第426話 ドラゴン迎撃
空には多数の竜族が飛んでいます。
ワイバーンに飛竜、それに見るのは初めてのブラックドラゴンだ。
フレデリカさんとバルトロが攻撃したからか、ワイバーン達はこちらに襲い掛かろうと狙っています。お互いに動けない状態だったようですが、あたしを見た竜族が一斉に襲って来たのです!
なぜに?
もしかして、あたしを狙うように洗脳されてる?
「ナナミィさんを襲うとは許せないですぅ! ぶっ倒してやるのですぅ!」
「おおよ! 全員ぶちのめしてやるのだ!」
「二人とも、手加減はして下さいよ」
使徒達はやる気だ。
リリエルちゃんはアリコーンの姿になり、ラビエルは邪神の姿になりました。
ムート君もバハムートに変身して、ワイバーンを迎え撃ちます。
それならあたしも女神竜に変身だ!
「これだけの戦力があれば、妾が戦うまでも無いな」
「ポチャ子は戦わないのかよ!」
「小さな女の子を戦わせる気か?」
「誰が小さな女の子だ!」
とは言え、ポチャリーヌが役に立つのは魔導師としてですからね。
魔法戦力として温存してもらいましょう。
さっそくラビエルとバハムートが、ワイバーンとブラックドラゴンと激突だ!
バハムートは、ワイバーンの背後から蹴りを入れて叩き落としています。
ラビエルは敵をあたしに近付けまいと、魔力弾をばらまいて弾幕にしていました。リリエルちゃんはと言えば、ブラックドラゴンの周りを飛び回って、ボコボコに蹴っていました。
小さなアリコーンはファンシーで可愛らしいのですが、ツノでブラックドラゴンの頭を突き刺すのは怖いのでやめてほしいです。
一頭のワイバーンが、乱戦をすり抜けて襲って来ました。
気付くのが遅かったので、防御が遅れる。
でも、そのワイバーンがあたしの所まで来る事はなかった。一瞬で魔物に絡め取られて動けなくなったからです。
あれはメロンちゃんの吸収した落とし子ですよ。目も口も無い、巨大なハリガネムシです。
クロンちゃんの両腕からはムカデの魔物が伸びて、飛竜達を頭からかじっています。
シロン君は平らになって、ワイバーンに張り付いていました。張り付かれたワイバーンは、飛べなくなって地面を転がっていたよ。
まさか可愛い使い魔が、可愛い姿のまま変形するとは驚きです。
おっと、そんな事を言ってられない。
敵はどんどん向かって来てるし、あたしも戦わないとね。
ブラックドラゴンはドラゴンブレスを吐いて来ます。
でもさすがに、ワイバーンほどの威力はありませんね。並みのドラゴン族なら致命傷になる威力はあるけど、軽くはじいてやります。
とは言え敵もさる者、威力の弱さを動きでカバーしてる。
思いのほか素早くて、こっちからのブレスが当たらない。体が小さいのはだてじゃないようです。あたしは今大きな体なので、小回りがイマイチ効きません。
いつもの姿ならば追い付けてたと思うので、なんともタイミングの悪い事ですよ。
「しか~し、正気を失ってるあんた達に負けるあたしじゃないよ!」
「そうなのよ!」
「七美の手足の代わりに、アタイらを使ってくれよ!」
「メロンちゃんクロンちゃん!」
あたしの両手に二人を持つと、襲い来るブラックドラゴンに向けました。
いつの間にかもう一頭現れて、左右から接近して来ます。やっぱり速いスピードで回り込んで狙いづらくされる。
でも大丈夫。あたしは腕を相手に向けるだけで、後はメロンちゃん達がやってくれます。メロンちゃんが何かの液体を吐き出しました。それはブラックドラゴンに当たって、ウロコを溶かしてしまったのです!
「そ……それって落とし子の溶解液なの?」
「そうなのよ~」
「アタイはこれだぁ!」
今度はクロンちゃんが水を細長く吐き出しました。
これはウォーターカッターですよ。
『ギャアア~~~!』
ブラックドラゴンの腕から胴体を切り裂いて行きました。エグい!
バハムートが一頭のワイバーンを殴り飛ばして、暴走竜族討伐は終わりです。
最後のワイバーンがドスンと倒れると、あたりは静かになりました。
「じゃあ、かたっぱしから起こして正気に戻してから、お引き取り願いましょう」
というわけで、そこら中にくたばっている竜族をみんなで起こそう。
こういう時こそ、あたしの女神の力を使うところです。あちこちに倒れているワイバーンや飛竜やブラックドラゴンを集めて来て、一箇所にまとめます。
そこに例のピンクの光を浴びせたのです。
たぶん、これでみんな起きるはず。
そして期待通り、竜族のみんなは目を覚ましました。
『あれ? なんでこんな場所で寝てたんだ?』
『どこだここは?』
『グワァア?』
魔物であるワイバーンとブラックドラゴンは言語能力が高いので、普通に言葉が話せます。
みんな訳も分からず戸惑っていますね。
こういう時こそ、ラビエル達使徒の出番です。
「お前らは悪い奴に利用されていたのだ。洗脳されて暴れていたが、我が輩らが止めてやったのだぞ」
『あ、使徒様だ。暴れてたって?』
「そうだ、もう少しでドラゴニアを壊滅させてしまうところだったぞ」
壊滅とは大げさですが、少し盛って話しておきましょう。その方が、自分達のやった事の大きさが分かろうもんです。
『え? それまずいじゃん』
『そんな事になってたら……』
事の大きさにビビるワイバーン達です。
「うむ。そうなっていたら、我ら討伐隊で皆殺しだったろうな……」
『『『ひぃ~~~……』』』
「しかし安心するがいい。正気に戻ったのなら討伐される事は無いぞ」
『『『ほっ』』』
あからさまに安心するワイバーン達だった。
飛竜は言葉が通じないので、きょろきょろと周りを見回していましたがね。
「お前らそこに1列に並べ。今からお前らを洗脳した奴を調べるからな」
ここでポチャリーヌが竜族の頭の中から、暴走事件の犯人を見付けるのです。
ワイバーン10頭、ブラックドラゴン5頭、そして飛竜15頭を3列に並べると中々に壮観です。これだけの数で街を襲ったら、壊滅とはいかなくても、かなりの被害が出てた事でしょう。
これをやった犯人は、死刑間違いなしですよ。
1時間ほどして犯人が判明しました。
ポチャリーヌは30頭もの竜族の相手をして、ぐったりしております。
「こ奴らの洗脳をやったのは、お馴染みのレイモンドだな」
「死刑だ~!」
「ですぅ!」
「待て待てお主ら。いくらなんでも、魔物を操ったぐらいで死刑はやりすぎだ」
「いや……つい、勢い余って……」
「わたしは本気ですぅ」
リリエルちゃんが危ないです。
それにしても、レイモンドの奴は働きすぎだね。時間的に亜空間からナイアに取り返されてから、すぐにワイバーン達を洗脳しに行ったんだ。
そしてドラゴニアに送られて、領主様を洗脳してポチャリーヌを捕まえさせたわけです。まあ、結局逃げられる事になるのですが。
犯人が分かったので、ワイバーン達は住処に帰ってもらいました。
ここから10km以内に住んでいる者ばかりでした。さすがのSランクハンターと言えど、そんなに広い範囲から集める事は出来なかったみたい。
「ではさっそく街に戻って、ドラゴン族を助けよう」
「だが竜族の相手で、いささか時間を使い過ぎてしまったぞ。間に合えばよいのだがな」
ポチャリーヌの心配の通り、彼女のお家から逃げて来てから1時間以上たっています。あれからどうなったのか、とっても心配です。
「まずは街の様子を見てみよう」
「そうだな。では転移するぞ」
そうしてあたし達はもう一度ドラゴニアに戻って来ました。
いきなり中心部に出るのではなくて、住宅街の方にコッソリ来ました。ドラゴン族の住んでいる地域の近くです。
そこで見たのは、大勢の武装した人間が街中を走っている光景です。
大通りや橋の上や交差点といった、地区の境目に集合しています。
「よし、各隊配置に着いたな。これよりドラゴン族の居住地区を封鎖する。誰一人として逃すなよ」
「「「ハッ!」」」
警備隊の隊長が部下に指示をしていました。
っていうか不穏な事を言ってるよ!
外を歩いていたドラゴン族が警備隊に捕まっているし、まさかこれって、戒厳令ってヤツ?




