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第31話 可愛い体操服

 トリエステには、「人間」「獣人」「ドラゴン」の三種族が国民として暮らしています。表向きは仲良くしていますが、やはり差別などはあります。ドラゴン族はかつて、人間と争ったと言います。戦いに敗れたドラゴンは、狭い地域に集められ、人間の監視下に置かれました。その時の居留地が、現在のドラゴニアになりました。

 女神様のおかげで、ドラゴン族も国民として、人間や獣人と同じ権利を認められましたが、それでも過去の遺恨は中々消えず、今でもくすぶっています。


 でも元人間のあたしは、人間とかドラゴンとかは関係無いので、どの種族の子とでも仲良くしてます。それに今日は、ちょっと楽しみな事があるのよね。



「みんな~、やっと全員分のシャツが出来てきたわよ~」


 あたしの人間のお友達のクリスが言いました。手には6人分の包みを持っています。

「ちょうど今日の授業に体育があるので、さっそく着てみようよ」

 と言って、クリスは皆にシャツを配りました。

 これはあたしの提案で、仲良しの女子6人組で、お揃いの体操服を作ったのです。この学校には一応、決められた体操服があるのですが、運動にふさわしい服装ならば、ある程度自由に出来ます。


 で、その学校指定の体操服なのですが、いまいち可愛くないのです。女子にとっては由々しき問題なのです。

 なので、あたし達で可愛い体操服を作ってみました。学校で使う物なのでフリフリには出来ないけど、大きな襟と裾にはフリル、胸元には小さなリボンを付けてます。さすがにこんな服は作れないので、ベイス商店のハンナさんにお願いして、オーダーメイドで作ってもらいました。


「いいな~それ……」

 ムート君が羨ましそうにしてた。

「いやいやムート君、これ女の子用だよ。きみ男の子でしょ」

「む。なら僕達男子も、お揃いの服を作ろう~~」

「お~~」

 なんか他の男子も盛り上がってるよ。頑張ってね……


 1時限目が終わって、次が待望の体育の授業です。体育の時は男女別に行われるので、隣のクラスと合同になります。

 休み時間のうちに更衣室に移動です。ドラゴンは裸が基本ですが、女の子はみんなブラウスを着ています。普段はブラウスを脱ぐだけなので、更衣室に用は無いのですが、今日は体操服を着るので、みんなと一緒に更衣室でお着替えです。


「私、更衣室なんて、入学してから初めて入るよ~」

 あたしの友達のドラゴンの女の子、アイリィが言った。

「私も……ちょっと興味がある」

 もうひとりのドラゴンの女の子、キャティも興味津々だ。

 実のところあたしも、入学以来2~3回くらいしか入った事はなかったよ。ドラゴンには、人間や獣人の女の子の着替えシーンは興味深いんだろうね。


 そう言えば6人の内、まだ3人しか紹介してませんでした。後の3人は、獣人のグレース、人間のアメリ、そしてあたしです。


 あたし達6人は、ワイワイおしゃべりしながら、更衣室に入りました。アイリィとキャティは興味津々で室内を見回していたよ。

「へ~~。ロッカーが並んでるのね~」

「いいなぁ……みんな可愛い下着で……」

 なんて、ドラゴンコンビが言ってる。


「ほら、あなた達もここのロッカー使ってね」

 と言ってグレースが、あたし達を手招きした。

「「「は~~い」」」

 あたし達は、いそいそとブラウスを脱いだ。



「いやですわ、何て騒がしいのでしょう」


 離れた所から声がした。そちらを見てみると、3人の少女がこっちを睨んでた。隣のクラスの子達だが、その中の一人は貴族の娘の、確かエレミアとか言ったかな。まあ、よくある高飛車お嬢様と、その取り巻きの女の子達ですよ。

 何かロックオンされてるんですけど……


「まあまあ、何でドラゴンがこんな所にいるのかしらね?」

 エレミアが口を押さえて、嫌そうな顔で言った。

「そうですわ。服を着ない野蛮な種族には、関係ありませんでしょうに」

 これを言ったのはメガネっ娘だ。悪い意味での委員長タイプのキャラだ。

「そーよそーよ、ケモノは来ないでよね」

 付和雷同タイプだね。ケモノって……あんたも獣人だろうよ。しかも狐だ。


「生徒ならば誰でも、更衣室を使えるはずだけど?」

 3人組の方をジト目で見て、言ってやった。

「まあ! 名門貴族のご令嬢であらせられる、エレミア・フォン・ナダム様に向かって、何て無礼な物言いなの!」と、メガネ委員長が言った。

 ああ、そんな名前だったのね。


「いいのよエリー。貴族はそんな事は気にしないものよ。あなたは確か、ナナミィさんでしたわね。ドラゴンに服は必要無いのじゃなくって?」

「いえいえ、あたし達ドラゴンも、可愛い服を着たりするのよ」

 と言って、皆で作ったシャツを見せた。

「あらまあ? そんな物が可愛いなんて、センスが悪いんじゃなくて?」

「ドラゴンのセンスを、なめないでもらえる。もっと可愛い物だって作れるのよ」

 ドヤッって顔で言ってみた。そうしたら、エレミアがフフッて笑った。

「あら? でしたら、もっと可愛い体操服を作って、皆さんに判定してもらったらどうかしら?」と言って、他の子達を見回した。


 うん? どういう事なのかな?

「そうですわね、自分の作った服が可愛く無いって分かったのなら、ここに出入りしようなんて二度と思わないでしょうとも」

「そーねそーね、ここに居る皆に判定してもらいましょ」

「では、来週の体育の授業の時に見せて下さいな」

 え? それって、あたしの作った体操服が可愛くなかったら、更衣室に入るなって事なのかな?


「自信が無いのでしたら、今すぐ出ていけば、恥をかく事はなくてよ」

 エレミアが哀れむような口調で言いやがった。

「ふん! 一週間後を楽しみにしてなさい!」

 勝負から逃げたら、女がすたるからね。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 あの気に入らないドラゴン娘も、これでギャフンと言わせてやるわ。


 あれは一週間前、学園の成績上位者が表彰される日には毎年、使徒のアウルエル様がいらっしゃるのです。学年首位の私はもちろん表彰されますわ。

 でも、今年はなんと! ラビエル様までいらしたのです!

 私が憧れるラビエル様がですよ!


「中等科2年、エレミア・フォン・ナダム」

 と学園長先生から呼ばれた時は、平常を装うのに苦労しましたわ。

 何と言っても、私の憧れの使徒様がいらっしゃるのですもの。


 あの日も爽やかな笑顔で、私を見てくださったわ。

 式典が終わった後に私は、ラビエル様に挨拶しなくてはと思い、使徒様達がいらっしゃる学園長室に向かいました。


 いきなり行くと失礼に当たるので、まずはこっそりと、外から覗きました。するとラビエル様がアウルエル様とお話をされていました。


「七美も頭は良い方なので、来年は表彰されるであろう」

「そうでしょうね。まあ、君が邪魔しなければ、ですがね……」

「なっ……! 我が輩は邪魔などしないのである」

 何やら熱心に議論なさっているご様子です。


「そうね。あたしが勉強してる横で、昔の自慢話さえしなければね」

 え? 女の子の声? よく見たら、部屋の中にドラゴンの女の子が居たのです。


 何て事でしょう! その子がラビエル様のお顔をつねっているのです!

 なんという不敬なっ! 私は思わず叫びそうになりました。


「ははは、ナナミィさんとは相変わらず仲が良いのですな」

 学園長先生の呑気な声が聞こえて来ました。ナナミィって言うのねあの子……


 ラビエル様とはどういう関係なのかしら? やけに親しげだし……


 それにしても……、許せませんわ。

 私を差し置いてラビエル様と親しくなるなんて……


 目にもの見せてやる、のですわ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 学校から帰って来たあたしは、さっそく体操服のデザインを始めます。

 実は以前から、可愛いと思ってた物があるのです。あたしは使った事は無かったのですが、ネットなどではよく見てました。お店では買えなくて、通販で買おうかな~と考えてた矢先に死んでしまったので、買えずじまいでした。


 なので、リベンジもかねて、あたしは『ブルマー』を作る事にしました。


 それにはまず、布が必要ですね。この世界にも厚手で伸縮性のある布があるので、明日買いに行きましょう。

 今日やるのは型紙作り。ドラゴンがはくパンツなんて無いので、流用出来る物はありません。だから最初から自分で作らなきゃなりません。

 どんな形にするのか考え、それを大きな紙に描き、切り抜いて自分の腰に当てて具合をみます。そして修正。馴れない事なので、悪戦苦闘します。

 何とか型紙は出来たので、続きはまた明日。



 さて、明日になりました。学校の帰りに布を買いに行きます。近所の雑貨屋さんに、ちょうどいい紺色のジャージ生地がありました。特殊な生地なので、白銅貨4枚もしましたよ。日本円では4千円ぐらいでしょうか?

 お家に帰って制作開始です。布に型紙を写し取り切っていきます。そして各パーツを、ママに借りたミシンで縫い合わせます。最後にゴムを入れて完成!

 なんて簡単にやったように書いてますが、3度ほど失敗したよ……

 自分、不器用ですから……


 ドラゴン用のブルマーが出来ました。これで念願のブルマーがはける。

 ブルマーと言っても、人間用のパンツのような形じゃなくて、筒のような形になったよ。では、さっそくはいてみましょう。

 よいしょ、よいしょ…… ちょっとはき辛いなぁ……

 よしっ! はけた! どんな具合か、鏡で確認だ!


 ……


 あれ? 思ってたのと違う。何て言うか……腹巻きみたいだ……

 ショック。

 がっくりするあたし。

 ドラゴンの体型には致命的に合わなかった。ダメダメだった。

 これじゃあ、可愛い体操服にならない~~……

 いやまて、まだアレがあるじゃないか。いそいで材料を揃えなくちゃ。


・・・


 そして、約束の日になりました。

 2クラスの女子全員が更衣室に集まってます。あたしは着替えて、大きなタオルを体に巻いて待機です。


「さあ、どんな服を作ったのか、見せてもらいましょう」

 エレミアお嬢様が、偉そうに言ったよ。見せてやるともさ。


「ふふん。これよ!」

 あたしはタオルを脱ぎ、後ろを向いてポーズを取った。


 あたしが着ていたのは、丈の短い白のプリーツスカートと、フリルがいっぱい付いたパンツです。上着は皆で作ったシャツを着てます。

 パンツは膨らんだそでを作る手法で、膨らませてます。ブルマーでは失敗したけど、これなら可愛く見えますよ。そこをフリルで囲み、何段も付けてフリルで埋め尽くしました。実はこれ、テニスで使うアンダースコートをイメージしてます。

 プリーツスカートが短いので、アンスコは半分以上はみ出して見えてます。あざとい手法ですが、この方が萌え萌えなんだよね。後ろを向いてるのも、フリルがよく見えるからです。


 さあどうだ! 可愛いだろう!

 みんなの様子を見ると、いい反応だ。これは勝ったな!


 でも、手を上げたのはあたしのお友達だけだった……解せぬ。


「あ~ら、可愛いって思うのはそれだけかしら?」

 メガネ委員長が、勝ち誇ったように言った。

「皆さんよく分かってますわね」

 エレミアが、にんまり笑って言った。


 ……そうか、そういう事か。皆この貴族の娘に逆らえなかったのね。


「では約束通り、ここには……」

「ここにいたのか七美」

 と、いつものウサギ。


「……え? は?」なんて言って、エレミアが固まったよ。

 いきなりラビエルが入って来たので、みんなもびっくりしてた。

「ラ……ラビエル様っ! なぜここにっ?」

 エレミアの声が裏返ってる。


「おおっ、その服も可愛いぞ七美。ふりふりパンツが最高!」

 ラビエルが言うと、スケベ親父っぽいのでやめてほしい。


「え? そ……そうですわよね~~~! 私もすっごく可愛いって思っていましたの」

 と、エレミア。意見が変わってるぞ。

「そうであろう、お前もよく分かってるな」

「光栄ですわラビエル様」

 思わぬ展開に、みんなもあっけにとられてるよ。

 これは……あたしの勝ちでいいのかな?

 少し釈然としないけど……




 今日の体育の授業では、可愛いアンスコ体操服を着ました。男子達にも、特にムート君には好評だったよ。エレミアは終始ニヤニヤしてて、気持ち悪かった。


 ……それより、今あたしはピンチです。

 朝から緊張して、お水を飲み過ぎてしまい、おしっこが漏れそうになってます。

 人間だった頃よりは我慢が出来るけど、それでもキツイ。

 は……早く授業は終わって~~~~……


 ようやく授業が終わって、ダッシュでおトイレに飛んで行きます。

 文字通り飛んで行った。

 個室に飛び込んで、いそいでアンスコを脱ぎます。


 ……あれ? 脱げない。どんなに引っ張っても下ろせない。

 えぇっ? どういう事? くそっくそっ、脱げない!

 ああ~~やばい! 出ちゃう~〜〜!


 あっ! そうか、背びれに引っ掛かってるんだ。ドラゴンには、頭の上から尻尾の先まで、背中に背びれが付いてるのです。

 想定外だ。なんて考えてる暇はない。あたしは思いっきり引っ張った。

 そしたら、かぎ爪で引き裂いてしまいました。

 勢い余って便器の上に倒れるあたし。


 じゃ~~っと勢い良く吹き出すおしっこ。

 間に合わなかった。個室の床が、おしっこだらけになった。

 あたしは泣く泣く、水の魔法で洗い流したよ……


 アンスコには思わぬ欠点があった。これは改善しなくちゃね。

 あたしがアンスコの残骸を握りしめてがっくりしてたら、いとこのウサミィがおトイレに入って来ました。

「な……なにやってるのナナミィ?」


 事の顛末を話したら大爆笑されたよ。

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