表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/407

第33話 やられちゃった

「ハイハーイ、起きて下さ~い」

 朝になり、リリエルちゃんが、あたしとラビエルの上をポンポン跳ねて起こします。ラビエルは、グエッと言って飛び起きた。

「じゃあ、顔を洗いましょうね」

 と言って、あたしはラビエルを抱え上げて、川まで連れて行った。ああ……もちろん今はドラゴンに戻っていますよ。


「ほら、あんたも顔を洗って」

 あたしは川岸にラビエルを下ろした。いきなり叩き込んだりはしませんよ。

「う~~ん……何であるか……まだ眠たいのだぞ……」

 ラビエルって、こんなに寝起きが悪かったの?

「さあさあ、しっかり目を覚まして下さいね。えいっ!」

 リリエルちゃんがラビエルを川に突き落とした。

 ドボンッ

 うわっ、なんてコトを……!

「ぶはぁっ! なんだなんだっ!」

「おはようございますです」

 しれっと言うリリエルちゃん。恐ろしい子!



「さて、昨日調べて来たところによれば、件の魔獣はバジリスクじゃなくて、コカトリスと言う魔獣らしいのだ。ほら、こんな姿だ」

 ラビエルがブレスレットから映し出して見せてくれました。それはバジリスクとは似ても似つかぬ恐ろしい姿だった。鳥のような頭、2枚の翼、細長い胴体と、文字で説明すれば同じだけど、そのビジュアルはキモイの一言です。


「じゃあ、こいつを探せばいいのね?」

「うむ。今日はもう少し森のはずれに……」

 ラビエルがそこまで言った時、コッコがあたしの所に飛んで来ました。

「ぴきゃあ~」と悲鳴を上げたリリエルちゃんが、両手を上げてプルプルしてる。

「待って、この子はあたしの友達だから大丈夫だよ」

 あたしは慌てて彼女の手を押さえた。

「ああっ、ごめんなさい。思わず体が動きましたのですぅ」

 これじゃ先が思いやられるよ……、でも、可愛い悲鳴だったな。


「おはようコッコ。こんな朝早くにどうしたの?」

 あたしはコッコに話し掛けてみました。どうやら何かあった様子。コッコは森の奥の方を見てあたしの体を押した。あたしは、コッコの頭に自分のひたいをくっ付けて、気持ちを共有してみた。すると、怪しい魔獣の姿が見えたのだ。


「こっちの方角に、目標の魔獣がいるみたいよ」

 あたしは森の奥を指差して言った。

「なに! もう見付かったのか?」

 びっくりするラビエル。

「あたしのコッコは優秀なのよ!」

 ドヤ顔するあたし。 

「魔獣と通じ合える、ナナミィさんの方が凄いのですぅ……」

 しみじみ言うリリエルちゃん。褒められちゃったよ。


 あたし達はコッコと一緒に、森の奥まで歩いて行きました。全員飛べるのですが、相手の魔獣も空を飛べるので、地上から接近するのです。相手の数が多かった場合、こちらが不利になっちゃうからね。


 ラビエルいわく「そんなヤバイ事やってられるか」って事ですけどね。

 リリエルちゃんが「勉強になります」って、メモってたよ。



 コッコを先頭にして、5分くらい歩いて来ました。

 先程から変な違和感を感じるんですよね。なんだろう? 辺りを見回しても、何も感じない……、そうです、静かすぎるのです。いつもは聞こえる、鳥や動物の立てる音が聞こえないのです。

 しん……とした森の中を歩くと、足音が大きく聞こえます。落ちてる枝を踏んで、バキっと音がすると、ビックリしますね。


 バキッ!

「ぴきゃっ! 何かいるですぅ~!」


 驚いたリリエルちゃんが、あたしの胸に飛び込んで来たよ。ラッキー、抱っこしちゃおう。ぎゅっと抱くと、プルプル震えてるよ。 

「ただの枝を踏んだ音だよ。恐くない恐くない」

 今恐いのは、森の中に音が無い事なんだけど。それは言わないでおこう……


「おや? あんな所に鹿がいるぞ」

 そう言ったラビエルの指差す方を見ると、茂みの中に鹿が3頭いました。脅かさないようにゆっくりと近付いてみると、本物の鹿じゃなくて、石像だったのです。

 凄くリアルな造形だなと見てたら、コッコが何かくわえて来ました。それも石で出来た精巧な鳥の石像ですよ。誰かが作った物なんだろうか? まるで生きているみたいだ。こんな森の中に、彫刻の展示場でもあった?

 あら? コッコがあたしをじっと見てる。この石像に何かあるの……


「ねえ……、確かコカトリスって、石化能力があったんじゃないの?」

 あたしはブレスレットの中の、魔獣のデータを確認しながら言った。

「そ……うだな……石化の魔眼を持っているのだな……」

「ままま…魔眼って、どうやって防ぐのですか?」

 リリエルちゃんが、プルプルしながら聞いてきた。

「え~とね、目を合わさなければいいみたいね」

「じゃ……じゃあ私は目をつぶってるですぅ」

 と言って、あたしの体にしがみつき、目をぎゅっと閉じてしまいました。

「まだ大丈夫よ、そこまでしなくても」

「だってだって、そこにいるですぅ」

「「え……?」」

 リリエルちゃんの言葉に、あたしとラビエルの動きが止まった。


 ざわざわと揺れる木々の音に混じり、何か聞こえて来た……

 キ……キキキ…… キキキ……

 あたしは空の上にコカトリスがいないか探した。




「ぴきゃあ~~ 来ました~~~~」

 ハッとして視線を下に落としたら、藪の中のそこかしこに魔獣の姿が……!


 しまった!!

 魔獣は空を飛んでるって、思い込んで歩いて来たけど、完全に裏目に出たよ。

『ギギギィ~~』『ギャイギャイ』

 コカトリスが飛び出して来て、威嚇するように鳴いています!

 そして、めっちゃガンを付けて来る!


 あたしはドラゴンブレスを吐いて、コカトリスを牽制した。こんな森の中では、山火事になるかもですが、もしもの時はラビエルに後始末を頼もう。

 でも、石化の魔眼って事で、目が合わないように相手から視線をずらしてるので、戦い辛いです。しかも奴らはこちらの正面に回り込もうとして来る。

 やめてよして、あたしを見ないで~~!


「クケッ~~~!」

 コッコがコカトリスの前に、毒液をばらまいて近づけないようにしてくれてます。相当な猛毒なのか、雑草が溶けて煙を上げてますよ。それを見て、さすがのコカトリスも後ずさりした。


「一時撤退した方がいいよ。……って、ラビィ~~!」

 声がしないと思ったら、ラビエルは石になってた!!

 ちょっと待って、やられるの早すぎ!!


 あたしはラビエルを抱えて、その場を脱出しました。今度は空を飛んで行きます。コッコもちゃんと、後ろから付いて来ました。

「はわわわ……ラビエルさんがやられちゃったですぅ……ナナミィさんもやられたらどうしましょう?」

 ああ……リリエルちゃんが心配のし過ぎで、プルプルしてる。


 コカトリスから充分に距離を取ったので、リリエルちゃんを落ち着かせるために、地上に降りました。座るのにちょうどいい倒木があったので、リリエルちゃんをその上に降ろし、あたしは横に座りました。

「ここまで来ればもう大丈夫よ、落ち着いてリリエルちゃん」

 そう言って、頭を優しく撫でてあげた。

「ううう……ラビエルさんを助けてあげて下さい~……ううう……」

 リリエルちゃんが泣いちゃったので、落ち着くまでここでしばし休憩。コッコも心配そうに見てた。

 うん、こういう時こそ甘い物を食べよう。あたしはブレスレットから、お菓子を取り出した。

「ほら、お菓子食べましょう」

 あたしは、リリエルちゃんにビスケットをあげた。

「ありがとうです……」


 リリエルちゃんは、小さな口でカリカリと食べました。コッコがじっと見てるのに気付くと、ビスケットを差し出しながら「あなたも食べる?」と言った。

 コッコは大喜びで、ビスケットにかじり付いてた。でも、1枚じゃ足りないのか、あたしの持ってるビスケットもパクリと食べちゃったよ。

 それを見て、リリエルちゃんがクスリと笑った。


「これ、元に戻るのかなぁ……」


 あたしは、石にされたラビエルを見て、ぽつりとつぶやいた。自分でもびっくりするぐらい冷静なのは、リリエルちゃんが心配したり泣いたりしてるからだろう。もし、あたし一人だったら、泣き叫んでるかもしれない……今でも気を抜くと、涙が出そうだから。


「ディアナ様なら元に戻せますよ」

「えっ! 本当に?」

「はいです。女神様に不可能はありませんです」

「そうか~よかった~~……」

 ほっとしたら緊張の糸が切れたのか、涙がボロボロと出て来たよ。


「ああ……大丈夫ですから、泣かないで下さいですぅ」

 と言ってリリエルちゃんが、あたしの背中をそっと撫でてくれた。

 さっきとは逆だよ。そう思ったらおかしくて、涙は引っ込んじゃった。



 目の前の薮がガサリとして、目が合ってしまった。

 気が抜けた一瞬の油断だった。

 奴ら、空を飛ばないで、地面を蛇のように這って来たんだ。

 細長い体は、だてじゃなかった。


 ちくしょう……体が動かなくなってきたよ……

(コッコ、あなたはリリエルちゃんを連れて逃げて)


 そして、意識がシャットダウンした・・・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ