第27話 新しい仲間
取り敢えずワイバーンの件は解決しました。まだ彼が暴れた原因が不明ですが、ひとまず安心でしょう。
それからフワエル様はアリエスの姿のまま、ずっとレオンに寄り添われ、ご自分の今までの事を話しておられます。ラビエルによれば、こんなにもご自分の事を話すフワエル様は珍しいとの事です。
千年分の想いが溢れているのかしらね。すごく素敵。
「あなたが居なくなってから、色々ありましたのですよ。おかげですっかり忘れてましたのですよ」てへ、という顔のフワエル様。
ちょっと待って、あたしの感動を返して。
「久しぶりに会って思い出したのですよ、ワタシがあなたを、こんなにも好きだったなんて……レオンの事が好き……大好きなのです……」
と言うフワエル様の目から、涙がポロポロこぼれて来ました。
何と言う純愛! あたしには絶対ムリそうだ。
レオンは照れて困っていたけど、その涙は溢れ出す『大好き』なんだろうな。
「まあ、しょうがないですね。フワエルさんはいつも他人の事ばかり優先して、自分の感情は抑えていましたからね……」
横を見ればペギエル様がいらした。
いつの間に。いや、もう驚かないけど。
「皆さん、もう帰りますよ。いつまでもここに居られませんからね」
と言って、バハムートに服を差し出しました。
「ムートさんは人間の姿に戻って下さいな。大きなレオンさんもいっしょに転移させるので、出来るだけ小さくなってもらいたいのです」
ミミエルがそっとフワエル様を指差した。まだ大きなアリエスのままだしね。そんなフワエル様は、幸せそうにレオンをハグしてた。
「しょうがないですね、それじゃあフワエルさんが、レオンさんを連れて来てちょうだい。空中神殿までね」
それを聞いたフワエル様は、慌てて元の小さな羊に戻られました。
「す……すみませんペギエル様。ほら、あなたも小さくなって」
といってフワエル様は、レオンの腕を触られた。その瞬間、でっかいワイバーンの姿が消え、ちっちゃなワイバーンになった。
えっ? どういうコト? ワイバーンって縮むの?
あたしと同じぐらいのサイズだよ。
あり得んでしょう?
これにはさすがに、みんな驚いていたよ。
バハムートもドラゴンから人間に戻り、あたしはドラゴンに戻った。
今度はレオンがビックリしてた。
ホント……今日は驚く事ばっかりだったよ。
あたし達は、女神の空中神殿に転移して来ました。
ディアナ様がお出迎え下さり、レオンが恐縮していたよ。
そして、レオンに事情を聞く事になりました。とは言え、ほとんど覚えてないとの事です。自分の住処に戻ってからの記憶が無く、気が付いたら目の前にフワエル様がいたというのです。
「ふむ、何だかよく分かりませんね……」
と、ペギエル様。
「すまない、役にたたなくて」
「まあまあ、しょうがないのですよ」
フワエル様はずっと、レオンに寄り添われてます。その姿はまるで、千年の時を取り戻そうとしてるみたいです。
恋する少女フワエル様。千歳以上だけどね。
レオンのサイズが縮んだのは、大きなワイバーンが村にいると、色々被害が出そうで、村に出入り出来るように、フワエル様が与えた能力なんだって。
なので、レオンは小さく可愛くなってる。
「ああ、もうあなた達は一緒に暮らしなさいな」
ペギエル様が見かねて、二人に提案しました。
「よろしいのでしょうか? ペギエル様~~」
「かまいませんよ。そうね……空中神殿は無理そうなので、ムートさんの所ならいいでしょう。ムートさんもよろしいですか?」
これ絶対、目の前でいちゃいちゃを見せられるパターンですね。
「分かりましたペギエル様。歓迎しますよレオンさん」
おお! ムート君太っ腹! 竜王の称号は伊達じゃないね。
「ありがとう……なのです~~……ううう~~」
フワエル様が号泣しちゃったよ。よかったねフワエル様。
そしてあたし達に、新しい仲間が増えたのでした。
「さて、仕切り直しましょう。近頃魔獣や魔物が凶暴化する件が起こってますが、どうやら何者かの仕業らしいと思うのです」
ペギエル様は、ぺったぺったと歩きながら、皆に説明されました。
「ナナミィさんが遭遇した、ファイアーワームやメガスライムなどは、普段大人しい魔獣なんですよ」
「あの~……、ロックデーモンやフスマにも襲われたのですが、そっちは違うのですか?」
あたしは、恐る恐る尋ねてみた。
「フスマは特に異常の無い、通常の状態だったそうです。ロックデーモンに関しては、ムートさんが全て吹き飛ばしてしまったので、何とも言えませんね」
あ、あの後調べてたのね。
「それって、ナナミィちゃんが狙われたって事でしょうか?」
ムート君が恐い事を言ってるよ……まさかそんな……
「どうでしょうか? そうである証拠はありませんね……」
ペギエル様の言葉で、ちょっとほっとした。
「でも逆に、ナナミィが標的じゃないっていう、証拠も無いのですよね?」
ちょっとミミエル、不安になるような事言わないで。
「大丈夫なのだ! そんな事、我が輩がさせないのである!」
「そうだよ、僕もナナミィちゃんを守ってみせる!」
ムート君はあたしの両手をがしっと掴んで、高らかに宣言したよ。やだ、今ちょっとキュンって来ちゃった。
ラビエルはともかく、バハムートに守られる安心感は絶大だね。
「ムートさんは異世界からの転生者で、元は竜王・バハムートと言う、強大なドラゴンだったのです。ナナミィさんは女子高生だったのですね?」
ペギエル様がレオンにあたし達を紹介して下さってます。
「うう……何と言う凄い格差……」
がっくりするあたし。そりゃ竜王と高校生じゃ、差がありすぎる。
「おお! この少年は、そんな凄い存在だったのか。それで女子……なんとかは?」
レオンはムート君を熱い目で見たけど、あたしの事は微妙だったようだ。
「女子高生と言うのは、高校に通う女の子の生徒の事ですよ」
「……はあ……」
レオンにはよく分からなかったみたい。
ペギエル様は丁寧に説明して下さいますが、この空気どうにかして。
「ふ……ふん! いいのですよっ。あたしはバハムートもほれる、美少女ドラゴンなのですよっ!」
フワエル様の口調を真似て、美少女アピールしてみた。ただ、ワイバーンのレオンの好みには合わなかったみたいだ。
そりゃそうだ、フワモコの羊を愛しちゃってるんだから。
「大丈夫だよ。ナナミィちゃんは最高に可愛いから」
「そうだぞ、七美は可愛いぞ」
ムート君とラビエルが慰めてくれるけど、やめてくれ……
「さてと、私は他に用事があるので、出かけて来ま~す」
と言って、ミミエルは部屋から出て行った。
「じゃあワタシ達も、愛の巣に向かうのですよ~~」
フワエル様、幸せすぎて暴走してますね……
「七美とムートは、我が輩が送っていくのである」
ラビエルが、あたしとムート君の前に来て片手を出した。一瞬何かと思ったが、二人はすぐに気が付いて、ラビエルの手に自分の手を乗せた。
「よ~~し帰るぞ~~」
「「お~~~」」
そう言って、あたし達は転移した。
ムート君の家に行くのかと思ったら、あたしの家に来ました。ちょうどパパとママがいたので、ラビエルとムート君を紹介したよ。
ラビエルもさすがに使徒様なので、パパもママも緊張してたけど……
ムート君は、お嬢さんを幸せにしますなんて言っていたけど、気が早いにもほどがあるだろ。
あたし達、結婚なんて出来ないんだからね……
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ドラゴニアから遥か離れた岩山にある、ワイバーンの住処だった所に、そいつは居た。目一つの魔物は、イチモクレンと言った。
長細い体の先端に大きな目が一つ付き、その下に大きな口が開いていた。体の中ほどには、細く折れ曲がった足が6本あった。
「やられてしまったと思えば、なんか面白い展開になっとるがね」
イチモクレンは目を細めて、クククと笑った。
「面白いか? 全然闘いになってなかったぞ」
巣の入口から、イチモクレンに声を掛ける者が居た。
「おや? 旦那じゃありませんか。ワイバーンがちっさくなるなんて、こんなに面白い事、他にありませんがね」
「む……まあいい。となると、ワイバーンはもう使えないか……」
そう言って帰ろうとした『旦那』に向かって、イチモクレンは言った。
「いやいや、あの娘には大切な者がまた一人増えたのですよ。それはつまり、弱味も増えたっちゅう事でしょ?」
「成る程、まだ使い道はあるか……。それはまた考えるとしよう」
「そうそう、今回の報酬は?」
「そうだったな、今回はこれだ」
と言って、腕にはめたブレスレットから箱を取り出し、イチモクレンの前に置いた。
「金貨とかじゃなくて、本当にこんな物でよかったのか?」
「ワシのような魔物じゃお金は使えないし、食うには困ってない、でもこれだけは手に入らんのですわ」
イチモクレンは急いで箱を開けた。中に入っていたのは、沢山のお菓子だった。
「おお! スィーツ! ワシは甘い物に目がないんじゃ」
「目がないって……そんなに大きな目が付いてるのにな」
「確かに。ぶはははっ!」
ばか受けだった。