第35話 あたしのパートナー
みなさんはもうお忘れでしょうが、あたし達ドラゴンの女の子で、学校の中庭の一角に花壇を作っています。あたしのクラスの5人だけなので、毎週交代で花壇のお世話をしています。
今週はあたしの当番です。お水をあげたり雑草を取ったりしてます。赤い花や青い花、七色の花もあります。さすが異世界ね。そしてなぜか、ムート君とリリエルちゃんが手伝ってくれてます。
ムート君は分かるけど、リリエルちゃんは何で手伝ってくれるのかな?って聞いたら「私ナナミィさん、大好きですから」って言ってくれたよ。
「リリエル様は、ナナミィちゃんのどこが好きなのですか?」
「柔らかいおむねが、大好きなんですぅ」
リリエルちゃんが、可愛い顔してオヤジっぽい事を言ってる。ラビエルも女の子のおっぱいが好きみたいだし、使徒様は胸好きなのか?
「また抱っこしてほしいですぅ」
いくらでも抱っこしちゃうよ~~。ムート君が自分もして欲しそうな顔をしてるけど、さすがに男の子に抱きつくのはちょっと恥ずかしいぞ。前世では、彼氏もいなかったしね……
バハムートになって、あたしを抱いてくれるのなら、考えないでもないな。
そう言えば今日はラビエルを見てないね。こういう時は、いつもやって来るのに。
でも、使徒様がそんなに気軽に学校に来るのって、大丈夫なものなの? っていうか、リリエルちゃんもここにいて大丈夫なん?
「ちょっとナナミィ、先輩来てない?」
頭の上から声を掛けられ、みんなで上を見上げたら、ミミエルがフワリと降りて来た。
「え? 今日は見てないけど。どうかしたの?」
「ここじゃないか……。いえね、先輩が朝から見当たらないのよ。今日はナナミィとの魔法訓練なのに……」
「えぇっ? 今日訓練なんてあったの?」
焦るあたし。
「あ~もう、先輩そんな事も伝えてないの? まったくダメダメじゃん!」
擁護してあげたいが、その通りすぎてなんも言えない。
「しょうがないなぁ。邪魔したわね、じゃ」
と言って、ミミエルはその場から消えた。
「あのウサギ、またどこかで落ち込んでるな。まあどうせ、その内でてくるよ」
あたしは、ため息まじりに言った。前回の任務では、全く活躍出来なかったしね。
「なら私がその間、ナナミィさんのお手伝いするですぅ」
「そうね……じゃあ今日はお願いね」
「はいですぅ」
リリエルちゃんが、両手で頬を押さえて可愛く言った。
「でももう授業が始まるので、また後でね」
「あ……!」
ムート君が突然声を出した。
「うん? どうしたの?」
「あ、いや別に……」
あたしは「?」のまま、教室に向かいました。
あたし達が教室に入ったら、何か騒がしかった。近くにお友達のクリスがいたので、何事かと聞いた。
「それがね、学校内に魔獣が入り込んだっていうのよ!」
「そうそう。他のクラスの子が見たんだって」
猫の獣人のグレースが会話に加わって来た。
「えぇ~? こんな町中なのに? 出るんだ、魔獣」
他の子達にも聞いたところ、小さくて長い尻尾がある、怪しい生き物を見たと言うのだ。耳が長かったという情報もあった。
「何なんだろうね、ムート君」
「あ……ああ。何かいるのかな……」
む。歯切れが悪いぞムート君。
「みなさ~ん、もう知ってるでしょうけど、学園内に魔獣が侵入したらいのよ。安全の為に、午後の授業は中止になりました。なので、すみやかに下校して下さいね」
あたし達の担任のパミラ先生が、教室に入って来て皆に言った。
さすが異世界だ。学校に侵入するのは、不審者じゃなくて魔獣なんだ。
「これからハンターギルドに連絡して来ます。皆は気を付けて帰ってね」
「は~~~い」
魔獣と言えば、討伐隊の仕事じゃない? いやそれより、こういう時こそドラゴンの出番だよ。ドラゴンの力がみんなの安全に貢献すれば、あたしらに対する偏見も無くなるかも。さっそくあたしは、クラスのドラゴンの子を集めて相談した。
「そういう事ならやろうよ」
さすがドラゴン、誰も躊躇しなかったよ。
あたしはパミラ先生に提案してみました。先生が学園長先生に相談したところ、すぐにOKが出た。学園長先生はあたしが、女神様の討伐隊メンバーだって知ってるからね。
20分後、学園内から教師と警備員以外はいなくなりました。
さっそく、捜索とまいりましょう。まずはチーム分けです。クラスには、男女合わせて10人のドラゴンがいます。色々話し合った結果、二人一組での捜索となりました。いわゆるツーマンセルですね。
「で、なぜムート君までいるのかな?」
「僕も参加させてもらおうかと……」
「ふう~ん……分かった、ムート君はあたしとね。なので3人一組の所を作ってね」
と言ってあたしは、ムート君の腕を掴んで教室を出て行った。
あたしはムート君を校舎の裏まで連れて行った。
「何か言いたい事があるのよね?」あたしは笑顔で聞いた。
「う……うん、学校に入って来た魔獣に心当たりがあるけど……」
と、恐る恐る言った。
ちょっと待って、なんでそんなに引くの。あたしは可愛いドラゴンなのよ。
「たぶん……アレ、ラビエル様じゃないかと思うんだけど」
「え?」
「実はさっきラビエル様の姿が、ちらっと見えたんだよ……」
「ええっ!」
そういえば、さっき皆が「小さくて長い尻尾」「耳が長かった」って言ってた。
「あのウサギ~~! 何やってんだ!」
「まあ、色々思う事もあるんだろうね……。それより、他の子に見付かる前に、僕らで先に見付けてあげないと」
確かにそうだ。使徒である立場上、こんな所で問題を起こしたら、ペギエル様にお仕置きされてしまいますよ!
「そうね。まずい事になりそうね。特にあの方に知られたら……」
うかつにペギエル様の名を出せないよ。いきなりここに現れそうだし。
「じゃあ、さっさと探そう!」
まずどこを探すか? 闇雲に探すより、ここはラビエルの気持ちになってみよう。いわゆるプロファイリングですね。
「ここを探してみましょう」
「女子更衣室だね……」
「ムート君はちょっと待っててね」
あたしは女子更衣室の中を調べた。
「いないなぁ……じゃあ次」
「ここも探してみましょう」
「女子トイレだね……」
「ムート君はちょっと待っててね」
あたしは女子トイレの中を調べた。
「いないなぁ……」
「ねえ、何で女子の所ばかりなんだい?」
「え? あたしが女の子だからじゃない。男子の所には入れないよ」
「ああそうか。てっきりラビエル様が、女の子をのぞく趣味があるのかと思ったよ」
「あはは……まさかぁ」
その可能性を考えてたのは、黙っていよう……
「ラビエルが落ち込んだ時は、どこに行きそうだろう?」
あたしはムート君に聞いた。かつてパートナーだったので、何か知ってるかも。
「う~ん……そうだね……以前落ち込んだ時は、ウサギに愚痴をこぼしていたかな」
「ウサギって、動物のウサギ? 似た者同士だと落ち着くのかな……」
あたしは、しばし考えてみた。この学園内でウサギと言えば……
「初等科の校舎の横にある、ウサギ小屋かも?」
学園内のあちこちで、ドラゴンの子達と、警備員さんが魔獣を探してた。あたしとムート君は、みんなに見付からないように、こっそりと移動した。
ウサギ小屋は校舎の陰に建っていました。ウサギ以外も飼われているので、普通の平屋建ての民家並みの大きさがあります。あたし達は、ウサギを驚かせないように、外から静かに覗き込んだ。二人してラビエルの姿を探していたら、声が聞こえて来た。
「……我が輩より、リリエルの方が役に立つのだ、それに、七美のお気に入りだしな…… 我が輩はもうお払い箱なのだ……」
ああやっぱり、こんな所でウサギ相手に愚痴ってたよ。ウサギはラビエルの周りに集まって、鼻をヒクヒクさせてた。
あたしはこっそり中に入って、ラビエルを後ろからがっちり掴んだ。
「うわっ! な……七美かっ?」
「大きな声を出さない。ウサギがビックリするでしょう」
あたしはラビエルの向きを変えて向き合った。
「さっきミミエルが探してたよ。今日は魔法の訓練だって?」
「そ……それはリリエルとやればよかろう……リリエルも七美が好きみたいだし」
ラビエルはあたしから目をそらして、うつむいてしまった。
いつもは自信満々なのに、それって自信の無さの裏返しだったのかな?
「確かにリリエルちゃんの方が可愛いし、仕事は出来るけど、それとこれとは話が別よ。あたしはあんたに対して、飽きれたり文句を言ったり、顔をつねったりしてるけど、それってお互いの距離が近いって事だよ」
あたしはそっと、ラビエルを抱きしめた。
「あんたはあたしのパートナーでしょ? あたしはパートナーを変えるつもりは無いからね」
「な……七美ぃ~~」と言って、ぼろぼろ涙を流すラビエル。
「だからね~……こんな所で愚痴ってんな!」ぱくっ。
あたしはラビエルの鼻先に噛み付いてやった。
「むぐぅ~、いらひ・いらひ~」
泣いてるくせに、楽しそうにしてるよ、このウサギ。
「盛り上がってる所で悪いけど、結構な騒ぎになってるし、どうしよう?」
ムート君が苦笑しながら言った。
「そこは私に任せるですぅ!」
「リリエルちゃん!」
いきなり現れたリリエルちゃんが、フンスッとドヤ顔で宣言した。
あたしはラビエルを放り出して、リリエルちゃんを抱っこしたよ。超可愛い!
あ、ラビエルはちゃんと、ムート君が受け止めたので大丈夫ですよ。
「いないね~~」
「後は初等科の校舎の方だけかしら?」
捜索していたドラゴンの子達は、一カ所に集まっていた。あたしとムート君は、何食わぬ顔で合流した。
「どう? 何か分かった?」
「全然見付からない」と、アイリィがぼやいた。
見付からないよね、ウサギ小屋にいるんだもん。
「あっ! あれはなに!?」
あたしは植え込みを指差して叫んだ。
すると、植え込みの中から何かが飛び出した。
「え?」「きゃ~~」「つ……捕まえろ~~!」
「どうした君達、魔獣がいたのか?」
叫び声を聞きつけた警備員さんも、慌ててやって来ました。
「ギギギィ~~~」
「コカトリスだ~!!」
全員大慌て。さすがのドラゴンも、あれにはびびるよね。
女子はみんな逃げちゃったけど、男子はブレスを吐いて攻撃した。
コカトリスは、飛んで逃げて行ってしまいました。
「そうか~、侵入して来た魔獣って、コカトリスだったんだ~~」
と言うあたしの言葉で、実際にコカトリスを見た全員が、最初の目撃情報には合わないけど、もう違う可能性は考えられなくなったよね。
これでこの件は終わりですね。
魔獣問題は解決したという事で、全員解散・下校となりました。
それよりビックリしたのは、いつの間にかリリエルちゃんが、コカトリスを手下にしてた事だよ。何でも「リリエル・コカトリス隊」だって。
人間や動物などを襲ったりしないように、リリエルちゃんの持つ膨大な魔力を与えてるそうです。
……まったく……恐ろしい子!
「さあ! 早く帰るよ。今日は空中神殿で、魔法訓練なんでしょ?」
「そうですよ、今日は私が鍛えてあげましょう」
ポンッと現れるペギエル様。
やっぱり一部始終を見ておられたんだ。
ラビエルは涙目で、「ひ~~」ってなってたよ。