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第41話 ナナミィ、ハンターギルドに行く

 あたしとラビエルは、郊外の森の上を空中散歩しています。

 本当は散歩じゃなくて、ペギエル様に言われてパトロールしてるのだけど……。なんでも、普段から魔獣の災害に、注意を払いなさいという事らしいです。


「まるでデートをしているみたいだな」

 などと、このウサギは呑気な事を言ってるよ。黙っていればすごく可愛いウサギなのに。あたしはジト目で睨んだ。


「む。七美は我が輩が嫌いなのか?」

「嫌いなわけないでしょう。あんたも、もう少し可愛気があればいいのにって思ってただけよ」

「何を言う、我が輩は充分に可愛いではないか」

「そうだ、語尾に『ラビ』って付ければ、もっと可愛くなるよ」

「我が輩に、変なキャラ付けするでないぞ!」

「あんたは魔女っ子アニメに出て来る、妖精キャラのポジションなんだから、語尾くらい可愛くしたらいいのに」

「……いや、何を言ってるのだ?」

 なんて楽しい?会話をしながら、街道沿いを飛んでいました。


 特になんにも無く、いい加減飽きて来た頃、下を見たら知ってる人が歩いていた。あの人はパパが主任をしている、グレンジャー鉱山の事務員で、人間の女性のカトリさんです。例のファイアーワームの事件以来、鉱山の採掘作業は中断しているので、街に帰って来たのでしょうか?


「カトリさ~~ん、こんな所でどうしたの~?」

 あたしは、カトリさんに声を掛けました。

「え? ああ、ナナミィさん、と使徒様、こんにちは」


 あたし達はカトリさんの横に降りました。

「カトリさんは街に帰るのですか?」

「鉱山の仕事が一ヶ月ほどお休みになったので、その間はハンターの仕事をしてようと思ってね」

「ほほう、お姉さんは事務員だけじゃなく、ハンターでもあるのだな?」

 ラビエルのやつ、アラフォーのカトリさんを『お姉さん』って言うなんて、気配りが出来ているぞ。

「これでもCランクだからね。事務仕事ばかりで腕が鈍ってたら、この前みたいな時に対処できなくなっちゃうし、鍛え直しも兼ねてね」

「さすが、出来る女は違いますね~」

 あたしは素直に誉め称えた。自分もこんな女性になりたいものです。

「フフフ、褒めても何もでないよ」

 あたしのママとは正反対ですが、憧れます。


「あ! じゃあ、今からハンターギルドに行くんだね。あたし達も一緒に行っていい?」

「え? 別にいいけど……」

「やったぁ。ラビエルはギルドの位置は分かるよね。そこまで運んでね」

 あたしは可愛くお願いしてみた。むろんラビエルは張り切りましたとも。

「よし行くぞ! ……着いたぞ!」

 気が付くと、3人はギルドの玄関の前に立っていた。


「な、な、な、何が起こったの??」

 あ……そう言うば、カトリさんは知らなかったんだ、転移魔法の事は。

「使徒は皆、空間転移が出来るのだ!」

 ラビエルがフンスとドヤってた。

「ま……まあ、早くギルドに入りましょ」


 ハンターギルドは5階建ての石造りの建物です。ヨーロッパにあるようなデザインで、中々に重厚な雰囲気ですよ。

 中に入ると、まず広い玄関ホールになっていました。奥には幾つかの窓口があり、何となく役場のような雰囲気です。ホールの中心には掲示板が並んでいて、依頼書と思われる紙がたくさん貼ってあります。その周りの壁際にはイスとテーブルが置いてあり、ハンター達が座ってました。さすがに、こんな所でお酒を飲んでる人はいませんね。


 マンガやアニメで見た、ファンタジーな世界が現実の物に!


「七美はこういう所は初めてか?」

「うんっ!」

 鼻息荒く興奮するあたしに、ラビエルもカトリさんも引いていたよ。


「おや? ラビエル様ではありませんか。今日もお役目ご苦労様です」

 ギルドの職員さんから声を掛けられた。渋いナイスミドルといった男性だった。

「いやいや、今日はこのお姉さんの付き添いなのだ」

「おお、そうですか。あなたはCランクハンターの、カトリさんですね?」

「どうも、お久しぶりですギルマス。たまにはハントしないと、腕が錆び付いてしまいますからね」

 イヤイヤ、どうもどうもと笑う3人。ギルマスって、ギルドマスターの事だよね? ここのトップだったよ。


「初めまして、ナナミィ・アドレアです」

 あたしはギルマスに挨拶をしました。

「やあ、ここのギルドマスターをやっている、ドライクという者だ。よろしくな」

 ギルマスは気さくな人でした。

「このドラゴンのお嬢さんが例の?」

 そしてあたしをまじまじと見つつ、ラビエルに尋ねた。

「うむ。女神の討伐隊の一人なのだ」

「ほう……このお嬢さんがね……。やはり強いのですかな?」

 ギルマスの値踏みするような視線に、たじろぐあたし。

「いえいえ、他のメンバーに比べれば弱い、ただの若輩者ですよ~」

 あたし自身、何で選ばれたのか分からないからね。


「そんな事は無いぞ。七美はある意味、最強の力を持っているからな」

 なんて言って、あたしの尻尾をポンとたたくラビエル。

 え~~~? それは言い過ぎなんじゃ……

「そう言えば、何でラビエルはギルマスを知ってるの?」

「討伐隊の依頼は、どこから出てると思ってるのだ?」

「……ああ、なるほど、そうだったね」

 そして、ラビエルが討伐隊の窓口になってたわけなんだ。


「そうそう、今日はカトリさんの依頼を探しに来たんだよね?」

 と、あたし。

「なるほど、それならピッタリの依頼がありますぞ」

 あたし達は、ギルマスの後に付いて窓口に行った。



 カトリさんの受けた依頼は、なんとコカトリスの討伐依頼だった。

 なんでも、郊外の森の中の大木に、数匹のコカトリスが住み着いたと言うのだ。近くに集落もあるので、ハンターギルドに討伐依頼が来たそうだ。

 コカトリスには、何かと縁があるね。


 依頼のあった場所を確認していたラビエルが、んん?って顔をしてた。そして、あたしの方をちらっと見たと思ったら、「まあいいか……」と言った。

「ちょ~~っと待って。何かあるな。さあ言え!」

 あたしはラビエルの頬をつねった。

「あ~痛い痛い、行けばわかるのだ、行けば……」

 少し気になるところだけど、ラビエルがあたしに対して悪巧みするはずもないので、それ以上の追求はやめた。


「では行くぞ! ……着いたぞ!」


 はい、到着。途中の過程をすっ飛ばすのも、馴れると便利なものです。

 と言っても、ここからコカトリスの巣は探さなきゃならないのですが……

 あたしの魔物探知能力で、辺りを探りました。反応のある方に進むと、大きな木のある丘に出ました。ここか?


 そして、そこで見たのは不思議な光景だった。

 凄く大きな木で、幹も太く、神社なんかに生えている御神木といった雰囲気だった。不思議なのは、そんな大木の上に、小さな家が建っていた事なのです。

 樹上ハウスという物ですが、サイズが小さくて、あたしはもとよりラビエルにさえ小さい家だった。小人の家なんだろうか?

 っていうか、小人なんているの?

 もう一つ不思議なのは、玄関から階段が付いてるのだけど、途中までしか無く、地面まで届いてないのです。家の下にあるテラスまでしか無かった。これじゃ下から家に入れないよね?


「これって、コカトリスの家なのかな……」

 上を見上げていた、カトリさんがつぶやいた。

「え~~? まさかぁ」

「いや、だってアレ……」

 そう言ってカトリさんは、大木の上の方を指差した。その指の先を見ると……


「コカトリスだぁ~~!!」


 あたしはカトリさんを抱えて、後ろに飛んで大木から離れた。さすがに大人は重いので、引きずってしまったけど、30mぐらい後退したのです。

 コカトリスと言えば、やっかいなのが石化の魔眼です。しかし、今回は対抗策を用意しました。

「さあ。カトリさん、これを」

 と言ってあたしは、大きな鏡を渡した。ギリシア神話では、これでメデューサを退治したので、同じようにコカトリスの目を見なければ、石化能力を防ぐ事が出来るはず。神話では鏡じゃなくて、盾だったけどね。


 あたしとカトリさんは、鏡で後ろを見ながら剣をかまえた。

 さあ来い! 後ろ向きで戦いにくそうだけど、さあ来い!

 でも、木の枝に止まってるコカトリス達は、全然攻撃して来なかった。

 なぜに??



「あれ? ナナミィさんですか? ようこそですぅ」


 聞き慣れた声がしました。リリエルちゃんが小さな家のテラスに立っていた。

 つまり、この家って、リリエルちゃんのお家だったのね。

 なるほど~、リリエルちゃんのサイズにぴったりのお家だね~…… って!


「あんたは、ここがリリエルちゃんのお家って、知ってたな~~!」

 ラビエルの顔をグワシッと掴んで、グリグリしてやった。

「あ~~痛い痛い! 顔がちぎれるぅ~~」

 ブチ切れるあたしを見て、カトリさんがマジで引いていたよ。


「じゃあ、このコカトリス達って、リリエル・コカトリス隊の子だったのね」

 あたしはそう言って、コカトリスの頭を撫でてあげた。

「この子達は、もうすっかり良い子なので、人や動物を襲ったりしませんですよ。私が自分の魔力を分け与えてますし」

「どうしますカトリさん?」

「そうねえ……使徒様の管理下にある魔獣なので、大丈夫そうだとギルドには報告しておきましょう」

「助かりますぅ」

 リリエルちゃんが、両手を合わせてほっとしていた。


「リリエルちゃんて、こんな所に住んでたんだね。しかも、すっごく可愛いお家だよ~」

 可愛くても入る事が出来ないので、あたし達は外にいます。ラビエルが3人分のソファーとテーブルを出してくれて、あたしがお茶とお菓子を出してピクニックです。

「使徒様のお茶会に、私まで参加してよろしかったのでしょうか?」

「いいのですよぉ、ナナミィさんのお友達なら、大歓迎ですぅ」

 リリエルちゃんはあたしの膝の上に座って、テーブルにちょこんと顔を出しています。あたしは持って来たケーキを、あ~んして食べさせてるの。マジ、愛しい。このまま連れて帰りた~~い。

 でもそうすると、漏れ無くコカトリス達も付いて来るんだけどね……


「そうそう、この前ゲットしたレイスも居るのですよ」

 なんでこの子は、そんな変なものばっか……うわ、ラビエルの上に浮かんでいたよ。いつの間に現れた?


「ねえ、あれ大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ、この子にも私のエネルギーをあげてますので」

「え? なに?」

 と言ってラビエルが、あたしの視線を辿って上を見上げて「うわぁっ」となった。


 あたし達は、慌てるラビエルを見て笑っちゃいました。

 さて、もう帰るとしましょう。




 この時あたしは、こちらをを見ている者がいる事に、気が付かなかった……

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