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第29話 女神に代わってお仕置きよ

「え? ワイバーンなの?」

「あ。そう言えばあたし達の自己紹介してなかった。あたしはナナミィ・アドレア14歳、ブレア学園中等科2年生です。こちらがワイバーンのレオン。あたし達は使徒ペギエル様にいわれて、ヒメランサで魔獣の討伐に来たのだけど……」

「そんな! グレムリン達を討伐するのですか?」

「いやいや、討伐と言っても、別に殺さなきゃならない訳じゃないのですよ」

 それを聞いてシンリンさんは、ほっとしていた。


「それでどうする? こいつらを東の森とやらに追っ払うのか?」

「ピクシーが、グレムリンの群れを連れて行ければいい訳だけど……」

 あたしとレオンがピクシーを見ると、しゅ~んとなってた。

「ピクシーを群れに戻す前に、先代のリーダーが死んじゃって、世代交代がうまくいかなかったのです」

 シンリンさんは、胸に抱いたピクシーを撫でていた。

 ピクシーも、シンリンさんの胸に顔をうずめて、不安そうにしていた。


「人間になつきすぎているんじゃないのか?」

 レオンが尋ねた。

「しょうがないのよ。怪我で動けなかったのを、私が保護していたのだから」

「成る程、人間に甘やかされて、こ奴すっかり腑抜けておるな。これじゃあ、群れの統率も出来まいよ」

 レオンが中々手厳しく言った。


「ね……ねえ、西の森に来た大きな魔物って、どんな奴なの?」

 空気が悪くなりそうだったので、あたしは話題を変えた。

「私もはっきりと見てないけど、顔からたくさんの触手を生やしていたわね……、それに、凄くおぞましい姿だった」

 そう言うと、体をぶるっと震わせた。


「これは、グレムリンどうこうより、根本的な解決が必要ね!」

「と言うと?」

「森を荒らす大きな魔物を倒すのよ! それもピクシーが」


「え~~~~~~?」

 シンリンさんがビックリして叫んだ。そりゃそうだ。

 ピクシーは、訳も分からずきょとんとしてた。


 それにはまず、西の森に行かなくては。案内のために、シンリンさんにも来てもらわないと。人間一人抱えて飛ぶのは、今のドラゴンの力じゃ無理だね。なら変身だ!

 あたしはブレスレットから人間用の服を出した。今日は黒いゴスっぽいワンピ。ブラは無しで、パンツだけ履いて行こう。後はブーツね、素足じゃかっこつかないし。

 まず尻尾からリボンを外して、ワンピースを着ました。


 そして唱える魔法の言葉。

「リゲイル!」


 あたしは翼を出したまま、人間の女の子に変身した。

 ワンピースは体にピッタリ収まりました。そしてパンツとブーツをはいて完成。


「魔法少女七美。女神に代わって、魔物にお仕置きよ!」


「え~~~~~~?」

 シンリンさんがビックリして叫んだ。そりゃそうだ。

「じゃあ、西の森に行きましょう。こっちですよね」

 と言ってあたしは、ピクシーごとシンリンさんを抱えて飛び立った。

「それとレオンはここで、グレムリン達が悪さをするのを防いでいてね~」

「え? お……おう、分かった」



 西の森は、台地の上に広がる普通の森だった。

 でも、魔物の気配がビンビンするよ。やばいくらいだ。


 で、例の魔物はすぐに見付かった。大きくて空を飛んでたからだ。おぞましいって言ってたけど、本当にその通りだよ。なにあれ? 超きもいんですけど?

 芋虫のような長い体に、4枚の半透明な翼。顔には何本もの触手。前足……っていうか、人間のような腕がはえてるよ。口は見えないけど、見たくはないぞ。目は半開きで、陰険な目付きだった。

 こいつは何て魔物なんだろう? こういう時のために、ブレスレットに機能を増やしてもらったんです。魔物や魔獣のアーカイブを呼び出すと、目の前に透明の四角いスクリーンがあらわれた。それで魔物を写すと、すぐに判明。なになに……


 【クトゥルフ】

 Aランクの魔物 肉食 飛行能力を有し、陸海空で行動可能。

 体長7~9m

 魔力値:レベル200 言語機能:レベル60


 ……はい、無理です。こんなのに勝てません。

 あたしでも知ってるよ。クトゥルフ……。これはあかんやつですわ。

 小説なんかでお馴染みの、クトゥルフ神話の邪神ですよ。こんなのドラゴンの力だけではどうにもならないよ。

 ああっ、しまったぁ! レオンも一緒に連れて来ればよかったんだ。


「見付かったんじゃないの? こっち見てる」

「え?」

 触手の生えた顔がこっちを向いてます。クトゥルフと目が合ったよ。

 まずい! 早く下に降りないと、今攻撃されたら皆を守れない。


 クトゥルフはゆっくりと体の向きを変えていき、4枚の翼を左右に広げた。こっちに飛んで来ようとしてるな。さっさと降りてしまおう。


 クトゥルフは翼をぶるっと振るわせると、こちらに向かって……


 もう目の前にいた!

 翼を広げたクトゥルフの姿が、一瞬ぶれたと思ったら、一気に移動して来た。

 しかし、下に降り始めてたあたしは、間一髪でかわせました。そしてクトゥルフは、そのまま通過して行った。とんでもない速さで、時速400キロぐらいあったかも?

 地面に降りたあたし達は、素早く大木の陰に隠れた。


 通り過ぎてったクトゥルフは、100mぐらい行ってから、くるりと180度向きを変えた。そして迷わず、あたし達の隠れてる所に向かって来た。

 まさか、魔力を感知出来るタイプの魔物なの? だったら変身して魔力をパワーアップしたのはまずかったかも?


 接近して来たクトゥルフは、顔の触手をムチのように振るって攻撃してきた。いや、攻撃というより、捕まえようとしてる?

 驚いた鳥が一羽、飛び出して来た。その鳥を、触手が素早く捕まえてぱくり。

「食った~~~! あたし達も食べるつもりかっ!」


 あたしはシンリンさんの手を引き、急いでその場を離れた。

 とは言え、あのスピードじゃ逃げ切るのは無理でしょう。ならば攻撃を目くらましにして、脱出しなければ。それにはドラゴンブレスだ。あたしは息を思い切り吸い、魔力を込めて吐き出した。


 ブシューーーーー!!


 さすがに思い切り吐き出すと、ビームのような勢いで吹き出した。

 通常の3倍どころか、6倍はありそうな威力だったけど、クトゥルフにはあっさりかわされた。ブレスに込められた魔力まで感知して避けられるのか? それもあの素早い動きの成せる技か。予備動作無しでいきなり動くなんて、物理法則を無視してるとしか思えないよ。

 なにそれ、ずるい。やはり翼の数が多いと、運動能力も上がるのか?


 あたしが飛んで逃げないと見るや、クトゥルフは地面に降り立ち、触手であたし達を捕まえようとしてきたよ。

 でも、この距離ならブレスが当たるかも。

 いや、ダメだ。シンリンさんまで巻き込んでしまう。

 そこであたしは、護身用に貰った剣をブレスレットから取り出し、クトゥルフに斬りつけた。何度も剣で斬ったり叩き付けたりしたけど、全然歯が立たないよ。そんな事をやってる内に、剣に触手が巻き付いてきた。

 ちょっ……これ、まじピンチですよ!!


 クトゥルフの触手が、あたしの剣を奪おうとした時、シンリンさんに抱かれていたピクシーが飛び出した。

「あっ! ダメよピクシー!」

 シンリンさんは、慌ててピクシーを押さえようとした。


「キュピーーーーーーッ!!」


 ピクシーが甲高い声で鳴いた。耳にキーーンと来たので、超音波でも出てるのかも?

 信じられない事に、クトゥルフが尻もちを突くように倒れたのだ。ピクシーの声で、聴覚とかにダメージがあるのだろうか?

 そう言えば、ここにピクシーを連れて来たのは、この子にやる気を出させるためだった。戦える力があるのなら、使わない手は無いよね。

 ピクシーの能力もブレスレットで調べてみた。


 【グレムリン・リーダー】

 Bランクの魔獣 雑食で何でも食べる グレムリンの群れを統率する

 超音波による敵の攪乱、破壊が出来る。体長40cm

 魔力値:レベル40 言語機能:レベル45


 超音波は使えそうだよ。でも、決定打にはならない……

 うん? まって、これはあのアイデアが使えるんじゃ……。超音波で刃物を振動させると、凄く切れ味が良くなるという、アレですよ。魔法で超音波が出せず、実行出来なかったアイデアですが、ピクシーがいれば可能なはずだ。


 あたしはさっそく、ピクシーに説明した。言語機能のレベルが45もあれば、充分理解出来るはず。あたしの共感能力も駆使して、何とか分かってもらえた。

 剣を持った右腕にピクシーを掴まらせ、剣の刃に超音波を浴びせてもらった。すると思った通り、刃が細かく振動した。これはいける!


「さあ!こい! ピクシー行くよ~~!」

「キュピーーーーーーー!」


 超音波攻撃のせいで倒れていたクトゥルフが起き上がって来た所を、超音波剣で斬りつけた。

 剣を防ごうとした触手が、さくっと切断された。それも、何の手応えも無く。


 いける! これは楽勝ですわ! この調子で切り刻んでやろう。

 あたしは剣を振り回して、触手をスッパスッパと斬ってやった。

「よっ、はっ、たあっ!」

 右に左に剣を振るった。素人剣術だけど、着実に効果があるよ。


 いきなり強くなったあたしに恐れを成したのか、クトゥルフは飛び上がって距離を取った。

「さあ。女神に代わってお仕置きよ!」

 決まった!


 剣を上段に構えたら、ピクシーがポロっと落ちた。

「キュイ~~……」

 フラフラになってるピクシー。

「ああっ! まさか目を回したの?」

 振り回しすぎたんだ。調子に乗り過ぎたよ。

「ああ~~、ピクシーごめん~」

 シンリンさんが慌てて抱え上げた。ホントごめん……


 そんな事より、有効な武器を失ったよ、どうしよう……

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