。


 4人が水着姿で砂浜に揃ったところで、あたしはボールを取り出した。もちろんビーチバレーをするためだ。砂に線を引き、長方形のコートを作り、真ん中にネットを張りました。そしてあたしとエクレアナさん、ポチャリーヌとマカロンナで2チームに分かれて試合をしました。

 ビーチバレーの何たるかを説明して、さっそく試合を開始。

 結果、すごい盛り上がったよ。みんな砂だらけになって楽しみました。

 リリエルちゃんとミミエルは、体格の問題で参加出来ず。すごい残念がってたよ。


 みんな汗をいっぱいかいたので、海に入って洗い流しました。

 エクレアナさんは一人で、沖の方に泳いで行った。さすが獣人です、貴族のお嬢様でも泳ぎがうまいです。


「きゃっ、な……なに? なにかいる……ゴボゴボ……」


 ゆったり泳いでいたエクレアナさんが、いきなり慌てだした。まずい、これ、溺れてるんじゃない? エクレアナさんが海中に沈んでしまったよ。

 ポチャリーヌが慌てて片手をかざすと、エクレアナさんの体が浮かび上がり、そのまま空中に持ち上がった。


 すると、彼女の腰のあたりに、小さな動物がしがみついていた。それは、アザラシともマナティともつかない姿をした魔物だった。

 魔物だと分かったのは、さっきから「ママ~ママ~」と泣いているからだ。

 むろん、獣人のエクレアナさんが、ママの訳は無いよね。


 エクレアナさんと魔物を砂浜まで運んで、この子の事情を聞く事にしました。

 あたしが、ひょいと抱え上げて抱っこしました。大型犬ぐらいの大きさがあったけど、今のあたしの力なら軽いものです。

「ねえ、あなたはどこから来たの? ママはどうしてるの?」

 そう優しく語りかけると、その子はエクレアナさんを見てビックリした。

「あ。ママじゃない…… あ~~~んママ~~~」

 なんて、ベソベソと泣き出してしまいました。どうしよう?


「珍しいわね。この子、シードラゴンじゃないの」

 ミミエルが、シードラゴンの子の顔をのぞき込んで言った。

「かわいそうですぅ。ママを探してあげましょうよ~~」

 なんて、リリエルちゃんも一緒になって泣いてるよ。



「あたちはシードラゴンのアクアなの。ママはセレンというの」

 落ち着いたアクアから、事情を聞いてます。

「きのうからママが、おうちにかえってこないの……」

 話してる内に、アクアの目から大粒の涙がこぼれて来ました。あたしは抱き寄せて、ヨシヨシしてあげた。


「シードラゴンってのは、隠れて生活していて、滅多に人前には姿を見せないそうだけど、こんな所に住んでたんだ」

 と、ミミエル。

「ママはどこかにお出かけしたのですか?」

 リリエルちゃんが、アクアに聞いてた。

「ママはパパにあいにいったの。いつもは、ゆうがたにはかえってきたの。でも、あさになっても、ママはかえってこないの……」

「珍しいわね、普通シードラゴンって、交尾した相手とは二度と会わないのに。子供が出来た後も会っているなんてね。ああ、ちなみにパパは人間よ」

 と言うミミエルの説明に、ビックリするあたしとポチャリーヌ。


「え? どういう事? 魔物と人間の間に子供が出来るの?」

「うん、シードラゴンは特別な魔物で、メスしかいないのよ。子供は人間の男としか作れないらしいの。だから歌で男を誘惑して、交尾してるんですって」

「うへぇ……」

 ポチャリーヌがいやそうな顔をした。意外にもそういうの気にするタイプなんだ。


「まあ、そういう種族なんだから、しょうがないわよ。それにシードラゴンはいい男しか選ばないので、彼女らに選ばれるのは、男として箔が付くんだって。そういう男は『シードラゴンの恋人』と言って、一目置かれるそうよ」

 と言うミミエルの解説に、ポチャリーヌが「なるほど」とうなずいていた。



「そんな事より、早くこの子のママを探すですぅ!」

 リリエルちゃんが、ババーーンと主張したよ。両手を腰に付けて、仁王立ちだ。

「え~? でも、そんなの探しようが……」

「まず、ここらの海岸や島々を探すです。事件に巻き込まれてるかもしれないので、最初に目撃者も探してみるですぅ」

 おおっ! リリエルちゃんがやる気だ。反対にミミエルは乗り気じゃないようだ。


「さあ! ポチャリーヌにミミエルさん。共にこの子のママを探しましょう! あ、ナナミィさんも手伝ってもらえます?」

「も~~、なに言ってんの。手伝うに決まってるでしょ。一緒に探そう!」

「はいですぅ!」

 張り切るあたしとリリエルちゃん。さあ、行くぞ!

 その前に着替えなきゃ。この水着じゃ刺激的すぎるしね。


「それなら舟を出さなきゃね」

「それじゃあ私が操船しましょう」

 お姉様達も、付き合う気まんまんだよ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 2日目の朝、ラビエルとムートはベルミオに連れられて、港に来ていた。港と言っても小さな漁港で、小さな漁船が繋がれていた。

 3人が居るのは、湾内に伸びた石造りの堤防の上だ。


「今日は波も穏やかで、釣り日和ですよ」

 3人の手には、釣り竿が握られていた。

「釣りなんて久しぶりであるな」

 ラビエルは、釣り竿を上下に振っていた。

「僕なんて初めてですよ。ちょっと楽しみですね」

「ははは、針には気を付けて下さいね」


 3人は堤防の上に並んで座り、釣り糸をたらしていた。湾内に突き出した場所に居るので、50mほど先は湾の外になるのだ。そこからは大小様々な島が点在しており、天然の漁場となっている。

「ここら一帯はエルネスト家の領地でして、この海で捕れる魚介類は重要な収入源となっています」

「なるほど、勉強になります」

 ムートが感心して言った。

「お昼には、海鮮料理を御馳走しますよ」

「おおっ! それは楽しみであるな♪」



 などと楽しく釣りをしていると、3人の前を舟が通りかかった。

 そこには4人の女性が乗っており、獣人が3人、人間が一人で、獣人二人は日傘をさしていた。それとリスとキツネとアザラシ?が居た。


 そのリスがラビエルを指差して……

「あっ! ラビエルさんとムートさんですぅ」と言った。

「えっ? あぁっ、七美じゃないか。と、ポチャリーヌか?」

 ラビエルは驚いて立ち上がった。足を踏み外して、そのまま海にドボン。


 ラビエルはポチャリーヌに、魔法で助けられた。

「先輩はこんな所で何やってんの?」

 ナナミィにタオルで拭かれているラビエルを見て、ミミエルがあきれ顔で言った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 マカロンナの操る舟は、滑らかに島々の間を進んで行きました。

 でも、さすがに観光気分にはなれません。早くアクアちゃんのママを、見付けてあげなくてはいけませんから。


 あたし達は、この子のママの名前を呼んで、捜し回りました。海中に長細い姿があれば、飛び込んで確認した。それは、イルカだった……なんて事を繰り返して、とある港まで来ました。


「この近くには、小さな漁港がありますわね」

 と、エクレアナさんが教えてくれました。

「じゃあそこで、聞き込みをするです!」

 リリエルちゃん大張り切り。いつの間にか彼女が指揮を取っていたよ。そしてあたし達は、漁港に向かう事にしました。


 海岸線は低い崖が連なっていました。その崖が途切れた場所に漁港があります。

 湾の先に突き出した堤防に、人影があるので、舟で近付いてみました。そこの人に、シードラゴンを見てないか聞くためです。

 そして、堤防にいた人を見てみれば……ウサギが……


「あっ! ラビエルさんとムートさんですぅ」

 リリエルちゃんが指差して叫んだ。ビックリしたラビエルが海に落ちたよ。何やってんだあのウサギは? それにムート君までいるし……

 取り敢えずみんな上陸しようか。

 その前に、ラビエルを引き上げなくちゃね。



「先輩はこんな所で何やってんの?」

 相変わらずラビエルには厳しい事を言うミミエルだ。ラビエルはあたしに拭かれて、へこんでるぞ。

「うう……、七美達だけで遊びに行くから、我が輩はつまらないのだ……」

「ハイハイ、拗ねないの」

 あたしは、ぶーたれるラビエルの頭を、ガシガシ拭いてやった。


「あら? あなたは確か、エルネスト家の……」

 と言うエクレアナさんに、ラビエルと一緒にいた男性が答えた。

「お久しぶりです。ベルミオ・フォン・エルネストです。こんな所でアリエンティ家のお嬢様方に会えるとは思いませんでしたよ。実は昨日、ラビエル様とムート君に会いまして、我が家にお招きしたのです」

「まあ、そうですの」


「ハッ! そんな事より、この子のママを探さなくては~」

 と言って、リリエルちゃんは焦りだした。わたわた。

「おや? それはシードラゴンではないか。そんなのどこで見付けてきたのだ?」

「ラビエル様、この子は例の……」

 ムート君がなんか気になる事を言ってる。


「ベルミオ殿、このシードラゴンの子供は、セレンの娘ではないのか?」

「そのようですね……、なぜこんな所に?」

「お嬢ちゃん、ママの名前は?」

 ムート君がアクアの頭を撫でながら聞いた。

「セレン……」

「「「やっぱり」」」

 3人は顔を見合わせて言った。


「ベルミオさんは、この子の事をご存知でしたの?」

 と、エクレアナさん。

「ベルミオ殿は、この子の父親なのだ」

 ラビエルが答えた。


「「「「え~~~~~~~!?」」」」


 ラビエルの言葉に、あたし達ビックリ!

 「ななな……なんですってぇ、この人がアクアちゃんのパパですかぁ?」

 リリエルちゃんも、あまりの事におくちポカーン。


 ママじゃなくて、パパが見付かりました。

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