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第28話 レオン初任務

 ワイバーンのレオンが仲間になって、一週間が経ちました。ムート君の家の一室に、フワエル様と一緒に住んでいます。

 さぞやイチャイチャラブラブやってるかと思えば、ラブラブだったのは3日ほどで、現在フワエル様は空中神殿でお仕事、レオンはムート君と異世界のドラゴンの話で盛り上がってた。でも夜は一緒のベッドで寝てるそうです。


「え? それって、夜の営みをやってるんですか?」

 この前ミミエルが、下世話な話題を振ってた。

「夜ですか? お休みのキスをして眠りますけど」

 なんてフワエル様に、サラリと言われてた。


 ですよねぇ……寝るなんていうと、並んで布団に入っているイメージがあるけど、ワイバーンと羊じゃ、うずくまって寝てるので、ロマンチックの欠片もないですね。

 しかし、二人の寝姿を見たサリエルちゃんによると、ちっちゃなワイバーンとフワモコ羊が一緒に寝てる姿は、とっても可愛かったそうな。見たいぞ、あたしも。


 さて、あたしはと言えば、サリエルちゃんと一緒にムート君とレオンの話を聞いてます。ムート君のいた世界の話は、何だかアニメか漫画の話を聞いてるようだ。だって、竜王は他に7人いるとか、勇者と共に魔王と戦ったなんて話、誰も現実の事だなんて思いませんよね。自分もドラゴンじゃなけりゃ……

 よく考えたら、あたしが飛行機やテレビやパソコンの話をしたら、同じような反応をするんだろうな。この世界じゃ存在しない物だし。



 なんて事をやってたら、背中にゾゾッとする感覚がした。

 これは魔獣か魔物の反応です。やばい奴が近付いて来ると、感じちゃうのです。これはあたしだけの能力らしく、ムート君やレオンには分からないそうです。


「あなた達、魔獣討伐の仕事ですよ」

 ペギエル様が現れて言いました。やはり来たか。


「ふうん……今日はナナミィさんとレオンさんに頼みましょうか」

 え? ムート君はいいの?

「僕は行かなくていいのですか?」

 と、ムート君が聞いた。

「グレムリンと言う魔獣が出たのですが、場所が隣町のヒメランサなので、大きなバハムートでは大騒ぎになってしまうでしょうし」

「そうですか……」

 ちょっと残念そうなムート君だけど、知ってる名前が出て来たよ。

「グレムリンって言うと、耳が大きくて可愛い、あのグレムリンですか?」

 あたしが考えるのは、映画で見たグレムリンだ。それを討伐? やはり凶暴化して増殖したのだろうか?


「いえ、違いますよ。あなたが言うのは、アースのグレムリンなのでしょうが、トリエステでは、鳥とコウモリの特徴を持ち、逆三角形の体に6本の足のある魔獣です」

 全然違った! なにその可愛くなさそうな姿は。

「そのグレムリンが大量発生して、街中に押し寄せているのです」

「うわぁ……大変そうだ……」

 サリエルちゃんが気の毒そうに言った。


「今回ナナミィさんは、変身しないでドラゴンのままでお願いしますね。レオンさんも小さな姿でお願いしますよ」

「人間の姿ではだめなのですか?」

 あたしは聞いてみた。

「街中での活動になりますし、空中での討伐なので、翼の生えた人間の姿じゃ、変な噂がたちそうですし……ね」

 なるほど、こっちのグレムリンは飛ぶんだ。ムクドリのように大量発生して、街中にフンをばらまいたりするんだろうか?


「やはり糞害なのでしょうか?」

「町の住人は憤慨してるでしょう、あらゆる物が食べられてるので」

 『ふんがい』違いだ。っていうか、食べるの? 何を?


 そんな疑問を残しながら、あたしとレオンはヒメランサへと送られた。

 今日は、ラビエル抜きの討伐任務だ。




 あたし達が到着したのは、以前ウサミィと来たパン屋さんの前だった。

 討伐が終わったら、またここでパンを買って行こう、なんて考えてたら……店内から悲鳴が聞こえて来た。


「きゃ~~~~~っ! パンを食べないでぇっ!」

 この前のお姉さんの声だ!

 パン屋さんはパンを食べてほしいはずなのに、食べるなとはこれいかに?

 あたしは急いで店に入ってみた。


「ああっ! お客さん危ない、入って来ないで~~」

「ええっ? どうして……ぎゃ~~~!」

「何事だ……うわわっ!」

 あたしとレオンは思わず叫んだ。

 店内は阿鼻叫喚の地獄絵図だった!

 小さな魔獣が店内に溢れかえってたのだ! しかも、菓子パンや食パンをテーブルごとかじってたのだ。全てがわやくちゃになってたよ。


 これがグレムリンだっていうの? 全然可愛くな~~い。

 そいつらがあたしとレオンに気付いて、一斉に逃げて行った。あたしはともかく、ワイバーンはやばいと思ったのだろう。


「店員さん、大丈夫ですか?」

 あたしは倒れてる店員のお姉さんを、抱き起こしてあげた。

「す……すみません……、突然魔獣に襲われて」

 店内は酷い有様だった。奥をのぞいてみたら、オーブンや棚がひっくり返ってた。


「これはどうした事か……」

 店の入口から外を見たレオンがつぶやいた。

 さっきはパン屋さんの事しか見えてなかったが、改めて外を見てみれば、空一面魔獣が飛び回っていたのだ。

 そう言えばグレムリンって、空の上で飛行機を襲ったりする魔物だったな……、この世界でも、空を飛び回る迷惑な魔獣なんだな。ムクドリの比じゃないよ。


「これを討伐するのだな?」

 レオンがあたしに聞いた。

「そ……うだけど……こんなに大量の魔獣、どう退治しようか……」


 空の上には、数百ものグレムリンが舞っていた。そして、街路樹や家庭菜園の野菜や果物などを食い荒らしていた。レストランも襲撃されてるらしく、お客さんが外に逃げ出して来た。


「よし。こやつらはブレスで焼き払ってやろう」

 レオンが恐ろしい事を言いだしたよ!

「ちょ……、それはダメよ!」

 あたしは思わず止めた。


「む? 何故だ、魔獣を殺しちゃだめか?」

「いやいや、パン屋のお姉さんに酷い事するやつは、万死に値するけど、空を飛んでるのに火を付けたら、そこら中に火が飛んで火事になっちゃうよ!」

「ふむ、成る程。それはまずいな……ではどうする?」

 火がダメなら、何を使えばいいのか……それが問題だ……

「そうだ。風で吹き飛ばせれば。ヴァーユ!」

 あたしは風の真言を唱えた。


 ヒュ~~~~……


「ああっ! 練習不足で魔力が足りない!」

 そよ風しか出せなかったあたしは、レオンに気の毒そうな目で見られたよ。

「そうだ、レオンが元の大きさに戻って、こいつらを食ってよ」

「無茶言うな!」



 さっそく行き詰まったあたし達は、呆然とグレムリンの蛮行を見てるしかなかった。

 そんな時に、悲鳴とは違う声が聞こえて来た。


「あんた達、早く森に帰りなさ~~い! ほら、早く~~!」

 女の人が、捕虫網を振り回しながら叫んでいた。あんなアミで捕まえるつもりなんだろうか?

「こんな町中に出て来ちゃダメよ~~!」

 あれ? もしかしてこの人は、事情を知ってる?

「ああ~~、そんな所に入っちゃダメ~~!」

 と言って、2軒先の雑貨屋の方に走って行った。

 しまった、追いかけて話を聞かなくては。


「ちょっと待って~、そこのお姉さ~ん!」

「はい?」


 アミを振り回してたお姉さんは、ヒメランサで森林保護官をしている人間の女性、シンリン・カイルさん25歳だった。森の中で活動してるからか、アウトドアスタイルで、ポニーテールが可愛いお姉さんだ。


 ……うん、分かってる。森林だからシンリンなんて、安直なネーミングだって思うよね。でもこれは偶然なんですよ。あたしがトリエステの言葉を、日本語に翻訳すると、彼女の仕事は『森林保護官』と訳すしかないのです。

 まあ、今はどうでもいい事ですが……


「シンリンさんは、グレムリンが大量発生してる原因を知ってるんですか?」

「ええ。あの子らは西の森に暮らしているグレムリンですが、森に現れた魔物に襲われて、町の方まで逃げてきたのです……」


 シンリンさんの話によると、一週間ぐらい前に、どこからか大きな魔物がやって来たそうです。その魔物は、次々にグレムリンを食べていき、どんどん数が減ってしまいました。なのでグレムリン達は逃げ出し、今は森の中の動物や魔獣を食い荒らしているのですって。


「それって、超まずい事態じゃない?」

 焦るあたし。もう、単純な討伐任務じゃ無くなったよ。でも、まずはここのグレムリン達を何とかしなくては……町が滅びちゃうよ。

 「私はグレムリン達を、東の森に移動させようとしてるのですが……うまくいかなくて……」

「移動させる方法があるの?」

「ええ。この子の能力を使えば」

 と言って、腰に付けたバッグの蓋を開けると、小さな魔獣が顔を出した。

「キュ~~~」

 やだ。ちょっと可愛い~。鳥のような頭につぶらな瞳、コウモリの翼を持った可愛いのが、あたしを見つめてるよ~~、この子欲しい~~~。

 いやいや、冷静になろう。


「この子はグレムリン・リーダーのピクシーです。この子なら群れを従わせる事が出来るのです。たぶん……」

 ピクシーはバッグから飛び出して、シンリンさんの肩に止まった。そしてスリスリ。

「キュキュ~~」

 かわええ~~~。そして凄いなついてる。うらやましい……


 グレムリンは群れで生活し、グレムリン・リーダーと呼ばれる個体が群れを統率しているそうです。通常のグレムリンとは姿が違います。子供かと思いましたが、これでもう大人だという事です。


「ピクシーお願い、皆を集めて」

 シンリンさんが、ピクシーを両手で持ち上げた。

「キュイ~~~~~~~~」

 ピクシーが叫ぶように鳴いた。



 ……集まって来ないね……、相変わらずグレムリンは暴れ回ってますよ。

「ああっ、やっぱりダメだったのね……」

「ダメって?」

 あたしは恐る恐る聞いてみた。

「まだ力不足なのだろう」

 レオンが、がっくりとうなだれるピクシーの頭を撫でながら言った。


「うう……力が足りなくてごめんなさい……」

 力不足と言うなら、あたしもダメダメだよ。思わず謝るあたしだった。

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