第34話 がんばリリエル
「そ……そんな……」
リリエルちゃんの見てる前で、あたしは石と化して行ったのです。
さて、あたしは意識を失ったのですが、残されたリリエルちゃんに物語の進行を任せると、どうしようもなくなりそうなので、引き続きあたしが話を進めますね。
リリエルちゃんが震えて動けなくなっていると、藪の中からコカトリス達が出て来ました。コカトリスは新たな獲物を見付けると、ズルズルと這い寄って来たよ。
「はわわわ……こ……攻撃…… 攻撃しなきゃ……」
リリエルちゃんは両手を上げたが、涙目で前がよく見えないようで、明後日の方を向いていたよ。幸いそのおかげで、石化はまぬがれていたけどね。
プルプルしてるリリエルちゃんを、コッコがくわえてその場を離れました。ちなみに、くわえたのは彼女の大きな尻尾なので、問題は無いですよ。コッコには、あたしのお願いがちゃんと伝わっていたようです。
「ああっ! ナナミィさんとラビエルさんを置いて行けませんよ~~」
リリエルちゃんはジタバタしてたけど、コッコはそのまま木の上を飛び越えて逃げて行きました。それを見ていたコカトリス達は、ふわりと浮かび上がり、今度は空を飛んで追いかけて行った。
後から知った事なのですが、石になったからといっても、死んでる訳じゃなくて、体内には魔力が残っているみたいです。コカトリスはその魔力を食べるそうで、獲物を石化で動けなくしてから、魔力を奪うのですって。コカトリスがあたしらを置いていったのでラッキー。いやいや、リリエルちゃんが危ないので、ラッキーじゃないよ。
コッコが降り立ったのは、昨夜テントを張った場所です。河原から少し離れた広場に設営してたので、見晴らしが良いです。ただし、コカトリス相手ではまずいですよ。障害物が無いので、魔眼から隠れる事が出来ない。いくらコッコがいい子でも、そんな事まで思い至らないのはしょうがないですね。
「も~~~ 何で逃げちゃったの~~ ナナミィさん心配じゃないの?」
リリエルちゃんが文句を言ってる。プンプンなリリエルちゃんは、さぞ可愛いだろうけど、残念ながらあたしは石になってるので見れません。
「もう私達だけになっちゃいました、私達だけでなんとかしなきゃです。それに、ここだと私達が目立ってしまいます。早く移動しなくちゃです」
自分より大きなコッコを、グイグイ押していったよ。そして二人して森に入って行きました。
「ほら、こっちですよ。もうちょっと頭を下げてね~」
「クゥ~~」
なんて言いながら、森の中を進んでいます。
「はいストップ。ここらで作戦会議です。この中が良いでしょう」
と言ってリリエルちゃんは、森の中に打ち捨てられた廃屋に入って行った。
「えっと、まず私達の勝利条件は、ナナミィさんとラビエルさんを回収して脱出する事です。コカトリスもやっつけられればいいのですが、脱出を優先するのです」
リリエルちゃんは、廃屋の床に絵を描いてコッコに説明しました。いくらなんでも、魔獣のコッコに理解出来ないかと思ったけど、「クケッ」と言ってうなずいてた。
リリエルちゃんは、壊れたドアから頭を少し出して、周りを見渡した。
「奴らはいないのです。今の内にナナミィさんのもとに向かうのです」
そう言って、するりと抜け出した。コッコも慌てて後を付いて行った。
「飛んで行くと目立ちますので、歩いて行きましょう」
と言うリリエルちゃんの言葉を理解出来たのかは分からないが、「クケッ」と返事をしてた。そしてリリエルちゃんの前に出て、うずくまって背中を見せた。
「まあ! 私を乗せてくれますの?」
「ククゥ」
リリエルちゃんは、コッコの背中にポーンと乗った。すっくと立ち上がったコッコは、猛然とダッシュ、勢い良く走って行くのだった。
そんな様子を、廃屋の天井裏から見ていた者が居た。そいつは壁伝いにスルスルと降りて来ると、リリエルちゃん達が走っていた方角に飛んで行った……
「はいストッープ。ここでいったん休憩します」
「クケッ?」コッコが不思議そうな顔をした。
(お客さんを待つのですよ)
リリエルちゃんが、コッコの背中で立ち上がり、耳元でコソッとささやいた。
「クケケッ?」コッコは、訳が分からないという顔をした。
「石にされたナナミィさん達を元に戻すのは、ディアナ様でも出来ますが、もっと手っ取り早い方法があるのですよ……」
そこまで言うとリリエルちゃんは耳を澄まして、周りの様子をうかがった。
すると周りから、ズルズルと地面を這いずる音が、そこかしこから聞こえて来た。リリエルちゃん達が降りたのは、森の中にぽっかり空いた草地で、隠れられる場所がありません。これはまずい、奴らにみつかったら逃げられないよ。
それなのにリリエルちゃんは落ち着いてます。
がさがさと揺れる薮の中から出て来たのは、奴ら、コカトリスだ。
いつの間にかリリエルちゃん達は、コカトリスに包囲されていたのです。
「……その方法とは、術を掛けた本人に解かせる事ですよ」
いきなりのピンチで、コッコは慌てた。
「大丈夫ですよ、ハメられたのは奴らの方なのですぅ」
そしてさっと両手を上げた。
「召喚! どんぐり爆弾ですぅ!」
そう叫ぶと、上空に無数のどんぐりが現れた。それが高速で落下、リリエルちゃんを中心に、周囲一帯にバラまかれた。そして爆発!
ババババッ!バン!バン!ババン!バン!
爆竹のような爆発音が収まると、そこらじゅうにコカトリスが倒れていた。ピクピク動いてるので、死んではいないようだ。
「うふふ、やつらの一匹が私達に付いて来たのはお見通しなのです。ウソの作戦を真に受けて、のこのこ出て来たのですぅ」
コカトリスが言葉を理解してたのかは疑問ですが、取り敢えずは作戦勝ちだったようです。石化の術を解かせるために捕まえたようですが、リスなのにまるでキツネのような狡猾さ……。本当に、恐ろしい子!
「では、コカトリスをみんな回収してしまいましょうね」
そう言ってリリエルちゃんは、倒れてるコカトリスを、自分のブレスレットに突っ込んで回収して行った。コッコはポカンと見てたよ。
「コッコさん、ナナミィさんとこに戻りますよ。また乗せてくれます?」
コッコは再び、リリエルちゃんを背中に乗せて走り出した。
コカトリスが全滅して襲われる心配が無くなったのか、コッコは足取りも軽く走って行きました。そして3分あまり走ったら到着です。
しかし、リリエルちゃんが異変に気付きました。そこに見慣れぬ魔物がいたのです。その魔物は長い胴体と6本の細い足、そして大きな目がひとつ付いていました。
「ななな……なんですかあの魔物は?」
見た目が非常に怪しい魔物は、石化したあたしとラビエル前で寝そべり、眠そうな表情をしていました。そして何やら、ぶつぶつ言っていた。
「何でワシが、見張りなんてせにゃならんの……、かと言って帰る訳にもいかせんし……、おや? ようやく戻って来たね」
ふいに魔物がリリエルちゃんに声を掛けた。
「ひいっ……」
リリエルちゃんはコッコの首の後ろに隠れて、プルプルし始めました。それでも勇気をふりしぼって、謎の魔物を指差して言いました。
「あ……あなたは何ですかぁ? ナナミィさんをどうするつもりなんですかぁ?」
顔を半分だけのぞかせて、リリエルちゃんが涙目で抗議しました。
「ワシか? ワシはこのお嬢さんを……」
と言いつつ、魔物がフワリと浮いて向きを変えた。それを見たリリエルちゃんは、「ぴきゃ~~~」と悲鳴を上げ、そして片手を上げました。
「松ぼっくり爆弾投下ですぅ~~!」
その瞬間、大きな松ぼっくりが魔物の上に出現した。その大きさは1mもあった。
「うわぁ! ちょっと待ったりぃな~~」
魔物は慌てて、松ぼっくりを尻尾で弾き飛ばした。飛んで行った松ぼっくりは近くの崖にぶつかり、ボーンと弾けました。そんなに大きな爆発じゃなかったけど、崖が崩れてしまいました。
「お嬢ちゃん無茶するな~。この子らも巻き込むつもりか?」
魔物の当然な抗議に、リリエルちゃんは、「あわわわ」となりました。
「ワシはこの子らが石にされた所を見てたんだわ。石になったモンを放ったらかしにしたら危のうて見てられんで、あんたが戻って来るまで、番をしてやっとったんだがね」
「そうですか。それはどうもご親切に。ありがとうございます」
「いやいや、どうせ暇だし、気にせんとって」
「感謝しますですぅ」と言って、深々と頭を下げた。
「クケッ!クケッ!」
コッコがあたしに頬ずりをして、早く戻してとアピールしてた。
「ああっ、そうですね、早く戻さなくては」
リリエルちゃんは慌てて、ブレスレットからコカトリスを引っ張り出した。
「さあ。早く戻すですぅ」
にーっこりと微笑みながら言った。顔は笑ってるけど、全身からは、怒りのオーラが立ち上ってるのが見えますよ。
そのプレッシャーに堪え兼ねたのか、一匹のコカトリスがあたしの足元に来ました。そしてあたしの目をじっと見つめた。体の中が温かくなったと思ったら、徐々に体の感覚が戻って来ました。心臓も動きだし、完全復活です。
「うわ~~ん! よかったですぅ!」
リリエルちゃんがあたしの胸に飛び付いてわんわん泣きました。コッコもあたしにすり寄って来たので、長い首を抱いてなでなでしてあげました。
「ごめんねリリエルちゃん。あたしらが役に立たなくて」
「そんな、ナナミィさんは悪くないですぅ~~」
もう片方の手で、リリエルちゃんも撫でてあげた。
「あ。そう言えば、助けてくれた方がいました……が……あれ?」
「どうしたの?」
「いなくなってしまわれました……」
「ああっ! そう言えば、ラビエルさんも戻してあげなきゃ!」
リリエルちゃんが再び、コカトリスを脅して、ラビエルを元に戻させていました。
「あぶないぞ! コカトリスが来て……あれ?」
ポカンとするラビエル
「もう終わったから」
そう言うとあたしは、リリエルちゃんの方を見た。リリエルちゃんはコカトリス達に説教をしてる真っ最中だった。コカトリスは、やけに大人しく聞いていた。
「勝手に森の動物達を石にしてはダメなのです。さあ、皆で石にした動物達を元に戻すのですぅ~~」
「ギギィ」コカトリスが一斉に返事をした。
もしかして、リリエルちゃんをボス認定した?
今回はリリエルちゃん大活躍だったみたいね。可愛いだけじゃなく、かなりのやり手だったね。さすが使徒様なだけあります。
「我が輩、良いとこ無しだったのだ……」ってラビエルがまた落ち込んでる。
しょうがないので、あたしは人間に変身して、ラビエルを胸に抱いた。胸の谷間に顔をうずめてやったら、ジタバタしてたよ。