第3話 謎のドラゴン
やばい、やばい、やばい!
ロックデーモンが一斉に襲って来ました。動きはそんなに素早くないので、何とか逃げられそうですが、いま空を飛べないのでちょっと厳しいです。
しかも、ウリルがビビッて固まってます。
「早くあたしの後ろに隠れなさい!」と言って、ウリルの前に立ちふさがった。
こんな固そうな魔獣に、効くかどうか分からないけど、ドラゴンブレスを浴びせてみました。ブレスとは、自分自身の魔力を使って、火炎放射器のように炎を吐き出すものです。魔力が尽きると炎が出なくなるので、使い過ぎには注意しなくちゃね。
それに、空を飛ぶのにも魔力を使うんです。
さっき、かなり使ってしまったので、あとどれぐらいブレスが出せるのか分かりません。
ブレスは結構効いてるらしく、ロックデーモンは炎から逃げて行きます。
でも、すぐ戻って来て、かじりつこうとします。
ああ、うっとうしい。
さすがにウリルも、木の枝でロックデーモンをぶったたいて反撃してますが、全然ダメージを与えてません。このままではまずいです。
さいわい、この山の上には古い峠道が通っていて、街まで下りる事が出来ます。道まで行ければ何とかなりそう。
でもそれには、ロックデーモン達の上を、飛び越えなければなりません。
まずい事に、段々暗くなって来ました。これは早く脱出しなくては。
「ナナミィ、どんどん数が増えてるよ!」
そう言われて周りを見れば、いつの間にか倍ぐらいに増えてる。もう上を飛び越えていくのは無理。
ダメだ。マジやばい。
ブレスも不完全燃焼?で、出なくなってきた。
こちらが反撃出来ないって分かったのか、足元に殺到して来た。ロックデーモンは裏側に口があるので、あたしの足や尻尾の上に乗って、ガジガジかじってきます。
ドラゴンの皮膚は頑丈なので、これしきでは傷も付きませんが。
「うわ~~っ ナナミィがかじられてるぅ~~っ」と、ウリルが騒いでます。
この子はかじられたらやばいので、抱き上げて襲われないようにします。そして体を半回転させ、尻尾を振り回してロックデーモンどもをぶっとばします!
はじき飛ばしても、後から後からロックデーモンが押し寄せて来るし、だんだん尻尾も疲れて来た。
もはやこれまで。
後はウリルをかかえて、崖の下まで飛び降りるしかありません。落ちるのじゃなくて、翼を目一杯広げて、滑空するのです。
「こうなりゃ最後の手段よ、あんたを抱えて下に降りるので、しっかり抱きついてて!」
「え? えぇっ?」
ウリルの手をあたしの首に回して、崖から飛び出しました。
ドラゴンの翼は、体重を支えるには小さいので、魔力を流して揚力の補助をするのですが、今は残り少ない魔力を、全て翼に集中して、落下速度を減速させてます。
ああ……そうまでしても、速度があまり落ちない。
自分一人なら何とかなったかもしれませんが、二人は無理だった。
ウリルのママごめんね、彼を守れないかもしれないです……
もうだめだ~~~っ
って思った瞬間、フワっと浮かぶ感覚があった。
なにごと?
上を見れば、大きなシルエットが……!
あたしの3倍はありそうな、ドラゴンですよ!
この世界には、ワイバーンと言う、体長7mはあるドラゴンの一種が存在します。
それぐらい大きなサイズのドラゴンに、あたしとウリルは抱き留められてるのです。
これは、助けられたのかな?
「大丈夫か二人とも」
しゃべった~~~っ!!
大きなドラゴンから声を掛けられました!
こんな大きなドラゴンがしゃべるなんて、非常識極まりないよ。だって、この大きさじゃ怪獣だよ。いやまあ、ドラゴンのあたしが言うのは変なのだけど。
夕暮れになって、周りは暗くなって来たけど、大きなドラゴンに夕日があたって、顔がはっきり見えました。
「かっこいい……」
なんて事でしょう。めっちゃイケメンだった。
そんなイケメンドラゴンに、あたし抱きしめられてますよ。
え? ウリルもいるって? そんなのはどうでもいいのです
「あ……あなたは誰なんですか? 何で助けてくれるんです?」
「私はバハムート。困っている者を助けるのは、おかしな事ではあるまい?」
そう言って、彼は優しく笑った。
顔は、前世でよく見たドラゴンの絵のように、怖めな感じですが、瞳が大きくて優しい目をしてます。
やだちょっとステキ。
ウリルを放り出して、彼と二人きりになりたかったけど、さすがに可愛いワンコにそんな酷い事は出来ません。
バハムートはその場でぐるっと回り、地上のロックデーモン達に向かってブレスを放ちました。それは火炎放射のようなものじゃなくて、炎のかたまりだった。
炎弾とも言える物が、岩山に落ちると同時に大爆発!!
轟音と共に、火焔が木々を飲み込み薙ぎ払います。炎が広がって、山火事になるかと思った瞬間、すっと炎は消えてしまいました。
あれ? 今のはブレスじゃないの?
さっき説明した通り、ドラゴンブレスは魔力を使って炎を作り出す技です。炎はすぐに消えたりしないはず。なのにこれは……
まさか、魔力そのものを撃ち出したの?
すごい! さすがイケメン!
下を見たら、山の形が変わっていた。
バハムートは、あたし達を抱えて、街まで運んで来てくれました。とは言え、この巨体で街中に降り立つのはまずいと思ったのか、街の手前で降ろしてくれました。
「では、さらば」
と言って彼は、飛び去ってしまいました。
「なんか……凄いドラゴンだったね」
そう言うウリルに、あたしは「そうね」と生返事した。
あ。やばい。夕飯の買い物の途中だった。まだギリ間に合うはず。腰に巻いたウエストポーチにお財布が入ってるので……
腰に手をやったら、あるはずのウエストポーチが無い。あわてて見たら、引き裂かれていて、中身ごと本体が無くなっていました。どうやらお財布は、あの山で落としてしまったようです。今日はもう遅いので、また明日探しに……
っていうか、あの山はさっきのブレスで、ぶっ飛ばされたんだった!
あのお財布は、ウサミィからのプレゼントで、大切にしてたのに……
「あ~~ ごめんよナナミィ。僕が花を採りに行ったばかりに」
がっくりと肩を落とすあたしに、ウリルが慌てて謝った。
ここで、あんたの所為よ~ と言った所でどうしようもないです。
「いいよいいよ。あんたが無事だったのだから」
あたしはウリルの頭をガシガシ撫でてやった。
家に帰れば、当然のようにママに叱られました。