第450話 悪い笑顔のお嬢様
「ななな、なんですか今のは?」
「ビビったにゃ。ドカンと魔力が来たにゃ」
「びっくりしすぎて、もらしたにゃ……」
タマ・ミケ・クロは、イタクァの魔力に当てられて、へたり込んでしまっていた。
「さすがにAランクの魔物ともなれば、気絶したりはせんか」
ポチャリーヌは感心するが、お漏らしをしているクロを見てため息をつくのだった。
そして周りを見ると、そこら中に倒れている人間達。
動いている者は皆無の様子だった。
「この人達、死んではいませんよ」
すぐに起き上がったタマは、近くの人間を確認していた。
どうやら死んでいる者はいないようだった。
「殺された者はいないと言うのか? お主はそんな優しい邪神とは思えないがな」
ポチャリーヌは、煙の中から姿を現したイタクァに向かって言った。
『ナイアからは誰も殺すなと言われているからな。それに皆殺しは簡単だが、縛りがあった方が面白いのだよ』
「ちょっと待て。誰も殺すなの『誰も』の中に、我らも含まれておるのか?」
ポチャリーヌは、思わずイタクァに指摘してみた。
『さあなぁ。取り敢えず戦いも済んだ事だし、ここらで失礼させてもらおう』
イタクァはそう言うと、地面に沈むように消えて行ったのだ。
「……なんなんだ、いったい」
残されたポチャリーヌは、憮然としてつぶやいた。
「あれ? 敵は消えちゃった?」
「いつの間にいなくなったのかにゃ?」
「でも、助かったのにゃ……」
いつの間にかいなくなったイタクァに、ホッとするケットシー三姉妹だった。
「クロったら、こんな時にお漏らしだなんて、ムート様のメイドとして恥ずかしいわよ」
「あぁ~、私の毛皮にもおしっこがかかってるにゃ!」
「ごめんにゃ」
ミケとクロの間の抜けたやり取りを聞いて、気が抜けるポチャリーヌだった。
『ああ~そうそう、言い忘れていたが、ナナミィとやらの所にナイアの本体が行ってるようだ。助けに行かないと次の女神が殺されてしまうかもな』
「うわぁっ!」
再び現れたイタクァは、そう言うとまた消えて行った。
びっくりしたポチャリーヌは、イタクァが潜って行った地面を踏み付けていた。
「ムカつく奴だな。それにナナミィが襲われておるのか? これは急がねば」
「そうですよ。ここは私達に任せてください。ポチャリーヌ様は一刻も早くナナミィのところに」
「うむ、そうせてもらおう。とはいえ、空間跳躍魔法を使うのに魔力が足りないので、お主達は妾に魔力を寄越せ」
「「「分かりました~」」」
ケットシー三姉妹の魔力を借りて、ポチャリーヌはエルドランテ王国に続くポータルを再び開くのだった。
そしてその窓を通り、着いた先は王都のサイレグ博物館。
ここはエルドランテ王国の、貴重な歴史的なお宝が集められている場所である。その中には、今は無きサマルタント洞窟遺跡から出た魔道具が収められているのだ。
一般の国民には秘密にされているが、古代兵器もここに収蔵されていた。
「では行って来るぞ」
「は~い、いってらっしゃいませ~」
ケットシー三姉妹が、転移ポータルの窓からポチャリーヌに手を振っていた。
ポチャリーヌも手を振ってから窓を閉じた。
「さて、まずは王宮に向かうべきか……」
ポチャリーヌはそう言いつつ、何気なく博物館の方を見た。
そこには、博物館の玄関に向かう集団が居た。
そして先頭の人物に見覚えがあった。
「うん? あそこに居るのは、シエステか?」
そうなのだ、さっきまでレクティン公爵家の別邸に居た、シエステだった。お付きの者と護衛を連れて、博物館にやって来ていたのだ。
「あら。ポチャリーヌ様ではありませんか。リュウテリアの方はよろしいのですの?」
「向こうは何とかなった。妾はナナミィの手助けに来たのだ。お主はなぜこんな場所におるのだ? ここは博物館だぞ」
「はい、存じております。私が用のあるのは、ここに封印されているモノですわ」
「封印だと? ……まさか」
「はい。その、まさかです」
シエステはにっこり笑って言った。
「面白い。それなら妾も一緒に行った方がいいな。アレは公爵令嬢の要求でも使う事は出来まい。しかし、女神様の討伐隊なら話は別だ。何と言っても討伐隊は女神様の意思の代行者だからな。妾が許可すれば、それはすなわち女神様が許可したのと同義よ」
「まあ! 素晴らしいですわ!」
二人の貴族令嬢が、にこやかに悪巧みをするのだった。
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邪神ナイアに攻撃が当たっても治ってしまいました。
今ラビエルが戦っていますが勝負が付きません。
戦いと言っても、口論してるだけですが。
分身のナイアまで呆れているので、もう少しシャキっとして欲しいものです。
「Bランク以下のハンターは、ギルド本部に戻って王都内の警戒をしろ。Aランクハンターは国境門の中に入って500mほど後退だ。急げ!」
後ろではナイアが、ハンター達に指示を出していました。
なんか普通にギルマスの仕事をしてるけど?
「騎士団と警備隊も下がった方がいいな」
「馬鹿な! 王都の防衛を任されている我らが、逃げるなどもってのほかだ!」
「そうだ! ここを死守するのが警備隊の使命だ!」
「いや……ここに居ると、みんな死ぬぞ」
「ハンター風情が、意見などするな!」
ナイアの逃げた方がいいと言うアドバイスは、騎士や警備隊の連中を怒らせただけみたいです。
正直逃げた方がいいと思うけど。
あんな連中でも、女神の討伐隊としては死なせる訳にはいきませんからね。
「余計な連中にうろうろされると邪魔だなぁ」
バハムートが忌々しそうに言いました。
さすがムート君は、あたしの本音を代弁してくれます。あんなに大勢の人間を守りながら戦うのは大変なのですよ。
あたしからしたら、アドリアスとシエステさえ守れればいいのです。
まあ、そんな訳にはいかないのですがね。
「いいではないか、どうせナイアの張ったバリヤーが王都を守っておるからな」
「攻撃する方と守る方が、どちらもナイアと言うのがややこしい!」
ややこしいだけじゃなく、ナイアが何を考えてるのか分からないのが不気味です。
「もうシンプルでいいよね? 今ここに集まっているのは、女神様に対する反逆者って事で責任を取ってもらいましょう。戦闘の巻き添えになっても、自己責任という事で」
「うむ。それもしょうがない」
「ですよねぇ」
あたしの提案に、ラビエルとバハムートが同意してくれました。
ここからは全力の戦闘を始めましょう。
あ。でもその前に……。
「メロンちゃ~ん! アドリアスをここから退避させて欲しいの!」
あたしはメロンちゃんにお願いしました。
「は~~い、わかったなの」
「アドリアスはシエステの別邸に連れて行ってね」
「じゃあ行きますよ~~」
「え? あ、ちょっと……」
アドリアスは何か言いたそうでしたが、メロンちゃんに連れられて、あたしの影に潜って行きました。
これで王子様が巻き込まれる事は無くなりました。
思いっきりやってやるのです。




