第45話 いろいろ探そう
リリエルちゃんが住処を追われて、一週間が経ちました。
全会一致で、リリエルちゃんの新居探しをする事になりました。
……まあ、あたしが強力にプッシュしたんだけどね。
なので、ムート君の家に集まり、作戦会議です。今日のムート君は、白馬の王子様バージョンですよ。つまり、アリコーンの姿になってます。
なんでも、人間の姿でいると、けっこう魔力を使うそうで、大変なのです。今はあたしに正体がバレたので、学園にいる時以外は、元の姿に戻ってるんですって。
やはり、アリコーンのムート君はとても美しいです。ポチャリーヌまで、ぽーっと見惚れてます。
「なに? あんた達、こっちをボーっと見て、キモイんですけど?」
「くっ、何でミミエルがそこに乗ってるのよ」
「そうじゃ、ズルイぞ」
あたしとポチャリーヌは、ミミエルに抗議したよ。この子ったら、ムート君の背中にちゃっかり乗っかってるのよ。
「え? 私はムートのパートナーだからでしょ?」
あまりの正論に、あたし達は反論出来なかった。
「これほどまでに乙女を惑わせるとは、ムートは罪な男よのう……」
ポチャリーヌが、何かとんでもない事を言ってるよ。
「誰が乙女だ」
あ、また本音が漏れた。
「む。9歳の美少女は、乙女とは言わんのか?」
「中身は350歳なのに?」
「まあ、ナナミィさんったら、中身は関係ありません事よ」
あたしの指摘に、ポチャリーヌがお嬢様口調で反論した。魔王とお嬢様を使い分けるので、調子が狂います。
「しょうがないな……、これじゃ話しが進まないよ」
と言って、ムート君が人間に変身してしまいました。そして、ひょいと立ち上がると、背中から転げ落ちたミミエルを、片手で受け止めた。
「あ~~残念、たてがみをモフモフしたかったのに……」
あたしはため息混じりに言った。
「ちょ……ムートさん、早く服を着て下さいな! 女神の息子ともあろう者が、はしたないですわよ!」
ポチャリーヌが真っ赤になって、捲し立てた。そう言えば、ムート君フルチンだったね。あたしも「きゃー」とか言って、恥ずかしがる場面だよねコレ。意外にもポチャリーヌって、男の子の裸に免疫が無いんだ。お嬢様だからか?
あれ? でも350歳で女王だったのなら、結婚もしてたろうし、男性の裸に免疫が無いなんて事は無いはずだよね? 生まれ変わってリセットされたのかな?
「あ……そうか、服を着なきゃ」
と言ってムート君は、自室に服を取りに行った。
「しかたないよね、ムートは元ドラゴンで、今はアリコーンなんだもん。学園に入学するまでは、服を着た事が無かったんだし」
まあ、ミミエルの言う事も、もっともだよね。
「これじゃあ、いつまでたっても、リリエルの事が解決せんぞ……」
ポツリと言うラビエル。ハイ、ごもっともです。
「では、リリエルちゃんの気に入る場所を、みんなで探しに行こう!」
「はいですぅ!」
リリエルちゃんは嬉しそうに言った。
守りたい、この笑顔。
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少し時は戻ってその日の朝、森の中では恐ろしい陰謀が進行していた。
「あのドラゴンのお嬢さんが、例の力に目覚めたちゅう事なんかね?」
「そうだ、使徒リリエルが、住処から追い出された時にな……。私は見ていないのだが、丘の上の森が消し飛んだそうだ」
「ひぇ~~、そりゃ恐ろしいがね」
イチモクレンは体をブルッと震わせた。
イチモクレンとは、長細い体に沢山の足、顔の中心に大きな目が一つある魔物だ。
「これで旦那の目的の物が、手に入る訳だね」
「いや、力が暴発しただけで、覚醒した訳じゃないのだよ。正しい形での、完全なる覚醒が必要なのだ」
「ふむ、ではドラ嬢ちゃんの大切な者を襲ってみるかね? 殺さない程度なら、問題あらせんでしょう?」
「む! それは……」
「何かまずかったかね?」
「ドラゴンのお嬢さんで、ドラ嬢ちゃんか。フハハッ、面白い!」
『旦那』は笑いながら、イチモクレンの足をバンバン叩いた。
「そこかいっ!」
イチモクレンの大きなジト目に見られて、旦那は咳払いをした。
「うむ、それもいいかもしれんが、元魔王には手を出すなよ。一瞬で消されるぞ」
「ひぇ~、くわばらくわばら……」
「程々にしとけよ。では私は帰るぞ」
「それでは最後に、聞いておきたい事があるんだが……」
「何だ、あらたまって」
「旦那は、女なんかね?」
「はぁ? お前、これずっと見てたろうが?」
と言って、大きな胸の膨らみを両手で持ち上げてみせた。
「いやぁ、ワシには性別が無いので、男女の違いなんて分からせんのだわ。旦那が獣人だってのは、分かるんやけど」
旦那と呼ばれる獣人の女性は、腰に短いパレオのような布を巻いただけの服装で、下着は付けていなかった。それ以外には、ブレスレットとネックレスを付けていた。
顔はネコともキツネともつかない顔つきで、太くて長い尻尾があった。
「こんなに美女なのに……。そんな事より、お前に性別が無い方が驚きだ。イチモツレンなんて名前だから、男だと思っていたぞ、私は」
「イチモツ……って、名前違うがなっ。ぶはははっ!」
ばか受けだった。
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あたし達は連れ立って、レイテの丘まで来ました。ここでは例のプリシーランを思い出してしまうけど、眺めの良い奇麗な景色なのは間違いありません。
「どう?リリエルちゃん、ここなんか良くない?」
あたしは、抱っこしているリリエルちゃんに尋ねた。
「景色はいいですけど、自然公園の中はさすがに許可されないんじゃ……」
リリエルちゃんは、申し訳なさそうに言ました。
「そうだよナナミィちゃん、コカトリス達もいるから、人の多い場所じゃまずいよ」
そうムート君に指摘された。それもあったな。
「じゃあ、もっと郊外の森の中とかいいかもよ?」
というミミエルの提案で、みんなで森の方に行くことにしました。ムート君とポチャリーヌが空を飛べないので、空間転移での移動となります。
ムート君はアリコーンに戻れば自前の翼で飛べるし、ポチャリーヌも魔法を使えば飛べるけど、馬や獣人が空を飛んだりしたら、色々面倒事がありそうなのです。
まあ、ラビエルが張り切ってるし、頑張って運んでもらいましょう。
次にやって来たのは、大きな岩山のふもとにある林です。
景色の見晴らしが良くて、背後にある岩山も壮大な雰囲気です。
「いい感じだね~、ここなら魔獣と住んでも大丈夫そうだよ。もうちょっと近くに行ってみよう」
と言ってあたしは、林の方を指差した。
パッと転移して来ました。
木が密集しておらず、雑草も少なくて、背の低いリリエルちゃんも歩き易い林です。ここならバッチリ…… って思ったのも束の間、凄い風が吹いてた!
「なんだこりゃ~~、ひ~~~」
ラビエルが強風に飛ばされて、転がって行ったよ!
リリエルちゃんは、あたしがしっかり抱っこしてるから大丈夫だ。ミミエルはちゃっかりムート君の足に掴まってた。
「どうやらそこの岩山から、風が吹き下ろされて来るみたいだね。年中風が強いから、植物が少ないのかもしれないよ」
と、ムート君が解説してくれたけど、そんな所、住めないじゃん。
お次ぎは、小さな森が点在する平原だった。
おや? 見覚えのある場所だな…… って、ここはあたしとウサミィが、フスマに襲われた場所だ~~!!
「よさげな場所じゃない。うん? あれは何かな?」
ミミエルが上を見て、空を指差して言った。
「あ~、あれはフスマと言う魔獣だね。肉食で集団で狩りをするよ。体の表面が固くて、ドラゴンブレスも効きにくいね。バハムートのブレスなら、倒せるけど」
「いやいやムート君、呑気に説明してくれるけど、あんなのがいる所じゃ住めないよ。コカトリスなんか、エサになっちゃうよ!」
100mぐらい上空にいたフスマが、急降下してきた。
「ぴきゃあ~~、襲って来たですぅ!」
「たたた……退避~~!」
あたしとリリエルちゃんは、ビビッて逃げ出した。
「しょうがないわね~。ほいっと」
ミミエルがさっと手を振るうと、風景が変わりました。
そこは一面のお花畑でした。
「うわぁ、きれい~。ここはあの世なのかな?」
あたしには、極楽浄土に見えるよ。
「何言ってんの、ここはエレンタットの森じゃない」
ミミエルがあきれたように言った。
「先輩に任せると、ろくな所に行かないからね。ここは私のお薦めの場所よ」
「お花がきれいですぅ、私ここ気に入りました~」
「でしょ~。もっとよく見て来るといいわよ」
「はいですぅ。みんなも連れて来るですぅ」
と言ってリリエルちゃんは消えた。そして再び現れた彼女は、一緒にコカトリス達と、レイスを連れて来たのです。
「さあみんな、ここに住むかもしれないので、あちこち見て回るのです」
と言って、魔獣達とお花畑の中を歩いて行ってしまいました。
「まあ、ここならドラゴニアの領内だし、妾のお父様に話しておこう」
こういう時に、ポチャリーヌは頼りになるね。
もうここで決まり、かな?
「奇麗な場所ではあるが、しっかり調べてみないとな」と、ラビエル。
「そうね、どこに魔獣がいるのか分からないしね」
魔獣の中には、あたしが気配を掴めないヤツがいるしね……
おや? そう言えば、ムート君はどこに行ったのかな? そう思って周りを探しました。この辺りはなだらかな丘陵地帯で、林が点在しています。さらに、小さくて奇麗な花も自生していて、お花畑になってます。
「気持ちいい~~」
なんて言いながら、お花畑の中を走る馬がいた。馬じゃなくて、ムート君だよ!
いつの間にかアリコーンに戻って、走り回っていた。
お花畑を走る白馬、すごい絵になる光景だよ~。
っていうか、人間に変身するのって、ストレス溜まるのかな?
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イチモクレンは、さてどうしたものかと、草地に寝転びながら考えた。
「ドラ嬢ちゃんの力を目覚めさせるには、リリエルちゅうのをいたぶりゃ、手っ取り早いとは言え、どこに居るのやら……」
取り敢えず街に行けば見付けられるだろうと、イチモクレンはフワリと浮かんで、街に向かう事にした。
その時、林の中から1匹のリスが飛び出して来た。
リスはイチモクレンと目が合うと、ひょいと立ち上がり、ペコリと頭を下げた。
「まあまあ、いつぞやの魔物さんではありませんか。この間は助けてくれてありがとうございますです。私、使徒のリリエルと言います」
(ここにいたぁ~~~~~!!)
イチモクレンは、いきなり現れたリリエルにビックリした。
(こいつはこの前、ドラ嬢ちゃんが石になった時に会ったヤツだがね)
「探す手間がはぶけた……、いや、こっちの話だがね」
「?」リリエルは首を傾げつつ、ニッコリ笑っていた。
(何でこんな場所におるのか知らんが、これは僥倖だがね。こいつをひとかみして、半殺しにすれば……)
イチモクレンは大きな口を開けて、リリエルに噛み付こうとした時、彼女の後ろにいる者に気付いた。それは、たくさんのコカトリスだった。
「うわっ! 魔獣がぎょーさんおるが~~!」
「大丈夫ですよ~、みんな私のお友達ですぅ」
と言ってリリエルは、コカトリスの頭を撫でていた。
「マジか? しかも1匹、もっと変な一つ目のヤツもいるし……」
自分の正面に浮かぶレイスを見て、イチモクレンはドン引きだった。
「あなたも、変な一つ目ですぅ」
「確かに! ぶはははっ!」
ばか受けだった。