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第47話 ママを探して-1

 この世界に転生して14年、ようやくあたしは海に来る事が出来ました。


 学園にプールはありますが、ドラゴンなんて、泳ぎ方が2種類ぐらいしかないんです。体形的に、犬掻きか平泳ぎしか出来ません。大きな尻尾のおかげで、バタ足が出来ないので、クロールは不可能なんです。

 ゆえにドラゴン族は、あまり泳ぐという事をしません。海に海水浴なんてのも、連れて行ってもらった事はありませんでした。


 そしてやって来ました海水浴場。

 今日はいつものお友達じゃなくて、ポチャリーヌと来ています。それと、リリエルちゃんとミミエルも一緒です。女子だけなので、ラビエルとムート君は抜きですね。でも、子供だけでは心配だと言うので、ポチャリーヌのお姉様二人も同行してます。

 この前の領主様のパーティーでお会いしたのですが、お話しするのは初めてです。お高くとまったお嬢様と思いきや、実にフレンドリーなお姉様達でした。


 長女のエクレアナ・ド・アリエンティ様は19歳で、一流大学に通う才女です。ポチャリーヌと同じく、大きなたれ耳の美人さんです。この世界での19歳は、すでに成人なのです。

 次女のマカロンナ・ド・アリエンティ様は14歳、あたしと同い年ですね。彼女はピンと立った耳で、他の二人とは犬種が違います。父親似だそうです。


「なんだ、ナナミィって私と同い年だったんだね。それに私の事は、様付けしないでマカロンナって呼んでね」

「じゃあ私の事も、様付けしないでいいわよ。ポチャリーヌのお友達なら、私達のお友達も同然ですもの」なんて言ってくれました。どこかの意地悪お嬢様とは大違いです。でもさすがに年上を呼び捨てには出来ないので、さん付けで呼ぶ事にしたよ。


 さっき言ったように、ドラゴンはあまり泳ぎが得意じゃありません。なので、あたしは人間の姿になっています。お姉様達も、あたしら異世界転生者の事情を知っているので、安心して本来の姿になれます。


 しかも今日初めて、ポチャリーヌの前世の姿を見ました!

 元魔王なんて言うから、どんなにか恐ろしい姿かと思えば、背の高い美人だったよ。さらに巨乳でスタイル抜群だなんて、うらやまけしからん!

 見た目は普通の獣人だけど、ひたいに一本角が生えています。こういう所は魔王らしいね。


 海水浴なのでもちろん皆水着です。あたしとポチャリーヌは、ワンピースじゃなくて、セパレートタイプの水着を着てます。チューブトップと言う水着で、あたしの場合はフリルが付いた、可愛いデザインの物です。ポチャリーヌの水着はめっちゃ大人っぽい物で、すごく色っぽいよ。


 お姉様がたは大人しめなワンピースを着てます。やっぱり貴族令嬢なので、おしとやかでなくちゃ。そして今日の4人の水着は、あたしがデザインした物です。ベイス商店のハンナさんにデザイン画を渡して作ってもらいました。大胆なデザインだって、すごい驚いてたよ。

 日本では当たり前な物でも、こちらの世界じゃ有り得ない物なのです。トリエステで女性の水着といえば、シャツにミニスカートのような物なのです。体のラインがハッキリ出る物などありません。


 そんな、破廉恥とも言える物を着れるのも、ここがアリエンティ家の、プライベートビーチだからです。すぐ側には別荘があり、そこに泊まり掛けで遊びに来ました。


「こんな大胆なモノは、他所じゃ着れませんわね」

 エクレアナさんが、しきりに股ぐりを気にしてたよ。

「ポチャリーヌの方が、もっとけしからんですけどね」

 はははと笑うあたしに、お姉様方は「?」になっていた。


「ナナミィさんも素敵ですぅ」

 そう言ってリリエルちゃんが、あたしの足元にテテテと走って来た。

 そして両手を上げて、抱っこしてのポーズ。あたしはリリエルちゃんを持ち上げて、抱っこしました。彼女はあたしの胸の谷間に顔をうずめて、幸せそうにしてたよ。


「あらあら、ナナミィさんはリリエル様と仲良しなのね?」

「そうよねぇ、いっそリリエルがパートナーになればぁ?」

 エクレアナさんの言葉に、ミミエルが飽きれたように言った。


「何を言う、リリエルは(わらわ)のパートナーぞ」

 ポチャリーヌが慌てて言った。うん、魔王の姿なら、その口調も合うね。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ナナミィ達の居るビーチより、10kmあまり離れた海岸に彼らは居た。


「久しぶりに海に来たな。どうだムート、ここも良い景色ではないか」

 ラビエルとムートは、並んで海を見ていた。

「そうですねラビエル様。でもいいんですか? ナナミィちゃんの所に行かなくて」

 ムートは尋ねた。彼は今、人間の姿だった。

「七美は女子だけで行くと、笑顔で言っていたからな。我が輩らが邪魔をしたら、後でどんな目に会わされるか……」

「水着姿を見られるのが、恥ずかしいのかな?」

「七美は、そんな玉じゃないだろ?」


 彼らが居る海岸は、入り組んだ地形になっており、所々小さな砂浜が点在する、リアス式海岸であった。近くに漁港もあるが、観光地と言う訳ではないので、あまり人が立ち寄る場所ではなかった。

 そんな海岸をラビエル達は、高台の上から見下ろしつつ、サリエルが作ったお菓子をつまみながら、お茶していた。


「サリエルのお菓子は、相変わらず美味いな~」

「彼女って、テンローリンと言う世界で、天使だったんですよね?」

「何でも、色々やらかしたらしい…… おや? あんな所に人が居るぞ」


 下を見れば、岩に囲まれた湾にある小さな砂浜に、一人の男性が立っていた。

 こんな場所に居るのは、何とも怪しい奴だと、二人は思った。


「こんな所に一人で、何してるんでしょうね?」

「さっきからずっと、沖の方を見ているな……」

 何かを待っている風にも見えるので、二人も沖の方を見ていた。すると、海中に何かの影が見え、どんどん近づいて来た。それは一直線に、砂浜の男性に向かっていたのだ。浅瀬になってもスピードは衰えず、そのまま砂浜に乗り上げ、海中から魔物が姿を現した。体長3mはある魔物が、男性に迫っていた。


「まずいぞ! バリヤー!」

 ラビエルが男性の周りにバリヤーを張った。魔物はバリヤーに激突し倒れた。

 魔物が止まったのを確認してから、ラビエルはムートを連れて、男性の近くに転移した。

「安心するのだ、今この魔物を倒して……」


「いった~~い。何よこれ? 何かあるよ~」

 そう言いつつ魔物は、大きなひれのような前足で顔を押さえた。

「大丈夫かいセレン? いったい何があったんだ……」

 男性は目の前のバリヤーを、不思議そうに見ていた。


「あれ? この魔物はシードラゴンですよ」

「え? ああ本当だ、じゃあこの男は『シードラゴンの恋人』か?」

 そう言うとラビエルは、急いでバリヤーを解除した。


 シードラゴンは、ドラゴン族とは違い哺乳類である。クチバシのような口をしており、額にはツノが生えている。地球のジュゴンのような長細い体で、前足は大きいヒレの形をしている。そして胸には、人間の女性のような大きな乳房が付いていた。


 男性とシードラゴンは、ラビエル達に気が付いた。

「こ……これは使徒様ではありませんか! どうしてこちらに?」

 と言って、男性はラビエルの前で跪いた。シードラゴンも頭を下げて平伏した。

「我が輩は使徒ラビエルである。こちらはディアナ様のご子息のムートだ」

「女神様のご子息とは知らずにご無礼を……。私はこの辺りの土地を治める、エルネスト男爵家三男、ベルミオです。この子はシードラゴンのセレン。以後お見知り置きを、ムート様」

 ベルミオの丁寧な挨拶に、ムートは少々困ってしまった。

「ああ、ベルミオさん、僕に様付けしなくていいですよ」

「そうだぞ、ディアナ様の方針で、ムートは一般人と同じ扱いになってるのだ。なので、ムート君と呼ぶのがいいだろう」


「ラビエル様は、ここにどのようなご用件で来られたのですか?」

「いやぁ……男二人旅……みたいな?」と、ラビエル。

「まあ、男二人と言うのは、正確じゃないけど……」などとムートが補足した。


「ベルミオ殿とセレンは、ここで逢い引きをしていたのだな?」

「はあ……、恥ずかしながら。彼女とは毎月ここで会っております」

 ベルミオは、ばつが悪そうに言った。

「それが『シードラゴンの恋人』なんですか?」

 ムートがラビエルに尋ねた。

「ムートは知らなかったのか。シードラゴンはメスしかいない種族で、人間と交わる事で子供を産むのだ。シードラゴンと交尾をした人間を、『シードラゴンの恋人』と言うのだよ。でも珍しいな、普通は一回交尾をしたらそれきりなのに、何回も会っているのか?」

 ラビエルは、寄り添う二人を見ながら言った。

「私達は愛し合ってるの。だからいつまでも一緒にいるのよ」

 そう言うとセレンはベルミオに擦り寄り、彼も愛おしそうに彼女を撫でた。


「あれ? 僕達はデートの邪魔してる?」

 ムートがはたと気が付いた。

「いえいえ、大丈夫ですよ。それより、使徒様や女神様のご子息と会えたのですし」

「そうね、こういうのも、たまには良いわよね」

 セレンはウフフと笑った。シードラゴンは美しい声を持つ魔物で、彼女もとても魅力的な声をしていた。それに、シードラゴンの歌声は、人間を魅惑する力を持っていて、その歌声で人間の男を誘惑するのだ。


「では私が、何か歌いましょう~」

 そう宣言すると、セレンは歌い出した。それはアップテンポの楽しい歌だった。誘惑の歌では無いが、それでも聞く者を魅了する程の力がある歌だった。


 そんなこんなで、4人でおしゃべりをしたり、お菓子を食べたりで、1時間程過ぎた。

「ごめんなさい、住処(すみか)で娘が待ってるので、私はもう帰りますね」

「娘と言うと……」

「そう、彼と私の愛の結晶よ~」

 と言ってセレンは、ベルミオを抱きかかえてキスをした。

「じゃあまたね、私の愛しい人」

 セレンは前足を振って挨拶をした後、砂浜を這って行き、海に入って行った。それを見送ったベルミオは、ラビエル達にある提案をした。

「どうです、時間が有るようでしたら、我が家に来ませんか? 御馳走しますよ」

 ラビエルとムートはしばし考えた。

「それは魅力的な提案であるな。なあムート?」

「しょうがないですね……。どのみち今は夏期休暇中ですし、問題無いでしょう」

 ムートがため息まじりに言った。


「そう言えば、この海岸はどこから出ればいいのだ?」

「僕らは転移で来ましたですしね」

「ここは誰も知らない海岸で、外からも見えないのです。なので私が造った秘密のトンネルを通ってしか入れないのですよ」

 3人は、秘密のトンネルを通って、ベルミオの屋敷に向かって行った。




 セレンは、リアス式海岸の小さな島々の間を縫って泳いでいた。


「フフッ、今日は面白かったな。まさか使徒様がいらっしゃるなんてね~」

 彼女は浮かれてしまい、いつもは海中を泳いで行くところを、海面から頭を出したまま泳いでいたのだ。

 そのため、奴らに見付かってしまった。


 約500m上空に、ワイバーンが飛んでいた。

 「見付けたぞ、シードラゴン。情報通りだな」

 そう言うとワイバーンは、音も無く急降下して行った。

 そして後ろ足のかぎ爪を開いて、彼女に襲いかかった。


「あら? あれは何かしら?」

 彼女の正面の島影から、一隻の舟が現れた。

「あ、まずい、隠れなきゃ……」

 そう思った瞬間、彼女は体を鷲掴みにされ、空中に持ち上げられてしまった!


「きゃあ~~~~!!」

 上を見ると、そこには巨大なワイバーンが居たのだ。

 ワイバーンは彼女をぶら下げたまま、舟の方に飛んで行った。


 舟に乗せられたセレンは、そのまま連れ去られてしまったのだ。

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