第37話 第3の転生者-2
なんですのォ~~~~~!!
目の前にいきなり変なモノが出て来たわァ!
は……早く逃げなきゃ。
そうだ、忘れてましたわ、転移陣に逃げ込めば脱出できます。
「エレミアさんどいてぇ!」
そう言って、ドラゴン娘が私を突き飛ばしました。私は斜面を転がって、泥だらけになってしまいました。しかも、口の中には葉っぱが入ってしまい、最悪ですわ!
いえ、そんな事を言ってる場合じゃない。
私は口の中の葉っぱを吐き出しつつ、急いで立ち上がりました。
ああでも、急いでるつもりでも、よろけてしまって、まともに歩けない。
早くここを離れなくては。
ちらっと後ろを見たら、ドラゴン娘が魔獣を殴りつけてました。
なんて野蛮な!
いえいえ、この隙に早く逃げなくては。
「お姉さん、早くこっちに」
先程の獣人の女の子が、私の手を握って、東屋の方に引っ張って行ってくれます。
なんて良い子なんでしょう!
私と獣人の女の子は、東屋に転がり込みました。これで逃げられるわね。
転移陣を確認したら、まだ作動しています。これなら無事に自宅まで帰れます。私は東屋の窓から外の見てみました。ドラゴン娘の姿は無く、彼女も逃げてしまったようです。まあ、ドラゴンの力じゃ魔獣に敵わないですものね。
「あっ! あれを見て!」
獣人の女の子は魔獣とは反対側を指差しました。
そう言われて、そちらを見ると……派手な格好をした……女の子?
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「きゃあ~~~っ!」
悲鳴を上げたエレミヤは、恐怖のあまり硬直してるよ。
レイスの目玉の下あたりから、何本かの触手が出て来た。
あれで生体エネルギーを吸い取るんだな。たぶん、細胞内のミトコンドリアのエネルギーを奪ってしまうんじゃないかと思います。そんな事をされたら、細胞が死んでしまい、ミイラのようになってしまうよ。
「エレミアさんどいてぇ!」
あたしはエレミアの近くに駆け寄って、動けなくなっている彼女にタックルをかまして魔獣から遠ざけた。
思いのほか勢い良く吹っ飛んで行って、斜面を転がって行ったよ。ムクリと起き上がって、あたしを恨みがましく睨んでたけど。
「お姉さん、早くこっちに」
と言って、獣人の女の子がエレミアを引っ張って行ってくれた。
そして東屋に入った事を確認したら、あたしは茂みに隠れて人間に変身します。魔法が効かない魔獣みたいだけど、変身してパワーアップした物理攻撃ならば、倒せるはず。
今回はエレミアお嬢様がいるので、見栄を張ってやるよ。なので、ピンクのロリータドレスだ。まず丈の長いドロワースとペチコートをはきます。ブラは見えなくなるから何でもいいか。そしてフリル多めのロリータドレスを纏い、頭にヘッドドレスを乗せて完成。
手に持つのは、自作の魔法のバトンです。あたしの作った物を、ラビエルが魔道具にしてくれたのです。これなら魔力弾を、バトンの先から発射できる。
魔法攻撃が効かない相手なので、これで殴ってやろうかと思います。それならバトンじゃなくて、ハンマーでも使えばいいのだけど、カタチは大事なのです。
そしてあたしは魔獣の前に立ち、決め台詞だ。
「魔法少女七美参上! 女神に代わってお仕置きよ!」
決まった! 激しく決まった。
レイスはぼんやりと、こちらを見てるだけだった。くそ、あんな空飛ぶナメクジみたいなのじゃ、お約束は理解できないか。
東屋を見たら、エレミアと獣人の女の子がこちらを見てた。エレミアが口を開けて呆然とした表情をしてたけど、無理もないか。いきなり魔法少女が現れたのだから。
あたしは突進して行き、レイスの顔面にバトンを突き刺した!
刺さりはしないものの、レイスはのけぞったので、間髪入れずにタコ殴りにしてやります。
「えいっ! えいっ! え~~い!」
本当は『どりゃ~』って言いたいけど、魔法少女なので可愛く上品にね。
でも、レイスはブヨブヨしていて、ダメージがあるのか分かり辛いです。
「魔法少女がんばれ~~」
獣人の女の子が応援してくれてるよ。俄然ハリキリます。エレミアの姿は見えなくなったな。せっかくの派手なドレスなのに。
しかし、このままじゃ埒が明かない、打撃より切断のがいいか。あたしはブレスレットから剣を取り出しました。
そして剣の表面に炎の魔法を纏わせて、刃の温度を上げて行きます。ほんの十秒ほどで、刃が真っ赤になった。これならレイスのあの体も焼き切れるはず。
そして剣で攻撃しようと構えた瞬間、あたしはレイスから伸びた触手に貫かれた。
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何か分かりませんが、あのピンクのドレスの女の子が戦ってる隙に、私は逃げましょう。私は急いで転移陣に入りました。
「ほら、あなたもいらっしゃい。転移陣で移動しますわよ」
私は獣人の女の子に声を掛けました。ドラゴン娘はいなくなったし、あの派手な子は……まあ自分で何とかするでしょう。
「お姉さんは先に逃げて下さい」
「え? あなたも一緒にいらっしゃいな」
「あっ! 危な~~い!」
お尻に痛みを感じた瞬間、私は転移陣の中に突き飛ばされていました。
あれ? あの子、私のお尻を蹴飛ばしたのですか?
周りの景色が変わり、私は自宅の庭の中の転移陣に座っていました。
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レイスの体がブヨブヨだから、下に付いた突起も柔らかいと思ってたけど、凄く固かったよ。それがギュンと伸びて来て、あたしを攻撃して来た。攻撃の勢いでよろけたあたしは、尻餅をつきました。
ただ、そんなに固い触手でも、ドラゴンの頑丈な体はつらぬけず、表面にかすり傷を付けただけだった。
「無駄よ、あたしの体はそんな程度じゃ…… あ~~! ドレスに穴がぁ!」
この前、ラビエルからせしめたドレスが破れてしまった!
しかも、攻撃されてビックリした時に取り落とした剣で、スカートに焦げ目が付いてる! オーマイガー!
「許せん! お前の血は何色だぁ~~~!」
レディにあるまじきセリフですが、叫ばずにいられませんでした。
剣の温度は低くなってしまいましたが、もう一度暖め直せば……
「お主面白いのう、気に入ったぞ。これしきの魔獣、妾にまかせておけ」
突然、後ろから声を掛けられた。
あたしは振り返って、声の主を見た。
それはなんと! あの犬の獣人の女の子だったのだ。
あれ? さっきまで東屋の中にいたような……?
っていうか、その言葉遣いはなに?
「ホーリーランサー」
そう可愛い声が唱えた瞬間、沢山の光の槍がレイスを貫いた。
レイスは痙攣するように震えたとたん、溶けて崩れ落ちてしまった。
え? いったい何が起こったの? この子は何者??
「フフフ、何やら惚けた顔をしておるのう。お主はナナミィ・アドレアであろう? 妾は新しい転生者にして元魔王、ポチャリーヌ・アリエンティであ~る!」
なんですと~~~~~!?
ああ、確かにこの前、9歳の獣人の少女が加わるって話をしてたところだよ。前世は350歳だっていうんだから、こんな言葉遣いでも不思議じゃないか。
いやでも、さっきまで普通にしゃべってたぞ。それに魔王って、なんてファンタジーな。
「なに、竜王と違って、一般人の転生者がどんな人物か興味があってのう、見させてもらったぞ」と、ポチャリーヌは説明を続けた。
「なあリリエル、一から説明をした方がよくないか?」
「そうですね、ナナミィさん、ぽか~んとしてますから」
ポチャリーヌの足元を見たら、いつの間にかリリエルちゃんがいた。
つまりこういう事だった。あたしがどんな子か知りたいために、声を掛けてお話をしたそうです。話し方のギャップは、普段は丁寧な女の子らしいしゃべり方をしてるけど、討伐隊の仲間になるあたしには、本来の言葉遣いをして見せてくれたそうです。
リリエルちゃんは、ポチャリーヌの年寄りっぽい話し方しか知らなかったので、いきなり普通の女の子みたいな話し方を聞いて、思わず吹き出したんだって。
リリエルちゃん、プ~~~って笑うんだ……
「あら? じゃあ、ここにいたのは何で?」
「お主は図書室で『プリシーラン』を調べてただろう? だからここに来ると踏んだのだ。ちょっと待ってろ、これで調べてやるぞ」
と言って、ブレスレットから植物のデータを調べていました。
「そのブレスレットって、あたしが貰った物より性能が良さそう」
「お主が色々と注文を付けたから、最初から高性能版が貰えたぞ」
なにそれずるい。
「分かったぞ、この青い花がプリシーランだな」
そう言われて見たら、青くて奇麗なお花が沢山咲いていました。
「ああ、このお花だったのね。じゃあ、5本ぐらいあればいいか」
「うん? 切るつもりなのか? それはやめた方がいい、捕まるぞ」
「え? それってどういう事?」
「プリシーランは国の特別天然記念物で、採集は法律で禁止されておるぞ」
「ええっ~~~!?」
訳が分からず、叫ぶ事しか出来ないあたし。なんですと~~!
「なるほど、領主に渡す花束にプリシーランを入れろと……お主その娘に騙されておるぞ」
ハァ~と、ため息をつくポチャリーヌ。
「ああ……そうなんだ、やっぱりねぇ……」
あのお嬢様が親切に教えてくれるなんて、変だと思ったんだよね。知らずにプリシーランを入れていたら、大変な事になってた訳だ。しかも、新しいドレスがダメになっちゃったよ。こんな事なら、もっとぶっ飛ばしてやればよかった。
「ふふん、ならば逆に奴をハメればよかろう」
そう言ってポチャリーヌは、カバンから青い紙を何枚か取り出した。あたし達は東屋の中の休憩スペースに移動しました。
「これをこうして、こうやるのだ」
ポチャリーヌは椅子にちょこんと座って、紙を折っていった。2分ぐらいでその紙は、小さなお花に変わっていました。
「魔王って芸術も出来るもんなんだね……」
「今日、学校で習って来たのだ~」
楽しそうに折り紙をするポチャリーヌ。そう言えば初等生だったね。
あたしはポチャリーヌと一緒に、折り紙のお花を沢山作りました。リリエルちゃんもお手伝いしたがったけど、リスの手じゃ無理なので、見学だけです。
「この折り紙を花束に入れるのよね?」
「そうなのだ。その前に光学魔法で見た目を変えるのだ。このように……な」
そう言ってすっと手をかざすと、折り紙が本物のお花に変わった!
「どうだ、本物に見えるだろう? 反射光を操作することで、見た目を変えたのだよ」
「すごい、さすが魔王だ。ただの初等生じゃないね」
「ふふん、まあね」
フンスとふんぞり返るポチャリーヌ。
悪役なお嬢様は、女神に代わってお仕置きしなきゃあね。